安全対策は、建設業と切っても切り離せない取り組み必須の課題です。現場での災害を減らすには、具体的にどのような対策が必要になるのでしょうか。この記事では、建設業における災害の現状や、災害が起きやすいタイミング、すぐにでもできる対応策について、専門家の知見を紹介します。解説いただいたのは、自身も安全対策を実践し続けている安全コンサルタントの相蘇淳一氏です。建設現場・建設業のマネジメントに携わる方は必読です。
【監修・取材先】
相蘇淳一氏
安全コンサルタント
(財)全国建設研修センター施工法令専門委員 (元 清水建設株 安全環境部長)
現場で災害を防ぐために必要なこと
厚生労働省によると、2019年における建設業の労働災害死亡者数は全産業の約32%を占める269人で、どの業種より最も多い結果となっています。ここ5年は特に減少傾向にあるとはいうものの、それでも毎年250人以上が、現場で起こった災害により亡くなっています。
建設現場での災害は、一人ひとりが気をつければゼロになるというものではありません。現場のリーダーが労働災害やその対処法について正しい知識を持ち、現場での安全対策を徹底すること、ひいては企業全体で安全意識を高く持つことが大切です。
では、現場での災害対策において、企業はどこに重点を置くべきで、重大災害につながるヒューマンエラーをどのようにして防げばよいのでしょうか。建設現場の特徴を踏まえた上でどう工夫改善すべきかを、事例を交えながら解説していきます。
災害減少を図るための安全対策は「新規入場者の7日間」が肝心!
冒頭で、建設業における労働災害死亡者数についてお伝えしましたが、死亡者が出るような災害はどんなタイミングで起きるかご存じでしょうか。
現場での災害発生確率が最も高いのは、新規入場から7日間と言われています。建設業労働災害防止協会「建設業安全衛生早わかり平成30年度版」によると、2015年の死亡者全体のうち、初日に災害に遭い亡くなったのは全体の21%、2〜7日目が27%。つまり約1週間で48%(158人)の方が亡くなっており、この傾向は毎年続いています。
私は以前、ゼネコン在職中にある支店の災害減少活動に携わり、5年にわたって災害の傾向を分析したことがあります。そこでも、全災害の35%が入場7日以内の作業員に起きたものだったことが分かりました。「新規入場者の7日間」という法則性の確かさを、私は身を持って実感しています。
新たな現場に入場してしばらくは、作業環境や人間関係に慣れていないため、ベテランでも新人と大差ない状態にまでパフォーマンスが落ちてしまいます。生産性の高い仕事をするには、誰でもある程度の時間が必要なのです。
では、そんな新規入場後の7日間は、どのような対策をして作業に当たればよいのでしょうか。
重大災害を防ぐにはソフト面・ハード面両面での対策が必要
ここからは、実際に私が行ってきた対策をご紹介します。建設現場における新規入場者の災害を防ぐには、ソフト・ハード両面からの対策が必要です。
まずハード面では、新規入場者には、特注の名札を貼り付けたヘルメットと朱色のヘルバンドを着用してもらい、新規入場者であることが誰の目にも分かるようにしました。
ソフト面の対策とは、現場において人と人とで行うものを指し、主に3つあります。
- 全ての現場で「新規入場者に対する7日間声かけ運動」を実施
- 新規入場者に特化したマニュアル作り
- 朝礼で新規入場者に発言させる
一つひとつ見ていきましょう。
[1]声かけを通して、元請業者を含めた現場関係者全員に
- 新規入場者は最初の7日間が危険
- 新規入場してから最初の7日間は、ほかの作業員より災害に遭いやすい
という2点を周知します。認識を統一し、全員で危機感を持つことが第一だということです。
[2]新規入場者に必要な情報をマニュアル化し、元請業者・現場関係者全員で共有します。さらに現場ごとのルールを補足し、元請の現場責任者がマニュアルに基づいて新規入場者を指導できるようにします。
[3]朝礼での発言は、新規入場者自身の自覚を促すために行います。以下のような形で実施するとよいでしょう
「新規入場の〇〇です。職種は〇〇です。よろしく」
「今日で3日目(4日目/5日目/6日目)です」
「今日で7日目です。無事に過ごせましたので、ヘルバンドを取らせてもらいます」
ハード面の対策とともに、初日から7日目まで毎日自分の状況を伝えることで、災害リスクを自覚し、危機意識を高めることができます。
このような活動が功を奏し、活動2年目から効果が出始め、35%あった新規入場者の災害発生率は22%まで下がりました。
正しい知識と気配りで安全な現場作りを
厚生労働省によると、労働災害が発生した原因の80~90%が労働者の不安全な行動、いわゆる「ヒューマンエラー」にあるといわれています。 具体的には安全装置を無効にして機械を動かす、合図・確認なしで機械や物を動かす、危険場所への接近、保護具・服装の誤った着用などが挙げられますが、これらの大半は、未経験や経験不足によるもの、もしくは、慣れからくる悪習慣・危険無視・省略行動なのです。
法令規則の見直しや設備上の拡充も行われてはいますが、環境整備による対策はもはや限界にきています。これを打破するには、現場における効果的な安全管理活動が必要です。
私の講演では、本記事で解説した内容以外にも、さまざまな安全対策や、災害防止を目的とした「見える化」の実例をご紹介しています。ぜひ一度、オンライン講演の方で受講いただければ幸いです。
相蘇淳一 あいそじゅんいち
安全コンサルタント (財)全国建設研修センター施工法令専門委員 (元 清水建設株 安全環境部長)
大手ゼネコン在勤中、現場25年・営業3年・ISO9001・14001の導入維持管理を経験を経て、安全環境部長。又外部団体の労務安全研究会会長として監督行政機関の指導・協力を得ながら業界の安全衛生管理の向上に尽力。現在、(財)全国建設研修センターの施工法令専門委員等。
プランタイトル
企業として災害減少を図るためには!
~効果的な取組事例から学ぶ~
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