早いもので、今年(2022年)の後半期に突入しました。上半期を振り返ると、1~2月、7~8月にコロナ感染者数が増加し、講演会・セミナー開催に大きな影響を受けました。
今回ご紹介する案件も、コロナ感染者数の波によって、日程ばかりでなく、開催方法も変更を余儀なくされました。
当初は2月のリアル開催予定でしたが、8月に延期となり、最終的にリアルからオンライン講演に変更。
とはいえ、すでにコロナ禍も3年目に突入し、突然の開催スタイル変更も慣れたものです。臨場感のあるライブ開催の良さを残しつつも、視聴者のライフスタイルに合わせて好きな時間帯で視聴できるよう、ライブ配信+収録型の併合型を提案させていただきました。結果的に主催者様からもお墨付きをいただき、無事に成功させることができました。
開催までの道のり、当日の模様をレポートします。
自治体・医療福祉・公的団体・学校・PTA・教育委員会チーム
ドラッグから、あなたの大切な人を守りましょう
講師 : 家田荘子 氏
主催者 : A市教育関連団体 様
開催日時 : 2022年8月中旬
講演時間 : 1時間30分
聴講者人数: 約150人
講演タイプ: ライブ配信+収録
配信ツール: Zoomミーティング
「やはりリアルで開催したい」主催者様の切実な思い
長引くコロナ禍は、ソーシャルディスタンスを必然化させ、人と人の間に大きな心理的距離も生み出しました。講演やセミナーはもちろんのこと、コンサートやお祭りなどのイベントは、中止・延期またはオンラインという選択肢しか与えられず、私たちの心はどこか疲れ切っているように感じていました。
そんな中、今年に入り、3年目のコロナ禍となり、欧米諸国では平常化に向けた動きが加速しました。日本も段階的ではありますが、コロナ禍でのさまざまな規制が緩和され、イベントのリアル開催も増えてきました。弊社にもリアル開催での問合せが増え、昔の活気が戻ってきたように感じました。
本案件は、昨年(2021年)の夏ごろ、「中高生の保護者や青少年指導員を対象に10月くらいに啓発セミナーをリアルで開催したい」と問合せがありました。こちらは、PTA向けに毎年開催しているセミナーで、聴講者の皆さん、久しぶりに会って一緒に勉強できることを楽しみにしており、加えてオンラインよりも講師の熱量や臨場感が伝わりやすいということで、リアル開催を希望されていました。
オンライン開催は、感染リスクを減らし、聴講者が遠方でも参加できるなど、多くのメリットがありますが、その一方で、ネット環境のある聴講者しか参加できない、主催団体側も不慣れである事などから、「できることならリアルで開催したい」と考えていらっしゃる主催者様も多くいらっしゃいます。
私たちチームも主催者様のご要望を叶えるべく、できればリアル開催で行いたかったのですが、コロナ感染者数が増加し、今年2月に延期。その時期もご存じの通り、感染者数の増加の波は高くなるばかりで、さらに8月に延期となりました。春頃に感染者数が減少傾向になり、開催できるかなと思っていたのですが、7月になってまたもや全国的に感染が拡大。
主催者様は「延期にするか、中止にするか」で悩んでいらっしゃるようでした。そこで、少しでもリアル開催の雰囲気を演出できる一部集合型のライブ配信によるオンライン講演を提案させていただきました。
加えて、当日参加が難しい聴講者がいらっしゃったので、後で視聴できるように収録型を併合しました。
主催者様は、感染リスクを減らしながら、一部の聴講者が会場に集まることでリアルの雰囲気を享受できるこの方法に、二つ返事でご快諾されました。
講師は、『極道の妻たち』や『少女犯罪』などの著作で知られるノンフィクション作家で、現在は高野山本山僧侶でもある家田荘子さん。家田さんに、オンライン開催に変更になった旨をお話すると、「自宅から配信できなくもないが、できれば他の人がいてほどよい緊張感がほしいので、システムブレーンさんのスタジオから配信したい」というご相談があり、弊社スタジオから生配信することとなりました。録画についても、「問題はない」ということでしたので、併合型開催に向けた準備を開始しました。
オンライン開催は難しい?
