職場では、安全衛生活動の一環として、安全衛生計画書を作成しなければならないケースがあります。しかしどのように作成すれば良いかが分かりにくく、困っている人もいるのではないでしょうか。

この記事では、安全衛生計画書を作る際の4ステップや、すぐに使えるテンプレートなどをご紹介します。

安全衛生計画書とは

まずは、安全衛生計画書の果たす役割や、なぜ企業で作成する必要があるのかなど、計画書の基礎知識について説明します。

職場における安全衛生計画書の目的・役割

安全衛生計画書は、企業が従業員の安全や健康を守るために作成します。安全衛生はすべての企業活動に必要な基盤であり、作成の対象業種に制限はありません。特に工事現場などでは、現場ごとの安全衛生管理基準として活用されています。
こうした現場では、念入りに計画を立てることが重要です。「危険性の確認不足による計画書への記入漏れがなければ、重大な事故が防げたかもしれない」という事象も起こり得ます。
計画書は、その職場で業務にあたる従業員全員の共通認識を証明するものでもあります。

安全衛生計画の策定は、安全衛生管理者の職務

「労働安全衛生法(安衛法)」において、企業には「統括安全衛生責任者」や「安全管理者」、「衛生管理者」の選任が義務づけられています。
安衛法は、「事業者が労働者の安全と健康を確保する」ことを目的に1972年に制定された法令です。この法の背景には、当時、毎年多くの労働災害死亡者が発生していたことがあります。
安衛法が企業に求めている、社内の安全衛生管理の担当者の職務は多岐にわたります。安全衛生計画の策定もその1つに位置付けられています。

業種・規模など安全衛生管理者を設置すべき条件

安衛法では、業種や事業場の労働者数によって選任すべき管理者が決まっています。
例えば、安全管理者と衛生管理者を指揮する「統括安全衛生管理者」は、建設業や運送業などでは労働者100人以上から設置が必要です。その他の業種では300人以上か1,000人以上、いずれかの規模に至ると対象となります。

また、常時50人以上の労働者が働く職場の場合、全業種に「衛生管理者」が、特定の業種においては「安全管理者」を設置しなければなりません。業種や規模により、「衛生推進者」や「産業医」なども、選任が求められます。

安全衛生計画書と工事安全衛生計画書の違い

安全衛生計画書と似たものに「工事安全衛生計画書」があります。いずれも一部共通する内容を記載しますが、作成する目的は異なります。
安全衛生計画書は、あらゆる業種の現場において、そこで働く人の安全と健康を守るために作成するものです。一方で、工事安全衛生計画書は、特定の工事を安全に進めることを目的に作成するもので、作業手順や危険要因の特定などの安全管理措置を、詳しく記載します。
つまり安全衛生計画書は職場全体、工事安全衛生計画書は個別の工事現場に特化した計画書となります。

作成・提出は企業の義務ではないが推奨されている

安全衛生計画書の作成や提出に法的な義務はありません。しかしながら、厚生労働省や各都道府県の労働局では、計画書の作成や活用を推奨し、企業の自主的な取り組みを促しています。
また、場合によっては労働局や労働基準監督署から、計画書の提出を求められるケースもあります。

安全衛生計画書を作成するメリット

では、企業が安全衛生計画書を作成するメリットはどこにあるのでしょうか。この章では、4つの利点を紹介します。

職場の安全衛生に関する方針・目標の明確化

計画書を作成すると、企業の安全衛生に関する方針や目標が明確になります。この指針に基づき、従業員へ具体的な安全対策を呼びかけやすくなります。

さらに計画の中で数値目標を設定するため、人による理解度の差が起こりにくく、安全な行動の評価基準を共有しやすくなります。

リスク可視化による労働災害の防止

計画書の作成には、まずは正しく・詳細に現状を把握することが大前提となります。
従業員が「何となく危ないと思っていた」というようなリスクを洗い出し、言語化するのが大事です。それぞれ何が問題なのかを検討し、予防策について明記します。この一連の作業が、労災を起こさない環境の実現に直結します。

