子どもが産まれた時、健康に誕生してくれたことを心から喜んでいたはずが、子どもが成長するにつれて「もう少し勉強ができたら」「はきはきしてくれたら」と不満ばかりが口から出てしまう。そんな経験はありませんか?このような環境で育った子どもたちは、自分に自信がなくなり、全てマイナス思考に陥りがちになってしまいます。
子どもの短所も考え方によっては長所となり、「ほめる」というプラス指向の言葉かけにより、親も子どもも前向きな気持ちに変化します。
日本ほめる達人協会特別認定講師・渡辺洋之氏が、親も子どもも前向きにし、「優しくて折れない人間性」を育てるために、「ほめる達人=“ほめ達”」の考え方やほめることで得られる効果、またほめる極意を解説します。
【監修・取材先】
渡辺洋之氏
(一社)日本ほめる達人協会特別認定講師
日本メンタルヘルス協会 心理カウンセラー
ダメ出しの反省から生まれた「ほめ達」理論
日本ほめる達人協会は、増加する自殺を少しでも減少させ、笑顔のあふれる社会を目指して、2011年に西村貴好氏によって創設されました。西村氏は、かつて経営コンサルティングの会社を経営しており、そこで店舗や企業の課題を探し出して改善を促すことをしていました。そのため、さまざまな店舗で顧客のふりをした調査員に店舗を訪問・評価させ、いわゆる「ダメ出し」の覆面調査を行っていました。
「ダメ出し」で指摘されたところは、確かに改善されます。しかし、そのたびに別の課題が生まれてしまい、もぐら叩きのように叩いても次から次へ問題が噴出し、やがて西村氏は「ダメ出し」に限界を感じ始め、「ほめるところを探す」という調査に切り替えました。
覆面調査で方法を替えたといっても、ダメな部分の方がどうしても目につきます。最初はダメな部分100個に対して良いところは3個程度しか見つからず、まずその3個をお店に伝えたそうです。「お宅のお店はこういうところが素晴らしい」「スタッフの○○さんの接客がよかった」「きれいに清掃できていた」と3つの良い点を伝え、その後で改善点を1つだけ伝えるようにしました。
そうすると、調査対象の店舗が劇的に変化しました。ある焼き鳥チェーン店ではわずか3カ月で前年比の売上が平均120%、最大161%と劇的に増加したのです。さらに、これまで新規スタッフを採用するために多大な費用をかけていたのですが、離職率も激減。「あのお店で働きたい」と思ってもらえるようになり、4年間、採用経費がゼロになりました。
「叱る」より「ほめる」方が数倍良い効果が得られたことが証明された例といえます。
「仕事が遅い」と言われたバイトスタッフの変化
「ほめる」効果の高さは、前記の焼き鳥チェーン店で働いていたある女性スタッフにも現れました。その女性スタッフは、以前から他のスタッフに「仕事が遅い」「のろま」といった評価を受けていました。
調査員はその女性スタッフの行動をよく観察してみることにしました。女性スタッフは、テーブルを拭くときは、お客さんが座ったときに洋服が汚れないようにテーブルの裏まで隅々を拭いていました。お客さんが帰った後に忘れ物があれば走って店の外まで届け、小さい子どもが来れば目線を合わせて話をし、人一倍丁寧に仕事をこなしていました。
調査員は、調査レポートに「〇〇さんはとても丁寧な仕事をしている」と書きました。そのレポートはスタッフにも公開されます。これまで、「いつ仕事を辞めようか」と思っていたその女性スタッフは、報告書を読んでとても驚きました。正当に評価されたことがうれしくて、それ以降も、いつも以上に仕事に励むようになりました。それに周りのスタッフも感化され、その店はとても活気のある店に変化したそうです。
ある人の目では「のろま」とみられる行動も、ある人の目には「丁寧」と映る。長所と短所は紙一重だということです。
「短所」と思える部分も見方を変えると「長所」になりえるのです。長所ととらえ、それをちゃんとほめることで、ほめられた人は最大のパフォーマンスを発揮しようとします。ほめることの最大のメリットがここにあり、長所を見出すことで本人のパフォーマンスを自然と上げることができるのです。
ほめるとは?
