私たちチームが担当させていただいている市民向けの講演では、より多くの方々が聴講できるようにと、手話通訳や要約筆記をつける案件が多くあります。通常のリアル開催では、何度もこのような事例を扱ってきましたが、今回初めてオンラインで手話通訳・要約筆記をつけるという取り組みをしました。
手話通訳・要約筆記をつけるまでの流れ、開催状況についてレポートします。
自治体・医療福祉・公的団体・学校・PTA・教育委員会チーム
講師 : 船見敏子 氏
主催者 : C行政団体 様
開催日時 : 2021年8月下旬
講演時間 : 90分
聴講者人数: 50人
講演タイプ: C. 講師から個別視聴者へ生配信
配信ツール: Zoomミーティング
「官公庁向け講師ガイドブック」からのお問い合わせ
私たち官公庁チームは、毎年春頃、おすすめの講師陣をジャンル別に紹介した「講師ガイドブック」を作成し、過去に弊社をご利用いただいた主催者様にお送りしてします。本年度の冊子は、講師紹介ページの他に、オンライン講演のやり方、オンラインでの手話通訳・要約筆記のつけ方を解説した記事などが掲載されてあります。
本案件は、その冊子をお送りした時期にメールでお問い合わせがありました。ちょうどその時期は主催されるC行政団体様の地域でも緊急事態宣言が出ていたため当初からオンライン開催で、かつ手話通訳・要約筆記もつけたいとのことでした。
「講師ガイドブック」にあるオンライン講演で手話通訳・要約筆記をつける記事を掲載するにあたり、実は以前に「オンライン講演で手話通訳・要約筆記をつけることはできないか」というご相談がありました。それに合わせて、チーム内でオンライン講座で手話通訳・要約筆記をつけるにはどうしたらよいかインターネットでリサーチをして記事化し、ホームページで公開しました。
➡詳しくは「オンライン講演もバリアフリーに ①手話通訳・要約筆記をつける方法 」
ノウハウは理解しているものの、実際に開催するのは今回が初の試みです。当主催者様も本記事をご一読されたようですが、「手順はなんとなく理解できたが、実際にやってみないとわからない」といった印象でした。そのため、弊社が運営サポートに入ることになりました。
開催の手順とリアルorオンラインでの準備の違い
講演で手話通訳・要約筆記をつける場合、リアルとオンライン開催では、人員の配置図と準備するものが大きく異なります。次の章で詳しく解説します。
当日の配置図
リアルの場合は、講師の演台の横に手話通訳用の立ち位置と要約筆記用のスクリーンを設置します。要約筆記はステージ横に待機して、要約筆記用のパソコンとスクリーンをつないで、2~3人で交替しながら要約筆記を行います。手話通訳スペースでは、2~3人の手話通訳者が待機し、20分ごとに交替して、通訳を行います。
こちらがオンラインの場合、以下の配置図が考えられます。
- 講師と手話通訳者、要約筆記者、主催者(ホスト)が一か所の会場に集まり、リアル開催のようなレイアウトで、会場からオンライン上の聴講者に中継する。
- 講師、手話通訳者、要約筆記者、主催者(ホスト)は各自別の場所からオンライン上でつないで操作し、他の場所にいる各聴講者に中継する。
本案件では、緊急事態宣言中ということで感染対策を徹底させるため2の方法が選択されました。
配置図のイメージは以下の通りです。
弊社がホストに入ることになったため、主催者様や手話通訳者、要約筆記者、講師は共同ホストとして設定。弊社(ホスト)は大阪、講師は東京、主催者様や手話通訳者、要約筆記者はC市庁舎からそれぞれ個別の部屋からの参加となります。共同ホストや聴講者を大阪の弊社担当者がホストとなって束ねるというイメージです。
場所・機材の手配
リアル開催の場合、参加人数に応じて会場とスクリーンやマイク、スピーカーなど必要な機材の手配を行います。
これがオンラインの場合だと、配信場所の手配に加え、最低でもカメラ・マイク付きPC、インターネット回線の準備が必要です。
配信場所について、今回は講師の自宅、主催者様や手話通訳者、要約筆記者はC市庁舎会議室、ホストである弊社は大阪本社から実施することにしました。
配信に必要なツールは、Zoomミーティング。こちらはホストとなる弊社が準備し、他の関係者の皆様には、マイク・カメラ付きPC、安定したインターネット回線をご用意いただくようお伝えしました。また、当日インターネット回線の接続不良を回避するために、インターネットをPCにつなぐ場合は無線LANではなく有線LANで接続するようにお願いしました。弊社ではオンライン講演用のスタジオを開設している関係で、インターネット速度が500mbps以上あり、C市庁舎でもそれ相当のインターネットが併設されているとのことで、リハーサルや当日に接続不良が起きることはありませんでした。
場所と機材の面だけで考えると、実はリアルよりオンラインの方が手間や費用がかからないといったメリットもあります。今回、大きなホールや機材を借りる必要がなかったため、実質場所代はゼロ。機材は既存のPCとインターネットを使ったため、機材の手配も費用も不要です。オンライン講演は、主催者様のご負担をかなり軽減することができます。
