建設業や工事現場、製造業などの現場でよく聞かれる「ヒヤリハット」。労働災害や事故が起こるかもしれなかったときに使われる言葉ですが、実際にどのような事例があるのでしょうか。
本記事では、ヒヤリハットの概要や事例、具体的な対策や安全教育の必要性について解説します。また、ヒヤリハットの防ぐため専門家による知見を得られる講演プランも合わせてご紹介します。
ヒヤリハットとは
「ヒヤリハット」とは、重大な事故や災害につながりうる一歩手前の状況のことを指します。厚生労働省兵庫労働局では「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のこと」と定義しています。
ヒヤリハットは、特にリスクマネジメントの観点から非常に重要だと位置づけられています。その背景には、1931年にアメリカの当時損害保険会社に所属していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」があります。
ハインリッヒ氏は、労働災害事故5,000件の原因について調査した結果、1件の重大な事故の背後には29件の軽微な事故が、さらにその背後には300件のヒヤリハットがあるという法則を導き出しました。このヒヤリハットの時点で事故を食い止められれば、軽微な事故も重大な事故も起こりにくくなると考えられるのです。
ヒヤリハットの語源
ヒヤリハットの語源は「ひやりとした」「はっと気づいた」で、日本語から来ています。思いがけない事故に「ヒヤリ」としたり、ミスで事故を起こしかけて「ハッ」としたりした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
「ヒヤリハット」という言葉は日本語なため、英語で「ヒヤリハット」に当たる単語はありません。英語で表したい場合は、「close call(間一髪)」や「minor incident(小さな事故)」などを使います。
工場や建設現場で日常的に起こるヒヤリハットの事例と対策
では、工場や建設現場で起こりうるヒヤリハットにはどんなものがあるのでしょうか。ここでは、具体的な事例とその対策をご紹介します。
事例①:フォークリフトでの転落未遂
工場で作業中のヒヤリハットの一例として、フォークリフトでの転落未遂があります。例えば、フォークリフトで倉庫の中2階に段ボールを荷上げしようとして、フォークリフトのパレットに足を乗せて段ボールを抱えたところ、ふらついて転落しそうになった、というものです。
このヒヤリハットが起こった原因は、フォークリフトのフォークを中2階に差し込まなかったこと、そしてパレットの上に足を乗せてしまったことです。「なんとなく大丈夫そうだと思った」という油断が招いた事故と言えるでしょう。
対策として、フォークリフトによる荷上げの際には作業床にフォークを確実に差し込むこと、危険が予測される作業では安全帯を使うことが挙げられます。
事例②:バックで人をひきそうになった
建設現場でよく起こりうるヒヤリハットの一例として、工事車両を運転していて人を巻き込みそうになってしまった、というものがあります。ダンプトラックで土を運んできてバックしようとしたものの、バックミラーに人が見えたため慌てて急停止した、といった事例が当てはまります。
このヒヤリハットが起こった原因は、トラックの運転や作業そのものに対する慣れだと言えるでしょう。「いつも同じように作業をしているから、今回も大丈夫だろう」「きっと人はいないだろう、避けてくれるだろう」という思い込みもあったと考えられます。
対策として、狭い場所でダンプトラックなどの後方視界がよくない大型車両をバックさせるときには、誘導者を配置することが挙げられます。誘導者を配置することで、周囲に人がいた場合に避けてもらえますし、安全にバック動作を行えます。
事例③:搬送用コンベアの清掃中、手を巻き込まれそうになった
製品搬送用のコンベアは、挟まれ・巻き込まれなどが起こりやすい機械です。例えば、コンベアを停止させないまま清掃を行っていたところ、ウェス(機械を清掃するための布)が引っかかり巻き込まれそうになってしまった、などのヒヤリハットがよく見られます。
このようなヒヤリハットが起こる原因には、ベルトコンベアを停止させることなくウェスを使って清掃を行ったことなどがあります。いつも使っているベルトコンベアなため、「なんとなく安全だろう」「使い慣れているから、大丈夫だろう」と油断したり、思い込んだりしてしまうのです。
対策として、清掃や異物・生地・包装紙などを除去する際や、検査・修理などの作業を行う際には、必ずベルトコンベアを一時停止し、確実に停止したことを確認してから作業を行うようにすることが挙げられます。
事例④:足場上での転落未遂
