被害者が亡くなるケースまで発生している連続強盗事件や、多額の金銭を失ってしまう特殊詐欺など、近年の犯罪は以前より巧妙かつ凶悪なものが増えてきています。巧妙化する危険な犯罪に巻き込まれないためには、どのような対策をすれば良いのでしょうか。
テレビなどのメディアでも活躍する防犯コンサルタントの松丸俊彦さんに、最近の犯罪の傾向とその対策について伺いました。
より巧妙に、凶悪に。日本で注意すべき犯罪とその対策
――日本で今、特に気をつけるべき犯罪はありますか?
松丸 以前は“オレオレ詐欺”と言われていた詐欺がより巧妙な”特殊詐欺“へと進化したり、空き巣より凶悪な連続強盗事件が流行したりと、防犯対策が進化するにつれて犯罪の手口も以前より進化しています。
これらの犯罪は無作為にターゲットを決めているのではなく、詳細な個人情報が載った“闇名簿”と呼ばれる名簿からターゲットを絞っているのですが、この闇名簿に記載されないようにすることはほぼ不可能です。
闇名簿は私たちが買い物などで日常的に利用している企業から盗まれた情報などを基に作られています。企業も気づかないうちに情報が盗まれていますし、様々なルートから闇名簿へと情報が流れているため、記載されないように防ぐことは非常に困難なのです。
――闇名簿に載ることが防げないのであれば、ターゲットにされないためにできる対策はあるのでしょうか?
松丸 闇名簿の情報を更新させないことが重要です。私は実際の闇名簿を見たことがありますが、そこには「金庫がリビングにある」「インターホンを鳴らしたら玄関ドアを開けた」など、実際に下見しないと分からないような詳細な情報が書かれていました。
犯行グループは闇名簿を持った指示役と呼ばれる人物の指示に従い、闇名簿を更新するために業者などに扮して下見をしているのです。車の台数や、玄関にある靴や傘の数で何人家族かを予測するなど、犯行グループは下見によって様々な情報を得ようとしています。
「ここで取り合っても時間の無駄だ」と思わせれば、犯行グループはターゲットを変えます。怪しい人物の訪問や電話には応じず、名簿を更新させないことが大切です。突然届くメールのアンケートや高級羽毛布団などの高額商品の訪問販売なども闇名簿に最新情報が流れてしまうルートなので、応じないようにしましょう。
――ターゲットにされてしまった可能性がある場合、できる対策はありますか?
松丸 怪しい人物からの接触があった場合、すぐに警察相談専用電話の“#9110”に連絡をすることが大切です。「怪しい人がいた」「怪しい電話がかかってきた」というだけで110番に通報するのは敷居が高いと感じる方も多いのですが、#9110は通報ではなく相談窓口です。長電話になっても大丈夫ですし、「何も問題がないのに通報してしまった」と思う必要もありません。
24時間かけられます(注※)
ので、ご高齢の方だけでなく若い方も、少しでも不審に感じた場合はすぐに#9110までご相談ください。どう相談すれば良いか分からないとよく質問されますが、「不安なのでアドバイスがほしい」「パトロールを強化してほしい」というだけでも大丈夫です。情報を警察に集約することが大切なので、躊躇なく#9110に電話してください。
※基本受付時間は平日8:30〜17:15まで。土日祝日および時間外対応は当直または音声案内での対応。
被害者だけではなく加害者にも。闇バイトに巻き込まれる恐ろしさ
――最近は闇バイトなど、被害者ではなく加害者として犯罪に巻き込まれてしまうケースも多くなっていますが、その場合の対策はありますか?
