2020年~2022年のわずか2年で約10万人も増加するなど、コロナ禍以降、不登校児童生徒数が急増していることをご存知でしょうか。
増え続ける不登校問題にどう向き合っていくべきなのか。

不登校当事者に20年以上取材を続けてきた“不登校ジャーナリスト”の石井しこうさんに、不登校の実情とサポートについてお話しいただきました。
参考資料:文部科学省 令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要

「学校が苦しいという自覚がなかった」不登校で開放された心の殻

――石井さんが不登校になられたきっかけを教えてください。

石井 私が不登校になったのは中学2年生の時ですが、きっかけとなったのは中学受験だったと思います。受験のため塾に通っていたのですが、そこで「勉強ができなければ社会でやっていけない」「勉強ができなければ幸せな人生を獲得できない」という価値観が染み付いてしまったのです。

その価値観のまま中学受験に失敗してしまったことで、「勉強ができない自分の人生はもうどうにもならない」と思うようになり、自信も未来への希望も持てなくなってしまいました。塾で将来のために有益な情報を学んできたはずなのに、覚えてしまったのは失望だったのです。

そこから公立中学に通うようになったのですが、何をしてもうまくいきませんでした。勉強にも身が入らず、先生や友人とも反りが合わないという状況の中で、母に「学校に行きたくない」と伝えて不登校になりました。

――「学校に行きたくない」と伝えるまでに、ご自身の心情をご両親や先生に相談したことはありましたか?

石井 実は中学2年生のときに、中学受験時に悩まされた希死念慮が再発し、幻覚まで見えるとても危うい状態に陥っていたのですが、それでも誰にも相談しませんでした。それどころか、「学校に行きたくない」「学校が苦しい」という思いを感じているという自覚がなかったのです。

「学校に行きたくない」という言葉を発したことに自分自身が驚いてしまったくらいです。それは自分の気持ちをものすごく押し殺して学校に通っていたからだと思います。「学校に行きたくない」と言った瞬間にパッと心の殻が割れて、気持ちが溢れ出した感じがしました。

――不登校になったことでご自身の中で何か変化はありましたか?

石井 最初は受験に失敗しただけでなく学校にも行けなくなったという状況への失望感から、「ついに自分は道を踏み外してしまった」という想いが大きかったです。ただそれに反し、学校を休む期間が長くなるほど自分の気持が軽くなっていき、やりたいことが見えて前向きな力が湧いてきました

不登校当事者の力になるため不登校ジャーナリストの道へ

▲『不登校生動画甲子園2024』授賞式の様子(引用:Tik Tok Japan公式noteより)

――不登校生活のはじまりから、どのようにして不登校ジャーナリストの道へと進んでいったのですか?

石井 不登校になってからフリースクールに6年在籍したのですが、その中で不登校に関する専門誌を発行しているNPO法人を知り、取材の手伝いをするようになったのがきっかけです。取材の中で自身の悩みや将来についての話を不登校当事者に対し伝えていく中で、それが自分にとっても大きな励みになっていると感じるようになっていきました。そこで取材を仕事にしたいと考え、そのままNPO法人に勤務して20年間不登校当事者の取材をしてきました。

取材をしてみると、私が不登校時に感じていた絶望感を当時の自分と同じ14〜15歳の子たちが語りだすのです。保護者の方々も、「学校に行かなくても大丈夫だよ」と言えるのはよそのお子さんに対してであって、自分の子に対しては安定を願う言葉が聞かれます。不登校に対し理解が深まってきた現在でも当事者にとっては特別な問題であり、今なお生きている問題であるということを取材活動の中で感じてきました

そのためNPO法人が解散したあとも不登校に悩む人々の力になりたいと思い、“不登校ジャーナリスト”として活動するようになりました。不登校当事者の思いが反映されることを一番に考えながら、執筆や講演、イベント企画、コンサルティングなどの活動をしています。

――石井さん主催の『不登校生動画甲子園』というイベントが話題となりましたが、こちらはどのようなきっかけではじまったのですか?

石井 『不登校生動画甲子園』は私自身が10代の頃に「不登校の活かし方が少ない」と感じたことを発端に生まれた企画です。不登校になって学んだことを活かすためには学校に行かなければならなかったため、「不登校を活かせる大会があったら嬉しいな」と考えたのが最初のきっかけです。

また、大人になってから「苦労したことやマイナスだったことは大人になってから役に立つ」ということを実感するようになったのですが、それをそのまま伝えてしまえば10代の子にとっては最悪の説教になってしまいます。そこで不登校の子どもたちが燃えるような晴れ舞台を作り、大会形式で伝えようと思い、『不登校生動画甲子園』を開催しました。

実際『不登校生動画甲子園』に出た子どもたちからは、「自分の経験が誰かの勇気になったことが嬉しかった」「不登校はマイナスだけじゃなくプラスに捉えていいんだ」といった声が聞かれています。九州や東北から東京都現代美術館での授賞式に来てくれた子がいたり、「来年絶対優勝する」と言う子もいたりと、子どもたちの大会にかける熱量に驚かされました。

初開催の昨年(2023)も今年も200本ほどのメディアで報道され、世間での反響もとても大きな大会になっています。『動画甲子園』は発達障害や視覚障害など、ほかのジャンルでも流用可能だと思っています。パラリンピックの創造性バージョンのように、マイナスやハンディをプレミアムな価値に変えることができたらいいですね。

「学校に行きたくない」子どものSOSに保護者がしがちなNG行動

――不登校はどのような原因でなることが多いのでしょうか?

