物事の本質を見極め、解決方法を導く思考法である「クリティカルシンキング」。社内に導入を考えている、もしくは意識して取り入れてはみたものの、効果的なやり方が分からないという方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、クリティカルシンキングのメリットや例題などについて詳しく解説します。あわせて例題やおすすめの研修プランについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
クリティカルシンキングとは
「クリティカルシンキング」とは、現状の問題をストレートにそのまま受け入れるのではなく、本質的な課題を見つけ出すためにさまざまな角度から検討する思考法のことです。「批判的思考」とも呼ばれています。
社員がクリティカルシンキングを身につけると、合理的かつ客観的な判断ができるようになります。
クリティカルシンキングとロジカルシンキング、クリティカルシンキングの違い
「ロジカルシンキング」とは、ある問題に対し矛盾が生じないよう分解して考え、結論を出す思考法です。物事を順序立てて考えることから「論理的思考法」とも呼ばれています。
「ラテラルシンキング」とは、物事をさまざまな方向から捉え、解決策を導き出す思考法です。縦方向に「深く」考えるのではなく、横方向に「広く」考えることから「水平思考」とも呼ばれます。
いずれも客観的かつ論理的な思考法であることに相違はありませんが、視点、つまり目の付け所に違いがあります。
例えば、社内で「最近商品が売れなくなった」という問題が生じたとします。
クリティカルシンキングでは、商品が売れなくなった理由を客観的に分析し、仮説や前提に偏りがないかを検討します。「ターゲット層がずれているのでは」という仮説を立てた場合、市場調査やアンケート分析等をして、その仮説は本当に正しいのか、客観的に検証します。
ロジカルシンキングでは、「ターゲット層にあっていない」➨「ターゲット層のニーズに合っていない商品仕様」➨「改善すべき商品特性やプロモーション手法の見直し」と、原因と対策を論理的に整理しながら、明確なステップで対策を立てていきます。
新しい視点から考えるラテラルシンキングでは、ターゲット層を思い切って変えたり、新しい商品の使い方を提案したり、SNSでの話題性を狙ったキャンペーンを展開したりするなど、これまでになかった多角的な発想で、解決法を考えていきます。
3つの思考法の使い分け方
3つの思考法は目的や効果が異なるため、状況に合わせて使い分けることが大切です。以下に主な使い分け方をまとめました。
ビジネスシーンでは、まずはクリティカルシンキングで課題の妥当性を見極め、ラテラルシンキングで多方向から解決アイデアを出します。そしてロジカルシンキングで情報を整理し、第三者にも説明しやすいようにまとめる、といった流れが一般的です。
思考法 | 目的 |
クリティカルシンキング | 物事が正しいか、矛盾がないかを見極める |
ロジカルシンキング | 情報分析や問題点の洗い出しをする |
ラテラルシンキング | 固定概念にとらわれないアイデアを生み出す |
今、クリティカルシンキング(批判的思考)が注目される理由
近年、多くの企業でクリティカルシンキングが注目されています。ここではその理由となる2つのポイントについて解説します。
ビジネス環境の急速な変化
ビジネスの世界は、急激な変化にさらされています。
企業はVUCA時代(物事が不確実かつ複雑で、予測困難な時代)を生き抜かなければならなくなりました。特に2020年代前半の、世界的なパンデミックはその象徴といえます。過去の成功体験が通用しないケースも増えてきました。
「今までこれでやってきたから」と従来のやり方に固執する企業は、成長機会を逃しているといえます。性能や価格といったわかりやすい基準の差別化だけでは、市場で生き残れない時代です。前例や慣習も根本から問い直すクリティカルシンキングは、ビジネスを推進するうえで重要なヒントを与えてくれるでしょう。
価値観の多様化
人々の価値観も多様化しました。消費者ニーズや行動の変化もその1つです。
かつては実店舗に足を運んで、実物を比較検討のうえ、購入してもらうケースが一般的でした。現代ではスマートフォンの画面をタップするだけです。オンラインショッピングが一般化した背景には、技術の発展やデジタルツールの普及だけでなく、実物より情報、目的達成までの時間圧縮を重視する傾向などがあります。
