58才にしてパソコンを始め、81才でアプリ「hinadan」を開発。2017年に「人生100年時代構想会議」有識者議員、2021年11月には「デジタル田園都市国家構想実現会議」の構成員に選出された若宮正子さん。
年齢に関係なく、86才になっても今なおシニア世代へのデジタル機器普及活動に取り組む若宮さんに、これまでの活動を振り返りながら、オンライン講演の可能性と難しさ、今後の展望などをお伺いしました。
■目次
聴講者の自由度が広がるオンライン講演の可能性
――すでに30年以上前からパソコンを使いこなし、パソコン通信をされてきた若宮さんですが、最初にオンライン講演を行ったのはいつ頃でしょうか?
若宮 確か昨年(2020年)の緊急事態宣言が出たころでしたので、3月か4月だったと思います。
――最初はオンライン講演に対して抵抗はありませんでしょうか?
若宮 私は、1999年にシニア世代のサイト「メロウ倶楽部」の創設に関わり、今は副会長として運営していますが、普段からSkypeで会議をしています。ですので、抵抗感というものはありませんでした。
――オンライン講演の魅力は何だとお考えでしょうか?
若宮 何よりも聴講者がどこでも自由に参加でき、レコーディングしてれば繰り返し視聴が可能なところですかね。私は講演でPowerPoint資料を使っていますが、対面の講演会では時々細かくて聴講者が読み取れない間に次のスライドにいってしまうこともあります。そんな時に、記録した動画があると、再度自分ペースで読み返すことができるので、その点も魅力だと思います。
また、私は耳に障害があるのですが、オンラインで会議をする時は音量を上げて聞いています。リアルの講演会ではできないことです。もし目に障害があったとしても、文字や画像の大きさや明るさも調整できますし…。
先日、デジタル庁のオンラインイベントがあった時は、リアルタイムで自動音声認識ソフトを使って、字幕をつけるように依頼したことがあります。自動音声認識ソフトだと誤変換することもありますが、事前に単語登録することで、ほぼ正確に文字表示ができるようになります。
デジタルになったことで、障害がある人も自分の見え方や聞こえ方に合わせて調整できたり、さまざまな支援ソフトや機能のおかげで使い勝手もよくなっています。聴講者の自由度が広がったことがオンライン講演の最大の魅力だと思います。
――逆にオンライン講演の難しさはありますか?
若宮 主催者の皆さんも同じことをおっしゃっていますが、やはり聴講者の反応が見えづらいところでしょうか。講演時に時々問いかけをすることがあるのですが、聴講者のビデオや音声オフの時はなかなか反応が返ってこなくて、どんな反応をしているのか?と少々不安に思うこともあります。しかも、ビデオをオンにしていても、マスクをしている聴講者もいらっしゃるので、表情がわかりづらいですよね。
リアルの講演だと、時々赤ちゃんの声が聞こえてくることもある。それくらいの騒音があった方がやりやすいというのはあります。
(オンライン講演の)そのような難しさを改善するために、講演でツールのチャットや投票機能、挙手機能なんかを使ってやっているところもありますね。講演後の質疑応答の時間は、聴講者の反応をみるのにとてもよい時間ですので、その時間ばかりは、厳密に全員マイク「OFF」にするのではなく、ざっくばらんな雰囲気で質問していただくようにお願いしています。
パソコンを始めたきっかけ
――プロフィールを拝見すると、定年後にパソコンを始めたとありますが、パソコンを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
若宮 もともと好奇心旺盛で、ひょんなことからパソコンの存在を知り、初めてパソコンに触れてからすぐに夢中になりました。
1990年頃の始めはMS-DOSが出たばかりで、Windowsもまだ開発されてなくて、パソコン人口も今と比べると少なかったですね。
その頃はインターネットもなかったので、パソコンに電話回線をつないで、パソコン通信を行っていました。58才でパソコンを覚えて、その数年後、母の介護で外出ができにくくなったときも家にいながらたくさんの情報を得ることができました。母が亡くなった後はシニア向けのパソコン教室を開いたりしていました。
1999年にシニアの交流サイト「メロウ倶楽部」の立ち上げの話が来て、創設スタッフの一人としてお手伝いしました。会員は当時は100人位で、今は250人位に増えました。
81才でアプリ開発、米アップル社ティム・クックCEOと初対談
――2017年にiPhoneアプリ「Hinadan」を開発されるわけですが、その経緯を教えてください。
若宮 スマートフォンが急速に普及し出した頃で、私は当時81才でした。周囲にガラケーからスマホに変えるシニアも多かったんですが、なかなか使いこなせていないという声も聞いていました。若者なら簡単なスワイプ操作が、シニアではなかなかできないということもありまして…。それで、シニアでも簡単に操作できて遊べるアプリを作ってみようと思ってことがきっかけでした。
「若者に勝てるゲームを」ということで、若者があまり知らないひな壇の置き方をゲームにしてみした。
最初は、だれかに頼もうといろんなこところで聞いてはみたものの、なかなか作ろうと言ってくれる人がいなかった。ある時、「若宮さんが作ってみては?」と言われまして、それでゲーム開発ソフトを探すところから始めました。
今でもMacブックを使っていますが、無料で使えるゲーム開発ソフトを探してみると、「Swift」というソフトがあることがわかりました。それを使って、時間が空いたときに作るという感じ、半年くらいかけて作りました。
2017年に公開すると、日本の新聞社がこのアプリを紹介してくれまして、それがアメリカのメディアであるCNNの目に留まりました。英語で自分のサイトで取り上げたいというメールが来ました。Google翻訳を使いながら、向こうの質問を私が答えるという形でメールのやりとりをしまして、全世界に私のアプリに関するニュースが流れました。すると、すぐに世界の40社近くのメディアで紹介されて、その瞬間に世界で有名人になってしまいました(笑)。
――同年の6月のアメリカのアップルの世界開発会議(WWDC2017)に招待を受けてますよね?
