次回の研修をより実り多きものにするために、研修後の効果測定は欠かせません。
研修後にアンケートを実施するだけでなく、理解度テスト、実務評価、ROI分析などで受講者の習熟度評価や費用対効果も測定する必要があります。
本記事では、研修の効果測定の必要性や目的、具体的な測定方法を詳しくご紹介します。
研修の効果測定が必要な理由
研修はただやれば良いのではなく、やった後、研修の受講が本当に参加者にとって効果があったかどうかを確認する必要があります。この場合の効果とは、単に受講者に評判がいい、ウケがいいというだけではなく、研修で学んだ内容が業務に活かせているか、学んだ内容は業務と合っていたかどうか、なども含まれます。
そのため、かつては効果測定の手段として受講者アンケートや感想文などが多く使われており、現在でも判断基準の一つにはなっています。しかし、アンケートや感想文だけでは業務と研修の因果関係がわかりません。そのため、研修という「投資(コスト)」に対してどのくらいの「効果(リターン)」があったのかをはかる必要があります。
また、効果測定は研修内容のブラッシュアップにもなります。スキルや知識の習得度や受講者の満足度を把握することで、次回の改善点が見えてきます。次回のためにも、効果測定をしっかりと行う必要があります。
研修の効果測定の目的
研修の効果測定の目的はいくつかあり、企業側と社員側でそれぞれ異なります。例えば、企業側では最初にご紹介したようにどのくらいの費用対効果があったか、投資に対してどのくらいのリターンがあったかを見極めなくてはなりません。また、数値化が難しいものの測定したい効果として、職場における業務遂行姿勢の変化、研修で学んだ姿勢をどのくらい行動に反映させられているか、なども挙げられます。
社員側としては、研修に対する満足度の見える化が第一の目的として挙げられるでしょう。次に、自らのスキルがどのくらい向上したか、知識がどの程度身についたか、などを測れると、モチベーションにつながりやすくなります。社員自身が意欲的に業務遂行をする上でも、研修の効果測定は大切です。
このように、研修の効果測定は満足感だけ、費用対効果だけで終われるものではありません。社員の姿勢や行動の変化、モチベーションなど数値化しにくい効果も多く含まれます。そのため、新しい効果測定の手法として、次章でご紹介する「カークパトリックモデル」が生み出されました。
研修の効果測定「カークパトリックモデル」
「カークパトリックモデル」とは1959年に経済学者のドナルド・パトリックが1959年に発表した評価測定方法で、教育の達成度を「反応」「学習」「行動」「結果」の4段階で表します。
について、レベル1から4まで順にご紹介します。
レベル1:Reaction(反応)
カークパトリックモデルのレベル1では、これまでも長く使われてきた受講者の満足度を指標とします。研修後アンケートによって、受講者の満足度の内容を以下のように細かく設定したり、数値化したりするとより測定しやすいでしょう。この効果測定は、研修受講の感動や発見が失われたり、忘れたりされていない研修直後に行います。
- 研修内容は満足しているか
- 研修の開催時期、時間は適切だったか
- 難易度は適切だったか
- 学んだことを業務に活かせそうか
このとき、0〜5段階などの数値にして表してもらうと、より効果が見えやすく、数値として集計しやすいでしょう。もし、満足度が低ければ研修内容の見直しを、難易度が適切でなければもっとわかりやすく、あるいはレベルを高くする必要があります。
レベル2:Learning(学習)
レベル2では、理解度確認テストを行います。受講者が研修内容を知識として理解できているかどうかテスト形式で判断するもので、紙ベースでも電子形式でも実技テストなどでも構いません。e-ラーニングなどの場合は、研修が終わってすぐこのテストを行うようにしておくと、スムーズな効果測定につながるでしょう。
座学の場合は筆記テストや検定試験、実務を学ぶ場合は実技テストやロールプレイングを実施するのがおすすめです。理解度確認テストは効果を測るだけでなく、テストによって受講者に知識や技術を定着させることも目的の一つです。ランキングなどで見える化し、学びを促すのも一つの方法です。
レベル3:Behavior(行動)
レベル3では、研修によって受講者の行動がどう変わったか、研修内容をどのように業務に活かせているか実際にチェックしていきます。このとき、研修前に「研修によって変化すると予想される、あるいは変化させたい指標」をあらかじめ定めておくと、実際に研修によってどう変化したかを数値でわかりやすくチェックできます。例えば、以下のような数値です。
