
「安全衛生優良企業」の認定を受けることは、企業の採用力・定着率アップに効果的です。安全衛生優良企業認定制度とはどのような制度で、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか。
この記事では、その認定基準や申請方法、具体的な施策例などについて解説します。
安全衛生優良企業とは
安全衛生優良企業公表制度とは、厚生労働省が「従業員の安全や健康を守るための取り組みを積極的に行い、高水準で安全衛生を維持・改善している企業」を認定のうえ公表する制度です。
安全・健康で働きやすい職場を増やしていくために、2015年からスタートしました。
認定企業は「ホワイトマーク(Wマーク)」が取得可能
安全衛生優良企業に認定されると、企業は「ホワイトマーク(安全衛生優良企業認定マーク)」を取得できます。
認定基準として、関連法令の順守などを中心に、約80項目をクリアする必要があります。ホワイトマークを掲げることで、労働環境が劣悪なブラック企業との明確な差別化を図ることが可能です。
優良認定の基準・達成条件
認定基準は、必須項目と評価項目の2つに分かれています。
一定基準以上の条件を満たし、総合的に優れた取り組みを認められた企業が、安全衛生優良企業として認定されます。
必須項目:企業の過去の状況に関する項目
必須項目には、まずは「過去の実績」を振り返るもので、労働安全衛生法等の順守や、安全衛生の実施体制の確立などがあります。一定期間中に労働安全衛生法等の違反があったり、労災が発生したりしている場合、その事実だけで認定の対象外となります。
- 過去3年以内に労働基準関係の法令違反がない
- 重篤な労災を2件以上発生させていない
- 従業員の時間外労働時間が60時間以上の人がいない
など、全15項目があります。
必須項目:現在の取り組みに関する項目
次は「企業が今現在取り組んでいること」に対する評価基準です。安全衛生の管理体制など、企業が必ず満たしていなければならない項目が全18項目あります。
- 各事業場に安全や健康に関する責任者を設置している
- 企業のトップが従業員の健康や安全の確保を重視することを明文化している
- 安全衛生教育に関する実施計画を策定し、実行している など
評価項目:今後の安全衛生活動や労災対策に関する項目
評価項目は、企業の積極的な安全衛生活動を評価するもので、企業が「今後も継続的に取り組むべきこと」についてがメインです。この項目では、いかに安全でリスクの少ない職場環境を整えられているかを評価するため、対策や取り組み別には6割以上、項目全体で8割以上の達成率が問われます。
- 企業全体で従業員の健康の維持・増進に関する計画を立て、実行しているか
- 従業員と安全活動のための計画を共有できているか
- 企業全体としてのメンタルヘルス対策を推進するための計画を策定し、実施しているか
- 過去3年間の全ての年において年次有給休暇の取得率が 70%以上であるか
- 企業の全ての屋内の職場において、受動喫煙防止対策(全面禁煙又は空間分煙)を実施しているか など
安全衛生活動の推進や、健康管理への取り組みに関する内容が中心です。
なお、各項目の詳細は、以下のサイトに掲載されています。
参照:厚生労働省「安全衛生優良企業公表制度認定基準解説書」(平成29年7月版)
安全衛生優良企業になるための施策例5選
この章では、企業が安全衛生優良企業になるための具体的な施策例を5つ紹介します。
施策例1.労働関連法の順守・労働環境の整備
認定を受けるには、労働基準法や労働安全衛生法(安衛法)の順守が不可欠です。
当然ながら、まずは労働基準法に基づき、労働時間や休日・給与などの規定を順守しなければなりません。また安衛法に関連して、継続的に、安全衛生のための計画策定を徹底したり、健康で働きやすい職場環境の整備を推進したりします。
施策例2.健康増進・メンタルヘルス対策
健康増進や、メンタルヘルス対策などの取り組みも大切です。
例えば、管理職や店長職を対象にメンタルヘルス研修を開催。ラインケアやセルフケアの方法など、従業員全員がメンタルヘルス管理について理解を深められる機会を提供します。
また、身体面での健康増進施策として、スポーツイベントを実施して参加を推奨したり、健康診断受診率の目標数値を従業員全員と共有したりする企業もあります。
施策例3.安全衛生に関する社内体制の整備
社内体制整備施策の一例として、従業員や関係者が参加する安全協議会を設けている企業もあります。協議会では、現場で起こったヒヤリハット事例を報告し、その予防策を全員で討議しています。
安全衛生委員会を設置し、職場の安全衛生について目標と達成計画を策定するのも基本的な取り組みです。委員会では計画の進捗を随時確認し改善していく、というサイクルを実践します。
施策例4.安全大会開催や定期パトロール実施
従業員全員参加で、安全意識を高める大会やパトロールを定期的に実施するのも有効です。
安全大会を毎年企画し、その中で、安全活動計画の説明や状況の報告、安全講話を実施。また月に複数回の現場パトロールにより、継続的に安全衛生管理の強化を図っている例もあります。
施策例5.安全衛生教育の推進
認定を目指す企業にとって、安全衛生教育の推進も重要な施策です。この分野の専門家を講師に招いて、従業員への研修・講習を積極的に取り入れている企業もあります。
