個人に合わせた保育の必要性が高まる中、障がい児保育に対応した園も増えています。
しかし、現状では職員のスキル・リソース不足から受け入れに消極的な園や医療的ケア児(日常生活で医療ケアを必要とする子ども)の受け入れ拒否などの問題も山積しています。

全ての子どもたちが個に応じた保育を受けられるように、園ではどんな支援ができるのか。障がい児保育研修の必要性とともに考えていきます。

障がい児保育が注目される背景

時代の変化に伴い、障がい児保育の重要性が増しています。ここではその背景について解説していきます。

10年で4倍に増加!?急がれる発達障がい児への対応

文部科学省が発表した「令和3~4年度 特別支援教育に関する調査結果」によると、通級による指導を受けている障がいを持つ児童生徒数(2021年)は、全体で183,879人となり、調査以来最も高い数値となりました(※上表参照)。この中で、発達障がい児(注意欠陥多動性障害・学習障害・自閉症 ※下表参照)は、10年前(平成23年)に比べると84,370人増え、109,551人となりました。毎年平均して8400人増えている計算となります。

注意欠陥多動性障害 学習障害 自閉症 合計
2011年(H23) 7026 7813 10342 25181
2021年(R3) 38656 34135 36760 109551
10年の差 31630 26322 26418 84370

また、日本保育協会の「平成27年(2015)度 気になる子等の受入れ実態」調査においても、発達障がいが疑われる「気になる子」が在籍する園は全体の9割を超えているものの、その子どもたちに特別な支援を行っている園は2割ほどに留まっているのが現状です。

児童発達支援センターなどの施設は増加していますが、そこで働く専門的な知識を有する人材が子どもの数に対して不足しており、発達障がい児への対応は急務となっています。

国が障がい児保育・インクルージョン教育を推奨

日本では1974年に厚生労働省が定めた「障害児保育事業実施要綱」によって、一般の保育所での障がい児の受け入れがスタートしました。障がい児をサポートするため加配保育士が配置されることで、障がいがある子も自宅近くの保育所で保育を受けられるようになったのです。2015年施行の子ども・子育て支援新制度により地域の療育支援補助者を保育所、幼稚園、認定こども園に配置されるようになり、2017年に開始した「保育士等キャリアアップ研修」に「障害児保育」が盛り込まれました。

参照:平成30年版 障害者白書

さらに現在では国がインクルージョン教育を推し進めていて、障がいの有る子も無い子も同じ場で共に学ぶことがより一層重視されています。そのためすべての保育所や保育士に、障がい児保育の正しい知識が求められるようになっています。

医療的ケア児や重度障がい児の受け入れ園が極めて不足

発達障がい児などの受け入れが進む一方、医療的ケア児や重度障がい児を受け入れられる園は、以前として不足しています。

民間調査機関が全国の市町村を対象に行った保育園の障がい児受け入れに関する令和3年調査によると、入所できなかった障害児がいると答えた市町村は全体で20.3%となり、その理由として、「障害のない子どもと同じ待機児童枠となった(41.9%)」「障害の重さから入所が難しいと判断した(38.4%)」「内示は出たが保育所での受け入れが難しかったため(23.8%)」という結果になっています。

令和5年のこども家庭庁による各自治体の待機児童数調査では、待機児童のいる自治体においても、17%以上が「手厚い支援が必要な児童の受け入れが困難であった」と回答しています。

また、全国の私立・公営保育園における医療的ケア児の受け入れ方針の調査(2024年)によると、医療的ケア児の受入れ方針の把握していない保育所は公営で72.2%、私立で77.8%となり、医療的ケア児の支援がまだまだ進んでいないことが浮き彫りとなっています。

手厚い支援を実現するためには専門的な知識やスキルを持った保育スタッフを配置することが条件となり、多くの園でそうしたスタッフを十分確保できないのが現状です。

そもそも障がい児保育とは?

障がい児保育とは、通常の保育に加えて、障がいの種類や程度に合わせた支援を行うことです。

一般の保育所を利用する子どもの障がいの種類は主に知的障がい・発達障がい・肢体不自由・視覚障害・聴覚障害などさまざまです。その中でも子どもによって障がいの重さが異なるため、子どもの個別性を重視して適切なサポートをすることが求められます。

安全には十分配慮する必要がありますが、子どもが本来自分でできることまで保育士が手を出してしまって自主性を奪うことは、障がい児保育の目的ではありません。

例えば上手に指先を使うことが難しい子であっても、食事の際に保育士が食べさせるのではなく、食材を食べやすいよう切り分けたり、スプーンを握って食べることを教えたりするなど、できるだけその子自身の手を動かして食事ができるよう支援します。
子どもの自主性を尊重して、成長を見守り、支援することが、障がい児保育の本来の目的です。

