近年ビジネスシーンで耳にすることも多くなってきた“パーパス”というワード。企業の「社会的意義」や「志」を示す言葉として利用される言葉ですが、最近は組織だけでなく個人でもパーパスを掲げることに注目が集まっています。
今回はそんなパーパスを個人で掲げるためのサポートを行なっている株式会社Project MINTのCEO 植山智恵(うえやま ともえ)さんに、Project MINT設立の背景と個人のパーパスを掲げる効果について伺いました。
組織と個人が共にパーパスを掲げることで見えてくる世界とは?
2030年に必要なスキルNo.1と言われる”戦略的学習力”のお話も注目です。
教育を変えるにはまず個人の大人から。人々の可能性を引き出す
――まずは株式会社Project MINTを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。
植山 原点は高校時代のオーストラリア留学です。中学時代の私は、みんなと同じでないと悪目立ちしてしまう日本の学校文化にうまく馴染めず、不登校気味になっていました。そこで高校時代にオーストラリアへ1年間留学をしたのです。個性が重視されるオーストラリアで過ごしたことで「国や文化が違うと人の伸び代も変わる」ということを経験し、教育に携わる仕事への興味を抱きました。
しかし当時は海外で働きたいという思いが強く、大学卒業後はソニーに就職しました。ソニーではグローバルマーケティングに携わり充実した日々を過ごしていたのですが、ふと「これが本当に自分のやりたいことだったのだろうか」と考えるようになってしまいました。考えた末に行き着いたのは、やはり「個性や一人ひとりの可能性を引き出していくような教育に携わっていきたい」という思いでした。そこでソニーを退職し、サンフランシスコでアメリカの最先端教育の調査などを行うフリーランスとして活動を始めました。
仕事の中で知り合った方に、ミネルバ大学で新しく創設される大学院の推薦をいただいたのが起業のきっかけです。最先端の教育に生徒として触れ、広い視野で見る目を養いたいという思いから第1期生としてミネルバ大学大学院に入学しました。この大学院での学びが、株式会社Project MINTを立ち上げる大きなきっかけになりました。
――ミネルバ大学での経験が転機になったようですが、どのようなことを学ばれたのでしょうか?
植山 ミネルバ大学は2014年に設立された新しい大学で、最先端のテクノロジーやアプローチを使ってアクティブラーニングなどの可能性を引き出す最先端の学びを取り入れています。私が学んだのは、ミネルバ独自の『意思決定の科学』という学部科目です。世界で起こっている複雑な社会課題のシステム構造的な問題を検証し、その問題解決のための様々なアプローチを考えていくことを学んできました。おかげで物事を幅広く捉えられたり白黒を付ける以外の解決法を考えたりと、今の時代に必要な力を学ぶことができたと思っています。
元々は起業したいと思って入学したわけではなく、この経験を活かしてどこか教育機関で働ければという思いしかありませんでした。しかしミネルバ大学で広い視野を身につけていったことで自分が解決したい問題に深く向き合うようになり、自分が実現したい道には起業が必要だという結論に行き着きました。
――問題に深く向き合われた結果の起業ということですが、どのようなお考えで起業という選択に至ったのでしょうか?
植山 きっかけは卒業論文でした。元々関心のあった日本の子どもの教育課題について調べていくうちに、子どもたちを取り囲む大人たちの可能性を広げることの重要性に気づいたのです。高齢化社会の中で、子どもはマイノリティです。子どもたちの可能性を引き出すことも大切ですが、「子どもたちを取り囲む大人たちの可能性を広げてアップデートしていくことも教育改革に影響を与えるのでは」と考えるようになりました。
日本では60歳で定年退職をしたり、40歳を過ぎると転職に不利と言われたりと、年齢におけるステレオタイプが存在しています。そうした年齢におけるステレオタイプこそ、大人が「新しいことにチャレンジしてみよう」「可能性を見出してみよう」と思うモチベーションに影響を与えているのではないかと考え、卒業論文としてまとめました。この取り組みにやりがいを感じ、このテーマの延長線上で何か大人の可能性を広げる活動をしていきたいと考えたのがProject MINT発足のきっかけです。
パーパスは原体験に宿る。パーパスを見出す方法とその効果とは
――パーパスを意識されるようになったきっかけは何ですか?
植山 パーパスを意識したきっかけは、会社を退職して教育の道に進もうと考えていたときに叔母から言われたある一言でした。当時の私は「人生の中で“これをしたい”と思えるものに忠実に生きていきたい」と思っていたものの、何からはじめたらいいのか分からず動けずにいました。そこで叔母に相談したところ、「仕事に打ち込める時期はあっという間になくなるよ」と言われたのです。その言葉をきっかけに「限りある人生の中ではあっという間に時間が経ってしまう。そうならないためにもパーパスが必要なのではないか」と思うようになりました。
――ビジネスシーンでのパーパスは「社会的意義」などを指しますが、植山さんが考える個人のパーパスとはどのようなものでしょうか?
