新人研修においても、コミュニケーションスキルの習得は重要な課題の一つといえます。
コミュニケーションスキルが高い人というのは、ただ相手と親しくなるのが得意なだけではありません。相手との適度な距離感を保ちつつ、相手を思いやる姿勢も持ち合わせています。
ANA、オリエンタルランド(ディズニーリゾート)をはじめ、さまざまな業界で多種多様なサービスとスタッフ教育に携わった経験から、独自のコミュニケーション術をレクチャーしている桑野麻衣氏に、”好かれて信頼される”人間関係の築き方について解説していただきました。
【監修・取材先】
桑野麻衣氏
人材育成・コミュニケーション教育者
コミュニケーションとは何か?
社会人になると、これまで以上に多くの人と関わる場面が増えます。学生の頃は、自身と何かしらの共通点がある友人や先輩といった横のつながりが主だったのに対し、社会人になると、上司やクライアントなど縦のつながりも重要になってきます。
それゆえ、多くの新入社員は、「苦手な人が職場にいる」「上司や先輩に言いたいことが言えない」など、人間関係に対する悩みを抱えがちです。この講演では「表現力」「会話力」「共感力」の3つのアプローチから、コミュニケーション術についてお伝えしています。
ここで前提として知っておいていただきたいのは、「コミュニケーションとは何か?」です。
コミュニケーションとは、ただ相手と言葉を交わすことではありません。
コミュニケーションとは、「心を形にすること」です。「心を形にする」ためには、表現力が必要です。つまり、コミュニケーション力=表現力でもあるわけです。
とりわけ日本では、「空気を読む」ことを良しとする風潮があり、察することが得意な人は多いかもしれません。しかし一方で、表現するのは苦手という人が多い傾向にあるのも事実です。コミュニケーションをとるということは、自分の心にある思いや考え、自分が置かれている状況を的確な表現で相手に伝えることなのです。ですから、コミュニケーション力を高めるには、自己表現力をつけることが先決です。
自己表現力の習得といっても、何も難しいことをする必要はありません。口頭で伝えるのが苦手であれば、SNSなどへの投稿から始めるのでも充分です。「自己表現」は、「自分の気持ちを伝えること」。そう考えれば、誰もが今すぐできることなのです。
適切な言葉遣いの鉄則「守破離」
信頼されるコミュニケーション力を高める上で、重要になってくるのが「言葉遣い」です。ただ丁寧な話し方をすればいいのではなく、適切な言葉遣いができているかという点がポイントです。
昨今では、YouTubeやTwitterをはじめとする手軽なコミュニケーションの普及や活字離れによって、敬語表現(謙譲語・尊敬語・丁寧語)の使い分けができず、正しい敬語を話せる人が少なくなっています。日本には古来、目上や役職が高い人に対して敬語を使うという姿勢が、コミュニケーションの基本としてあります。敬語には、相手の立場を認め配慮を示す「相互尊重」と、自分をきちんとした人に見せる「自己表現」という2つの役割があります。
私自身、研修業界に講師として入りたての頃、正しい敬語に不安があったために足元を見られたというような経験をしたことがあります。正しく適切な言葉遣いは、相手に敬意を払いながらも、相手に自分を認めてもらうための武器にもなります。言葉遣いで好印象を与えられれば、上司や先輩の信用を得られやすく、大きな仕事も任せられるようになります。
また、最初は敬語を使っていても、長く付き合う間に「タメ口」とまではいかないまでも、敬語が崩れていくことは、ままあります。それを「親しみやすさ」の表現と勘違いしがちです。しかし、それを「親しみやすさ」でなく「馴れ馴れしさ」と相手が捉えれば、不快感を与えることにもなりかねません。
例えば、先輩にランチを誘う場面を想像してください。親しい間柄になってきた先輩に、どのような声掛けをすると、相手に親しみとともに好感をもってもらうことができるでしょうか?
