
安全衛生教育は、従業員の安全と健康を守るうえで非常に重要な施策です。
ここでは、安全衛生教育の基本、ゼロ災害を目指す安全衛生教育の取り組みや企業に課せられる法的義務になどについて解説していきます。
安全衛生教育とは
まずは、安全衛生教育とはどのようなものなのかについて説明します。職場における安全意識の向上の重要性や教育の目的なども併せて見ていきましょう。
安全衛生教育とは何か
安全衛生教育とは、「従業員の労働災害防止を目的とし、従業員が安全で衛生的な職場環境で業務を遂行するための知識を与える教育」です。
労働安全衛生法に基づき、企業は全ての従業員に対して安全衛生教育を徹底しなければなりません。
職場における安全意識向上の重要性
安全意識の欠如した職場は、作業員の無茶な行動や注意力の低下を招きます。作業手順やルールの無視などが発生し、事故や怪我の原因となりかねません。労災が発生すれば生産性が低下し、従業員自身だけでなく企業にも大きな影響をもたらします。
安全意識を高めることで、従業員が自らの危険を察知し、回避や防護につながる行動を取れるようになります。労災を防ぐという目的のもと、従業員同士のコミュニケーションが円滑になることで、チームワークの強化にもつながるのです。
安全衛生教育の目的
安全衛生教育の目的は、「労働災害の防止」です。そのためにも、安全で健康な職場環境をを目指す必要があります。労災を防止するためにも、従業員を指揮・監督するマネジメント層やリーダー層、従業員自身には業務での安全衛生を理解してもらわなければなりません。
そのためにも、教育を通じて安全衛生に関する知識や意識を身につけてもらい、そのうえでリスクがより少ない方法で作業する訓練を行わなければなりません。
安全衛生教育が求められる法的背景
企業に安全衛生教育が求められる理由には、労働安全衛生法などの法的背景があります。どのような背景なのでしょうか。労働安全衛生法の内容に加え、違反があった場合のリスクについて詳しく解説していきます。
労働安全衛生法における教育の位置づけ
労働安全衛生法は、「従業員の安全・健康を確保し、快適な職場環境を形成すること」を目的として1972年に定められた法律です。
労働安全衛生法によると、事業者は従業員に対して、「雇入れ時の教育」や「作業内容変更時の教育」などが義務付けられてます。企業が従業員に安全で健康な職場環境を提供し、労災を防止するためにも、安全衛生教育は重要な位置づけとなっています。
違反時に生じる罰則や企業イメージ低下などのリスク
労働安全衛生法の違反行為があった場合、企業にはさまざまなリスクが発生します。
法的なリスクとしては、企業の操業停止などの行政処分のほか、企業だけでなく経営者個人も刑事責任を問われるケースがあります。
ビジネスにおけるリスクとしては、企業の評判を落とし、顧客や従業員からの信頼を失う可能性があります。また、公共工事の入札に参加できず指名停止処分を受けたり、優秀な人材確保が困難になったりといったリスクが発生するのです。
このようなリスクを回避するためにも、労働安全衛生法を遵守し定期的な安全教育の取り組みが必要です。
ゼロ災害を目指す安全衛生教育の取組み6選
労災ゼロを目指すためにも、安全衛生教育に取り組むことが重要です。安全衛生教育は、大きく分けて「義務」と「努力義務」の2種類に分類されます。
「義務」とは、労働安全衛生法で明確に実施が義務付けられている教育のこと。実施していない場合、罰則の対象となります。一方「努力義務」は、罰則の対象とはならないものの、積極的な実施が望まれるものです。
ここでは、安全衛生教育の「義務」「努力義務」の取り組みを6つご紹介します。
①雇い入れ時教育(法的義務あり)
「雇入れ時教育」とは、新規に雇用された従業員に対する、業務内容に合わせた安全衛生に関する教育です。
雇入れ時教育では、例えば、作業で取り扱う機械や原材料などの危険性・有害性やこれらの使用や操作に関する注意点について学んでもらいます。また安全装置・有害物抑制装置または保護具の性能や取扱い方法なども、企業側から正しく伝えておく必要があります。