▲「WWDC 2017」で若宮さんとティムCEOのインタビュー風景
若宮 そうなんですよ。アップルの日本支社を通して「アメリカで世界開発会議があるので行きましょう」というお誘いがありました。最初は断ったんですが、「どうしても」と言われて、行くことになりました。どうも理由を聞いてみると、アップルのCEOであるティム・クックさんが、私と会って話をしてみたかったようです。
――最初にティムCEOにお会いになったときの印象を教えてください。
若宮 優しい方でしたよ。その時にどういった点に気を付けて開発したのか、高齢者のスマホの使い方とか、具体的な質問されて、10分くらい話をさせていただきました。
――ティムさんは若宮さんについて何か話していらっしゃいましたか?
若宮 「刺激を受けた」「触発された」という意味の「stimulate」という言葉をよく使っていらっしゃいました。当時は、おばあちゃんがゲームソフトを開発することがなかったもんで、驚いていらっしゃったのではないでしょうか。
それから、2018年の暮れにティムさんが日本に仕事で訪れたことがあって、その時に「仕事が終わってプライベートで何がしたいか」とアップル社の社員が聞いたそうです。一つは「居酒屋に行きたい」もう一つは「正子に会いたい」というご希望があったらしく、表参道のアップルの店で再会しました。きっと、ティムさんにとって私は気になる存在だったんだと思います。
――その時はどんなお話しをされたのですか?
若宮 「Hinadan」の英語版を作ったらよいというアドバイスいただきまして、その後、英語版と中国語版、韓国語版をリリースしました。今では10万以上ダウンロードされています。
だれもがデジタルを有効活用できる社会になれるように
――若宮さんは政府の有識者会議のメンバーに2回選出されていますよね?どんな活動をされているのでしょうか?
若宮 2017年の安倍さんの時には「人生100年時代構想会議」といって、人生100年時代を見据えた教育システムを創り上げることが目的とした会議に呼ばれました。そのときは大人もデジタルに関する再教育が必要ということを提言させていただきました。
次は、ほんの先日(2021年11月)に岸田首相に呼ばれて第1回目の「デジタル田園都市国家構想実現会議」に出席してきました。これは、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていく」を目的としていますが、そこでは「誰一人残さないデジタル化の実現」ということで、シニアでも使いやすいアプリ開発や制度作りについてアドバイスさせていただきました。
先日、コロナの予防接種を予約できるアプリが出たけど、シニアはもちろん、多くの人が使いこなせず、電話が集中してパンク回線が寸前になったり、スマホを持って市役所に詰めかけたりしたというニュースがありましたが、結局、スマホは持っているけど使いこなせていないシニアがいかに多いことがわかりました。
そのため、今年から、携帯キャリアの店舗でシニア向けのスマートフォン使い方講習を開催する取り組みは行われています。いずれは各自治体で地元のボランティア団体などとともにデジタル化を促進するデジタル活用支援員を配置すること、またデジタルのインフラを構築するようにアドバイスさせていただきました。
――だれでもデジタルの便利さがわかり、使いこなせるようになると、随分と楽になるところもあると思います。
若宮 そうですね。そうした社会の実現のために、シニアの立場で発言させていただいています。
やりたいことを諦めて後悔するより、やって後悔した方がいい
――年をとると、何かと年のせいにして諦めてしまうこともあるかと思いますが、若宮さんの生き方を見ているとそういったものが全く感じられませんよね。
若宮 私は前からずっとやりたいと思うことだけをやってきました。だから、よく「80過ぎてもチャレンジされてすごいですね」と言われますが、「チャレンジしている」という気持ちはないんですよね。
――若宮さんにとって、年齢による限界ということはないのかもしれませんね。
若宮 今まで「年」を気にしたことはありません。やりたいと思ったときにやってきただけのことです。
――普通ならば年をとるごとに失敗を気にして新しいことに尻込みしてしまうものですが…。
若宮 失敗はいずれ糧になります。過去を見るより、明日、未来のことだけを考えています。
やりたいことをやらないで後悔するより、やって後悔した方がいいと思うんです。
――最後に若宮さんの夢を教えてください。
若宮 夢…ですか? 今やりたいこともやれているので、特段ありません(笑)。やりたい時にやるまでです。
――そうなんですね。それでは「今、やりたいこと」とは何でしょうか?
若宮 デジタル庁関係ですね。一度とん挫した年齢や地域で格差のないデジタル化をしっかりと推進していきたいです。コロナ関係の申請にいまだに電話とファックスでやりとりをしているところを見ると、日本はまだまだ(デジタル化が)遅れているなと思いました。まあ、今回のコロナ禍でデジタル化の必要性にみんなが気が付いたので、それも進歩かなと思います。
――若宮さんのデジタル化への取り組みはまだまだ続きそうですね。本日はありがとうございました。
若宮正子 わかみやまさこ
ITエバンジェリスト
実践者
定年後、パソコンを独習。81歳でアプリ「hinadan」を開発し米・アップルの開発者会議に招かれる。2018年NY国連社会開発委員会で基調講演を行う。ブロードバンドスクール協会理事として、シニア世代へのデジタル機器普及活動にも尽力中。岸田首相主催・デジタル田園都市国家構想実現会議構成員。著書多数。
プランタイトル
心実り多い豊かな人生 私は創造的でありたい。
~人生100年時代を生きるということについて~
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