新聞やテレビでは、連日伝えられている児童虐待事件のニュース。胸が締め付けられる痛ましいこのような児童虐待は、実際に毎年増え続けている現実があります。自分の子ども、地域に住む子どもたちを守るために、親や教職員、地域市民は何ができるのでしょうか?
本記事では虐待を受けた当事者であり、現在は児童虐待防止の活動に取り組む、一般財団法人児童虐待防止機構オレンジ CAPO 理事長の島田妙子氏に、虐待の現状と対応策をお聞きしました。虐待を受けた子ども、親の立場での心の動きと、保護者や学校、地域ができる虐待防止策について詳しく解説していただきます。
【監修・取材先】
島田妙子氏
一般財団法人児童虐待防止機構オレンジ CAPO 理事長
株式会社イージェット 代表取締役会長
兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザー
増加し続ける児童虐待発生数
「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」によると、2021年の虐待相談対応件数は207,659(速報値)件と過去最高となりました。その内訳は心理的虐待の割合(60.1%)が最も多く、次いで身体的虐待(23.7%)が、ネグレクト(15.1%)あげられています。
心理的虐待とは、大声でのどなりつけや脅し、無視や拒否する態度、兄弟間での極端な差別的扱いなどがあげられます。
身体的虐待とは、たたく、殴る、蹴るなどの暴力、戸外に締め出すことなどがあげられます。
2020年4月1日から2021年年3月31日までの1年間に47件の虐待による死亡事故(心中を除く)が起き、死亡した子どもの65%が0歳児です。その内訳は、①ネグレクト(44.9%) ②身体的虐待(42.9%) ③頭部外傷(20.6%)で、その加害者の6割が母親ということがわかっています。
なぜ虐待は起きてしまうのか
虐待が起きてしまう原因は一体何なのでしょうか。
子どもへの虐待が起こる背景は、一つの原因ではなくいくつかの要因が複雑に絡み合っている場合が多いようです。身体的、精神的、社会的、経済的などの複数の要因があり、生じていることが多いと考えられています。
また、虐待を受けた子どもの心は情緒不安定、感情コントロールの不調や強い攻撃性、自己肯定感の低さや愛着障害を持つ傾向があると言われています。暴言にさらされた人、体罰を受けた人の脳は、コミュニケーションや言語に関わる脳の領域やものごとの判断をしたり考えたりする脳の領域が萎縮してしまい一生元に戻りません。
虐待は子どもの心身に大きな傷跡を残してしまいます。
また、虐待をした親も過去に虐待を受けているケースが多く、このような虐待の連鎖も問題となっています。また、親自身も虐待することで、罪悪感に苛まれ、自己嫌悪感を抱き、さらにそれが虐待を引き起こしてしまう、こうした悪循環につながっているのです。
児童虐待を防止するためにできること
親や教員、地域市民が児童虐待を防止するためにできることはどのようなことがあるのでしょうか。
①親ができること
児童虐待は親の孤立感や自己否定が原因で起こる場合が多いと言われています。そのため、育児ではみんな同じような悩みを抱えており、自分一人だけが悩んでいるわけではないということを知ることが大切です。
また、さまざまな要因が絡み合う背景があることから、日頃からストレスを溜めないように工夫することも1つです。保育所の一時預かりなどを利用して、うまくリフレッシュをしましょう。
さらに、どうしても自身が辛い、しんどいと感じた時には周りに相談してください。相談相手がいない場合は、電話相談を利用しましょう。
☎ 児童相談所相談専用ダイヤル「0120-189-783(いちはやく・おなやみを)」
そして、毎日一つでもいいので自分の良いところを褒めてあげ、自己肯定感を高める取り組みも効果的です。
【アンガーマネジメントの考え方】
怒りをコントロールできると、虐待を減らすことが可能です。アンガーマネジメントの考え方を取り入れましょう。
虐待する際はアドレナリンが発生している状態です。アドレナリンが分泌されて体中の細胞に廻り、消滅するまでの時間は長くても6秒と言われています。暴力や暴言はこの6秒間に行われることが多いのです。
反対にこの6秒間をやり過ごすことができれば、暴力や暴言の回数は減らせます。
アドレナリンが出る回数が多くなってくるとそのまま感情のクセとなってしまい、頻繁にイライラするようになってしまいます。アドレナリンが出る回数が少なくなると、自然に穏やかになっていくのです。
この6秒をやり過ごす方法として島田氏がおすすめしているのが鼻呼吸です。6秒間数えながら鼻呼吸をすることで酸素を体内の細胞に送り込まれ、イライラも鎮まります。
②教職員、地域の人々ができること
地域の民生委員や子どもたちに関わっている保育士、園長、教員などは、虐待の疑いがある親に対して、子育てで困っていることがないかを聞き取りできるかが重要なポイントとなります。
「誰でもイライラして誰かに当たってしまうことはある」ということを前提にし、困っていることを話してもらえるかが重要です。
また、明らかに虐待しているのに、認めない、しつけだと言い張るなどの行動がある場合は毅然とした態度で「虐待にあたる行為だ」と伝えることも重要です。
親へアプローチをする際は虐待していると認識している方とそうでない方によって対応が変わってきます。
認識している親に対しては、共感を示しその上でこれからどうしていきたいかを確認したり、アンガーマネジメント等のトレーニングを実践してもらうことがあげられます。
そして、どうしても子育てに困っている場合は一時的にでも里親や養護施設などで子どもと離れさせてあげることも大切です。そして、それは決して悪いことではないと知ってもらうことも必要です。
一方、認識していない親に対しては、はっきりと「それは虐待行為にあたる」ということを伝えるようにしましょう。それでも認めない場合は、一旦子どもたちを避難させることをためらわないことも肝心です。ここでは「これ以上虐待が認められる場合、子どもは返さない」という毅然とした態度で望むとよいでしょう。
そして、虐待されている恐れのある子どもへのアプローチとしては、「親を救ってあげよう」などの思いが伝わると本心や事実を教えてくれることが多いです。
親のことを悪く言うことや、「言わないから教えて」といった態度はNGです。子供にとってあなた自身が安全で安心な人物であるかが重要となります。
虐待の連鎖を断ち切るために
虐待は体だけではなく心も傷つけてしまう行為です。被害者は一生その傷に耐え、また、加害者は罪悪感を背負って生きていかなくてはなりません。虐待の連鎖を断ち切るためには、まずは親、教職員、地域の大人たちが協力し合い、子どもを優先に考える態度と体制が必要です。
島田氏の講演では、アンガーマネジメント手法に加えて、虐待を受けて不必要な罪悪感を抱える子どもたちのための罪悪感解消プログラム、脳美学の内容を盛り込み、家庭・学校・地域の三位一体となった虐待防止対策についてお話ししています。すぐに実践できる内容もあるため興味のある方は、ぜひ一度ご参加いただけると嬉しいです。
島田妙子 しまだたえこ
一般財団法人児童虐待防止機構オレンジ CAPO 理事長
株式会社イージェット 代表取締役会長
兵庫県児童虐待等対応専門アドバイザー
教育・子育て関係者
自らが虐待によって親に殺されかかった経験から、「児童虐待の予防」「大人の心を助ける」の活動を行っている。いじめ、DV、自殺、パワハラ等、人にもモノにも、そして自分にもあたらない社会を目指して活動中。著書に『本当は怒りたくないお母さんのためのアンガーマネジメント 』(致知出版社 2020年)など。
プランタイトル
子ども達の笑顔を守るために私たちができること
~みんな誰かの大切な人 虐待の淵を生き抜いて~
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