障がい児保育における統合保育と分離保育の違い

障がい児保育には、統合保育と分離保育という2つの種類があります。

統合保育は、障がい児を健常児と同じ場所で預かり、障害の有無や程度がさまざまな集団の中で保育することです。

一方の分離保育とは、障がい児を特別な環境で個別的保育することです。特別学級や支援教室の設置などがこの例にあたり、現在では主に児童発達支援センターなどで分離保育が行われています。

現在は障がい、国籍、人種など多様な子どもたちを共に育てることで、互いの個性を尊重できるようにするインクルーシブ教育が推進されており、分離保育よりも統合保育が重視される傾向にあります。そのため、より保育士の専門的な知識やケアスキルが求められており、障がい児保育研修を行う園も増加しています。

障がい児保育の具体的な支援内容

次に、障がい児保育には具体的にどのような支援が必要なのか解説していきます。

個々に合わせた保育

障がい児保育においては、まず一人ひとりの障がいの種類と程度を把握し、子ども達の成長を促すにはどのようなサポートが必要か考えなくてはなりません。保育所には特別な支援を必要とする子どもそれぞれに個別の支援計画の作成が義務付けられています。

保育士は支援計画に基づいて保育を行い、障がいのある子どもが集団生活に参加できるよう手助けします。身体の障がいがある場合は必要な補助具を与えたり、発達障がいがある場合には適切な声かけで、お友達とうまく遊べるようにサポートしたりします。

保護者支援

障がいのある子どもだけでなく、その保護者への支援も障がい児保育の重要な役割です。

障がいのある子どもを持つ保護者は、子どもの発達や家庭でのあり方などで悩みや不安を抱えても、周囲の保護者と共有しづらく孤立感を深めがちです。

障がいについて専門知識を持った保育士が保護者の話を聞いてアドバイスをすることで、保護者の心理的な負担を軽減することができます。障がい児保育では保護者と信頼関係を築き、精神的にサポートすることも求められます。

加配保育士が配置されるケースも

障がい児保育では状況に応じて「加配保育士」が配置される場合もあります。

加配保育士とは障がいのある子どものケアを業務とし、通常の保育士の数にプラスして専属で配置される保育士のことです。加配保育士には特別な資格が必要なわけではなく、これまで園で通常の保育を担当していた保育士が、障がい児の受け入れに応じて加配保育士として配置されることもあります。

そのため、すべての保育士が各種の障がいとそれに対するサポートの知識を身に付けておく必要があり、そのための手段として障がい児保育研修が有効なのです。

障がい児保育で必要なスキル

次に、障がい児保育を実践するにあたって保育士に求められる、5つのスキルを紹介します。障がい児保育研修では、この5つのスキルを学んでいきます。

障害に対する正しい知識

障がい児保育にあたる保育士には、何よりも障がいへの理解が欠かせません。

例えば発達障害の中でも自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群、ADHDなど、さまざまな種類があります。保育士はそれぞれの障がいの特徴と、適切な支援の方法を知っておく必要があります。

障がいについての知識が無い場合、障がいのある子が意思疎通がとれず、苛立ちを感じてしまうかもしれません。障がい児保育研修で障がいに関する正しい知識を身に付けることで、それぞれの子どもの発達に応じた保育を実施できます。

子どもへの接し方

障がい児保育研修では、障がいのある子にどのように接すればいいかを学びます。

子どもへの接し方は、それぞれの障がいの種類によって異なります。例えば身体に障がいのある子には、多くの場合は食事や排泄にあたってサポートが必要です。一方で知的障がいや発達障がいの子は「自分でやりたい」という気持ちを強く持っている子もいて、その場合はまず本人の意思を尊重してあげるほうが良いケースもあります。

障がい児保育では、障がいの特徴を理解したうえで、子どもの気持ちに寄り添って接することが求められます。

保護者や医療機関との連携方法

障がい児保育では、保育園と家庭だけではなく、病院や発達支援センターなど専門機関との連携が求められます。保護者と家庭や園での様子をそれぞれ共有したり、医療機関に子どもへの対応について相談したり、各方面と連携をとる場面が出てきます。

主治医や担当心理士から発作やパニックを起こした際の対応法や問題が起こった場合の連絡方法など、家庭、専門機関、園が連携して適切な保育を行っていくために、事前に共有しておきたい情報などもあります。

研修では、事前に共有したい情報や具体的な連携方法についても学んでいきます。

環境の整え方

子どもが楽しく集団生活ができるように環境を整えてあげることも、障がい児保育の重要なスキルの一つです。

統合保育が重視される現在、障がいのある子とない子どもが同じ集団の中で育ちます。障がいの有無に関わらず誰もが生活しやすく、なおかつそれぞれの発達を促す環境をつくることが保育士の役目になります。

また発達障がいのある子は、それぞれに特性が異なるため、より細やかな配慮が必要となります。例えば、注意欠陥の子に集中して作業させる場合には、周囲の刺激を遮断するために壁に向かって作業させたり、集中する時間を短く区切って作業させます。

