高齢者を中心に拡大している悪徳商法。自分や周りの大切な家族が被害に遭わないために、近年の悪徳商法の被害状況と最新の手口、注意すべきことや、だまされたかなと思った際にすべきことを、元生活経済事件担当刑事で一般社団法人日本刑事技術協会理事の森 雅人氏に教えていただきました。
【監修・取材先】
森 雅人氏
一般社団法人 日本刑事技術協会 理事
悪徳商法とは?
悪徳商法とは、一般消費者に対して組織的・反復的に行われる商取引で、その商法に違法または不当な手段・方法が組み込まれたものを言います。その手口はさまざまで、どれも実に巧妙です。
例えば、以下のような手口があります。
- 点検商法
「点検に来た」などの口実で家庭を訪問し、「雨漏りがする」「シロアリが発生している」などの嘘を言い、今すぐ修理・対策をしなければと不安をあおり高額な工事契約を結ぼうとする。 - 預かり金商法
「元本を保証する」「銀行預金の何倍も利率がいい」などと言い、大金を預かろうとする。そのうち連絡が取れなくなり、元本どころか1円も回収できなくなるといったケースが多い。 - マルチ商法
商品を販売しながら、会員を勧誘すると自分にリベートが得られるなどとして会員を増やし、さらに商品を販売していく。「誰でも」「簡単に」などの甘い言葉を使って誘導する手口が多い。 - 催眠商法(SF商法)
「日用品を無料で配る」などと宣伝して店舗や会場へと誘い、最終的には高額商品を契約させる。布団や健康器具などを売りつける手口が多い。 - 内職商法
「自宅で簡単に」「自宅で短時間で可能」「誰でも高収入」などの誘い文句で希望者を募り、仕事に必要だという理由で高額な機材や教材を購入させたり、開業保証金を支払わせたりする。実際は仕事がなく収入が得られない、効率が上がらず大した収入にならないといったケースが多い。 - アポイントメント商法
電話で、販売目的を隠した上で「あなたが当選者です」「会ってお話がしたい」といった誘い文句でアポイントをとり、喫茶店や事務所などで強引に契約を結ばせようとする。異性が親しげに話しかけてくる手口が多く、若い人が被害に遭いやすい。
増加する財産事案の被害
消費者庁に通知された消費者事故のうち、財産事案の件数推移として以下のようなデータがあります。
(備考) 消費者安全法の規定に基づき、消費者庁に通知された消費者事故等のうち、財産事案の件数。
※出典:消費者庁公式サイト
2017年と比べると消費者事故件数は132%増加しています。
さらに、消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の件数は、近年減少傾向にはありますが、2021年の1人当たりの被害額の内訳は「平均契約購入金額」が79.5万円、実際に支払った金額である「平均既支払額」が34.3万円と、前年と比べ増加しています。
また、消費生活相談の契約当事者を年齢別に見ると65歳以上が全体の29.7%で、男性よりも女性が多いことがわかります。
【消費生活相談の契約当事者の属性(2021年)】
出典:消費者庁公式サイト
消費者庁によると、2021年度の被害の内訳は、多い順に見ると「商品一般」「不動産貸借」「工事・建築」「インターネット接続回線」「その他健康食品」などがあります。また、近年では新型コロナウイルス関連の「保健衛生品」や「保健・福祉」の相談件数の増加傾向も見受けられます。
最新の悪徳商法の手口
消費庁や消費者センターに寄せられた苦情や過去の事例から、これらの悪徳商法の手口について見ていきましょう。
例えば、新型コロナに便乗した悪徳商法には、以下のような手口が挙げられます。
- 一方的にマスクなどの商品を送りつけ、その代金を請求する
- 新型コロナに対する新たなワクチン開発への投資を勧誘する
その他、災害に便乗した悪徳商法の手口としては、
- 「屋根が壊れているから危険」などと不安をあおり、すぐに修理しなければと勝手に工事を行い、後ほど高額な料金を請求する
- 工事代金を先に支払わせ、ブルーシートで応急処置のみを行い、「正規の工事は後日行う」と言ったきり、以降連絡が取れなくなる
その他、市役所やボランティアを名乗って寄付金や義援金を募る内容の電話をかけるといった手口もあります。
また、インターネットやSNS上でのトラブルも相次いでいます。
例えば、通信販売のwebサイトを装った偽サイトで消費者を誘い込んで商品を注文させ、代金が支払われているのに商品は送らないといった悪徳商法が近年増えています。
SNSの広告がきっかけとなるトラブルも多発しており、「大手デパートの閉店セール」という広告からブランドバッグを注文したが詐欺サイトだった、SNSで知り合った相手からアイドルグループのコンサートチケットを売ると言われて代金決済した後に連絡が取れなくなったという事例や、海外のFX取引を進められ合計100万円以上支払ったがだまされていたなど、個人間取引でのトラブル相談もあります。
悪徳商法犯人のだましのテクニック
横行している悪質商法にだまされないためにも、これらのだましのテクニックについて知っておきましょう。
「無料で点検します」は悪質商法のワード
無料点検と称して屋根や床下、消火器、浄水器、排水管などの点検後に「このままだと大変なことになる」「急いで修理が必要」などと不安をあおり、器具の有料交換や長期リース、高額な工事を契約させる手口が増えています。
最近では「以前販売した器具の無料点検」と、良心的なアフターサービスを装い家に上がり込むケースも多くなっています。
「区役所から頼まれて来た」などと公的機関からの委託を装った説明にも注意が必要です。
また、台風や地震などの災害発生地域では、発災後の混乱に乗じ、この手の悪質業者が現れることもあります。
犯人は一人とは限らない。「劇場型詐欺」に要注意!
