フードロス削減と家族優先のワークバランスを実現した1日100食限定の経営手法で、注目を浴びた「佰食屋」。2019年には4店舗展開するまでに成長するものの、2020年のコロナ禍であえなく2店舗を閉店しました。
第1回の緊急事態宣言前に閉店を決意することで、翌月にはすぐに黒字に戻すことができたと語る経営者の中村朱美さん。
後編では、閉店を決めた経緯、そしてこれからの未来予想図についてお聞きしました。
■目次
コロナ禍は素早い判断でダメージを最小限に
ーー飲食業界に未曾有のコロナ禍が襲いました。たくさん飲食店が閉店する中、中村さんも2020年に2店舗閉店されていて、大変だったと思います。中村さんはコロナ禍をどのようにお考えですか?
中村 2020年3月に志村けんさんが亡くなったのを境に、日本人のコロナへの意識がガラリと変わりました。多くの経営者の方がされているように、当店でも創業から、お客様の集客状況、店内飲食とテイクアウトの比率、売れているメニューを、時期ごとに加え天候や自然災害発生時などの統計を見ながら、今後の売上予測を行います。
現状のコロナ禍で最も似通った状況である2018年の西日本豪雨があった年の統計を見て、コロナ禍の予測を立てました。そこから、この状況は2年は続くだろうと予想しました。
2年間赤字が続いていく状況で、今後は従業員の昇給やボーナスも見込めなくなります。こんな状況で従業員を守ることができるのかと悩みました。
コロナ禍で経営が厳しくなった会社はたくさんあります。「従業員を守る」という大義名分で、今後改善する見込みもない勤務条件でつないでおくところもあるのが現状です。それが本当に正義なのかと自分に問いただした時、そうではないという結論に達しました。
従業員の視点で考えると、2年というのは人生の中でも長い期間です。その期間で、もっと条件のいい企業が見つかるかもしれない。
様々なことを天秤にかけ、従業員も会社もお客様も出来る範囲の中で最大限守るためにどうすればいいのかを考え、苦渋の決断ではありましたが、2店舗の閉店を決めました。
そう決めてからがすぐに実行に移しました。観光客に頼っている2店舗を第1回の緊急事態宣言が出る前に閉店しました。
「決断してもいいんですよ」という従業員からの後押しもあり、従業員には解雇という形にして、1カ月分の解雇予告手当を支給し、一年近く失業保険がもらえるように手続きしました。
ーー結果、改善したことはありましたか?
中村 そうですね。継続したお店は観光地でなく、住宅地にある2店舗で、緊急事態宣言中もテイクアウトでしのぐことができました。閉店後翌月には黒字になり、3カ月後は過去最高利益率にまで回復しました。
実は先月(2021年12月)、「佰食屋1/2」を閉店しました。「佰食屋1/2」は1日50食限定で、月〜土曜日の9~15時のみの営業。フランチャイズ化を考えて、モデル店として2019年6月にオープンしました。
その矢先、新型コロナウイルスの感染拡大。2年間は集客が見込めないという予測の中、フランチャイズ化は難しいと判断しました。モデル店自体は赤字を出していたわけではなく、2年4カ月で投資資金を全て返済できるほど、黒字化できていました。「佰食屋1/2」の試みはある程度成功したと考えています。
それでは、なぜ閉店したのかというと、ある意味で区切りを付けたかったからです。
実は、以前出演したテレビ番組『ガイアの夜明け』で「佰食屋1/2」のフランチャイズ化の取り組みが取り上げられ、昨年も1年で100件ほどの問合せが来ていました。今のところフランチャイズ化をしないということをしっかりと周囲に知らせるため、今回閉店という形で仕切り直しすることにしました。
ーー判断が素早いですよね。判断が遅かったら、さらにダメージが広がっていたかもしれませんね。
中村 現在は最初にオープンした1店舗のみとなりました。とはいえ、この1店舗だけは、自然災害があろうが緊急事態宣言が出ようが、全く動じず、ずっと黒字経営できています。緊急事態宣言中はテイクアウトが主流となりましたが、毎日100食売り続けることができています。
この店舗を原資として、実は次の展開を考えているところです。
次の展開として佰食屋関連の商品を開発
ーー今後はどのような展開になる予定ですか?
中村 このコロナ禍で、わざわざ店に足を運ばなくても、自宅で美味しいものが食べれるということがわかり、テイクアウトの需要は今後ますます増えていくと思います。そのため、佰食屋の味をご家庭でも味わっていただけるように、佰食屋関連の商品を開発しています。早ければ、5月にはローンチできるのではないかと思います。
ーーそれは楽しみですね。どんな商品になる予定ですか?
