提供する価値・伝えたい事
福祉やユニバーサルデザインに興味を持ち始めたのは、10年ほど前、父親が糖尿病による末梢神経障害で片足を切断したことがきっかけです。
当時勤めていた建築設計事務所は、病院や診療所、福祉施設の設計を得意としており、福祉住環境についての知識も多少はありました。しかし、その重要性を実感したのは、父が障害を持つ身になってからのことです。
内 容
例えば、それまでは机上で何気なく書いていた階段の手すりを実際に付けてみると、いろんな事が分かってきました。最初はホームセンターで買ってきたクロムメッキのハンガーパイプを取り付けたのですが、冬になって気温が下がると、父が“冷たくてつかめない”と言い出しました。糖尿病で末梢神経に障害があると、ただでさえ手先が冷えやすく、冷たい手すりは苦痛になってしまうのです。何とかしようと包帯を巻いてみると、直径が変わってつかみにくくなるし、しばらく経つと包帯が緩んでクルクル回る危険な手すりになってしまいました。こうした試行錯誤を繰り返してはじめて、手すりの素材には木が適していることに気がつきました。
良い家は会話から生まれると考えています。お客様と話をすることで、その方の好きなもの、大切にしたいこと、生活上の悩みなどが分かってくると、おのずと家の形が見えてきます。既成概念や“こうあるべき”という決め付けは可能性の範囲を狭めてしまいます。
とくに障害を持つ方の家のリフォームや新築の設計は、会話の中から、その方のニーズを拾い上げる事がとても重要です。人それぞれに顔も性格も体格も違うように、障害の部位や程度、ライフスタイル、年齢などによって求めるものも違います。単に段差をなくせばバリアフリーであるとか、手すりやスロープを付ければよいという発想では、その方について安全で住みやすい家は作れません。
例えば、スロープでの昇降はバランスを崩して転倒しやすい人には必ずしも向いていません。階段で手すりを付ければそのほうがよい場合もあります。安全なスロープを作るには距離と高さの比重が重要ですが、距離がとれずに急勾配になっているスロープも見かけます。また、車椅子生活の方の場合、廊下に手すりがたくさん付いていると廊下の幅が狭くなり、車椅子が通りにくくなることもあります。
お年寄りや障害のある方にとって住みやすい家は、健康な人にとっても住みやすい家であり、家族やホームヘルパーなど介護に関わる方も作業をしやすい家です。それが、バリアフリーデザインの発想です。
今は元気な人でも20〜30年後には体力が衰えていく。転ばぬ先の杖で、そうなった時の事も見越して安全な家を作っておくことは大切なことだと考えます。
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