近年のビジネス現場は、世界的なパンデミックへの対応やDXといった、かつてない規模の変革に直面しました。予測不可能な事態にも迅速に対応しなければならない時代を背景に、社員のマネジメントスキルを高めたいと考える企業が増えています。

本記事では、管理職が強化すべき7種類のマネジメントスキルや、その高め方について解説します。

マネジメントスキルとは何か 定義やリーダーシップとの違い

マネジメントスキルは、誰もがよく知っているようで、意外と正確には理解されていません。ここでは定義などを改めて確認していきましょう。

マネジメントスキルとは

英語の「management」は、「管理」「経営」「取扱い」など、さまざまな意味を持っています。

ビジネス用語としての「マネジメント」は、「目的達成に向かってリソースをやりくりすること」を指します。企業経営にとってのリソースとは、人材(ヒト)、資材(モノ)、予算(カネ)の3つです。

マネジメントスキルは、単に割り振られた資産を管理する能力ではありません。組織の方針や目標に向けて成果を上げつつ、業務の品質をよりよくするための能力なのです。

「マネジメントスキル=リーダシップ」ではない

マネジメントスキルはときに、リーダーシップとは混同されがちです。しかし、リーダーが主にメンバーがベストを尽くすための動機付けをする立場であるのに対し、マネージャーはメンバー内の具体的な役割分担を決めて業務指示し、その結果に責任を負う立場です。

よってそれぞれ、以下のような特性を持っています。

■リーダーシップの特性

  • メンバーの自発性を引き出す
  • チーム全体の方向性を示す
  • 個人に備わる

■マネジメントスキルの特性

  • 計画を立てて資源を効率的に配分・管理する
  • おもに権限や地位に基づく

スポーツチームで例えると、監督は2つのスキルを兼ね備えており、チームキャプテンはリーダーシップのみを持ちます。

マネージャーとリーダーとの違い

マネージャーは経営に近いポジションで、多人数を管理し組織全体の成果向上を目指します。一方、リーダーは現場に近く、少人数を導く立場です。

マネージャーの仕事には戦略策定、経営陣と現場とのパイプ役、人材配置・評価、リソース管理などがあります。リーダーは、チームビジョンの策定、人材育成と動機付け、個人ごとの目標サポートなどを担当します。

詳しくは後述しますが、近年は自らプレイヤーも兼ねる「プレイングマネージャー」人材が増加しました。リーダーが管理業務に関与したり、マネージャーがリーダーシップを発揮したりする場面もあり、両者の違いは曖昧になりつつあります。

今、企業にマネジメントスキルの高い人材が求められる背景

続いて、企業がマネジメントスキルを求める実態や背景について説明しましょう。マネジメントのあり方は、数十年前から確実に変化しています。

マネジメントスキルは企業が最も重要視する、人材育成の鍵

高齢・障害・求職者雇用支援機構が2023年に発表した「令和5年度 企業の求める職業能力・人材に関するニーズ調査結果」を紹介しましょう。

さまざまな分野の全3,436の事業所が「経営戦略上重要なもの」として挙げた上位2つの項目は、「人材育成(89.8%)」「優秀な人材確保(87.0%)」でした。これより、マネジメント力を持つ人材のニーズも高まっていると推測できます。

一方で社員にマネジメントスキルを身につけさせることは容易でなく、このギャップが多くの企業にとって課題になっています。

一律トップダウンから個別管理へ 求められるマネジメントの変化

また複数の民間企業の調査(※1)からも、管理職に求められることが、10~20年ほど前から以下のように変化したと指摘されています。

  • コミュニケーションは「説得から対話」、「叱咤激励から承認」へ
  • 「管理・統制」から「個性重視や活用」へ
  • 「決められた業務の遂行」から「変化への柔軟な対応」へ