石井 調査結果を見ると、原因が複数ある場合が一番多くなっています。私自身、20年間の取材の中で1つの原因で不登校になった人は見たことがありません。ではどんな理由が重なっているかといえば、いじめを含む人間関係や学業不振のほか、発達障害やHSPなどの特性により学校生活が合わないケースなどがあります。不登校は単純なものではなく、様々な我慢が蓄積されていった結果なのです。
参考資料:文部科学省 令和2年度不登校児童生徒の実態調査

――子どもが不登校になった際に、保護者がしてはいけないことはありますか?

石井 保護者がしてはいけないことははっきりしています。それは「学校に行きたくない」と言われたときに理由を聞くことと、「ひとまず明日頑張ってみよう」という励ましや質問をすることです。これは不登校児にとっていわゆる“地雷”なのですが、ほぼすべての保護者が踏んでしまいます。

子どもが学校に行きたくないと言うのはSOSなので、理由を聞かれたり励まされたりすると断られた気持ちになるのです。ただ、限界まで我慢した上で発しているにも関わらず、「なんか行きたくないな」というように、深刻に聞こえない軽い雰囲気で伝えてくることもあります。

――それは対応が難しいですね。どう対応するのが正解なのでしょうか?

石井 「へぇ」といった生返事で返すことです。保護者はすぐに答えを出したがるものですが、「頑張ろう」とか「休んでいいよ」といった、すぐに答えが出る“魔法の言葉”を探さずに一旦お茶を濁すことが大切です

子どもが深刻な雰囲気で打ち明けてきた際も、「あ、そう」と初手でお茶を濁すと、本人がどうして行きたくないのかを語りだしてくれます。その様子を見て対応を決めればいいと思います。

――不登校を選択するほど追い詰められている場合、うつ状態になっている子も多いのでしょうか?

石井 最初は軽いうつ状態になっている子は多いと思います。不登校までになると、多くの子が学校に行こうとすると頭やお腹が痛くなったり、朝起きられなくなったりといった身体症状を発症します。そうした身体症状を含め、何らかの精神的ショックや傷つきの状態が見られることは多いです

不登校は道を閉ざさない。不登校当事者に必要なサポートとは

▲石井さんの講演会の様子。石井さんが取材の中で見てきた事例を基に、不登校への向き合い方を知ることができる

――デリケートなケアが必要そうですが、不登校生に対するサポートはどのようなものがあるのでしょうか?

石井 子どもが不登校になったときにまず必要なのが休息です。まずは子どもが心を休ませられる時間を与えてあげることが大切になります。ただ、不登校でまず考えるべきなのは保護者へのサポートです

子どもが不登校になると、「引きこもりになってしまうのではないか」「勉強はどうすればいいのだろう」と、保護者も精神的に追い詰められやすくなります。精神的に不安定な子どもを支えるというのは本当に大変なのですが、その子どもたちを支える保護者へのサポートが少ないのが現状です。

そのため保護者だけで抱え込むのではなく、教育支援センターやスクールカウンセラー、児童精神科医、フリースクールといったサポート機関に相談していくことが大切です。最近は保護者の方も働いている場合が増えてきましたので、相談ができたり親同士で交流ができたりするオンラインのサポートが増えていくといいのではないかと思っています。

――子どもが不登校になった際に心配になるのが進路だと思います。どのような進路を歩む子が多いのでしょうか?

石井 まさに私が取材をしていた中で一番知りたかったのが、不登校の子たちがどのような進路を歩むのかという点でした。取材をしてみると、不登校だった子たちは本当にいろいろな道を歩んでいますし、大人になってから「あの頃はあんなことも考えていたね」と笑って話せている方が多いと思います。

不登校時の傷が大きすぎて休まざるを得ない方も中にはいらっしゃいますが、ありとあらゆる職業についている元不登校の方々を見てきて、「不登校は将来への道を閉ざさない」と実感しています

――講演会ではどのようなお話をされていらっしゃいますか?また、どのような方に講演を聴いてもらいたいですか?

石井 講演会では取材を通して見えてきた不登校生の実情をお伝えすることが多いです。私自身が考え出した不登校の解決策などをお話することはひとつもありません。不登校当事者の方々が実践して失敗したことやうまくいった実例をご紹介しているので、絵空事ではない不登校の解決策や未来図をお伝えできます

一番聴いていただきたいのは、行きしぶりや不登校の子どもや保護者に対応している先生方です。実は小学生が不登校になる理由の1位は先生との関係なんです子どもたちにアンケートを取ると先生が原因だと答える割合が高いのですが、先生にアンケートを取ると教師が原因だと考える人は数%程度しかいません。この認識のズレを是正していくことも、私のやるべきことのひとつだと感じています。
参考資料:文部科学省委託事業 不登校の要因分析による調査研究報告書

――最後に、石井さんの夢をお聞かせください。

石井 私の一番の夢は、学校に行っている子も行っていない子も苦しくならないように多様な選択肢が広がることですが、直近の夢としてどうしてもやりたいと思っているのが、夏休み明けの不登校問題を諸外国にも周知することです。

夏休み明けには不登校や自殺が多くなると言われていますが、これは日本に限ったことではないと思っています。日本で生まれたこの夏休み明けの不登校問題を諸外国にも注意喚起し、実態をみんなで理解することで、子どものリスクを防ぐための世界的な動きができたらと思っています

――本日は貴重なお話をありがとうございました!

石井しこう いしいしこう

不登校ジャーナリスト

中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、中学2年生から不登校。フリースクールに通ったのち、NPO法人で不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材。現在はNPO法人を退社しジャーナリストとして活動中。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)など。

講師ジャンル
社会啓発 教育・青少年育成

プランタイトル

不登校の子どもが新しい一歩を踏み出す時

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