企業にとって、新入社員の離職は大きな課題となっています。
そこで注目したいのがメンター制度です。メンター制度は新入社員を定着させる手法として多くの企業に導入されています。
当記事では、メンター制度について詳しく解説していきます。

メンター制度の基本概念

まずはメンター制度の基本について、関連用語や類似制度との違いなどを解説していきます。

メンター制度とは

メンター」とは、新入社員の相談にのったりメンタル面をサポートしたりする先輩社員のことです。多くの場合は、新入社員と近い年齢で、入社3~5年程度の社員が任命されます。

メンターのサポートを受ける立場の社員が「メンティー」です。そしてメンターがメンティーをサポートを行うことを「メンタリング」と呼びます。

メンタリングを企業で人材育成の一環として体系化したのが「メンター制度」です。メンター制度を人材育成策の1つに導入している企業は多数あります。

エルダー制度との違い

メンター制度と似た人材育成の手法に「エルダー制度」が挙げられます。

エルダー制度とメンター制度との違いは、サポートを担う社員の立場にあります。メンター制度では、「他部署の先輩社員」がメンターとなる場合がほとんど。対してエルダー制度では「仕事を一緒に行う先輩社員」がエルダーを務めます

エルダー制度にはメンタルケアの観点はなく、業務面のサポートを行い、即戦力となる新入社員を育てることが目的です。

OJTとの違い

OJT(On-the-Job Training)では、業務成果向上を目的に先輩が新入社員を指導します。技術やノウハウについて、業務のなかで実践的に教えるのがポイントです。
対して、メンター制度では新入社員のキャリア開発にもコミットします。

メンター制度が注目される背景

近年注目されているメンター制度。ではなぜ、これほど注目を集めているのでしょうか。その背景を紹介していきます。

新入社員の3~4割が入社3年内に離職

厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)状況」によると、2023年における就職後3年以内の離職率は、以下の通りとなっています。

  • 新規高卒就職者:37.0%(前年度より1.1p増)
  • 新規大卒就職者:32.3%(前年度より0.8p増)

新入社員の3~4割が、入社3年以内に離職していることがわかりました。新入社員の離職率低下や定着率向上は多くの企業にとって共通の課題です。そのヒントとしてメンター制度が注目されています。

上司・先輩からの指導がない職場は離職率が高い

連合(日本労働組合総連合会)の「入社前後のトラブルに関する調査2022」によると、新卒入社した会社を離職した人の割合は、入社後の新入社員研修や先輩・上司からの指導・アドバイスがあった場合となかった場合で以下のような違いがありました。

なかった人:41.9%
あった人:30.9%

上司・先輩からの指導がない職場は、ある職場に比べて離職率が11.0ポイント高くなっています。このことからも、新入社員が特定の先輩社員との関わりを持てるメンター制度が、離職率を下げる効果があることがわかります。

既存社員の成長・活躍支援ニーズの高まり

メンター制度は、先輩社員の成長を促したり、女性社員の活躍を推進したりするのにも一役買います。終身雇用制度がほぼ崩れ、労働人口が年々減少している現在、企業は既存社員の能力を最大化しなくてはなりません。メンター制度は、次世代リーダー育成や女性従業員のキャリアアップの手立てとしても、多くの企業に期待されています。

メンター制度の導入までの5ステップ

それでは次は、メンター制度を導入するまでの5つのステップを紹介していきます。

Step1.制度の実施目的の明確化

まず、なぜメンター制度を導入したいのかを考え、実施目的を具体的に設定するようにしましょう。主に以下のような目的が挙げられます。

  • 新入社員の離職率低下
  • 女性社員の活躍促進・管理職登用
  • マネージャーやリーダーの育成
  • 社内のコミュニケーション活性化
  • 組織の理念・技術・知識を伝える

組織によって課題や目的は異なるので、他の企業を真似するのではなく、自社に合う目的を設定しましょう。多くの課題があり、どこから手をつけたらよいかわからない場合は組織経営や人材育成の専門家に相談してみるとよいでしょう。