従業員の安全意識向上

安全衛生計画の策定には、企業全体としての方針表明が重要であり「従業員を守りたい」という企業の思いを現場へ浸透させるのにも一役買います。
また、作成にあたっては過去の事例を振り返り、自社特有の課題を分析し、現場に真に求められる対策を検討します。このプロセスを通じて、例えば「慣れによる正規手順の軽視はやめよう」など、働く人の安全意識を向上させられます。

行政や取引先からの信頼向上

企業にとって働く人の安全衛生に配慮することは、最優先事項であり、職場の基盤です。
計画書という成果物を通じて、安全衛生に積極的に取り組む企業の姿勢が明らかになるでしょう。
行政や取引先からの信頼を得られ、ブランドイメージの向上や社会的評価にもつながります。

初めての安全衛生計画書の作成 4ステップ

続いては、初めて安全衛生計画書を作成する人に向け、作成方法を4つのステップに分けて解説します。

Step1.職場の現状リスク見積もりと課題設定

まずは、自社の現状を把握することから始めます。労働局や安全衛生マネジメント協会のwebサイトにはチェックリストが掲載されています。
チェックリストには、安全衛生管理体制や、安全衛生活動、健康診断・メンタルヘルスなどの項目ごとに設問が設定されています。現在の職場環境と照らし合わせて答えていくことで、自社の課題を明確にできます。

Step2.計画の目標策定

次に、Step1で明確になった課題や問題点を解決できるよう、目標設定を行います。
この時、緊急性や防災効果の高いものなど、優先的に取り組む課題をベースに基本方針を固めます。同時に、達成基準を数値で表すなど、解釈にブレが起きないよう具体的に示すことがポイントです。

Step3.スケジュールや施策など具体的な内容の決定

目標設定をしたら、次はその目標をどのような行動で達成するかという具体的な施策や、いつまでに実施するかなどのスケジュールを立てます。
この時、各施策の優先度や責任者なども明示しておき、計画の実効性および具体性を強化しましょう。

Step4.実施計画の記載

安全衛生計画書には決められた様式はありません。webなどで公開されているテンプレートの項目に沿って作成すると進めやすいでしょう。
安全衛生計画書は、都道府県の労働局や労働監督基準署のwebページに記載されています。
工事安全衛生計画書は「全建統一様式第6号」に従い、工事期間や作業員名簿も記載しなければなりません。ダウンロード先は本記事の後半にて説明します。

安全衛生計画書作成のポイント

安全衛生計画書を作成するにあたっては、重要な4つのポイントがあります。それぞれ詳しく説明していきます。

実効性を必ず検証する

理想が先行し、形だけの計画書になっては意味がありません。安全衛生計画書を作成する際には、現場の状況を踏まえ、実際に実行できる対策かどうかを検証し、現実的な内容を設定することが大切です。
また現場で働く人とともに「計画・実施・評価・改善(PDCA)」サイクルを実践し、より精度の高い計画を練り上げていくことが大切です。

目標は数値で具体化する

目標を設定する際は、具体的に数値で表すと良いでしょう。
例えば頻度を明示していなければ、「毎日やろう」と考える人と「週に1回程度でもいいだろう」と考える人がいます。同じ計画でも、個々の従業員ごとに解釈が異なってしまいます。
また、全体の目標数値に対し現段階でどの程度達成できているか定期的な取り組みが当初の予定通り実践されているかどうかなどを検証する際も便利です。

現場へも周知徹底し方針・目標を浸透させる

策定した安全衛生計画はその内容を現場へ周知するとともに、目標を浸透させる必要もあります。
例えば、朝礼時やミーティング時に項目を紹介したり、現場での進捗を確認したりします。
方針や目標を標語にして、定期的に唱和する機会を設けるなども有効です。従業員の出入りの多い場所に計画書を掲示しておくのも良いでしょう。

