ゲーム、スマートフォン、インターネットなど、いつでも簡単にアクセスできる娯楽ツールが増え、子どもの睡眠の乱れが問題視されています。寝不足になることで日中授業に集中できなかったり、精神に支障を来したりと負の影響が大きいため、なんとかしたいと思っている保護者や学校関係者の方々も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は睡眠改善、認知行動療法を学び、一般社団法人日本栄養睡眠改善協会で代表理事を務める村井美月氏が、睡眠リズムの必要性、子どもの健全な成長に欠かせない理想の睡眠時間、時間管理の方法を解説します。
【監修・取材先】
村井美月氏
一般社団法人日本栄養睡眠改善協会 理事長
株式会社ワークスプランニング 代表取締役 睡眠改善インストラクター
年々低下する子どもの平均睡眠時間
子どもの平均睡眠時間は年々低下しています。学研教育総合研究所の『小学生白書 30年史』によると、小学生の睡眠時間は、調査開始した1989年の平均睡眠時間(9時間28分)に比べると、2019年では8時間57分となり、30分ほど減っているということがわかります。
さらに、中学生、高校生の平均睡眠時間においては、ベネッセが調査した第2回「放課後の生活時間調査」(2013年)によると、中学1・2年生では7時間33分、中学3年生は7時間3分、高校生1・2年生では6時間43分と大幅に短くなってきていることが窺えます。
子どもも大人も世界一睡眠時間が短い国「日本」
経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表したデータによると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟30カ国のうち最下位となっています。これは調査対象国平均よりも1時間も少ない時間となっています。9〜18歳を対象とした調査でも日本人の平日の睡眠時間はヨーロッパ諸国と比較すると1〜2時間少ないという報告もあります。
日本人は世界で一番寝ていないのです。しかし、その事実はあまり知られていません。
ブレインスリープが行った「睡眠偏差値 kids 調査2021」によると、「日本の子どもの睡眠時間は世界一短いという事実を知っているか?」という質問に対し、わずか5%の保護者がこの事実の詳細を認知していると答えました。認知度の低さが明るみに出た結果となりました。
子どもの睡眠不足が来す、さまざまな弊害
子どもが睡眠不足になることで来す主な弊害については、以下のようにあらゆるものが挙げられます。
- 注意力、判断力の低下
- メンタル不調
- 肥満や生活習慣病(糖尿病・高血圧)のリスク増
- 成長の遅れ
それぞれ具体的に解説します。
1.注意力、判断力の低下
十分に睡眠時間を取れていない状態では、日中起きている際の脳の反応速度が遅くなり、パフォーマンスにも影響していることが明らかとなっています。
2.メンタル不調
長期に渡り睡眠6時間以内の場合にはうつ病罹患率が高まるという研究報告もあります。
また、日常生活においても睡眠不足が続くとキレやすくなるようです。
3. 肥満や生活習慣病(糖尿病・高血圧)のリスク増
幼児期の短時間睡眠はその後の肥満のリスク因子であるということが報告されており、
幼児期に睡眠時間が短いほど、肥満や生活習慣病の発生率が上昇していたことが明らかとなっています。
4.成長の遅れ
睡眠は体を休めることのほかに、成長における大きな役割を担っています。乳幼児期から思春期にかけて急激に成長しますが、成長ホルモンが多く分泌されるのが睡眠時であるため、睡眠不足の場合は結果的に成長に影響することが懸念されています。
教育現場では不登校や授業中の居眠りが問題に
子どもが日中の大半を過ごす教育現場では、睡眠不足が不登校や授業中の居眠りの原因となっていることがわかっています。
2000年に報告された「小学生・中学生・高校生における生活習慣及び疲労感に関する調査」によると、実際に十分に眠れていないと回答した学生は、中学生で40.4%、高校生では52.5%と半数以上にものぼります。
さらに、日中の眠気により週に1回以上居眠りをする割合は、中学生で42%、高校生では66%と、多くの中高生が日中に強い眠気を感じていることがわかります。
また、睡眠不足は「朝起きられない」「頭痛がする」などといった症状から不登校の引き金になっていることも懸念されており、教育現場でも問題となっています。
年齢別子どもの理想の睡眠時間
アメリカの国立睡眠財団(NSF)による年齢別推奨睡眠時間をもとにした、年齢別子どもの理想の睡眠時間は以下のようになります。また、過去の調査データをもとに、実際の睡眠平均時間との違いを見てみます。
年齢 | 理想の睡眠時間 (中心値) |
実際の睡眠時間 | 理想と実際のギャップ(※1) |
---|---|---|---|
3カ月未満 | 14~17時間 (15時間30分) |
||
4~11カ月 | 12~15時間 (13時間30分) |
11時間40分(※2) | -1時間50分 |
1~2歳 | 11~14時間 (12時間30分) |
-50分 | |
3~5歳 | 10~13時間 (11時間30分) |
3歳 10時間25分 4歳 9時間54分 5歳 9時間38分(※3) |
-1時間5分 -1時間36分 -1時間52分 |
6~13歳 | 9~11時間 (10時間) |
6歳 9時間18分 7歳 9時間 8歳 8時間53分 9歳 8時間37分(※3) 10~12歳 7時間23分(※4) |
