研修を実施するとき、特に何も考えずにこれまでの資料をそのまま使いまわしていないでしょうか? 研修を成功させるためには、資料の作り方も重要なポイントです。
今回は、受講者に内容が伝わりやすい研修資料の作り方について解説します。
受講者に伝わる研修資料 完成までの7ステップ
研修資料は、実際に作成する前の企画や構成こそ大切です。以下の7つの手順にしたがって作成しましょう。
Step.1 研修の目的を明確にし、目標を設定する
まずは「何のために研修を行うのか」という目的を明確にし、そのうえで「受講者にはどのような知識やスキルを身に付けて、どのような行動が取れる人になってほしいか」という目標を設定しましょう。
これ以降もここで定めたゴールを常に意識することで、効果の高い資料が作成できます。また目標が明確になっていれば、得られた効果の測定がしやすくなるのもポイントです。
Step.2 資料を使う研修対象者を把握する
次に、「この資料を使うのはどんな人なのか」を考えます。
例えば、新入社員対象であれば、やや砕けた表現や画像も入れて親しみやすい印象を与える、管理職対象であれば控えめな装飾と丁寧な表現を意識する、などです。使う人の目線に立って、分かりやすい内容を心がけます。
Step.3 研修企画に基づいた資料を構成する
そしていきなり本文を書き出すのではなく、まず構成案を作成しましょう。
研修全体の流れやを落とし込んだアウトラインがあれば、作成していく過程で筋道が逸れたり、論理が破綻する心配もありません。
Step.4 構成にしたがって中身を作成する
次はいよいよ各ページの作成です。構成案に従って、各スライドの要点を根拠や事例などの補足情報で肉付けしていきます。また、読み手が視覚的に理解しやすいように、図表やグラフも適宜挿入します。
Step.5 推敲やレビューを行う
資料が完成したら、必要な部数を印刷する前に必ず内容のチェックを行いましょう。誤字脱字はもちろん、不要な部分がないかも精査します。
実際に印刷した資料を声に出して読んでみたり、同僚など社内の第三者に再確認(レビュー)したりしてもらうと精度が上がります。
Step.6 資料を配布・共有して研修を実施する
必要部数を印刷した資料は、さらに配布するグループごとに分けておけば、当日スムーズに受講者の手元に届けられます。
また、資料を映し出す機器に不備がないかもチェックします。
Step.7 研修終了後に効果を測定し、次回に活かす
研修終了後は、効果測定も忘れずに実施しましょう。テストやアンケートを通じて受講者がどれだけ目標を達成できたかをしっかり把握し、研修自体への改善要望も収集します。
資料の評価についても、アンケート項目に盛り込んでおきましょう。
パワーポイント資料を作成する際に気を付けたいポイント
研修のパワポ資料を作成するときに心がけておきたい4つのポイントを紹介します。
パワーポイントは「1スライド1メッセージ」
パワーポイントで資料を作成する場合は、「1スライド1メッセージ」が原則です。
伝えたいメッセージの全体像を、一度それを構成するそれぞれの要素に分解していきます。そして「1つの要素に対し1つのスライドを割り当てて作成する」ことで、全体の流れも読み手に伝わりやすくなります。
スライド内で補足する情報はできるだけ図やグラフで視覚的に表すようにし、テキストは主題となる文章のみに絞るのが効果的です。
ベースカラーは3色
資料内で使用する色を3つ程度に収めると、読み手に情報が伝わりやすいデザインに仕上がります。
全体のテーマとなる色が1つ、通常のテキストの色が1つ、そして特に強調したい部分に使用する色が1つで合計3色になります。資料の背景を白などにする場合はもう1色加えて、多くても4色が目安です。
最後は研修内容の総括スライド
スライドの最後は全体の総括で締めくくると、受講者の頭の中で研修の要点が整理されて理解が深まります。
また、研修で学んだことを明日からの業務でどう活かすか想定させるようなメッセージを入れるのも効果的です。
余白を活用する
研修の資料を作成するときは、余白も効果的に使いましょう。1つの内容が終わったあとには十分に余白をとるといった工夫をすれば、リズムが生まれて読みやすくなります。また余白部分は受講者がメモをとるときにも活用できて便利です。
研修資料を配布・公開する前に必ず見直すべき8つのポイント
研修資料は最後の見直しが大切です。分かりやすい資料にするためには、以下の8つのポイントをチェックしましょう。
① 情報を詰め込みすぎていないか
資料作成で特に気をつけたいのが、情報過多になってしまうことです。見るからに理解に時間がかかりそうな資料は、そもそも相手の読む気を失ってしまいかねません。
あれもこれも説明したいからといって、結論に至る長い背景や発生確率の低い例外事項などまで付け加えると、スライドや文字数がどんどん増えていきます。
「伝えなければならないこと」よりも、「心の底から伝えたいこと」を自問して厳選すると良いでしょう。
② 文章が長すぎないか
文章が長すぎることも、分かりにくい資料の特徴の1つです。
文字は集中して読み込まないと理解できません。研修の最中に資料の文章を理解するのに気をとられていると、肝心の講師の説明を聞き逃してしまう可能性があります。
重複や冗長な表現を避け、テキスト量は必要最小限に抑えることが重要です。
③ 不適切な言葉づかいや表現がないか
用語や文法の間違い、不適切な表現に気をつけなくてはなりません。特に名前や数字を誤ったまま発表すると、企業としての信頼度を下げてしまいます。