要約筆記用ツールの手配
要約筆記では、通常「IPtalk」など言語入力ツールが使って、スクリーンに表示させます。これをZoomの画面に表示させようとした場合、参加者の顔が表示されるビデオ画面に、仮想カメラツールである「OBS(Open Broadcaster Software)Studio」を使って要約筆記の文字画面を表示させるというやり方があります。要約筆記者のPCにOBS Studioをインストールして、IPtalkを起動、Zoomのリンクさせるやり方ですが、少し方法が複雑です。
これについて、最初のリハーサルで要約筆記者のPCにOBS Studioがインストールされていなかったため、2回目のリハーサルを実施して、動作を確認しました。第2回目のリハーサルでは、主催者様と要約筆記者と手話通訳の方、弊社で実施しました。動作確認ではトラブルも起こらずに、スムーズに画面を表示することができました。
➡詳しくは全国要約筆記問題研究会のサイトの「Zoomで要約筆記」をご参照ください。
3者の画面のみを映し出すためZoomのスポットライト機能を使用
講師、手話通訳、要約筆記の3画面だけを、聴講者の画面に表示させるため、Zoomのスポットライト機能を使用しました。こちらの操作は、ホストである弊社が行い、リハーサルでも講師、手話通訳、要約筆記の3画面を固定させて、他のPCではどのように見えているかを確認しました。
スポットライト機能を使えば、投影資料用の共有画面の横に、講師、手話通訳、要約筆記の3画面が同じ大きさで表示されます。要約筆記の文字はかなり大きかったので、見やすかったと思います。
聴講者の理解度が高かった講演
今回の講演テーマは、「コロナストレスに負けない!セルフメンテナンス術」ということで、公認心理師、産業カウンセラーの資格をもつ船見敏子さんが、ストレスの見分け方、ストレスのケアの方法、ストレスからの身の守り方を解説されました。
「ストレスの症状は脳が疲れている状態。スマートフォンでたとえるとエネルギーをかなり消費している状態。充電、つまりよく寝て体を休ませることでエネルギーが回復される。鬱はバッテリー切れの状態。それを回避するために、自分の疲労状態を知り、ストレスをケアしていくことが必要」と、人のストレス状態をスマートフォンにたとえながら、投影資料を使ってわかりやすく説明されました。
また、ストレスから身を守る状態として、脳に良いとされる食材の摂取、快眠の方法、軽い運動、ストレス解消(休養)の方法を具体的に教えてくださいました。
その中で最も印象深かったのが、自己ケアの方法として紹介された「ハピネス日記」の話です。自己肯定感の少ない人ほどストレスを抱えやすいため、自己肯定感をアップするために毎日一言「自分ががんばったこと」「良かったこと」をノートに書き出し、それを3ヶ月続けるといったものでした。
船見さんのセラピーに通っていたクライアントで、自己肯定感の低い男性がいたそうです。船見さんがその男性を褒めると、「自分なんて…」と常に自分を認めない。そのため、このハピネス日記を3ヶ月続けるように提案されました。その男性は3ヶ月間、毎日「ハピネス日記」を続けました。その後、この男性に劇的な変化が訪れます。船見さんの褒め言葉を素直に認めるようになったそうです。
このハピネス日記は日常生活にすぐに採り入れられそうなので、実際にやってみようかと思いました。
講演後で主催者様が行ったアンケートによると、「よく理解できた」が6割近く「まぁまぁ理解できた」が4割近く。「あまり理解できなかった」「理解できなかった」は実にゼロで、その理解度の高さが伺えます。アンケートの感想も以下の通り、ポジティブなものが多く見受けられました。
「コロナの感染対策でストレスを抱えることが多く、今回の講演で冷静に自分を見つめ直すことができた」
「ハピネス日記はとても参考になりました。すぐに実践したいです」
今回の内容が、長引く緊急事態宣言で皆が疲弊し、テーマがタイムリーでったこと、また船見さんのわかりやすい解説とやさしさ溢れる人柄に多くの方からご共感いただきました。おおむね成功したケースして評価できるのではないかと思います。
手話通訳・要約筆記の重要性
今回の講演では、実際に聴覚障がいのある聴講者もいらっしゃり、その方から「今回は手話通訳だけではなく、要約筆記もあり、とても助かりました」との感想もいただきました。
手話通訳で見逃してしまった情報も、要約筆記があることで、講演で話されていることを文字で追うことができます。どちらかが一つではなく、両方あることで、より聴覚障がい者の方々の理解度を高めることができるのです。
オンライン講演が増加する中、今後、このように障がいだけではなく、言語や年齢などの多様性に合わせた考慮が必要となってくるでしょう。全ての方々が講演を楽しくしっかりとご理解できるように、引き続きサポートに努めてまいります。
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