新入社員は業務に慣れていないことから、安全に関する知識や意識が不足している場合が多く、労災に遭うリスクも高い傾向があります。そのため、実際に現場作業に入る前の段階でしっかり教育を受けてもらうことで、危険を未然に防ぎます。
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②作業変更時教育(法的義務あり)
「作業変更時教育」とは、従業員の作業が変更になった際に企業に義務付けられている、新たな業務内容に合わせた安全衛生教育です。
作業変更時教育は、雇入れ時教育とほぼ同じ内容です。新しい業務で使用する機械や材料のリスクと安全な取扱い方法や、安全装置や保護具の重要性・使用手順などについて従業員に理解してもらいます。
③危険有害業務従事者への特別教育(法的義務あり)
「危険有害業務従事者への特別教育」とは、従業員を特定の危険がある、あるいは有害な業務に就かせる際に企業が提供しなければならない、特別な教育です。
特別教育では、雇入れ時や作業変更教育と同様の内容のほか、実際に労災が発生した時の適切な対応方法についての説明も欠かせません。
特別教育が必要な業務には、一例として、研削、溶接、フォークリフト運転などが挙げられます。これらの業務は重大な労災が発生しやすい傾向があり、従事者は一般的な作業とは異なる専門的な知識や技能が必要です。
以上の①~③が違反時に罰則を伴う安全教育です。
④職長を対象とした教育(努力義務)
「職長を対象とした教育」とは、事業場において従業員を直接指導・監督する職長に対して行われる教育です。
職長は、現場の最前線で働く従業員に対し、安全な作業方法や手順を指導し、安全意識を高める役割を担います。そのため、職長自身が安全に関する知識やスキルをしっかりと身につけていることが重要です。
職長教育の対象となる業種には、建設業・製造業・電気業・ガス業・自動車整備業・機械修理業などがあります。また、2023年4月からはこれらに加えて一部の食品製造業や新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業なども対象となりました。
企業には、職長が作業手順の定め方や従業員の配置方法などを学ぶ機会を提供し、安全な職場環境の構築を目指すことが求められます。
⑤管理者の能力向上教育(努力義務)
「管理者」とは、総括安全衛生管理者の指示のもとで、職場の安全に関する専門的業務を担当する人のことです。
管理者は、事業場における安全衛生の推進において、非常に重要な役割を担っています。労働安全衛生法では、安全管理者や総括安全衛生管理者などの選任が義務付けられています。管理者は、従業員全体の安全を確保するために、常に最新の知識とスキルを身につけなければなりません。
管理者の能力向上教育では、法改正にともなう新たな規制や義務についてやリスクアセスメントやヒヤリハット報告制度について学びます。リスクアセスメントとは、作業現場の危険を事前に見つけ出し、その危険を減らすための調査と活動です。ヒヤリハット報告制度は、作業中に「ヒヤリ」、「ハッとした」危険な事態が発生したものの、事故には至らなかったケースについての報告をする制度のことです。
⑥健康増進などの教育活動(努力義務)
事業者は従業員に対して「健康教育や健康保持増進を図る措置」を継続的・改革的に実施するように努めなければなりません。
従業員一人ひとりが自分自身のコンディションに目を向けて、運動指導・メンタルヘルスケア・栄養指導などを受けて健康維持・増進に務められるよう、企業がサポートします。
安全衛生教育で企業が今抱えている4つの課題
安全衛生教育は、従業員の安全を守るためにも重要な教育です。しかし、企業では安全衛生教育に関して4つの課題を抱えています。その4つの課題について見ていきましょう。
安全衛生教育の形骸化
厚生労働省の2023年の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、労働安全衛生法で義務付けられている雇入れ時の安全衛生教育が、4割以上の事業所で実施されていませんでした。現状では多くの職場において、安全衛生教育が形骸化している可能性が高いといえます。