誤字の原因は主に、打ち間違い、変換ミス、思い違いの3つです。原因を突き止めて再発防止を徹底しましょう。
また研修資料の作成担当者が、見本欄などにジョークのつもりで不適切な言葉を使ったことがニュースとなり、処分対象となった事例があります。第三者のチェックを受けるのは、そうした過失の防止にも効果的です。
④ 図表に誤りがないか
ビジネスコミュニケーションにおいて、資料の中の図表は、テキスト以上に価値があります。具体的な数値やその推移・比較、要素同士の関係性などを分かりやすく伝えられるためです。データに誤りがあれば、資料全体、ひいては研修の信頼性も損なうことになるでしょう。
また、要旨を伝えるのに最適な図表を選んでいるでしょうか。グラフの種類ごとの特性や、チャートのバリエーションなどを把握して使い分けてあるのが、良い資料の特徴です。
⑤ 配色センスは悪くないか
研修資料の配色には「美しさ」ではなく「伝わりやすさ」が求められます。
彩度や明度が高い色は目への刺激が強すぎます。色を多用した資料は、見づらい上にどの部分が重要なのかが分かりません。
さらに印刷と投影とで、見え方に差がある点にも注意してください。
⑥ フォントのサイズや種類は適正か
配色同様、フォントも「視認しやすいさ」が肝要です。
Windowsの場合、フォントの種類は可読性の高い「メイリオ」か「游ゴシック」がおすすめです。またフォントサイズは、見る環境によって適切な大きさが異なります。それぞれのシーンで見やすいフォントサイズは以下のとおりです。
- 画面共有 10~12pt
- 印刷 10~12pt
- スクリーン投影 14~18pt
⑦ 一方的に読み上げるため資料になっていないか
講師が手元の資料を一字一句そのまま読み上げるような研修では、受講者の意欲を引き出すことはできません。
講師が受講者からの質問や意見に答えるポイントを作るなど、資料作成の段階から双方向のやり取りを意識しましょう。
⑧ 著作権のある素材の使い方を誤っていないか
インターネット上で見つけた画像の無断転載にも注意しましょう。写真やイラストには著作権があり、原則として使用には著作権者の許可が必要です。
2021年には、大分県の研究員が広報誌に載せた魚の写真が、写真家のホームページからの無断使用だったとして賠償金を支払った事例がありました。
フリー素材と謳っている場合でも、利用規約を全文読み込んでから判断してください。また新聞や雑誌の記事にも著作権が発生するため、転用には注意が必要です。
満足度の高い研修資料に仕上げる5つのコツ
研修資料は、ちょっとしたコツで受講者に分かりやすく作成することができます。受講者の満足度を高めるポイントは以下の5つです。
1.情報は厳選する
まず資料に記載する情報を厳選しましょう。欲張って大量に詰め込んではいけません。資料上は「最低限これだけは知ってほしい」という要点に絞り込み、詳しい説明は直接伝えるほうが、受講者にとって理解しやすくなります。
さらに「各情報の意味するものは何かを分解して考える」、「同じ主旨の内容はグループ化する」など、資料を構成する前に情報を整理しておきます。
2.デザインを統一する
資料全体を通してデザインを統一し、一貫性を持たせることも大切です。例えば「主題となるテキストのフォントの大きさや色は赤で統一する」というルールがあれば、読み手はそのページの中でどの部分が重要なのかを、瞬時に理解できます。
またページごとのレイアウトにも法則性があれば、グラフの説明をしている文章がどこにあるのかなどを、その都度説明しなくても済みます。
3.図表を積極活用する
データは積極的に図表化しましょう。文章で説明されるよりも、図表で示されたほうが読み手に意図が伝わりやすくなります。
大量の数値やテキストを見やすく整理するには一覧表、割合を示すには円グラフ、期間内の数値の増減を示すには棒グラフ、2種類の数値の変化を比較するには折れ線グラフと、それぞれの図表の特性を理解して、意図に沿って使い分けることもポイントです。
4.推敲やリハーサルの工程を確保する
推敲やリハーサルにもしっかり時間をかけましょう。
作成当日には気づかなかった間違いに、翌日改めて目を通すと気づけることがあります。また第三者に客観的な視点でチェックしてもらうプロセスも必須です。
さらに、実際にスクリーンやオンライン会議システムなどで資料を共有する操作手順や、投影の調整方法など、リハーサル工程もスケジュールに入れておきましょう。
5.サンプルやテンプレートを利用する
効率的に資料を作成するには、研修資料のサンプルやテンプレートを活用する方法もあります。現在はインターネット上に多くの資料サンプルやテンプレートがあり、サイトに会員登録すれば無料でダウンロードして使用できるものも豊富です。
自社の研修資料を無料で公開している企業もあります。以下のサイトからダウンロードできるので、ぜひ資料作成や研修企画の参考にしてください。
◆サイボウズ
2021年エンジニア新人研修の講義資料エンジニアのブログ
◆ミクシィ
2021年新卒技術研修の資料・動画
◆メルカリ
LGBT+を理解するオンライン研修、無意識バイアスワークショップ
受講者に伝わりやすい研修資料を
研修資料は、少しの工夫で見違えるようにわかりやすくなります。研修効果を高めるためにも、受講者に伝わりやすい構成やデザインを心掛けるようにしましょう。
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