クリティカルシンキングを用いれば、そうした価値観の変化もキャッチアップしながら、課題解決に有効な策を生み出しやすくなります。
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実務ですぐ応用できるクリティカルシンキングの例題
では実際はどのように思考すればよいのでしょうか。実務で応用可能なクリティカルシンキングの例題を3問紹介します。
例題1.企業の社員育成
「職場で、入社後すぐに辞めてしまう新人が多い理由は何か」
【仮説】
- 上司が十分な指導をしていない
- 採用時の人材見極め不足だった
【クリティカルシンキングの例】
- 一般的なデータと比較して「すぐに」や「多い」という前提認識が誤っていないか
- 「十分な指導」の根拠となる指導内容や水準が組織内にあるか
- 採用時に見極めることは現実的に可能か
ほかにも「社員が意欲的でないのは、高圧的な上司に委縮してしまっているからだ」という仮説に対し、そもそも意欲とはどのような姿勢のことか、定量的な計測から確定した事実なのか、などを検討します。
例題2.SNS投稿の読み解き
「SNSで『国際情勢の影響で原料輸入ができなくなり、国内の紙製品が品薄になる』という投稿が拡散されている」
【仮説】
- 紙製品の価格が上がる
- 早く買っておかないと入手困難になる
【クリティカルシンキングの例】
- 情報の出どころは信頼できるか
- すでに公式見解を発表している企業や業界団体はあるか
- 国内の紙製品は輸入原料にどの程度依存しているか
ほかにも「有名メーカーの食品に虫が混入していた」という写真の投稿なら、写真が合成や過去の別の事件のものではないか、購入後に混入した可能性はないか、などを疑います。
例題3.成果が出ない事業への対応
「A事業部の売上不振のために、会社全体の業績が落ちている」
【仮説】
- A事業部が商品を増やせば会社の業績回復につながる
【クリティカルシンキングの例】
- 販売チャネルや価格設定など、売上不振にほかの要因はないか
- 競合社の動向や市場トレンドをキャッチアップできているか
- 全社的な戦略や他部署の業績は網羅的に検証済みか
同様に「売上不振のため別事業への転換を図る」という仮説なら、現状の分析は十分か、現在の不振の原因が新事業にも影響するリスクはないか、などを検討します。
クリティカルシンキングを構成する4つの批判プロセス
クリティカルシンキングは、4つの批判プロセスで構成されています。以下で解説します。
1.問題設定・論点は正しいか
問題解決に効果のある戦略を立てるには、正確な問題設定が大前提です。この土台が正確でないと、その後のプロセスも迷走してしまいます。
また「何をもって解決・成功とするか」という指標を決めておくことで、無駄な思考コストや工数を削減できます。
2.根拠とされている事実は正しいか・十分か
現状把握のプロセスにおいては「根拠とされている情報が本当に正しいかどうか」分析を行います。
過去の経験や固定観念、推測を徹底的に排除し、正当性や不偏性、網羅性を追求することが大切です。ちょっとした違和感を見逃さず、事実に基づく情報を、納得がいくまで収集します。
3.主観や思い込みを排除できているか
加えて、いかに主観を排除できるかも重要です。誰にでも少なからず思い込みや偏見はあります。
今相手が述べているのが「事実」なのか「意見」なのか、意識しながら聞く癖をつけるとよいでしょう。
クリティカルシンキングのトレーニング方法
続いて、組織でクリティカルシンキングを実践するために有効な、3つのトレーニング方法を紹介します。
研修を実施する
新しい発想や意見がなかなか上がってこない、クリティカルシンキングのノウハウが社内にはないという企業は、研修をきっかけにすると良いでしょう。
基礎的な思考法をはじめ、論点の設定、仮説の構築や課題解決の手法などを、短時間で効率的に習得できます。ケーススタディーやグループディスカッションなどの実践的プログラムを組み込めば、受講後からその経験を業務に生かせるようになります。
特に、実績が豊富な専門家に研修講師を依頼するのがおすすめです。
eラーニング講座を提供する
eラーニングによる学習機会の提供も効果的です。受講者は自分のペースで学習を進めることができ、わからない部分を何度でも繰り返し学べる点もメリットです。
また学習が受け身にならないよう、アウトプットの場も用意しておきましょう。
業務内での実践を推奨する