今回のライブ配信は、リアルのように聴講者の一部が会場に集まり、一部は個別に視聴する形にしました。
この場合は、講師の配信場所と聴講者の集まる場所、2つの会場の準備が必要となるため、「大変だ」というイメージがあります。しかし、今回は配信場所について弊社のオンライン講演サポートプランをご利用されたため、主催者様は、聴講者の集まる場所の準備をするだけだったので、そこまで難しさはなかったと思います。
接続環境や視聴環境、当日の流れを確認するため、開催日2週間前に、主催者様と弊社とでリハーサルを行いました。
リハーサルは、当日の流れを確認するだけでなく、相手のオンラインの理解度に応じて、以下のような基本的な注意事項もご説明しています。
- 同じ部屋で複数のパソコンのスピーカーをオンするとハウリングするので、基本は一つのパソコンだけをオンにする。
- 基本的にしゃべらないときにはマイクはミュートにしておく。
- 安定した接続を確保するために、インターネットとは有線ケーブルを使用する など
それと同時に、私たちのチームは今回のような収録型の配信を何度となくやってきているため、リハーサル時にこれまで録画した動画サンプルをお見せして、イメージを持っていただくようにしています。
オンライン講演の流れですが、一般的に以下のような流れで進行します。リアル開催と同様の流れをZoomの中で進めていきます。
- 開会の言葉、注意事項のアナウンス
- 代表者挨拶
- 講師プロフィールの紹介
- 講演
- 閉会の言葉、アンケートの案内
サンプル動画で冒頭部分をお見せすることで、当日の様子や編集後の動画がイメージしやすいと好評いただいています。
また、リハーサルでは、あらかじめ準備していた当日の進行台本の流れにしたがって一通りやってみます。話し出すタイミングや内容を再確認できるため、主催者様の当日の緊張感も緩和されるようです。
当日の運営の様子
当日は、開催時刻の一時間前にスタジオをセッティングし、家田さんは30分前に来社されました。
流れを簡単に説明した後、カメラの画角や音声を調整しました。カメラは基本一台で定点で固定。いろいろとアングルやカメラを変えるやり方もありますが、過剰な演出をせず、シンプルにカメラ1つの定点撮影の方が家田さんの世界観に聴講者が没入しやすいと考えました。
講師の皆さんは、「聴講者のお顔が見えた方が話しやすい。聞き手を感じながら話したい」とおっしゃられる事がほとんどですので、今回もスタジオには聴講者の方々のお顔が映るようにモニターを別途用意させていただきました。
接続拠点は、開催委員の方々及びご自宅にインターネット環境のない一部の聴講者が集まった会場と、個人視聴者の各ご自宅です。拠点数は全部で十数か所程度。
先に、会場とつなぎ、家田さんと主催者様の顔合わせを行った後、一旦、講師のカメラはオフにして、20分程度、待機室に待機されている個人視聴者をZoomに招き入れる時間を設けました。参加者の入室許可は基本主催者様の方でやっていただきました。
私たちは、本番では、話す人のマイクをオン・オフに切り替えたり、話している人が大きく表示されるようにスポットライト指定を行っていました。また、ネット接続が不安定になり、途中で切れて再入室した聴講者は、一旦待機室に戻されるのですが、その聴講者の入室を許可したりする操作なども行いました。
当日は大きなトラブルなく、スムーズに進行していきました。
「一人芝居」のような家田さんの講演
家田さんの講演は、スライドや資料の投影は一切ありません。事前に、主催者様から「どんなことを話してほしいのか」といった質問書にご回答いただき、それをもとに、家田さんが90分で話す内容の構成を作成されます。
講演ではテーマに沿って、家田さんがこれまで取材したまたは経験した事実を淡々と語るのですが、家田さんの世界に引き込まれていき、家田さんの話し出す物語がまるで今起こっているかのように頭の中で再現されます。ですので、一般的な講演会の後にある質疑応答は、聴講後の余韻を壊す原因となるため、現在は行っていないそうです。