-42分 -1時間 -1時間7分 -1時間23分 -2時間37分 |
14~17歳 | 8-10時間 (9時間) |
中学生 7時間23分(※4) 高校生 6時間43分(※4) |
-1時間37分 -2時間17分 |
(※1)理想の睡眠時間の中心値より実際の睡眠平均時間を引いたもの
(※2)データは『Cross-cultural differences in infant and toddler sleep(2010)』 日本の36カ月未満の乳幼児平均睡眠時間に引用
(※3) データはBRAIN SLEEP『睡眠偏差値Kids 2022』より引用
(※4)データはベネッセの第2回『放課後の生活時間調査』(2013年)より引用
理想の睡眠時間は思っているよりも長めだと感じる方もいるかもしれません。
実際に、6〜13歳の理想の睡眠時間が9時間〜11時間であるのに対し、実際の平均睡眠時間は、10歳以上の小学生の場合7時間23分。理想の睡眠時間(中心値)と比べ、2時間37分も足りない結果となっています。
理想の睡眠時間に対して実際の睡眠時間が著しく不足している状況は、乳幼児から高校生全般で見られます。
子どもの睡眠不足とスマホの関係
最近は、低年齢から携帯電話やスマートフォンを持つ子どもの割合が増えてきました。また、親との連絡手段用途にとどまらず、スマートフォンでゲームをしたりインターネットやSNSを利用したりと目的が広がっています。
スマートフォンを長時間使用している子どもは就寝時間が遅くなり、結果的に睡眠時間が短くなる傾向にあるという報告もあります(文部科学省 2015年『睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査』より)。
スマートフォンやパソコン、タブレットから出るブルーライトは脳を覚醒させる影響があり、スマートフォンを寝る前に見る癖がある人は子ども、大人問わずに就寝時間がどんどん後ろ倒しになってしまうのです。
見出し5 :子どもの睡眠不足を改善するためにすべきこと
子どもの睡眠不足を改善するためには、家庭での管理が必要です。主に、夜の過ごし方にルールを設け、寝る時間から逆算して、いつ何をすれば良いのか?を決め、生活リズムを整えることをおすすめしています。
例えば、夕食の時間、お風呂の時間を決めておくだけでも睡眠時間の確保につながります。夕食は寝る3時間前までに、お風呂は寝る1時間前までに済ませることが理想的です。
また、睡眠モードに入ろうとしている脳を覚醒させないために、明かりに注意することが必要です。ブルーライトを発するスマホやPCは寝る1時間前には触らないといったことがポイントになります。
そして、子どもだけに任せるのではなく保護者がタイムキーパーとなって上手く声をかけ、サポートしていくとよいでしょう。
睡眠日誌による改善事例
2015年にNHK『クローズアップ現代』で放送された「不登校12万人のかげで 〜広がる子どもの睡眠障害〜」の回では、睡眠日誌をつけることにより、6人ほどいた不登校児童が0人になったという事例が紹介されました。
睡眠日誌とは、何時に寝て、何時に起きたか、何時間寝たのか、どんな寝入り・目覚めであったのかを日々細かく記録することで、自分や子どもの“眠りの質を見える化”し、睡眠リズムの乱れを改善につなげることを目的としています。
大阪府堺市の小中学校では、2015年度より、睡眠日誌や朝食の記録をとったり、月1回21時までの就寝を目指す「はよねるデー」を設けたりするなどの睡眠教育、通称「みんいく」に取り組んでいます。実際にこのプロジェクトを始めてからというもの、ある中学校の不登校者数が5年で半数以上減ったという嬉しい報告もあったそうです。
子どもたちの健全な成長のために
村井氏の活動においても、こうした睡眠日誌をおすすめしています。実際に、これまで睡眠障害の相談に来られた6〜7割の方が、睡眠日誌をつけるようになり、症状が改善したそうです。
このような経験から村井氏の講演では、睡眠日誌の効果的なつけ方や改善のポイントを、実例を挙げながら解説しています。
また、「なぜ子どもがスッキリと起きられないのか」といった理由についても睡眠リズムのメカニズムをわかりやすく解説し、スッキリ目覚めるためのコツをお教えしています。さらに、脳を活性化させる食生活や適切な睡眠維持の方法などについてもお伝えしています。
学力アップを狙う受験学年をお持ちの保護者の方、また専門性の高い高校、専門学校、短大、大学における資格取得を目指す学校においても学校全体で“睡眠リズムを整える”ことは必須条件といえるでしょう。
子どもの睡眠リズム、睡眠時間についてお困りの保護者の方、また不登校や学力低下にお悩みの教育関係者の方々においては、この機会に睡眠について改めて学び、子どもたちの生活改善への第一歩を一緒に踏み出してみませんか?
村井美月 むらいみづき
一般社団法人日本栄養睡眠改善協会 理事長 株式会社ワークスプランニング 代表取締役 睡眠改善インストラクター
医療・福祉関係者教育・子育て関係者コンサルタント
睡眠改善、認知行動療法を学び、それらをタイアップさせた食生活改善を研究、提唱を行う。また、生活・睡眠リズム改善をテーマに各地で講演を行い、企業向けの「テレワーク時代の働き方」「生産性の向上」、教職員・保護者向けの「子どもの成長に必要な睡眠リズムを保つ方法」など、睡眠の重要性を説く。
プランタイトル
「スマホが学力を低下させる!
子どもの成長に必要な睡眠リズムを保つ方法
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