A「先輩、お腹すいちゃった~。一緒にランチでもどうです?」
B「先輩、お腹が空いちゃいました。一緒にランチでもいかがですか?」
Aの表現から先輩に対する敬意は感じられるでしょうか? 先輩に対して、敬語と言うには軽すぎる表現です。一方、Bの表現はどうでしょう。「お腹が空いた」という自身の気持ちについての表現は敬語でありませんが、先輩に向けた誘いの言葉には敬語が使われています。
Aには相手への敬意が感じられず、敬語と言ってもごく軽いものであるのに対し、Bは「相手への敬意」を示しながら、親しみも込めた表現となっています。
茶道や武道など日本の芸道には、その師弟のあり方、修行の過程を表す「守破離」という言葉があります。
まずは従来の型を「守」り型を身につけ、次に他の教えや型を取り入れて基本を「破」り発展させ、そして型や教えから「離」れ、進化し確立させるという3段階を表しています。「型があるから型破り。型がなければ、それはただの形無し。」なのです。
これは、会社でのコミュニケーション術にも活用できます。敬語という「型」を敬意表現の基本として身につけ、経験からさまざまな表現を取り入れて敬語の「型」を変化させ、TPOに合わせて敬語をアレンジできるようにする。つまり、敬語の基本を守り「相手への敬意」はなくさずに、相手への親しみも伝わるよう、TPOに合う敬意の言葉遣いへと進化させていくことが重要です。
いくら関係性が深くなっても、「親しき仲にも礼儀あり」です。相手はあくまで上司・先輩であることを忘れずに、相手に対してはしっかりと敬語を使い、自分の意思などを表現するときには、親しみが感じられるように多少「型」を崩してみるのもよいでしょう。
表情と声の豊かさが一流の“感じの良さ”につながる
言葉遣いの大切さと同時にお伝えしておきたいのは、表情と声の豊かさで、相手があなたに抱く印象が変わるということです。冒頭でも触れた「心を形にする」という点においても、日本人が最も苦手とする「形」がまさに表情の豊かさなのです。
コミュニケーションをとる際の表情で重要となるポイントは、目・眉・口角だといわれています。笑っていることがわかる目の表情、申し訳ないという気持ちが伝わる目の動き、相手に安心感を与える口角の上がり方など、あなたは表情で気持ちを自在に表せますか?
私が実施している研修のグループ学習では、マスクをした状態で相手に好感を持たれる表情とはどのようなものかを検証します。2人一組で向き合うと、大抵の受講生は照れて笑い出しますが、口角はマスクで隠れています。ですから、目や眉をいつも以上に下げることを意識して笑うと、マスクをしていても相手に表情が伝わることを認識してもらいます。
適切な言葉遣いとともに表情が豊かであれば、“感じの良い人”という印象を与え、スムーズかつ快いコミュニケーションが可能になります。
他者との違いを楽しめるよう「共感力」を鍛える
ビジネスパーソンとして大切にしていただきたいのが、共感力を鍛えることです。
学生の時とは違い、社会人になると自分と価値観の異なる人とのコミュニケーションが増えます。相手と信頼関係を構築する上でも、自分らしさを表現する上でも大切なのが「共感力」なのです。
自分と違う価値観に触れる度にイライラしてしまっては、人間関係やコミュニケーションと切っても切り離せない「仕事」そのものに疲れてしまいます。
この講座ではコミュニケーションタイプを自己チェックし、自分と他者との違いを視覚化することで、人との「違い」は「違い」であって相手の「間違い」としないことの重要性をお伝えしています。自己理解を深め、自分と異なる価値観を「違い」として楽しむことができる社会人を目指していただきたいと思っています。
私の講座で皆さんにしていただく研修では、適切な言葉遣いや表情の作り方はもちろん、相手との適度な距離感、信頼されるためのポイントを解説します。ビジネスシーンに役立つコミュニケーション術や考え方についても、私自身の経験を交えてわかりやすくお伝えしています。オンライン型、集合型、いずれも対応可能です。新人研修のコミュニケーション講座として、ご検討いただけると幸いです。
桑野麻衣 くわのまい
人材育成・コミュニケーション教育者
コンサルタント
ANA、ジャパネットたかた、再春館製薬所グループなどで社員教育に携わる。コミュニケーションやモチベーション、接遇マナーや人材育成等の企業研修やセミナー、大学生や経営者、医療法人向けの講演など幅広く活動。「心に火がつく研修」と評され、企業研修・セミナー・講演の他、メディア出演も多数。
プランタイトル
オンラインでも好かれる・信頼される人の話し方
~察する力より表現力~
withコロナ時代に求められるコミュニケーションの極意
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