定期的に見直し、改善する

計画書は、完成させることがゴールでなのではなく、定期的に見直すことが重要です。
また、ある年に年間計画として設定したものでも、期間の途中で設備や生産体制に大幅な変更があった場合には、変更する必要があります。定期的に見直し、現状の内容では目標達成が困難だと予測されれば、対応策を追加する必要があります。

安全衛生計画書のテンプレート

この章では、安全衛生計画書を作成する際に利用可能なフォーマットや、施策の策定に役立つチェックリストなどの資料について説明します。また、それぞれの入手先も紹介します。

都道府県労働局などのwebサイトをチェックする

厚生労働省の管轄下にある、各都道府県の労働局や労働基準監督署のwebサイトから、安全衛生年間計画書のひな形をダウンロードできる場合があります。
製造業・建設業・その他と業種によって設定項目が異なるため、自社に合うものを選び、記入例を参考にしながら作成しましょう。また安衛法の改定状況に注意し、原則として最新版を使用します。

安全衛生マネジメント協会のページを活用する

特に初めて作成する際は、「安全衛生マネジメント協会」のwebサイトに記載された流れに沿って作成するのが分かりやすく、おすすめです。
まずは「チェックシート」をダウンロード・記入し、次にチェックシートの結果と安全衛生計画の記入例を参考にすると、スムーズに作成ができます。
詳しくは下記のページを参照してください。

参照: 安全衛生マネジメント協会「安全衛生計画書の作成と活用」

工事安全衛生計画書は統一様式を参照する

工事安全衛生計計画書は、全国47都道府県の建設企業者で構成された「全国建設業協会(全建)」が定めた全健統一様式を使用します。全建は、建設業界を取り巻く環境の変化に応じて改訂をしているため、常に最新の状況に合わせた計画書を作成できます。
様式はさまざまなサイトからダウンロードが可能です。「全健統一様式 工事安全衛生計計画書」などのキーワードで検索してみてください。

安全衛生計画書の例文

最後に、安全衛生計画書を作成する際に参考になる記入例を各項目ごとに紹介します。

記入項目とその内容

以下は項目の一例と、その欄に記載すべき内容をまとめたものです。

  1. 基本方針・目標:現場で業務にあたるすべての人が意識すべきポイント
  2. 安全衛生管理体制:担当者の名前や組織図、担当者の役割や権限
  3. 危険または有害性等の調査(リスクアセスメント)とその対策:調査・討議に基づく決定事項
  4. 年間スケジュール:実施予定月と実際に行った月を示す〇や矢印
  5. 次年度への課題:目標の達成状況などを踏まえた次年度の課題

「安全衛生の基本方針」の記入例

基本方針は箇条書きなどにし、従業員が理解しやすいようにまとめます。
例えば、「社員の健康と安全を第一とする」や「全従業員が一丸となって安全衛生活動に取り組む」「快適な職場環境作りを促進する」など、管理者や従業員が心がけるべき内容を記載します。

「年間目標」の記入例

年間目標は、「労災事故ゼロ」や「ヒヤリハットの報告件数を前年比35%増やす」、「従業員の定期健康診断受診率100%」「墜落・転倒災害の発生件数を5件以下にする」のように、定量的に測定可能な目標を明記します。

「実施項目」の記入例

実施項目は、目標をクリアするための具体的な対策例と考えるとよいでしょう。
例えば先に挙げた「墜落・転倒災害の発生件数を5件以下にする」という年間目標を達成するためには、「使用する安全器具の定期的な自主点検」(設備面由来のトラブル抑止)や「定期健康診断の実施」(体調不良の兆候把握)などが考えられます。

現場のリスクに直結した安全衛生計画書を

安全衛生計画書は非常に重要です。労働災害を防ぐだけではなく、全従業員が職場で安
心して健康的に働きつづけることにも役立ちます。現場をしっかり調査したうえでリスクを洗い出し、数値目標を設定・共有するのがポイントです。
安全衛生計画書を作成して効果的に安全衛生活動を実現しましょう。

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