- 改善や気づきの提案件数
- 現場パトロールによる指摘件数
実践は、研修後すぐに結果が出るものではありません。そのため、3カ月後や半年後など、一定期間を置いた後で行うのが良いでしょう。また、1回だけではなく期間を空けて数回行うと、本当に行動に定着しているかどうかがわかります。
レベル4:Result(結果)
レベル4では、研修が業績指標に対してどのくらい貢献したかを表します。例えば、営業研修であれば、以下のような業績に直結しやすい数値をあらかじめ指標として設定しておき、研修前と後で比較すると良いでしょう。
- アポイントメント取得件数
- 新規リード獲得件数
- 売上実績
ここでは営業に関する数値がわかりやすいため、例として取り上げましたが、例えばクレームを減らすためにコンプライアンス研修を行ったのであれば、クレーム件数が指標となるように、行う研修によって設定すべき数値も異なります。また、レベル3よりもさらに中長期的な視点と評価が必要です。
そのため、レベル4の測定は非常に難しく、レベル1〜3までの効果測定と合わせた総合的な評価が必要とされます。
研修の効果測定のためのツール
研修の効果測定のためには、さまざまなツールを使うと良いでしょう。ここでは、前章でご紹介したレベル1〜4のステップにそれぞれ対応する受講者アンケート、理解度テスト、実務評価、ROI分析についてご紹介します。
受講者アンケート
受講者アンケートは、名前の通り受講者に研修の内容についてアンケートを取るもので、以前より行われてきた手法です。全体的な印象はもちろん、細かくセッションごとにわかりやすさや内容を業務に活かせそうかどうか聞いたりすると良いでしょう。
前章では数値化することをおすすめしましたが、あえて「何に、どう気づいたか」などオープンクエスチョンを加え、受講者の気づきを促したり、次回の研修に向けた課題として組み上げたりすることも重要です。
評価の高い内容に関しては翌年も継続し、不評だった部分は改めましょう。
設問例:
- 研修内容はどの程度理解できましたか?
- この内容は実際の業務に役立つと思いますか?
- 講師を評価してください
- 研修全体の満足度を教えてください
- 改善してほしい点や気になった点はありますか?
自由に回答してください。
理解度テスト
理解度テストでは、研修前後にテストを行い、研修内容の理解度や習熟度を測定します。研修前に受講者の知識、スキルレベルを把握しておき、研修後に同じ内容のテストをもう一度行うことで、研修によってどの程度知識やスキルレベルが上がったかどうか把握するのが目的です。
実施方法は、コンプライアンスや情報セキュリティなどの知識を問う分野であれば、独自に作成した筆記試験やeラーニングなどが適しています。
語学やデジタルスキル研修では、TOEICやITパスポートといった外部検定試験を活用するのも一案です。
またマネジメント研修ではレポート提出、プレゼンテーション研修なら実演といったように、ペーパーテスト以外の方法が適した分野は、その方法も取り入れましょう。
前述の通り、受講後すぐ行うだけでなく、1カ月後や3カ月後など、知識やスキルが定着できたかどうか何回もテストを行うことで、時間経過による定着度もチェックできます。
実務評価
実務評価では、研修担当者以外にも、上司や同僚、部下に行動観察をしてもらい、研修の前と後でどのように行動が変わったか、業務遂行に変化が起こったかアンケートを取ると良いでしょう。研修が終わってすぐにはわからないことも多いため、一定期間後にアンケートを取ります。さらに期間をあけてもう一度アンケートを取ることで、変化の傾向を見ることもできます。直接対面でも、電話などでも構いませんので、本人や周囲からのヒアリングも効果的です。
また、営業研修を受講した社員について、研修の前と後との売上実績を比較したり、接客研修を受講した社員は顧客からの評価がどのくらい変化がしたかを確認したりする方法もあります。
ROI分析
ROIとは「Return On Investment」の略で、費用対効果がどのくらいだったかをはかる指標です。
例えば営業研修後の受講者全体による営業売上が、前年比で10%増加したとします。研修開催に80万円をかけたのであれば、その増収分から研修コストを差し引いてROIを算出します。
ただし、研修をROI分析する上で問題なのは、「費用(投資)にどこまでを含めるか」というものです。一般的には「講義料、テキスト代、交通費、会場代、宿泊・食事代」などが含まれます。