研修で学ぶ内容としては、リスクアセスメント(職場における潜在的な危険性や有害性を調査・特定し、リスクを低減する取り組み)の基礎知識や方法、KY(危険予知)活動の実践、救命措置などが挙げられます。
安全衛生優良企業認定を受けるメリット
企業が認定を受けるには、厳しい条件をクリアしなくてはなりません。しかしそれを上回るさまざまな利点があります。この章では、企業が認定を受けるメリットについて4点紹介します。
企業の信頼性・イメージ向上
認定マークを掲示することで、従業員にとって健康的で働きやすい環境が整っている「ホワイト企業」と印象付けられるメリットがあります。給与が適正で残業が少ない、有休が取りやすい、従業員の定着率が高い、福利厚生が充実している、などです。
それに加え、取引先からも「ビジネスパートナーとして、リスクが少なくて安心」というイメージを持ってもらえるようになります。社内外で会社の評判が安定すれば、事業にも好循環が生まれるでしょう。
採用力アップ
安全衛生優良企業認定の最も直接的なメリットは、採用力アップにつながることです。労働人口減少時代に突入し人材の獲得競争が年々激化している今、採用力強化は企業にとって最重要事項の1つです。
ホワイト企業であるという印象は、求職者への効果的なアピール材料になります。「厚生労働省のお墨付き」という事実により、競争優位性が高まり、他企業との差別化が図れます。
多くの人に就職先・転職先として選ばれ、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。
既存社員のエンゲージメント・定着率向上
公的な認定により、企業の安全衛生管理や労働環境の充実が証明され、既存の従業員の安心感や満足度も大きくなります。
すると、業務へのモチベーションや会社へのエンゲージメントが向上し、離職率の低下や長期的な人材定着にもつながるでしょう。
定着率がアップすると、採用や育成にかかわる手間や金銭などのコスト減にもつながります。
助成金の活用
さらに、取得を目指す過程で利用できる助成金制度が豊富なのも、メリットの1つです。以下のような制度について調べ、上手く活用すると良いでしょう。
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- 両立支援等助成金
- 障害者雇用安定助成金
- 職場意識改善助成金
- 職場定着支援助成金
安全衛生優良企業認定申請の手順
それでは、実際にどのような手順で申請できるのでしょうか。この章では、申請の仕方について説明します。
申請から認定までの流れ
申請から認定までの流れは以下のようになります。
- 「職場のあんぜんサイト」での自己診断
- 施策の拡充・強化
- 必要書類の準備・提出
- 各都道府県の労働局による申請内容の審査・ヒアリング
- 厚生労働省による認定・公表
各項目の詳細については後述します。
申請書類はダウンロード可能、提出は対面
申請書類は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」よりダウンロード可能です。
内容に沿って作成したら、企業の本社を管轄する都道府県労働局の窓口に出向き、申請します。郵送でも提出可能ですが、提出する前に一度、電話などで直接連絡・確認しておきましょう。
1.「職場のあんぜんサイト」での自己診断
厚生労働省のwebサイト「職場のあんぜんサイト」内にある自己診断のページでは、自社の安全衛生への取り組みレベルを診断し、基準を満たしているかを確認できます。
業種によって基準項目が異なるため、自己診断では、最初に業種を選ぶ必要があります。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト:安全衛生優良企業公表制度」
2.施策の拡充・強化
①の自己診断結果に基づき、基準を満たしていない項目について、施策の拡充ないし強化しましょう。
企業側で、報告できる実績を作る必要があります。施策の参考として、本記事で先に紹介した項目のほか、「職場のあんぜんサイト」で認定企業の実例を閲覧できます。
3.必要書類の準備・提出
次に、各項目をクリアしていることを示すための書類を作成します。
様式に従って必要項目の記載が完了したら、書類を都道府県の労働局へ提出します。記載にあたって不明点がもしあれば、労働局に問い合わせてみると良いでしょう。
4.労働局による申請内容の審査・ヒアリング
労働局では、書類に記載された内容に従って、申請企業が基準を本当にクリアしているかどうかの審査に入ります。また、内容によっては、労働局が直接企業に対しヒアリング調査を実施することもあります。
5.厚生労働省による認定・公表
書類審査とヒアリング調査の結果、認定基準を満たしていれば、安全衛生優良企業に認定されます。
認定を受けた企業は厚生労働省のwebサイトに優良企業として公表されるほか、安全衛生優良企業マーク推進機構のwebサイトでも検索できるようになります。
安全衛生教育を強化して安全衛生優良企業に
本記事では、安全衛生優良企業制度について解説しました。厳しい条件をクリアして認定を受けると、採用力アップや従業員のエンゲージメント向上など、さまざまなメリットが得られます。人材を確保し組織を安定させるため、ホワイトマークの取得を検討してみてはいかがでしょうか。
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