映画製作のご経験があるからこそ、魅せ方がお上手なのだと思います。講演というより「語り部」や「一人芝居」に近いかもしれません。いい意味でエンターテインメント性の高い講演だと思います。
聴講後は、映画や劇を見た後のような、不思議な余韻が残ります。この余韻を家田さんは大切にされているようです。
子どもを薬物の魔の手から守るために
今回の講演は「薬物防止」がテーマであり、家田さんが以前取材した女子の少年鑑別所の非行少女のお話をされました。その少女は、教師の母親と年下の妹がいる家庭で育っていました。母親がシングルマザーでしかも教師という忙しい職業柄、なかなかかまってもらえなかったそうです。中学校の頃から小さい妹の世話と家事をこなしながらも、教師の母親からは県内トップの進学校に進学するだろうという異常な期待がありました。
中学校までは真面目に勉強と家事を両立させていましたが、高校受験で県内トップではなく、2位の高校に進むことになりました。そこから歯車が狂います。
周囲や母親から「そんな頭がよかったのになんでトップの高校に行けなかった」といわれ続け、あることをきっかけに非行の道に走ります。だんだん言動や着る服が過激なものになっていくのに、母親は怒るどころか何もいいません。
高校1年のときに家出し、高校も退学。住む場所もないので、友達に相談すると、高校生を売りに売春まがいをする住み込みの仕事を紹介されます。そこで薬物に手を出すことに。
最終的に薬物中毒となり、警察に逮捕、少年鑑別所に送致されますが、母親が面会した時にこの少女が放った言葉は「何であの時に怒ってくれなかったのか」というものでした。
この少女は、その後、少年鑑別所の職員の助けもあり、模範生となり2年で退所しました。今は、教師になるため、大学に通っているそうです。
この話で家田さんが伝えたかったことは、「子どもと真剣に向き合うこと」そして「周囲が声かけしてあげること」の大切さです。
少年鑑別所の職員は、いつも子どもたちに声かけを欠かさないそうです。子どもたちの気持ちを無理に聞き出すのではなく、声かけをしながら、子どもたちが自分から話そうという気持ちになるまで待っているそうです。子どもが話したいという気になったら、その時にやっている作業をやめて、真剣に子どもたちの声に耳を傾けているとのこと。
同じ年頃の子どもを持つ保護者や、青少年を見守る地元の指導員の方々にはとても心に響いた内容だったと思います。皆さん、真剣に聞いていらっしゃるようでした。
この後、四国の巡礼の話など軽めの話をしながら、緩急をつけた構成で、90分あっという間に終わりました。一聴講者の立場として、「良い作品が見れた」というような満足感が残る素晴らしい講演でした。
臨機応変に対応する力
ようやくコロナ禍も落ち着いてきているように感じますが、まだまだ見通しがつかない状況です。私たちもこのコロナ禍という特別な状況に慣れてきて、リアルからオンラインという咄嗟の変更にも素早く対処できるようになりました。
ここで重要なのは、臨機応変に対応できる力。頭でっかちにならず、常にフラットな気持ちで物事に望むことのできる姿勢です。
講演・セミナーは「ナマモノ」です。コロナ禍や天災だけでなく、思わぬアクシデントに悩まされることもあります。そんな時、臨機応変に対応できる力が大いに役立ってくれます。それは、これまでの経験によって培われるものでありますが、時にはこの経験が「以前はこうだったのに」と邪魔することもあります。そのときに切り抜けた方法も、次で使えるかわかりません。ですので、講演やセミナーの運営する際は、先入観を持たずに、心をニュートラルにして望むようにしています。
今後とも、この「臨機応変力」を鍛えながら、最高の講演・セミナーが実現できるように邁進していく所存です。
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