植山 個人のパーパスとは、「自分は何のために存在しているのか」ということだと考えています。難しく思われるかもしれませんが、個人のパーパスの場合は「環境問題を解決したい」といった志の高い社会課題を掲げるわけではありません。私たちProject MINTが提唱しているパーパスは、その人の原体験に宿っている3つの要素から成るものを指しています。
1つめは幼少期に好きだったものや喜んだ経験。2つめは人生の中の困難な正念場を潜り抜けた先に気づいた自分らしさや価値観。3つめは時間を忘れてでも夢中になれ、自分のやる気を掻き立ててくれるもの。Project MINTではこの3つの要素を融合した考えをパーパスと呼んでいます。“ゴール”と似たように捉えられることもありますが、パーパスはゴールのように達成したら新しい目標を立てなければならないものではなく、その人の中にずっと継続的に循環して長い間存続し続けるものです。ライフステージに合わせて多少変化はしていくものの、「私の人生はこうありたい。このために生きたい」というような、その人の“コア(核)”となるものがパーパスだと私たちは考えています。
ーー原体験を掘り下げていく作業は難しさもあると思います。パーパスを見出すにはどのような方法が有効なのでしょうか?
植山 一気に見出そうとするのではなく、少しずつ自分の中に考えるスペースを持つことがポイントだと思います。ちょっとした休憩時間などに「自分はどんな人生を歩んできたのか」「これからどんなことをやってみたいか」といったことを考え、思い浮かんだキーワードを紙に書き出してみるだけでも大丈夫です。また、そういった原体験の話を誰かと正解・不正解をジャッジすることなく話し合ってみることも良い方法です。
Project MINTでもそうしたジャッジせずに対話する習慣づくりをしています。自分の感情に気づくということは、自分の本当に大切な価値観に気づく第一歩です。ジャッジされない場で飾ることなく、人に「私はこうだ」と話す経験を重ねていくと、自己開示がしやすくなると同時に他者への興味も湧いてきます。そうすることで、さらに自分への理解を深めることもできるのです。
――パーパスを掲げることにはどのような効果があるのでしょうか?
植山 Project MINTの修了生の話を聞いていると、私が最初に思い描いていた以上の効果があると感じています。よく聞こえてくるのは「主語が他人ではなく自分になった」「人生を自分で決められるようになった」という声です。「上司がこう言うから」「夫がこう言うから」という“誰か”が主語になるのではなく、「私がこうしたいからこうしている」という当事者意識が生まれているようです。また、自分のパーパスを見出すことは他人を尊重することにも繋がっていきます。互いに心を開いてパーパスを尊重し合うことで、「一緒にやっていこう」という純粋な想いが出てきてチームの団結も深まり、新たにコラボレーションできる部分も生まれてくると思っています。
パーパスを掲げ、戦略的に学ぶ。新時代を生き抜く力を伝えていく
――講演会を通して伝えたいことは何ですか?
植山 講演会では一般企業の会社員の方々や管理職、経営者の方、教育機関の方を中心に、主に2つのことについてお話ししています。1つは個人でパーパスを掲げることの重要性です。組織内でパーパスを掲げることはよく言われるようになってきましたが、個人のパーパスを掲げることにも、もっと注目されるべきだと考えています。近年はAI技術が進歩しているため、「組織としてどんな価値を社会に作っていきたいか」や「自分は何のために働いているのか」という点がますます問われる時代になっていくと思います。そういった意味で組織でも個人でもパーパスを持つことが重要になっていきますが、組織のパーパスに個人が合わせるのではなく、組織のパーパスと個人のパーパスが理解し合っていくことに価値があるということを伝えていきたいです。
2つめは“戦略的学習力”を身に付ける重要性についてです。戦略的学習力とは、2030年に必要なスキルNo.1と言われている「状況に応じて最適な学習内容や方法を選択・実践できる力」のことです。AIの時代になっていくこれからは、大人も子どもも戦略的学習力を養う時代にアップデートしていかなければならないと考えています。自分がどうありたいのか、そしてそのために何を学ぶかを自ら選択して学び続けていく。そんな戦略的学習を大人たちから実践していく必要性を伝えていきたいです。
――最後に、植山さんの夢をお聞かせください。
植山 私の夢は、一人ひとりが自分の可能性を信じ、本当に共感する人達と繋がって何か新しいものを作り上げていく社会になっていくことです。誰しも自分の中にはパーパスを持っています。個人のパーパスを見出すことで、年齢や能力などの様々な枠組みに縛られることなく、一人ひとりが力を発揮し、共感する人たちと繋がっていく。そんな社会になったら嬉しいと思っています。
――本日は貴重なお話をありがとうございました!
植山智恵 うえやまともえ
株式会社Project MINT代表取締役
ミネルバ大学大学院日本人初の卒業生
Forbesオフィシャルコラムニスト
シリコンバレーにてソニーのスタートアップ(教育テクノロジー事情調査)に従事し、ミネルバ大学院の世界中からのクラスメイトと最適解のない社会課題解決に挑む学びに没頭。大人に必要なのは「個人のパーパス」だと実感。”ひとりの輝きを信じ続け美しいものを創る”をパーパスとし、才能開花事業を展開中。
講師ジャンル
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ビジネス教養 | ライフプラン |
---|---|---|
実務知識 | 人材・組織マネジメント |
プランタイトル
先が予測できず不確実性の高い、正解のないVUCAの時代
2030年の必要スキルNo.1「戦略的学習力」を身につける!
自分の”パーパス”を掲げ自分の正解を創るキャリアの構築
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