足場上での転落未遂は、建設現場で非常によく起こるヒヤリハットです。例えば、建設現場において作業床の上で布板を結束してあった番線につまずいた、突然足場板のツメがちぎれて乗っていた足場板が傾き、バランスを崩した、など、挙げられる事例も枚挙に暇がありません。
こうしたヒヤリハットが起こる原因は、足場を組み立てるときや移動するときの点検不足です。「たぶん大丈夫」「危ないものはない」という思い込み、メンテナンスの徹底不足と言えるでしょう。
対策として、目視でしっかり組み立て時や作業前の点検を行うことが挙げられます。番線や紐など足をひっかけやすいもの、ツメ取り付け部の劣化などは点検で十分発見できるでしょう。
事例⑤:つまずき、転倒未遂
建設現場にはモノが多く、つまずきやよろめき、転倒未遂もよく起こるヒヤリハットです。例えば、段ボール箱を抱えて歩いていたところパイプにつまずきよろめいた、クレーンで足場用鋼管を搬送中に転倒しそうになった、などがヒヤリハット事例として挙げられます。
こうしたヒヤリハットが起こる原因として、そもそも視界を大幅に塞ぐような大型の段ボールを手作業で運んでいる、運搬通路(動線)にパイプなどを放置している、長尺のバラ物をクレーンで運ぶ際の玉掛け方法やロープ取り付けについての知識が不足している、などがあります。
対策として、現場の整理整頓を徹底すること、大型の段ボールなどは視界を塞がないよう運搬器具を使うこと、長尺のバラ物の玉掛けや運搬について知識を十分につけてから作業を行うこと、などが挙げられます。
ヒヤリハット報告書の書き方
ヒヤリハットが起こったら、共有して他の人が起こさないよう、報告書を提出してもらうとよいでしょう。ヒヤリハットの事例を集めることで、現場にどのような対策が必要なのかもわかりやすくなります。ヒヤリハット自体の再発防止はもちろん、ハインリッヒの法則にあるように、重大事故につながる前に食い止める意味もあります。
ヒヤリハット報告書で必要なのは、5W1Hと呼ばれる以下の項目です。
- 当事者の基本情報
- ヒヤリハットが起きた発生日時、場所
- 発生したときの作業内容、状況
- ヒヤリハットから想定される重大な事故
- 考えられる原因と再発防止に向けた対応策
また、ヒヤリハット報告書を書くときには、以下のポイントに注意しましょう。
- 発生後、できるだけ速やかに作成する
- 必要に応じて箇条書きなどを使い、簡潔にわかりやすく記載する
- 客観的な事実を記載する
- 専門用語や略語などはできるだけ控える
また、想定される事故や考えられる原因については、直接的・間接的なものをすべて洗い出し、最悪のケースを想定することで労働災害の防止に活かしやすくなります。
ヒヤリハット報告書は意味ない?
ヒヤリハット報告書は意味がないなどと言われることがありますが、これは、ヒヤリハット報告書を「書くだけ」で終わってしまっているからだと考えられます。ヒヤリハット報告書は書くだけでは意味がなく、書いた後にその内容から事故につながった原因をつきとめ、改善することに意義があります。特に、「再発防止に向けた対応策」の部分を意識するとともに、設備や点検など活かせる部分にはすぐに反映し、「今後同じようなミスを防ぐためにどうすべきか」を実践していきましょう。事例の共有も大切です。
ヒヤリハットを安全教育に活かす
前述の事例の共有とも関連しますが、ヒヤリハット事例は安全教育に活かすことも可能です。例えば、ヒヤリハット事例を安全大会で紹介することで、現場で働く多くの従業員に注意喚起ができます。
安全大会とは、建設業や工事現場で働く労働者を労働災害から守るため、労働者の安全衛生に関わる知識を深めたり、意識を高めたりするために行われる集会です。労働災害の多くはヒヤリハットであることがわかっているため、安全大会で呼びかけることで未然に防げる可能性が高まるでしょう。
他にも、ヒヤリハット事例を報告しやすい環境を整えたり、ヒヤリハット事例を共有すること、意識することだけでも大切であることを現場全体で認識することも安全教育で必要なことです。
ヒヤリハットセミナーで現場の安全意識を向上
ヒヤリハットを意識すること、ヒヤリハットを自分ごととして捉えてもらうためには、ヒヤリハットセミナーを受講して現場の安全意識を高めることも重要です。そこで、弊社安全大会チームが厳選した、ヒヤリハットを防止するための講演プランをご紹介します。
防災士 防災アトラクション ファシリテーター
やる気にさせる以上にその気にさせるナビゲーター
元 JR東日本テクノハートTESSEIおもてなし 創造部長
JR東日本「安全の語り部(経験の伝承者)」
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