安全衛生教育の形骸化を放置すると、従業員が正しい知識を持たないまま、危険な業務に割り当てられることも起こり得ます。労災につながるだけでなく、企業の行政処分や経営者の刑事罰の対象となる可能性があります。
法令遵守を徹底し、教育の形骸化を防ぐことが求められます。
内容のマンネリ化
また、教育の内容にも問題があるようです。
東京労働局の「令和4年度 年末・年始 Safe Work 推進強調期間」のアンケートによると、「内容のマンネリ化」が安全衛生教育の課題であるという回答が、全体の3割以上を占めました。
多くの企業が、社内の安全衛生教育が形式的なものになっていることを自覚しており、改善を要すると考えている状況であることがうかがえます。マンネリ化した教育では効果が薄れ、労災の発生リスクを高めることになるでしょう。
参加者のモチベーション・職場全体の安全衛生への意欲低下
参加者のモチベーション・職場全体の安全衛生への意識低下も問題視されています。
厳しい経営環境の中、企業が利益・売上を優先した結果、安全衛生への配慮が後回しになっているケースもあるでしょう。一部の企業では、実態としては十分な安全衛生教育が行われていなかったり、業務に伴うリスクを正しく理解しないまま危険な仕事に携わっていたりする可能性があります。
担当者の負担
安全衛生教育担当者の負担が大きいという課題もあります。
それぞれの業務に合わせた教育内容を作成したり、労働安全衛生法をはじめとする関連法令を正しく解釈して教育内容に落とし込んだりなど、多くの手間がかかります。
教育のための特別な機会を企業側で設けず、実際の業務の中に組み込んで現場に任せきりにしている場合は、特に注意が必要です。指導者が日々の業務に追われて、教育に十分な時間を確保できていない場合も多いでしょう。
課題の解決方法
それではどのようにすれば、こうした事態を防げるのでしょうか。課題を解決する2つの方法を紹介します。
動画教材やeラーニングの導入
安全衛生教育においても、動画教材やeラーニングの導入が有効です。例えば厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」にも、無料で視聴できる動画教材が公開されています。
教材には、全業種共通で知るべき事項や、業種別に学ぶべき内容などがまとめられています。外国語に対応した動画教材などであれば、海外から日本へ働きにきた人も学びやすいでしょう。
動画はリピート再生できるので、理解できるまで繰り返し視聴できるのも利点です。
外部講師による研修・講習
外部講師を招くことも、安全衛生教育の課題を解決するために効果的です。
さまざまな現場を見てきた専門家や、メンタルヘルスを熟知した専門家を講師として迎えれば、社内講師にはない事例や知見に触れることができます。
特定の業種向けプランなど、豊富な選択肢から自社のニーズに合うプログラムを選択・アレンジできるのも魅力です。
安全衛生教育に専門家の講習を取り入れるメリット
安全衛生教育の一環として、外部講師に講習を依頼すればマンネリにならず、受講者に新たな気づきを与えて、効果的に安全意識を高められるでしょう。企業に安全衛生のアドバイスをする専門職・「労働安全・衛生コンサルタント」などの講師もいます。
専門家の講習では、以下のようなメリットも期待できます。
- 専門的な安全技術の指導を受けられる
- 社内では気づきにくい安全衛生上の問題を見つけ、具体的な改善策を提案してもらえる
- 社内講師と比較して、受講者が聞く姿勢に入りやすい
- 社内運営で発生するさまざまなコストを省ける
安全衛生教育で学ぶ具体的な内容
ここからは、安全衛生教育で学ぶ具体的な内容について4つピックアップし、紹介します。
1.労働災害の事例
安全教育では、労災やヒヤリハットの実例を学ぶのが役立ちます。ヒヤリハットとは「実際には至らなかったものの、大きな事故につながる恐れがあった出来事」のことを意味します。
例えばある建設現場において、足場の解体作業中に、足場材が地上に落下するという事例がありました。原因の1つは、落下防止ネットが固定されていなかったことで、作業員は「固定されている」と思い込んでいました。教訓として、ネットを固定するのはもちろん、作業前にそのチェックを怠ってはいけないことが分かる事例です。