・管理職像は「正解を持つリーダー」から「共に正解を考える役割」に
・組織はトップダウン型からボトムアップ型志向へ

例えば、40代の課長が、自分が若手だった20年前の管理職をイメージして接すると、部下の能力を十分に伸ばせない可能性があります。現状に合ったマネジメントスキルの習得が重要です。

(※1)ジェイック、アスマーク(2023)「『求められる管理職像の変化や、管理職の課題』に関するアンケート調査
ラーニングエージェンシー(2022)「求められる管理職像の変化に関する調査

9割以上がミドルマネジメント層のスキル不足と回答

さらに『月刊総務』の「ミドルマネジメントについての調査」(2024年)では、全国の総務担当者の9割以上が「自社のミドルマネジメント層(同調査では課長職・マネジャー相当)を『スキル不足』と評価していること」が明らかになっています。

また9割のミドルマネジメント層が「プレイングマネージャー」であり、チームの目標達成という責務を負うほかに、個人でも成果も求められる立場にありました。

自らも多くの業務を抱えているために、マネジメント力を磨く機会や時間が十分でないのかもしれません。

ビジネスパーソンが高めるべきマネジメントスキル7選

それではここからは、ビジネスパーソンが高めるべきマネジメントスキルのうち、中核をなす7つの能力を紹介しましょう。

1.コミュニケーションスキル

マネジメントには、メンバーとの信頼関係を築くコミュニケーションスキルが不可欠です。

進捗管理を円滑に行うためには、部下一人ひとりの状況を理解して、フォローやヒントを提供しなくてはなりません。普段から話しやすい雰囲気を作り、相手の声をよく聞く姿勢を心がけましょう。

また顧客や経営陣のニーズを理解し、それをメンバーへわかりやすく伝える力も重要です。

口頭の交渉・説得、スピーチだけでなく、文章力や見た目、物理的な距離の取り方を含む非言語コミュニケーション能力もこれに含まれます。

2.意思決定スキル

ーマネジメントは意思決定の連続です。意思決定には、販売スケジュールや仕入れといった業務上必要なものと、予算や人員などのリソース管理に関わるものとがあります。

質の高い意思決定には、以下のすべてが求められます。

  • チームや業務の全体像を把握すること
  • 論理的に状況整理するスピーディーさ
  • 自身の決定が多くの人を動かすという役割意識

意思決定には責任が伴います。決定内容を伝達する際はしっかり責任を示し、部下との信頼関係維持に努めましょう。

3.問題解決スキル

問題解決スキルは、目の前で起こっている問題に対し、効果的な解決策を導くスキルです。

まずは多角的な視点からその問題を見つめ、要因や影響を分析し、特定します。論理的な思考プロセスで、筋道を立てて整理していきます。

経験則や直感だけに頼っていては、解決するどころか状況をさらに複雑にし、現場を混乱させてしまいかねません。

また解決策の着想には、日頃の情報収集力や、新たなアイディアを絶やさない創造性も問われます。

4.リスク・課題分析スキル

ビジネスにおいて「問題」と「課題」は異なります。前者は本来維持すべき水準を阻害するなんらかのトラブルを、後者は「ありたい像」とのギャップを指します。したがって課題分析とは、チームや企業が成長するための改善点を見極めることです。

同様にマネジメントでは、さまざまなリスクを分析する力も必要です。

事業は法的・技術的・市場リスクなどと隣り合わせです。近年特に注目されている、予測不可能な災害や社内不祥事も、企業を脅かすリスクの1つです。

5.コーチングスキル

コーチングスキルは、人材育成に特に役立つ管理職向きのスキルです。

コーチングとは、対話を通じて相手の中にある意図や能力、可能性を引き出す手法のこと。あくまでも「答えは相手の中にある」という前提で、潜在意識や価値観に働きかける質問を投げかけるのがポイントです。