研修や講座で学んだ知識は、現場の業務に適用することで、スキルとして定着します。
たとえば社員に、メールや資料作成の際、客観的で相手が理解しやすい内容かどうか、クリティカルシンキングに基づく問いを活用してブラッシュアップさせるようにしましょう。
また管理職社員がフィードバックを与え、改善を繰り返すのも、スキル向上に有効です。
クリティカルシンキングのメリット 身につけると向上できる5つのスキル
それではクリティカルシンキングを身につけると、どのようなスキルを向上させられるのでしょうか。5つ解説します。
スキル①問題解決力
クリティカルシンキングにより、漏れや矛盾のないように物事を見る癖がつくため、一人ひとりの社員が、問題の本質を見抜きやすくなります。その結果チームでの議論も深まるので、組織全体の問題解決力向上にもつながります。
スキル②コミュニケーション能力
コミュニケーションの面では、誰にとっても明確な根拠を用いるため、自分の意見を相手にわかりやすく伝えられるようになります。
情報やデータを正しく読み解いたうえ、論理的に使いながら話せれば、説得力も増します。チームワークが円滑になり仕事のスピードが上がるというメリットもあります。
スキル③意思決定力
クリティカルシンキングを用いれば、従来の意思決定における矛盾や漏れにも気づけるようになります。
根拠のない個人の思いつきに振り回されることもありません。合理的な決断が可能になると、無駄な施策のために発生するコストも抑えられるでしょう。
スキル④柔軟な発想力
「これはこういうものだから」「前例がないのでできない」のような考えは、成長を目指す企業の足を引っ張るものです。
批判的思考で、市場トレンドや消費者ニーズの感知や評価・選択が可能になれば、斬新なアイデアが次々に生まれます。柔軟な発想力は、特に商品開発や事業計画などの現場で、大きな武器となるでしょう。
スキル⑤リスクマネジメント力・コンプライアンス意識
クリティカルシンキングは組織内のリスク管理にも効果的です。
「身近にそんなことが起こるわけがない」という思い込みを排除するので、ハラスメントやコンプライアンス違反行為を早期に発見・報告する土壌ができます。社員にとって働きやすい職場作りにもつながります。
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SBおすすめクリティカルシンキング研修プラン
ここからは、システムブレーンがおすすめするクリティカルシンキングの研修プランを5つ紹介します。
心をリフレッシュする
中堅・中小企業の社員向けの研修プランです。さまざまな不安要素を抱えながら仕事をしている人に対し、マンネリ化によるモチベーションの低下を避けるための対処法を解説しています。クリティカルシンキングを、参加者自身の改革、ならびに新しい生き方の発見につなげます。
物事を本質で捉えるための「クリティカルシンキング」研修
20代、30代の管理職向けの研修プランです。クリティカルシンキングの基礎を学んだのち、自身の課題をオリジナルシートを用いて明確化します。グループテーマ演習では、より実践的なスキルを身につけることができるでしょう。
目標を達成するための「5つのステップ」
組織のメンバーに目標達成の意識を持たせたい経営者向けの研修プランです。クリティカルシンキングにも詳しい講師が、目標を具体化するための5つの視点などについて解説します。目標達成の基礎を学ぶだけでなく簡単なワークなどを通じて、夢と目標の違いを明らかにします。
正しい”なぜなぜ分析”
~業務改善のためにすべての人が身につけるべき考え方~
業務改善に取り組みたいすべての社員へ向けて、クリティカルシンキングにも通じる「なぜなぜ分析」の実施方法や実例などを解説します。なぜなぜ分析を実務の成果につなげ、部下の指導に生かすコツを学べます。
自分自身の目標設定とその具体的達成方法
経営コンサルタントでもある講師は、クリティカルシンキングを含む思考系の研修実績が豊富です。社員の定めた目標が達成できない原因や、その改善および達成方法などについて解説するプランです。
ビジネス環境が急速に変化し価値観も多様化している現代、クリティカルシンキングは問題解決力やコミュニケーション能力、意思決定力などの向上に役立ちます。生産性向上や企業の発展に欠かせない思考法として、研修などでぜひ取り入れてみてください。
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