このような特性に応じた環境の整え方も、障がい児保育研修では重要なテーマの一つです。

SBおすすめの障がい児保育研修プラン

ここでは、園内研修におすすめの障がい児保育研修プランをご紹介します。当事者や、障がい児を育てた親、専門家などさまざまな立場の講師が障がい児保育のヒントについてお話しします。


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堀内祐子

自閉症スペクトラム支援士 特別支援士 傾聴心理士

子どもを理解する力
~4人の発達障害の子育てから学んだこと~

自身も発達障害の子どもの子育てを経験している特別支援士から、子どもの特性理解や支援スキルを学べるプラン。子どもの気持ちを尊重し、達成感や満足感を引き出す方法を学べます。


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松本 純

親業訓練インストラクター コミュニケーショントレーナー

これって発達障がい?それとも個性?
~グレーゾーンな子どもとのコミュニケーション~

発達障害への理解と子どもの気持ちを尊重するコミュニケーション方法の研修プラン。講師自身の発達障害の子どもの育児経験から得た知識とスキルが、保育現場での実践に役立ちます。体験を通して子どもの自尊感情を育むコミュニケーションが身に付きます。


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米澤好史

和歌山大学教育学部 心理学教室 教授 学校心理士スーパーバイザー・ガイダンスカウンセラー 臨床発達心理士スーパーバイザー・上級教育カウンセラー

愛着障害と発達障害の理解と
愛着の問題を抱えるこどもへの支援

愛着障害や発達障害、学習障害の支援方法が学べる研修プラン。和歌山大学教育学部の教授が、臨床発達心理士としての実践経験から得た知識を共有し、保育現場での対応力を高めます。子どもたちとの関係を深め、教育現場での実践に役立つ内容です。


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興津祥子

精神保健福祉士 公認心理師 産業カウンセラー

「児童虐待サイン」を見逃さない!
~保育・教育職として子どもたちをどう救うか~

発達障害と間違えられやすい、虐待を受けている子どもの特徴。子どもたちの成長に関わる職種の方を対象に、精神保健福祉士の講師が、虐待を受けた子どもへの対応方法を伝えます。愛着障害や発達障害と誤解されやすい被虐待児の支援方法を事例を通して学ぶことができます。


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湯浅正太

一般社団法人Yukuri-te 代表理事 イーズファミリークリニック本八幡 院長

障がいあるいは病気をもつ子どもの兄弟姉妹の心を育てよう!

障がいあるいは病気をもつ子どもの兄弟姉妹(きょうだい児)のケアに特化した研修プラン。自身もきょうだい児として育ち、子ども達を支援する小児科医や作家としての経験をもとに、きょうだい児の心の安定を図り、豊かな心を育むための具体的な方法をお伝えします。


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松本春野

絵本作家 イラストレーター

触・聴・視覚のコミュニケーションワークショップと講演会
社会を変える小さな親切のリレー
~絵本『バスが来ましたよ』が届けるバトン~

全盲になった男性の通勤を地元の小学生たちが10年以上にもわたってサポートした実話を絵本化した講師の自著『バスが来ましたよ』。その読み聞かせや実話の紹介を通じて、ささやかな親切が社会全体をも変える可能性について考えます。


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橋本巧一

教育アドバイザー 元 小学校校長

全ての人が、幸せになる社会への挑戦
~ダウン症児の保護者として問われたこと~

障がい者問題は、私たち一人ひとりの生き方と重なる課題であり、全ての人が幸せになる社会を目指す挑戦です。ダウン症児の父としての経験をもとに、講師自身の子の出生から就労までの具体的な場面での葛藤や成長を語ります。この研修プランでは、障がい児の受容と成長の過程を共有できます。


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藤田裕一

大学教員 精神保健福祉士・臨床心理士 博士(社会福祉学)

こんな先生に出会いたい
~障害者として生きる中で~

この研修プランは、障がい者として生きてきた経験から「こんな先生に出会いたい」という講師自身の思いを伝えます。普通校での経験をもとに、障害のある子どもたちがどのような先生や学校を求めているのかを率直に語る講演プラン。共同体感覚を育む教育の重要性や、できることに焦点を当てた支援方法についても学べます。


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新谷まさこ

子育てと仕事.com 代表 イクハンプロジェクト 代表 看護師/保育士

子どもの病状悪化と保育事故を防ぐ園のリスク管理
~多様化する子どもたちの体からのサインを見逃さない~

子どもの病状悪化や、保育事故を防ぐためのリスク管理方法を学ぶ研修プラン。講師は看護師や保育士としての経験をもとに、障がい児の体調不良のサインを見逃さないための具体的な方法を解説します。様々な病状のリスク管理について学べる、子どもたちの安全を守るための実践的な内容です。

障がい児保育研修でインクルージョン教育を実現

政府がインクルージョン教育を推し進めている現在、障がい児保育に対応できる人材の育成は、すべての保育所にとって重要な課題といえるでしょう。

当社には障がい児保育に対応した講師も多数在籍しています。障がい児保育研修に興味をお持ちの保育所の方はぜひ一度弊社にご相談ください!


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