こうした事例は、厚生労働省のサイトなどでも公開されています。業種や労災の種類別の検索も可能なので、参考にしてみてください。
2.リスクアセスメントの手順や方法
労働安全衛生法では、リスクアセスメントの実施が努力義務とされています。アセスメントとは「評価」を意味し、職場に潜む安全上のリスクを明らかにするものです。その手順や方法についても、安全衛生教育で学びます。
まずは対象となる機械や作業を明確にし、機械や作業に潜む危険性を洗い出します。そして危険の大きさや発生頻度を見積もり、リスクが許容できるレベルかどうかを評価して対策を検討する、という一連の流れや、それぞれの進め方などを習得します。
3.職場内の安全ルール
具体的な安全ルールには、例えば以下のようなものがあります。
- 服装規定
- 休憩時間の確保
- 衛生管理
- 作業手順の遵守
- 危険な状況の報告機械の安全な操作
- 安全衛生保護具の着用など
重視すべきルールは、業種や職場によって異なります。建設現場なら墜落防止について、化学工場なら化学物質の取扱いについてなどを学ぶ必要があります。
4.安全週間や安全大会の開催
安全週間や安全大会は、建設や工事現場で働く人の安全意識向上に不可欠な取組みです。
安全大会は、労働安全衛生法などの法規制や過去の労災事例、最新の安全技術や機器に関する情報を集中的に学べる機会です。従業員へのこうした機会の提供も、重要な安全衛生教育施策の1つです。
安全衛生教育の具体例
それでは実際にはどのような教育が実施されているのでしょうか。ここからは、安全衛生教育の具体例について紹介します。これ以外にもwebでさまざまな事例が公開されているので、ぜひ検索してみてください。
事例①製造業(従業員50~99人)の事例
ある製造業の企業では、工程ごとに必要なスキルマップを作成し、以下のように社内教育に活用しています。この施策は、規模や業種を問わず応用可能でしょう。
- 各作業工程に必要なスキルや知識を明確にするスキルマップの作成
- 従業員一人ひとりに合わせた教育計画の策定
- 一定レベルに達した従業員を認定し社内講師に採用
事例②外食チェーン(従業員1,000人以上)の事例
著名な外食チェーンの事例です。外国人従業員が増加する現場では、教育ツールの多言語化が参考になるのではないでしょうか。
- 店舗内の危険箇所を複数の言語のハザードマップと現場シールで可視化
- 事故率の高い入社3ヶ月以内の従業員に対して、タブレット端末による動画教育を義務化
事例③貨物運輸業(従業員100~999人)の事例
貨物運輸業のドライバーは、長距離運転や荷物の積み下ろし時など、労災のリスクが高い職業です。以下の事例のように、外部サービスもうまく使って事故防止を徹底するのがポイントです。
- 月1回の安全衛生教育指導
- DVDを用いた危険予知トレーニング
- 外部講師による車両点検整備講習会
- 外部教育機関が開催するドライバー研修会への参加
安全衛生教育の効果を高めるための工夫
安全衛生教育は形骸化・マンネリ化が多くの企業にとって課題であることを先に説明しました。ここからは安全衛生教育の効果を高めるための工夫を2つ紹介します。
危険を体感するプログラムの導入
安全教育では、実際に危険を疑似的に体感することでより深い理解を得られます。
例えばある企業では、建築現場での墜落事故や工場での機械への巻き込み事故などをVRで従業員に擬似体験させています。またシミュレーター装置などを使用して機械の誤操作による事故を間近に目撃することで、安全への意識を高めている企業もあります。
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効果測定の実施
効果を高める前にまず必要なのが、教育の対象者がどの程度の安全意識を身につけているか、可視化することです。
教育効果の測定には、有名な「カークパトリックモデル」の4段階を用いるのがおすすめです。具体的には、教育終了後の「反応・学習・行動・結果」という各段階に応じたアンケートやテストの実施、現場での行動変化調査から、どのくらい効果が出ているか定量的に評価します。
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