コロナ禍以降、リモートワークやDXの推進、衛生面に対する地球規模での意識が必要となり、企業のSDGsへの関心もより一層高まっています。
アフターコロナで企業がSDGsを導入する必要性や具体的な取り組み、取り組んでいくためのヒントを、日本科学技術ジャーナリスト会議会長の室山哲也氏が解説します。
【監修・取材先】
室山哲也氏
メ日本科学技術ジャーナリスト会議会長
元 NHK解説主幹
SDGsとは?
企業のSDGsへの取り組みについて触れる前に、そもそもSDGsとは何かというところから振り返っておきましょう。
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」として訳されています。2030年に向けて持続可能な社会を作るために定められた国連の目標で、「貧困をなくす」「飢餓をなくす」「エネルギーをクリーンに」「住み続けられる街づくり」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育」「気候変動対策」「海の豊さを守る」「陸の豊かさを守る」など、計17の目標項目が掲げられています。 これらはどれも人類の未来を左右する大変重要な課題ばかりです。
では、どうして今このコロナ禍でSDGsが注目されているのでしょうか。
それは、コロナ禍は深いところで、SDGsに関連しているからです。
アフターコロナでSDGsがなぜ必要なのか?
SDGsの項目は、それぞれが深くかかわりあっています。中でも、最も大きな課題に「地球環境問題」があります。温暖化による気候変動、森林破壊、水汚染、プラスチック問題、種の絶滅などさまざまなものがありますが、その根底には、人類の活動と地球環境との間のアンバランスという問題が横たわっています。
私たち人類の生活が地球にどれくらいの負荷を与えているのかがわかる「エコロジカル・フットプリント」という指標があります。人間の消費活動によって生じた地球環境への負荷を、その消費をまかなうのに必要な面積(ヘクタール)として換算して、消費の規模を表したものです。人間がそのエリアで自然環境(Ecological)を踏みつけている面積(Footprint)と考えれば、分かりやすいのではないでしょうか。
さて、エコロジカルフットプリントで見たとき、人類は、2013年の時点ですでに地球1.7個分の消費活動をしているというデータがあります。地球が持つ価値の生産力を1とした時、すでに0.7個分は本来の地球が持つ生産力を超え、資源が食いつぶされている状況なのです。家計に例えると、貯金の利子で生活すれば持続可能ですが、元本に手を付け、先細りになっている状態です。
そして、さらに問題を複雑にしているのは、エコロジカルフットプリントは、国や地域によって格差があるということです。先進国の数字は大きく、途上国は1を下回っています。途上国は当然、先進国並みの生活を目指しているわけですが、もしも、現在の社会システムのまま、人類全体が日本人の水準の生活をすると地球が2.8個、アメリカの水準で生活すると地球が5個必要となるという報告もあります。
私たちは、この国家間の格差を乗り越え、人類全体で「地球1個分の生活」をする必要があるのです。しかも、その生活は、我慢を強いる、苦しいものであってはならず、資源を効率的に使い、豊かで、質が高い、未来型の生活でなければなりません。そのためには、現在の社会のシステムを根底から変え、新しい文明社会に踏み出す必要があるわけです。
新型コロナウイルスのパンデミック問題もSDGsと関係があります。人口増加で野生動物しかいなかった自然に人間が進出し、未知のウイルスに遭遇したことがその背景にあるからです。
地球環境問題は今後の経済活動にも大きく関連してきます。2030年に向けて持続可能な社会を作るためには、企業を挙げて取り組む必要があります。これは社会への貢献はもちろん、企業にも大きなメリットを生み出します。 例えば、SDGへの貢献が企業の評価に大きく関係する可能性もあれば、情報開示することでステークホルダーからの支持を得ることができます。
企業がSDGsを推進することで社会を革新的に変える
SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されていますが、各国で事情が異なるため、日本政府は独自の行動計画「SDGsアクションプラン2021」という行動計画を立て、2030年までの実施を目標としています。その中で企業活動に関連する目標として、「よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略」があります。この「イノベーション」には、デジタルトランスフォーメーションの推進とともに、「Society5.0」の実現が含まれます。
「Society5.0」とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合したシステムにより 、経済発展と社会課題解決が両立する社会のことで、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に次いで第5の新たな社会を意味します(参照:内閣府科学技術政策より)。
Society5.0を目指す中に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を使って、さまざまな社会の課題を解決しようとする動きがありますが、これは日本の経済成長を促進するだけでなく、SDGs目標達成の手段としても活用できます。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- IoTやAI、ビッグデータを活用したスマート農業➡「飢餓をゼロに」
- モニタリングデータを活用した感染症予防システム➡「すべての人に健康と福祉を」
- インターネットを利用したeラーニングシステム➡「質の高い教育」
- 人工衛星とスパコンを組み合わせた気象観測データシステム➡「気候変動に具体的な対策を」