中村 ステイホームで高タンパクの商品が注目されていますが、高タンパクでしかも7大アレルゲンフリーの商品です。
今、私たちは佰食屋以外に「防災筋力」という事業も展開しています。災害復興には大きな労力が必要となり、そのためにも普段から筋力を鍛えるというコンセプトのもと、防災に必要な筋力トレーニングを開発しました。
その事業を展開する中で、非常食にアレルゲン物質が多く含まれていることに気づきました。非常事態という過酷な状況下で、アレルギーの方が食べられるものが何もないという状況になる可能性もあります。
だからこそ、今回の商品は、「アレルギーの方でも食べられる非常食」というのも一つのコンセプトにしています。
アフターコロナを見据えて飲食店がすべきこと
ーーアフターコロナでは今後どのように飲食業界は変わっていくとお考えですか?
中村 所得も伸びない状況で、消費者はより飲食店に専門性や商品力を求めるようになると思います。「ここだけしか食べられない」とか「●●ならここだよね」といったように、駅から遠く離れているところや町から遠いところでも「わざわざ足を運ぶだけの価値」をつけ、他店との差別化を図ることが必須となります。小さい店でもブランディングが求められるようになります。
ーーブランディングというのはなかなか小さい店だと難しい気もします。
中村 ブランディングといっても、何も難しく考えることはありません。長年営業できている飲食店は、その店なりのこだわりや自慢料理というものがあると思います。最近はSNSで発信している店もありますが、逆に宣伝しなくても「知る人ぞ知る」という隠れ家的な部分も魅力になるので、自店の味、メニューをとことん追及していくことがブランディングにつながると思います。
経営にはスパッとやめられる決断力も重要
ーーこれまで働き方改革を重点においた経営手法を唱えていらっしゃいましたが、最近では働き方改革をしつつ利益も求めるというスタイルに転向されました。どういったきっかけがあったのでしょうか?
中村 これまで働き方改革だけを強調してきましたが、それでは上場企業さんが「そんなのは小さい会社だけができることだ」と振り向いてくれないんですよ。そこで、働き方改革と利益追求を同時に実現できる方法を考えました。そのお陰で、大企業の方にも興味を持っていただけるようになりました。
ーー同時に実現できる方法とは、どんな方法なのでしょうか?
中村 そうですね、簡単にいうと、どこまでトレードオフできるかということでしょうか。大企業になるほど、事業拡大していきますが、それは従業員の残業なしに成し得ていることなのか、人件費に見合う利益が出ているのかを客観的に考えて、不要な事業はスパッと切ることも大事だと思います。
何か事業を始める時は利益やリスクを細かく考えず、ふわっと始めてよいと思っていますが、途中で「あんまりうまくいってないな」と思ったらスパッとやめる決断力も、経営には重要だと思っています。
もう少し融資すればうまくいくかも…といって、だらだらと融資を続けていくうちに目も当てられないほど損害が拡大してしまうこともある。だから、これ以上はダメだなと思ったら一度こわして、一から組み立て始める。その方が損失も少なくて、早く回復できると思っています。
働き方改革から考えるSDGs
ーー最後に今後の予定をお聞かせください。
中村 今、10年店舗経営してきて、社会の組立もわかってきたので、自分たちの事業を新たに始めるというよりかは、他業種の新規事業立ち上げに携わったり、佰食屋ブランドを使ってどこかの企業とコラボしたりするなど、他の企業と一緒に何かをやっていくというスタイルにシフトしていくと思います。
それから、一企業人として、今後も働く人がずっと心地よく働ける環境作りにも注力していきます。それが引いては、環境をよくすることにもつながっていくものと考えています。そこで働く人々の心が満たされていれば、環境にも目を向けられる余裕ができると思うんですよね。そうすれば、自然と地球全体が良い方向へと向かうのではないかと信じています。
ーーそれこそ、まさにSDGsの考え方なのかもしれませんね。本日はお忙しいところありがとうございました。
【講師特別インタビュー】 中村朱美さん 前編悩むよりまずはやってみる 日本にはなかった家族優先の働き方を自ら体現
1日100食限定、完売したら終わりーー。
そんな型破りな飲食店の経営手法で、フードロスと家族優先のワークバランスを実現し……
中村朱美 なかむらあけみ
株式会社minitts 代表取締役
1日100食限定で、 美味しいものを手軽な値段で食べられるお店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を2012年に開業、行列のできる人気店へ成長させる。ランチ営業のみ、完売次第営業終了という飲食店の常識を覆す経営手法で、飲食店でのワークライフバランスとフードロスゼロを実現。
プランタイトル
みんなに必要なあたらしい働き方
~仕組みで人を幸せに~
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