岸田政権の支持率が20%(2024年9月現在)となるなど政治への不信感が高まっている中、自民党総裁選や立憲民主党、公明党の代表選により日本の政治はひとつの転換期を迎えようとしています。総裁選により日本はどう変わっていくのか、私たち国民は政治をどのように見ていけばいいのか。フジテレビ客員解説委員の平井文夫(ひらい ふみお)さんにお話を伺いました。

※記事内のデータは2024年9月中旬時点のものです。

日本の政治は90点。国民は疑似政権交代でごまかされている

――まず、現在の日本政治について平井さんの評価をお聞かせください。現在の政治状況に点数をつけるとしたら何点になりますか?

平井 難しいですが、他の民主主義国家の政治状況と比較して考えると90点くらいです

――かなり高めの評価ですね。なぜその点数を?

平井 医療、介護、年金などの日本の社会保障システムが世界トップクラスだからです。他の国で暮らしてみると分かりますが、国民全員が多額のお金を払わずに平等に医療を受けられる国なんて日本だけですよ。安い教育費で高い水準の教育も受けられて、綺麗な街を安全に歩ける。こんな国は他になかなかありません。スウェーデンなどの北欧の国々の方が充実しているなどと言う人もいますが、日本の方がはるかに上です。これはつまり、政治が悪くないからだと考えています。

――ではマイナス10点の理由は何でしょうか?

平井 これも他国との比較になりますが、政権交代がされていないことです。日本以外の先進国家は、どの国でも5〜10年に一度は保守政党とリベラル政党が政権交代をしています。政権交代がされることで社会にダイナミズムや多様性が生まれていると思うのですが、日本ではそれがほとんどされていません。そのように有権者に選択する権利が与えられていないという点は民主主義として遅れているため減点しました。

実は日本では自民党の中で疑似政権交代がずっと行われています。自民党の中でリベラル派と保守派が総裁選で交代して、政権が変わるかのように国民をごまかしてきたのです。だから国民は自民党よりリスクの高い野党にわざわざ政権を渡す必要を感じないのでしょう。

――自民党総裁選や立憲民主党、公明党の代表選が間近に迫っていますが、今回の総裁選で日本は変化すると思いますか?

平井 今回は若い世代の候補者も出ていますので、若い方が総理大臣になった場合は新しい体制になるとは思います。しかし世代交代したとしても自民党であることは変わりません。今回の総裁選は裏金問題などのトラブルで批判が高まっていることから、国民に政権交代のような気分を味わわせてスッキリさせようという狙いもあるように思います。

本当の政権交代が起これば、国民の生活は変わるんです。例えば海外ではリベラル政党が政権を取ると税金が上がる代わりに公立学校の授業料や美術館の入場料が下がったりします。保守政権下で戦争が起こった場合は地上戦までいきますが、リベラル政権下で戦争が起こった場合には艦砲射撃程度までになります。特にイギリスなどは政権交代で税金が大きく変わると言われています。だから海外ではみんな真面目に投票に行くんです。アメリカの大統領選があれだけ盛り上がるのには、そういった理由があるのです。

――日本では選挙にそもそも行かない人や「どうせ変わらないから」と自民党に投票する人も多いですよね。

平井 それはやはり日本が豊かすぎて、どの政党が政権を取ろうが大丈夫だと国民が分かっているからだと思います。定期的に政権交代が起きて保守とリベラルの両方を経験していけば様々な考え方が出てくるのですが、日本ではそれがないため考えが堅くなってきていると思います

例えば少子化対策にしても、海外ならリベラル政党が「税金を上げてその分子育て世代にお金をあげましょう」といったことを言い、保守政党が「お金を配るのではなく税金を下げましょう」といったことを言うものです。でも日本ではむしろ保守政党の自民党がお金をばらまいていますよね。なぜこのようなことが起こっているかと言うと、日本のリベラル政党が弱いからです。本来のリベラル政党に力がないために、自民党の中でリベラルと保守に分かれて疑似政権交代をしてしまっているのです。裏金問題の影響で本当の政権交代のチャンスが来たようにも見えましたが、総裁選で自民党が盛り上がってきていますね。

政治は身近な問題。自分で考える癖が政治を見る目を養う

――今回の総裁選では派閥がなくなったことで多くの候補者が出馬し、これまでの総裁選以上に盛り上がっているようにも見えますね。

平井 確かに今回は候補者が9人出ていますね。実はこれまでの総裁選の多くは議員投票で決まっていて、党員票で決まったのは2001年の小泉純一郎さんだけなんです。議員票は367票ありますが、立候補には推薦人が20人必要ですから、すでに189票は投票先が決まっている状態です。残りは178票ですが、議員票はバラけやすいため、今回の総裁選は党員票を取った人が勝つだろうと言われています。しかし党員票で決まるということは、人気投票になってしまうということです。一見大勢の候補者が出て民主的に見えますが、人気投票になればできもしないことでも受けのいいことを言えば勝ってしまいます。これはあまりいいことではないかもしれませんね。

「男女平等だから選択的夫婦別姓だ」と言った方が国民からの受けはいいですが、そんな簡単に戸籍制度を破壊していいのかという問題もあります。「裏金議員を公認しない」という発言も国民は喜んでいますが、自民党内部からは批判があがっています。政治家は嘘は言わなくても耳に優しい言い方をすることがあります。ですから、誰が正しいことを言っているのかを自分で考える癖をつけることが大切だと思います

――多くの情報の中で何が正しいか判断をすることはとても難しいように思いますが、見極めるポイントはあるのでしょうか?