コーチングスキルは、傾聴力や質問力、褒めて承認する力などで構成されます。

6.チームビルディングスキル

マネジメント人材には、チームビルディングスキルも必須です。

個人に備わるリーダーシップとは異なり、チームメンバー同士の協力や連携、信頼関係を促す環境をつくるスキルです。各メンバーの強み・弱みを把握したうえで、互いが能力を補い合って目標達成できるチームを目指しましょう。

7.テクニカル(業務遂行)スキル

職務をまっとうするために必要な知識や技能、熟練度などを総称してテクニカルスキルと呼びます。マネジメントにおいては計画立案や資産配分などがその一例です。

またプレイングマネージャーであれば、個人の目標達成のための能力も、これに含まれます。

社員のマネジメントスキルの高め方

では最後に、マネジメントスキルを高める具体的な方法を5つ解説しましょう。

①マネジメントスキル研修などによるトレーニング機会を提供する

まずはマネジメントスキル研修などトレーニング機会の提供を検討します。特に専門知識や人材育成の経験が豊富な講師による研修がおすすめです。

組織内で求められる役割を理解し、マインドセットを養う良いきっかけとなるでしょう。マネジメントのノウハウを学ぶだけでなく、ワークなどを通じて受講者同士の横のつながりを強化するのにも一役買います。

ただし研修を1度受ければOK、というものではありません。研修後の現場での受講者フォロー策や、バックアップできる組織づくりも組み込みましょう。

②ロジカルシンキングを習慣化させる

先に述べた通り、質の高い意思決定には、ロジカルシンキングが不可欠です。理論的根拠のない決定は、部下を疲弊させ、やがて信用を損ねてしまいます。

習慣化の方法としては、例えば、MECE(ミーシー)やロジックツリーなどのフレームワークや仮説思考を身につける、考えをこまめに言語化しわかりやすく伝える練習をする、などがあります。セルフディベートに取り組むのも有効です。

学習の手始めに、マネジメントスキル研修のプログラムの中に、ロジカルシンキングを盛り込んでもよいでしょう。

③多角的な視点に立つことを意識づける

マネジメント人材は、単なる組織のメンバーの1人ではありません。より経営者に近い視点に立つと、物事の全体像がつかみやすくなります。

部下や顧客など、直接顔を合わせる関係者の立場から考える癖は必須です。さらに潜在顧客、部下の家族などにいたるまで、さまざまな立場の人に思いをはせる想像力が、よりよい判断に役立つでしょう。

また身の周りだけではなく「業界や社会全体にとってはどう影響するのか」とスケールを拡大するのも有用です。

④人事評価、業務評価、振り返りを行う

組織ではマネジメントにあたる本人も納得できる評価体系を用意しなくてはなりません。必要なスキルをピックアップし、スキルの習熟度やチーム目標の達成度、部下からの信頼度、自己成長などの指標から、総合的に評価します。

数値化できる定量的な指標と、数値では表せない定性的な要素のバランスも重要です。

また適宜振り返りを行い、強みと課題点の両方を認識して成長を目指すよう働きかけましょう。

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⑤オンライン管理ツールを導入する

最後はオンライン管理ツールの導入です。近年では多くの管理業務がオンラインで完結できるようになりました。

例えば以下のようなマネジメント業務に、ツールを用いると便利です。

  • ビデオ会議やチャットなどのコミュニケーション(Zoom、Slackなど)
  • スケジュールや資料の共有(Google Workspace、Microsoft 365など)
  • プロジェクトの視覚的な進捗管理(Redmine、Asanaなど)

これらを用いると、全社でのマネジメントスキルの底上げにつながるでしょう。

労働人口減少時代の今、マネジメントのあり方は20年前から激変しました。古いタイプの管理方法からは脱却しなければなりません。7つのスキルと5つの施策を参考に、時代にそくしたマネジメント人材を増やしていきましょう。

当社ではマネジメントスキル研修のプランも多数用意しており、企業ごとに最適な研修を提案可能です。お気軽にご相談ください。

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