松丸 実は闇バイトは高額報酬を謳っていたり、わざわざ「ホワイト案件」と書いてあったりと、怪しいものが多いのです。金額だけでは判断が難しいかもしれませんが、闇バイトは必ずテレグラムなどの秘匿性の高いメッセージツールへ誘導されるので、そこが見分ける重要なポイントになります。
普通の仕事だと思っていたら強盗を強要され、逃げようとしたら身分証を盾に「お前も家族も危険な目に遭わせるぞ」と脅されて応じてしまったというパターンは、闇バイトの犯人からよく聞かれます。しかし、決行したら安全なのかということを考えていただきたいのです。
もし犯行が失敗したり、失敗により指示役が逮捕されたりしたら、それこそ報復される可能性が十分あります。しかも逮捕されれば、自分に懲役が付いてしまいます。警察でも加害者になりかけた方は保護するという情報を発信していますので、信じて警察に相談していただきたいです。
――闇バイトの加害者の多くは強盗殺人の罪の重さを理解しないまま罪を犯してしまっているようにも見えますよね。
松丸 そうですね。よく分からないまま犯罪を犯しているというのが実情だと思います。強盗殺人は無期懲役または死刑と、非常に重い罪が課せられますが、ほとんどの方はご存知ないのではないでしょうか。また、ご老人を強く殴ればどのような結果になるかを想像できないという、想像力の欠如もあるように思います。
闇バイトに手を染めてしまう若者たちは、世間の常識に疎くコミュニケーション能力の低い、一種の情報弱者と言えるのかもしれません。警察庁でも現在は若い世代向けにX(旧Twitter)で発信を行なっていますが、私自身、より幅広く周知するためにYouTubeやTikTokなどでも情報発信していかなければと思っています。
意識の違いが生死を分ける。海外での防犯対策
――海外に渡航した際に気をつけるべき犯罪はありますか?
松丸 私が海外でのセキュリティ対策として必ずおすすめしているのが、銃声がした際の対応をシミュレーションしておくことです。日本のような銃規制のない海外では、発砲事件や爆発テロに巻き込まれる可能性もあります。
銃声に慣れていない日本人はまず周りを確認してしまいますが、最悪の場合は初動の違いが生死を分けてしまいます。銃弾や爆風が当たらないよう身を低くするだけでも大きな違いがありますので、きちんと対策をシミュレーションしておくことが大切です。海外に行く際は、できれば実際に体を動かすような訓練をしておくことをおすすめします。
――犯罪に遭わないための準備も大切ですが、万が一犯罪に巻き込まれてしまった場合、海外ではどのように対応すべきなのでしょうか。
松丸 被害に遭った際には、二次被害を防ぐことが大切です。例えば2つ持っていた荷物の1つを置き引きされた場合、盗まれた動揺で右往左往している間に2つめの荷物も盗まれてしまいます。
まずは自分の命と残りの荷物を守るため、近くの安全な場所へ避難しましょう。多くの方は被害に遭うと冷静になれないものなので、この場合でも事前に対策をシミュレーションしておくことが大切です。
また、自身の名前と緊急連絡先を書いたメモを複数、分散して身につけておくことをおすすめしています。携帯電話を盗まれたり壊れたりした場合でも、メモが1枚でも残れば連絡ができます。意識がない場合でも、メモがあれば警察官や救急隊員からメモに書かれてある関係者に連絡ができるので、そこから大使館などに連絡してもらえます。
パスポートや貴重品を盗まれないためには服装も重要です。ポケットの多い服を着たり、服の下にボディバッグやウエストポーチを身につけたりといった工夫をするようにしましょう。
――最近は日本にいながら海外からの犯罪に巻き込まれてしまうケースも多いですが、どのような対策が必要なのでしょうか?
