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コミュニケーションに関する悩みを抱えている人は少なくないのではないでしょうか。どうしたら仕事がうまくいくのか、どうしたら人間関係をうまく築けるか、悩みは多岐にわたります。誰もが再現できる「伝え方」の技術を身につけることで、悩みを解消し、望む結果を生み出すことができるのです。
今回は、シリーズ累計259万部のベストセラー「伝え方が9割」の著者でコピーライターの佐々木圭一さんにインタビューさせていただきました。もともとコミュニケーションが苦手だったという佐々木さん、どのように「伝える力」を身につけ、仕事での成果を生み出してきたのでしょうか。すぐに活用できる伝え方の技術を身につけることは、私たちの人生や生活に大きな変化をもたらしそうです。
コトバの収集から見いだした「伝え方の技術」
ーーまずは、これまでの佐々木さんのキャリアを教えてください。
佐々木 大学院で機械工学を学び、新卒で博報堂に入社しました。コピーライターの部署に配属されコピーライター歴は28年になります。現在は、2014年に設立した「株式会社ウゴカス」の代表を務め、「伝え方」について全国で研修や講演を行っています。
経歴だけ見ると「表現のプロ」に思われがちですが、実は私はもともとコミュニケーションが苦手でした。幼少期から転校が多く、その土地での話し方や遊び方に慣れることができず、いつも浮いた存在でした。浮いていた私は、どうしたら自分の存在感を消せるかということに集中し、「話すのが苦手、人と話をするのが嫌だ」と感じていた子どもでした。
しかし、就職活動の時期になり「人並みにコミュニケーションができるようになりたい」と強く思うようになり、広告業界を選びました。
配属されたのは、コピーライターの部署で、文章を書くということに無縁だった私は本当に驚きました。
コピーライターとは、ゲームや商品などにつけるキャッチコピーを考える仕事です。当時は「いいコピーを考えよう、みんなが感動するようなコピーを書きたい」と考えながら作っていましたが、全くうまくいきませんでした。上司に提案するのですが、却下され続けていました。あまりにも仕事ができず、当時のニックネームが「最もエコでないコピーライター」だったんです。
ーーどのように苦しい状況を乗り越えてこられたのでしょうか。
佐々木 どうすれば打破できるかを考え、やれることは何でもやりました。その中の一つが、「コトバの収集」です。
本や映画の中で、心を打たれたり感動的なコトバに出会ったりする度にノートに書き写していました。そのノートを見ていると「構造」が似ていることに気づいたんです。
例えば、映画『燃えよドラゴン』の「考えるな、感じろ」や、ドラマ『踊る大捜査線』シリーズの「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」という有名なセリフがあります。
これらを、法則化してみると「正反対のコトバ」を使用していることが分かったのです。そこで、反対の言葉を入れるという法則にしたがって、実際に作ってみました。
とあるビールを紹介する雑誌用のコピーで、カップルが乾杯している写真に添えるコトバを考えることになり、次のコピーを作りました。
「今日、友達が1人減りました。彼女になったから。」
「友達が減る」というネガティブなことに対して、「彼女になる」というポジティブな言葉、 つまり反対の言葉を入れました。
すると、このアイデアが採用されたのです。法則をもとにコピーを書き始めると、次々とコピーが採用されるようになり、コンテストで受賞するようにもなりました。
法則という視点でコトバを見つめ直すと、様々な「法則」が発見できるようになり「伝え方は技術」であると気づきました。
ーー法則を見つけることで、誰でも使えるという再現性が高まるんですね。
佐々木 そうなんです。私は高熱があってもキャッチコピーを書けます。なぜなら法則に従って作ることができるからです。
コミュニケーションが得意で上手な人もいると思います。そういう方はもうすでに、こうした技術をナチュラルにできているかもしれません。
しかし、体調などによって調子が安定しないこともあると思います。そんな時でも、伝え方の技術として自分の中に持っておくと、様々なことに左右されず、パフォーマンスできるようになります。
コミュニケーションが苦手な人はもちろん、得意な人も、法則を一度身に付けてもらえれば、いざという時にパッと取り出して使えるようになるのです。
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ーー「伝え方」を身につけることで、どんなメリットがありますか?