Step2.運用体制やツールの整備

続いて社内の運用体制やツールを整備していきます。

メンター制度を導入するには、人事部・経営層・対象社員の直属上司などの合意を得なければいけません。制度運用開始後はメンターとメンティーに任せきりにするのではなく、適切に介入できる全社的なバックアップ体制を、事前に構築しするとよいでしょう。

ツールを導入するのも方法の1つ。たとえば、スマホでメンタリングができたり、メンタリングについて学べるEラーニングがあったりと、ツールにはさまざまな機能があります。どのような機能や特徴のものがあるか、製品のwebサイトなどでチェックできます。

Step3.メンターの選出・育成

次はメンターとメンティーの選出・育成です。人選は制度を導入するうえで最も大切なポイントです。
選出には主に「ドラフト式」や「アサイン式」が用いられます。前者は立候補したメンター希望者の中から、メンティー自身が選ぶもの。後者は人事部や部署の担当者が、メンティーに対してメンターをマッチングするものです。

Step4.メンター、メンティーへの事前研修

人選を終えたら、メンターとメンティーへ事前研修を行います。
メンター制度の意義・ルール・心構えを伝えてください。メンターとメンティーの合同研修を設定し、その際に顔合わせをするのもよいでしょう。

Step5.継続的な成果の評価と制度改善

メンター制度は「導入して終わり」ではありません。きちんと運用されているかどうか、調査を継続していくことが大切です。

まずはメンタリングが継続的かつ効果的に行われているかをチェックしましょう。モニター方法は、両者へのアンケートやヒアリングが一般的です。初回は、メンタリングが3回程度行われたと想定される時期が妥当です。
同時に、現在のメンタリングにおける問題点を洗い出します。その際、必ずメンターとメンティー両方の意見を聞くようにしてください。

このように実施と改善を繰り返し、メンター制度をより有意義なものにしていきます。

メンター制度を導入して成果を上げた企業の実例

ここからは、メンター制度を導入して成果をあげた企業を紹介していきます。

大起産業(三重:産業機械、航空・宇宙)

大起産業は航空宇宙関連業や産業機械関連業などを行う企業です。

同社の2つの主軸事業のうち、売上の8割を占める航空機事業のコストはほぼ人件費という状況でした。そのため生産性の高い社員が定着しなければ売上が上がりません。しかし実は新卒者の約半数が3年以内に離職していました。

そこで2015年にメンター制度を導入。同社は「メンターの納得感」が鍵と考え、費用は会社負担で、業務時間内にコーヒー面談を推奨しました。また二者だけでなく、管理職も巻き込んで進めていきました。人事担当者が制度導入後の効果について経過の分析を徹底したのもポイントです。

結果として1年以内退職率は0%となり、3年以内離職率も低下傾向が現れていると同社は公表しています。

三和(東京:小売)

三和はスーパーマーケットやショッピングセンターなどを展開している企業です。

同社は2019年からメンター制度を導入しました。毎年50人以上を新卒採用し、メンター制度で丁寧に育成する方針をとっているのが特徴です。
まずツールを導入して、定量的な成果を可視化しました。そして面談のPDCAサイクルを回しやすくしています。

このような制度運用を5年間続けた結果、2023年度にはついに、入社後半年間の新入社員離職者がゼロになったという事例です。

キリン(東京:酒類・飲料)

最後は酒類・飲料メーカーとして知られるキリンの事例です。経営陣が積極的にリーダーシップをとり、多様な人材の活躍促進に取り組んでいます。

同社では2008年から、女性社員が対象のメンタリングプログラムを導入しました。

その結果、総合職女性社員5年目の離職率低下や女性の自己都合退職者の減少のほか、女性経営職の増加、重要ポスト・新たな職域への女性登用に成功したのです。

2021年には女性活躍推進が優れた企業として経済産業省・東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ」企業に選ばれました。