平井 それぞれの立場でご自分の意見を決めればいいと思います。例えば今話題の選択的夫婦別姓について、私の妻は夫婦同姓のまま旧姓使用を拡大すべきだと考えています。それは妻自身が実際に結婚後も旧姓を使用してきた経験から至った考えです。それぞれの人がそれぞれの立場で判断する癖をつけていけば、徐々にどの政治家や政党の考えが自分に合っているかが分かってきます。それが投票の基準になるのではないでしょうか。

――情報が偏らないよう、様々なところから取り入れる必要がありますね。

平井 これもまた考える癖をつけることが重要になります。マスコミの報道を聞くと、一瞬信用してしまいますよね? でもマスコミは巧妙で、例えば新聞社によって応援している候補者が違っています。それも新聞を読んでいけばなんとなく分かってきます。メディアを信用せず、自分の頭で考え、友人やパートナーと話し合うようにしましょう。政治の問題は自分の生活に関係する話です。子ども手当ても、選択的夫婦別姓も、税金も、全て自分に関わってきますよね。自分に合わせて考えていけばいいと思います。

私は政治の解説委員をしてきましたが、この仕事は様々なものの見方を提示する役割だと思っています。「新聞やテレビではこう言われているけど、違う方向から見たらそうじゃない」ということはたくさんあります。私からもそうしたアドバイスやヒントを提供していきますので、自分で考える癖をつけていきましょう。

多様性が叫ばれる中で日本が向かう未来とは

▲講演会に登壇する平井さん。

――講演会ではどのようなお話を伝えていきたいですか?

平井 講演会では特に「政権交代が今起きたらどのようなことが起きるのか」「自民党の中でも保守的な人かリベラルな人、どちらが総理になるのか」「政策はどう変わっていくか」など、擬似政権交代を含めた政権交代の予兆や、政権が変わることが人々の暮らしにどのような影響をもたらすのかといった情報をお伝えしています。特に企業では政治を見誤って方向性を間違えると従業員や取引先にも影響を与えてしまうことから、経営者の方などが講演会に来てくださることが多いです。

――総裁選と代表選が行われる今、日本の政治は1つの転換期を迎えているように思います。5年後の日本政治を予測するとしたら、どのようになっていると思いますか?

平井 良い予想としては、先ほどお話ししたように世代交代が起きるのではないかと思っています。総理経験者などの高齢議員の影が薄くなってきているので、若い世代が主導権を握る時代が来るような気がします。悪い予想としては、欧米のように移民の急速な拡大やグローバリズムのやりすぎで社会の分断が起きる可能性を危惧しています。夫婦別姓や女系天皇に関する問題は日本の伝統に関わる問題なので、「絶対にダメだ」と言う人もいれば「絶対に変えるべきだ」という人もいます。それらを巡って欧米のように社会の分断が起きてしまうのではないかと考えています。

――多様性が叫ばれる中で日本のアイデンティティーをどう守っていくかは難しい課題ですね。

平井 おっしゃる通り、多様性を持たなければ生き残れません。日本も少子化なので移民を受け入れないとおそらく生きていけなくなるのですが、欧米を見ると移民に仕事を奪われた低所得者層が怒って混乱が起きています。日本は世界でもうまくそのバランスを取っている国なので欧米のような状況にはならないと思いますが、どこかでタガが外れてしまうと社会の混乱が起きてしまうかもしれません。移民は増やしつつ、不法移民はきちんと取り締まっていかなければならないと思います。

――最後に、平井さんの夢をお聞かせください。

平井 ある人が「部屋に寝転んでずっと文学全集を読んでいたい」という夢を語っているのを聞いて、「それだ!」と思いました。私は大学1年生のときに京都の4畳半ほどの下宿に暮らしてしていたのですが、毎日本ばかり読んでいました。風呂なしトイレ共同で、親の仕送りで暮らす生活でしたが、あの生活はすごく豊かなものだったと思うんです。日本ではまだ、そんなシンプルだけど豊かな生活ができると思います。医療や社会保障など、政治の力でそういうシンプルだけど豊かな生活を送れるような国にしたら、みんなすごく幸せになれると思います。そういう社会を作るためにはやっぱり政治が良くないといけないと思うので、政治家のみなさんには頑張ってほしいですね。

――貴重なお話をありがとうございました!

平井文夫 ひらいふみお

フジテレビ客員解説委員
ジャーナリスト
政治評論家

立命館大経済学部卒業後、フジテレビ入社。ワシントン特派員、首相官邸キャップ、政治部長、報道局専任局長、解説副委員長等を歴任。また、政治討論番組「新報道2001」キャスターを10年間務める。現在は、ジャーナリスト・政治評論家として、執筆、番組出演、講演活動など、幅広い分野で活躍している。

講師ジャンル
ビジネス教養 時局・経済

プランタイトル

日本政治の現状分析と未来予測

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