- 自然エネルギーを安定供給できるスマートグリッドシステム➡「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」
このような技術を使いこなし、企業全体でSDGsを実現していくためにも、企業は、AIやIoT時代に適した人材を育てることが急務であり、そのためのリテラシー教育が必要になってきます。
「Society5.0」から企業の取り組むべき課題を模索する
自分の会社にSDGsを導入しようと考えたとき、どれから取り組んだらよいかわ からないこともあるでしょう。そんな場合、政府が目標として挙げている「Society5.0」の実現に注視すると、取り組める課題を見つけることができます。
「Society5.0」で実現する社会のイメージから、具体的な企業の取り組み例をご紹介します。
①家にいながら受診できる遠隔診療
「Society5.0」は5G、ネットワークに支えられたAIによる画像認識を使い、遠隔画像診断や遠隔手術も可能となる社会です。新型コロナウイルスの感染拡大で医療施設や医療従事者の不足が問題となりましたが、このシステムを使えば、隔離中の患者の診療が遠隔でも可能になります。
また、医療チップで血液データを常時分析できれば、疾病の予知や健康管理など高齢化の問題解決につながります。材料の科学的性質を研究し、工学的な応用や開発を行う材料科学は日本の得意な分野でもあるため、この分野を成長させる取り組みもSDGsへとつながります。
オンライン診療を実施している病院は、2021年5月現在で6,790。前年比で3.4倍ほど急増しており、この傾向は今後も継続していくことでしょう(参考:SCUEL DATA REPORT)
➁スマート農業で人手不足と食糧問題解消
高齢化や後継者不足の中、長崎県壱岐市では、GPSや準天頂衛星による無人トラクターやドローン活用の実証実験が進み、土おこしや種まき、収穫などにおいてスマート農業を推進する道を探っています。
また、農業機械メーカー大手のヤンマーは、無人自動走行できるスマートトラクターや、タブレットで遠隔操作できるロボットトラクターを開発。長野県高山村では、センシングデータと気象データを活用し、醸造用ブドウの品質向上に成功しています。他に、土壌管理をAIで行い、潅水・施肥を実施したスマート農業ベンチャーのルートレック・ネットワークスの事例もあり、多くの企業や自治体がスマート農業に向けた取り組みを行っています
③スマートグリッドで再生可能エネルギー育成
これからの社会は再生可能エネルギーなしには成り立ちません。しかし、再生可能エネルギーは天候まかせの不安定な特徴があるため、いくつかの地域をつなぎ、需要と供給を調整していく必要があります。AIとインターネットを活用して自動的にエネルギーの需給を計算し、安定したエネルギーシステムを実現しなければなりません。
東京電力は、2015年に東京電力パワーグリッドを設立しました 。東京都新島村と式根島に設置した再生可能エネルギー設備において、2017年から蓄電と送電の実証実験を実施 。2030年には系統運用を想定しています。スマートグリッドは今後、日本のエネルギーの構造図を大きく変えることでしょう。
また、再生可能エネルギーと水素を組み合わせた試みも進んでいます。風力や太陽光などの再生可能エネルギーで作った電気で、水を電気分解して水素をつくり、燃料電池などで水素ネットワーク社会を構築する試みです。再生可能エネルギーには地球が生み出す無尽蔵のポテンシャルがあります。科学技術の力と組み合わせて、その可能性を引き出し、循環型社会につなげていくことも期待されています。
アフターコロナで企業が向かうべき道とは?
ここまでコロナ禍とSDGsの関係性、そして現在SDGsを実現している企業の取り組み事例を見てきました。
これらを踏まえたうえで企業は今後どのようなことをするべきか、どのような方向へ向かうべきかを洗い出してみましょう。
SDGsに対応するためには、急激な人口増加と地球環境資源への負担が作り出した地球規模の課題(ビッグイシュー)を、科学技術の力を使って解決する視点が必要です。また、その試みが、人間の満足感や幸福感につながることも重要です。せっかくの施策も、市民の支持がなければ持続可能にはならないからです。
すでに申し上げたように、SDGsが提起する課題は多岐にわたります。人口爆発による環境破壊、化学物質汚染、プラスチック問題、地球温暖化による気候変動、砂漠化、生物多様性の危機、エネルギー危機、食糧危機などなど。そしてこれに加えて、日本は少子高齢化という課題に直面しています。これらの課題はあるときは単体で、ある時は複合的な形をとって、私たちに襲い掛かります。
したがって、今後の対策で必要なことは、これらの課題をできるだけ多く、同時に解決できる道筋を探ることです。その意味で、企業も大きな責任を負っており、成功すればその波及効果も大きいといえると思います。
私の講演ではSDGsの具体的な取り組みついてはもちろん、環境問題やエネルギー問題の現状を踏まえて、最新の科学的データも取り入れながら、これからの社会の在り方について詳しくお話ししています。ご興味のある方はぜひシステムブレーンまでお問合せください。
室山哲也 むろやまてつや
日本科学技術ジャーナリスト会議会長 元 NHK解説主幹 大正大学客員教授
大学教授・研究者 評論家・ジャーナリストキャスター・アナウンサー
NHK「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」のチーフプロデューサー、解説主幹などを歴任。また、子ども向け科学番組の塾長として科学教育にも取り組み、科学や技術と社会との繋がりについてわかりやすく解説。その他のテーマに「自閉症児の子育てから学んだこと」「新型コロナとSDGs」など。
プランタイトル
どうつくる?持続可能な社会~新型コロナとSDGs~
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