企業がメンター制度を実施する目的

それではここからは、企業がメンター制度を実施する目的を解説していきます。

若手社員の離職防止

若手社員の早期離職の主な原因は、人間関係によるものとされています。

たとえば悩みを抱えていたとしても、同じ部署の先輩に相談すると「上司の耳に入ってしまうのではないか」と恐れ、相談できずじまいになってしまうことがあります。

メンター制度であれば他部署の先輩に気軽に相談できるので、このような事態を招きません。メンターが精神的なサポートをしてくれるので、離職率低下につながります。

社内コミュニケーションの活性化

メンター制度を取り入れると、部門・部署間のコミュニケーション活性化も期待できます。なぜなら、日常業務ではほとんど関わりのない社員が交流することになるからです。

また近年はリモートワークを取り入れる企業が増えており、リモート環境では社員間のコミュニケーション不足が起こりがちです。そのような環境でも、メンター制度を通じて気軽にオンライン交流でき、新入社員が企業になじみやすくなるのです。

女性社員のキャリア支援

先に紹介したキリンの事例からもわかるとおり、メンター制度は女性の活躍推進にも貢献します。

若手女性社員のロールモデルとして先輩女性社員を配置することで、メンティーのキャリア形成で非常に参考になるでしょう。

メンター側も自らがロールモデルになるという意識から責任感が強くなり、「後輩世代のためにもさらなる活躍を目指そう」と考えるきっかけとなります。

当事者視点から見たメンター制度のメリット

ここからは、当事者視点から見たメンター制度のメリットを見ていきましょう。

先輩社員(メンター):リーダーや管理職へのステップになる

メンターにとって、メンター経験は、将来的にリーダーや管理職になる際の良い経験となります。
リーダーや管理職は、多数の部下の育成が重要業務となる立場です。キャリアが浅いうちからメンターとして新入社員を指導した経験は、人材育成のスキルを磨くきっかけとなるでしょう。

新入社員・若手社員(メンティー):早期に組織になじめる

新入社員の早期退職の原因の1つに「職場での孤立感」が挙げられます。孤立感を抱くようになると企業への帰属意識が薄まり、離職の直接的な原因になってしまいます。

メンター制度によって気軽に相談できる先輩社員がいることで、新入社員は職場になじみやすくなるのです。

メンター制度のデメリット・注意点

最後に、メンター制度のデメリットや取り入れる際の注意点を補足しておきましょう。

メンター社員への負荷

メンター社員には、どうしても負荷がかかってしまいます。通常の業務にプラスしてメンター業務に取り組むことになるためです。したがってメンター制度では、周囲のサポートが必要となります。

一例として、メンターとしての取り組みを評価対象に入れること、上長を含めた研修で、メンター制度の意義や内容について理解を深めることなどが挙げられます。

メンターとメンティーの相性問題

またメンターとメンティーは、必ずしも相性がよいとは限りません。

相性が悪いと双方にとって精神的なストレスになるリスクが高まります。メンターとメンティーのマッチングは慎重に行うようにしましょう。もし、ミスマッチが発生した場合には、管理者が両者の間でヒアリングし、すり合わせを行うか、それでも状態が改善されない場合は、メンターの変更を考える必要があります。

運用と成果評価の難しさ

メンター制度を運用していくには、定期的な調査を行い、運用課題を発見していくプロセスが必要です。
また制度運用直後からすぐに数値に反映できる効果が出るものではないので評価も難しく、取り組みが続かないケースもあります。

メンター制度は長期的に続けることが大切です。メンター制度を取り入れれば、社内のコミュニケーションが活性化したり、離職率を下げたりできる可能性があります。

また、運用の難しさには、自社の社員がメンター制度の重要性を理解していない場合もあります。メンター制度の重要性を知らせ、その具体的なスキルを身につける機会を、研修という形で作ることもできます。

以下の記事では、メンター制度を導入するためのヒントやメンターに必要なスキルを学べる研修プランをご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。

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