逆に、人件費や研修参加中の時間で生み出せたであろう通常業務における利益などは含まないことが多いです。厳密にROI分析を行うのであれば、これらも損失(経費)として計上し、分析するのが良いと考えられています。
ROIが高ければ研修の有効性を証明できますが、コストや効果を定量化するのはかなり難易度が高い作業です。他の測定手法と組み合わせて、総合的に研修効果を評価することをおすすめします。
効果測定を計画する際の考え方
単純に数値化しやすい研修が、効果測定に向いているというわけではありません。効果測定の指標を定めるためにも、研修の目的や狙いをあらかじめしっかり定めた上で、誰がいつ効果測定を行うのか、研修後のこともしっかり見据えた上で行う必要があります。
効果測定を計画する際には以下のことに注意するとよいでしょう。
- 研修の目的、狙いを事前にしっかり決めている
- 効果測定の指標を定めている
- 誰が、いつ効果測定を行うか役割分担している
研修の効果測定を成功させるための4つのポイント
最後に、研修の効果測定を実りあるものにするために、注意すべき点を解説します。
①研修そのものとおよび効果測定の目的を明確にする
研修後の効果測定は、研修の目的に対してどのくらい達成できたかで測定するものですから、そもそも研修の目的が明確でなければ、効果も出たのか出ないのかはっきりわかりません。
また、研修の効果測定を何のためにするのか、という効果測定の目的を決めておくことも重要です。
そもそも研修実施の意義そのものを評価したいのか、研修によって得られた効果を評価したいのかで、測定すべき指標や測定手法が異なります。さらに研修に求める効果は、受講者、研修担当者、上司、経営陣など、置かれている立場によってもさまざまです。受講者本人や上司が満足できても、ROIの面などで経営陣には不満が残る場合もあります。またその逆もあり得ます。
自社の課題(目的)が「研修によって効率的にスキル向上のPDCAサイクルを回す」ためであれば、計測方法には受講者アンケートが有効です。「成果をはっきり見える化したい」のであれば、実務評価を重視すべきでしょう。
目的を考えて効果測定を行う必要があります。
②測定可能な達成目標を、比較対象とともに設定する
研修の効果測定では、あまりに測定不可能な類の目標や、研修の目的とずれた目標を設定しては意味がありません。測定でき、なおかつしっかり研修を受ければ達成できることを目標に設定しましょう。
例えば、行動変容(レベル3)やKPIの数値アップ(レベル4)などを目標とすることで、より正しく効果測定が行えます。
また、設定した目標値の妥当性を検証するためには、比較できる対象データが必要です。そのために、研修前のベースライン測定も重要となります。研修前後で同じ指標を測定し、変化の度合いを把握することで、研修効果をより正確に評価できます。
あるいはグループによって研修の時期を分けるなどして、研修を受けたグループと、受けていないグループとの差異を対比させる方法もあります。
③行動や業績貢献の成果だけに固執しすぎない
しかしながら効果を見るのに「行動や業績貢献のみにとらわれすぎない」こともまた重要です。
一般的には目に見える成果に意識が向きがちで、その部分に効果が及んでいないと「意味がない研修だった」と考える人もいるかもしれません。しかし個々の社員には、それ以前に「反応」や「学習」の段階があって到達した成果です。
測定指標の中には、反応や学習の面での変化を把握できる内容を盛り込みましょう。これにより、単に行動に移す前の段階の人がまだ多いのか、それともそれ以前の問題があるのかどうかも計測できます。
④効果が現れるまでの時間を見込んでおく
研修を行ったからといって、すぐに受講者全員の行動や業績に好ましい影響が出るわけではありません。研修はあくまでも人材育成の手段の1つであり、社員のスキルの獲得や成長には、一定の時間が必要であることを忘れないようにしてください。
したがって研修内容に合わせて、「研修直後に1回測定して終わり」ではなく、相応の時間を置いたり、複数回実施した方がよいでしょう。
修後の効果測定は満足度の調査、費用対効果の見える化にとどまらず、日々の業務を行う上での行動変容や業績貢献にもつながるものです。効果をどう測定すれば良いかだけでなく、効果測定そのものが研修効果をアップし、人材育成につながるよう、研修はもちろん効果測定の目的を明確にし、定期的かつ適切な効果測定を行いましょう。
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