詐欺の中でも、騙す側の登場人物が多い「劇場型」と呼ばれる勧誘方法が、近年目立っています。複数の架空事業者などから次々と連絡があり、消費者を信用・混乱させた上で未公開株などの購入をあおる「投資詐欺」「出資詐欺」も発生しています。
だまされないためにすべきこと
私たちがこうした悪質詐欺にだまされないためにためには、どのようなことに気をつけておくといいのでしょうか。
【だまされないために心がけること】
- きっぱり断る
- 玄関ドアを安易に開けない
- 個人情報を安易に教えない
- その場ですぐに決めない。サインをしない
- 契約書にサインする前に、必ず信頼できる誰かに相談する
- 良好なご近所付き合いで「周囲の気づき」を醸成する
- 悪徳業者のマーキングに注意する
突然電話がかかってきてやわらかい言葉で勧誘されても、キッパリと断りましょう。
自宅に突然の訪問があった場合も、玄関は開けないでください。電話やインターホン越しでも、生年月日やカード情報、暗証番号などの個人情報に関わる内容を教えてはいけません。
また、相手から契約にまつわる話をされた場合には、すぐに決めないことです。その場で契約書にサインしてはいけません。サインをする前に必ず身内や信頼できる人に相談をしましょう。
さらに、普段からご近所付き合いを深めておくことも大切です。何かあった際に、すぐ異変に気づける関係性を築いておきましょう。
悪質業者は普段から家の訪問をしたり様子を伺ったりして、カモとなりそうな人がいる家の表札やガスメーター、インターホンなどに印をつける「マーキング」をしている場合もあります。
マーキングは「◎」「○」「☆」「△」などの記号が書かれていたり、色付きの丸シールが貼ってあることが多いです。業者によって表す意味は異なりますが、こまめにチェックし、身に覚えのないマーキングがあれば消すようにしましょう。
マーキングされていた際は、消すことはもちろん、訪問会社に通告するために、防犯カメラとインターホンカメラで証拠をつかんでおきましょう。
空き巣が参考にするような内容のマーキングもありますから、マーキングを見つけたら、鍵の交換や窓の防犯を厳重にするなど、追加対策も検討しましょう。
だまされたかな? と思ったときにすべきこと
万が一、だまされたと思った際はそのままにせず、以下の手順で冷静に対応しましょう。
クーリング・オフ制度を活用する
クーリング・オフ制度は、訪問販売や電話勧誘販売、内職商法などの業務提供誘引販売取引で結んでしまった契約を、法律で決められた期間内に無条件で解約できる制度です。訪問販売は8日間、業務提供誘引販売取引は20日間と販売方法により期間は異なります(条件によってはクーリング・オフできない場合もあります)。インターネット購入などの通信販売にはこの制度を利用できないため、ネット購入時は返品条件等をあらかじめ確認しましょう。
いざという時にすぐに活用できるよう、制度についての知識を持っておきましょう。
警察に相談する
警察に相談する際の最大のポイントは、いかに多くの証拠が提出できるかどうかです。契約時の書面はもちろん、契約した日時、場所、相手の名前や特徴、渡された名刺、勧誘時の言葉などをできるだけ細かく思い出して、メモに書き出してから相談しましょう。
警察は、契約書の不備や勧誘文言などを総合的に勘案して事件化の判断をします。事件化されたら、その後の証拠収集は警察の仕事ですが、事件化に必要な証拠を集めるのは当事者になるため、証拠となるものをできるだけ集めておきましょう。
消費ホットライン「188」に通報する
消費者ホットラインの「188」は、最寄りの消費生活センターなどを案内する全国共通の電話番号です。消費生活の中でトラブルや困ったことについて相談したい場合は、この消費者ホットライン「188(いやや!)」を利用してください。
最寄りの消費生活センターや消費生活相談窓口を案内し、消費生活相談のはじめの一歩をお手伝いしてくれます。
自身や周りがだまされないためにも常に異変を察知できるアンテナを
新型コロナや災害など、大変な境遇を利用してだましたり、インターネットやSNSを介してうまい言葉で言いくるめたりと、今さまざまな悪質商法の手口が横行しています。
私たちが詐欺や悪徳商法の被害に遭わないために、まずはこれらの手口を知っておくこと、また、これら悪質商法に対して心がけるべきこと、もしもだまされたときにすべきことを知っておく必要があります。
森氏の講演ではさらに、だまされないための会話術、自分の家族や親戚がだまされていると思ったときの対処法、警察や行政を賢く活用する方法などを具体的に解説し、注意喚起をおこなってまいります。興味がある方はぜひお気軽にご参加ください。
森 雅人 もりまさと
一般社団法人 日本刑事技術協会 理事
コンサルタント
警察の元警部補。サイバー犯罪、経済犯罪、薬物銃器犯罪等を扱う生活安全部門の刑事を約15年担当。警察で経験した事例を交えながら、高齢者向け「悪質商法の対処法」、経営者向け「炎上・風評被害対策」、学生・児童向け「SNSの正しい使い方」など、対象者に応じた幅広いテーマで講演。
プランタイトル
元生活経済事件担当刑事が教える
悪質商法に騙されない方法
~築き上げた財産を自分で守る!!~
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