では、「ほめる」とはどのようなことを意味するのでしょうか。「ほめる」とは、お世辞を言ったり、思ってもいないことを言ったり、何かをさせるための動機づけにしたりするものではありません。これらはすべて、相手をコントロールしようとするための聞こえのいい言葉というだけであり、「ほめる」ということではないのです。
「ほめる」とは、相手の価値を発見し、それを相手に伝えることを言います。前述の女性スタッフの事例も、「仕事が丁寧である」という価値を汲み上げ、本人に伝えたことが重要でした。本人自身もいまだ気づいていない価値に気づき、それを伝えるのが「ほめる」ということなのです。
ですから「ほめる達人=ほめ達」とは、人やモノ、出来事の価値を発見する達人ということでもあります。価値を発見するためには、よく観察することが重要です。例えば、子どもの価値を発見するためには、表面的な部分にとどまらず、子どもたちをしっかり心の奥まで観察しなくてはなりません。
人の価値とは「長所、魅力、強み、貢献、成長、頑張り」などが当てはまります。例えば先月からこれだけ成長した、こんなところが強みである、日々頑張っている、などです。価値を見つけたら、どんな思惑を乗せることもなく、ただ相手にその価値を伝えてあげることが「ほめる」ということです。
「ほめる」の第一歩! 短所を長所に変換してみる
では、実際に、わが子をほめようと思ってみても、近い関係であるばかり、価値がなかなか見いだせない、短所ばかりが目についてしまう、ということもあるでしょう。そんなときは、短所に見える部分を長所に変換してみるのがおすすめです。焼き鳥チェーンの事例でもお話ししたように、短所と長所は紙一重であり、見方によって変わります。
例えば、子どもによくある短所は以下のように言い換えられます。
- 優柔不断→気遣いができる、周りのことをよく考えてあげられる
- 落ち着きがない→好奇心旺盛、活発、アクティブ
- 自分中心的→自分をしっかりともっている、人に流されない
人間は、どうしても短所ばかりに目が行きやすい生き物です。ですから、「ほめる」ためにはそれを意識して、一見短所と思われる部分を長所に変換してみてください。わが子の違う側面が見えてくるかもしれません。
「ほめられた記憶」が一生の財産になる
「ほめる」ということは、そのときだけではなく、ほめられた側にとって一生にわたる財産になりえます。例えば、小さい頃に先生や親など身近な大人からほめられた記憶を持つ人は多いでしょう。ほめる側にとっては何気ない一言かもしれませんが、ほめられた側にとっては10年20年、あるいは一生残る記憶になります。
「ほめられた記憶」は、自尊心を養うものです。何か苦しいときやくじけそうなときに、「ほめられた記憶」が自我を支える屋台骨になり、頑張ろうという気持ちを支えてくれます。
ほめることは意味が広い。できるところから始めよう
「ほめる」ことにはただ長所を伝えるだけではありません。以下のようなことも「ほめる」行動となります。
- 認める…「〇〇が上手だね」「〇〇できて、素晴らしいね」「〇〇がいいよね」
- 感謝する…「〇〇してくれてありがとう」「とても助かったわ」
- 共感する…「〇〇できて、すごいね!」
- ねぎらう…「〇〇してくれて、ご苦労さま」
- 応援する…「がんばって」「〇〇まで一緒に頑張ろう」
なかでも「ありがとう」は、最上級のほめ言葉です。人間にはただ自分が認められたいのではなく、誰かに貢献し、それに対して感謝されたいという欲求があるからです。
いつも子どもを叱ってばかりでなかなかほめられない、ほめることが照れくさいという人は、感謝したり、ねぎらったりするところから始めてみてはいかがでしょうか。
また、「ほめる」ときには誰かと比較することなく、その子自身の頑張りや成長を認めてあげるようにしましょう。
「ほめ達」になるために
普段子どもに怒ってばかりいると、なかなか「ほめる」行動にうつしづらいという人もいるかもしれません。その背景には、自分に自信が持てない、自分が好きになれないという気持ちがあります。
「ほめ達」になるためには、まずは自分自身を好きになることが重要です。自分自身の価値を認められないと、他人の価値を認めづらいからです。わが子をほめる前に、まずは自分をいいところを書き出するようにしてください。きっと、自分でも気づけなかった長所が見えてくるはずです。
渡辺氏の講演では、さらに自分を受容する方法や、親子関係だけでなく夫婦間や職場での人間関係が円滑にしていく方法、論語を用いた教訓など、ワークを通してお伝えしています。「ほめ達」講座を受講した方からも、「子どもに感謝の気持ちを伝えたら、ぎくしゃくしていた親子関係が緩和された」「ほめることを意識するようになり人間関係が改善された」など多くのポジティブな感想をいただいています。ぜひ、ご一緒に「ほめ達」を目指しましょう!
渡辺洋之 わたなべひろゆき
(一社)日本ほめる達人協会特別認定講師 日本メンタルヘルス協会 心理カウンセラー
教育・子育て関係者
「【聴く】ことは生涯磨き続ける価値のある技術」を信念とし、個々の意識改革を提示する聴話力コンサルタント。金融機関勤務を通じて多くの人々との交流から身に付けた実践的なキャリアに加え、膨大な読書から得た知識・理論を統合させた奥深いセミナーに定評がある。
プランタイトル
「ほめて育てる子どもの力」
家族の笑顔が増える子育て方法
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