佐々木 伝え方を身につけると、「イエス」をもらえる可能性を高めることができます。そうすると人生が明らかに変わります。
私はコピーライターなので、コピーのプレゼンテーションを行うのですが、とても良いコピーができたとしても、その一案だけでプレゼンはしません。買うか買わないかの決断になってしまうからです。
それに対して、「Aというコピーと、Bというコピーだったらどちらがいいか」と提案すると、どちらかを選んでもらえる可能性が高まります。経営者の視点からすると、どちらかを買ってもらえれば利益になりますよね。
これは、伝え方の技術「選択の自由」を活用しています。
例えば、部下に自発的に仕事をしてほしいときになんと言いますか。そのまま「自発的に仕事して!」と言うと、部下は「よし自発的に仕事しよう」とは思わず嫌な上司だなと感じると思います。
一方で、「〇〇さんは将来のリーダー候補だから、自分で考えたようにどんどん進めていいよ」と言うと、「それならやってみよう」と思います。これは、伝え方の技術「認められたい欲」を活用した例です。同じこと言っていますが、伝え方によって印象が変わりますよね。
プレゼン、営業、部下へのお願い、これら全て、伝え方で成否が変わるものです。伝え方を身につけることで、プレゼンが通るようになる、お客様に商品を買ってもらえるようになる、部下とのコミュニケーションが円滑になる、そんな変化が訪れるはずです。
すぐに実践できる「伝え方の技術」とは
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▲イメージ画像
ーー佐々木さんのメソッドで、実際に変化を生み出した事例を教えてください。
佐々木 いくつか事例があるのでご紹介します。
一つは伸び悩んでいた商品の名前を「伝え方の技術」を使って変更したところ、売上が10倍になり、通販サイトで2年連続最高金賞受賞という結果を出された企業さんの事例です。また「伝え方の技術」を身につける研修を受けたグループと、受けていないグループを比較した結果、研修を受けたグループは前年と比べて25%売上が上がったという事例もあります。他にも、「伝え方の技術」を身につける研修の受講者のうち、94.4%が「部下との関係がよくなった」と回答した事例もあります。
最近は、離職を減らすためのコミュニケーションを学びたいと言われることも多いです。離職する一番の原因は「上司とのコミュニケーション」なので、伝え方の技術を学んでいただき、離職率を減らした事例もあります。
ーー「伝え方」を変えるポイントを教えてください。
佐々木 ポイントは「伝える技術を知ること」です。伝え方の技術は難しいものではありません。
例えば、荷物を隣の会議室に持って行ってほしいとき、「この荷物、隣の会議室に持って行って」と言われるより「この荷物、一緒に隣の会議室に持って行って」と言われる方が手伝ってもいいかなと思うのではないでしょうか。
これは、伝え方の技術「チームワーク化」を使っています。人は「一緒に」と言われると、誘われたような感じがして嬉しいものです。こういう技術は、知らなかったら使えないですよね。
もう一つのポイントは「まずは使ってみる」ということです。
例えば、夫に「スーパーに買い物に行くから、荷物を持って」ではなく「一緒にスーパーに買い物に行こう」と伝え方を変えてみてください。
技術は、実際に使うことで身につきますので、日常の中で活用していただければと思います。
ーー佐々木さんは「言葉のチカラ」をどのように捉えていますか?
佐々木 コトバには、人を動かす力があります。
同じ企画でも、Aさんが話すと通るのに、Bさんが話すと通らないという経験がある人も少なくないのではないでしょうか。それは、相手の心を揺さぶるコトバを使えているかどうかの違いです。一つ一つのコトバが変われば、相手の反応が変わり、自分の人生も変わります。コトバには、それくらい大きな力があると思います。
一般的に「伝え方」は学べないと思われているのですが、そんなことはありません。実はアメリカの学校では、日本でいう国語に加えて、小学校3年生から伝え方の授業があります。アメリカ人は、自分の意見を伝えるのが上手なイメージがあると思いますが、それはDNAではなく、学んでいるか、学んでいないかの違いなんです。
日本人は伝えることが苦手な人が多いですが、技術の習得は得意でもあります。そして日本には技術力があります。そこに伝える力を加えることができたら、日本はもっともっと元気になっていくと信じています。
伝え方の技術を身につけて、自分の考えをしっかり伝えられるようになり、良い商品やモノを世の中にしっかり届けられるような社会になってほしいと願っています。
伝え方を学んで、よりよい人生を
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▲講演会で伝え方の技術を伝えている佐々木さん(佐々木さん提供)
ーー講演会を通して伝えたいこと、大切にされていることは何ですか?
佐々木 「伝え方は『センス』ではなく『技術』で、誰でも学ぶことができる」ということを伝えたいと考えています。
講演では、誰でもすぐに使える実践的で再現性のあるコミュニケーション技術を学んでいただけます。学んだ「伝え方」をその日から仕事やプライベートで使えるようになっていただけるように構成しています。
講演では、受講される方たちに、事例をもとに伝え方を考えてもらいアウトプットしていただく時間を設けています。人は聞くだけでは忘れてしまいますが、アウトプットすると、学んだことが記憶に残りやすいと、科学的に言われています。
理解するだけでなく、実際に使ってみることで、定着率が圧倒的に変わるのです。
伝え方に苦手意識がある方にこそ「伝え方の技術」を知っていただき、伝え方に悩んでいる方々のお役に立てたら嬉しく思います。
ーーでは最後に、佐々木さんの夢と題して、今後の展望をお聞かせください。
佐々木 私の夢は「伝え方の教科書を作ること」です。教育の中でコミュニケーションや伝え方を学べるような世の中になるといいなと思っています。
なぜなら、日本人はとても良いものを持ち、作っているのに、うまく伝えられずに商品が売れないということもあるのではないかと思います。何が悪いかというと、商品ではなく、伝え方だと考えています。
これまで伝え方はセンスだと思われていたのですが、伝え方はセンスではなく、具体的にこうやればうまくいくという技術があるんです。そして誰でも学ぶことができます。
伝え方を誰もが学べる時代になれば、もっと日本の未来は明るくなると信じています。
「伝え方はセンスではなく技術」です。この技術をもっともっと多くの方々に届けられたらと思っています。うまく伝えられるようになりたいとお考えの方や会社のお役に立てたら嬉しいです。
ーー佐々木さんが発信されている「伝える技術」は、誰でも・いつからでも学ぶことができ、一度習得することで、仕事や人間関係などにも大きな変化が生まれることを学ばせていただきました。さっそく実践してみます!貴重なお話をありがとうございました。
佐々木圭一 ささきけいいち
コピーライター、作詞家 上智大学 非常勤講師 株式会社伝え方が9割 代表
日本・海外でシリーズ累計256万部を突破したコミュニケーション啓発書『伝え方が9割』の著者。「伝え方はセンスではない、技術だ。」をモットーに、産学官を問わず全国400社以上で講演や研修を行い、ワークを盛り込んだ独自の講演と話術で、受講者をみるみる引き込む内容と好評。
講師ジャンル
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ソフトスキル | コミュニケーション |
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実務知識 | 営業・販売・マーケティング |
プランタイトル
伝え方が9割 ~「強いコトバ」をつくる技術~
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