松丸 先ほどお話しした闇バイトや特殊詐欺の犯人である日本人が海外を拠点にしている場合もありますが、海外からの犯行では外国人が日本人を騙してお金を振り込ませるロマンス詐欺などのパターンもあります。
ロマンス詐欺のような犯罪の場合は、ある1つのルールを守るだけで防ぐことができます。それは、会ったこともない人には1円たりとも振り込まないことです。
ロマンス詐欺は数ヶ月間金銭の話を一切せず信頼関係を築いた上で、急に「困っている。助けてほしい」と金銭を要求してくることがよくあります。相手の話が本当かどうか判断できないという方は、この場合も#9110に相談してみてください。
防犯が難しい企業への犯罪。事前対策で被害を抑える
――個人だけでなく企業が犯罪に巻き込まれるケースもあると思います。企業の場合はどのようなパターンが多いのでしょうか。
松丸 よく企業の幹部や経営者向けセミナーで注意喚起している手口が、電話番号を装った犯罪です。実は電話番号が表示されるナンバーディスプレイは、通知される番号を装うことができるのです。
本社の電話番号から「すぐにこの口座に送金してください」と連絡があり、騙されて犯人グループの口座に送金してしまったというパターンが、北米やヨーロッパ、香港に拠点がある会社でよく起こっています。
これは振り込む前に本社に連絡を取り、振り込みが本当に必要かを確認すれば防げる手口です。一度確認すれば、より確実に防ぐことができるでしょう。
――企業への犯罪ではランサムウェアもよく話題になりますね。ランサムウェアの被害にあった場合、企業はどのように対応するのが正解なのでしょうか。
松丸 ランサムウェアは対応が非常に難しい犯罪です。防ぐためには普段からセキュリティー対策を強化しておくことが重要ですが、たとえ本社のセキュリティーをしっかり固めていても、セキュリティーの弱いグループ会社や提携企業を通じて本社のシステムに侵入されることがあります。
そのため、万が一に備えてランサムウェア保険に加入しておくことをおすすめします。しかしランサムウェア保険に入っている企業は、犯行グループからすれば身代金を引き出せる企業とみなされます。保険に加入していることは絶対に漏らさないようにしましょう。
――講演会ではどのようなお話をされていますか?
松丸 様々な犯罪がありますので、特定の防犯対策に限らず、クライアント様のニーズに合ったセキュリティのお話をさせていただいています。今回お話ししたような特殊詐欺や強盗事件などのお話も多いですが、私は警視庁公安部外事課出身なので、産業スパイなどのお話をさせていただくこともあります。
ただ、すべてに共通してお伝えしているのが、知っていると知らないとでは対策や初動に差が出てしまうということです。対策や初動の差は、場合によっては生死を分けてしまいます。防犯・防災に対する意識が少しあるだけでも、結果が全く違ってきます。日頃から防犯・防災対策の動画などを見てシミュレーションしておくなど、意識するようにしていただきたいです。
――最後に、松丸さんの夢をお聞かせください。
松丸 私は今セキュリティコンサルタントとしてテレビや本・雑誌などで防犯・防災に関する情報発信をしていますが、これに限界を感じてきています。高齢者と若者とでは見る媒体が異なるため、広い世代に情報がうまく伝えられていないもどかしさを感じているのです。
そのため今後は若い世代にも広く情報を伝えられるよう、YouTubeやTikTok、Instagramなどでも情報発信をしていきたいと考えています。情報を知れば疑問や興味を持つ方も増えてくると思いますので、そういった方と交流できる場も作っていきたいですね。
日本では従来型の犯罪だけでなく、新しい形態の犯罪もどんどん生まれています。悠長なことを言っている暇はないので、早くこの夢を実現したいと思っています。
――この度は貴重なお話をありがとうございました!
松丸俊彦 まつまるとしひこ
海外安全アドバイザー コメンテーター 防犯コンサルタント
警視庁公安捜査官、外交官として、国内外で多方面に活躍。退職後、危機管理会社にてJICA、外務省、民間企業、学校法人等の安全調査・管理を多角的にコンサルサポート。現在は、海外安全アドバイザー・防犯コンサルタントとして、講演、メディア出演他、多方面に活躍中。著書「リスク管理マニュアル」。
講師ジャンル
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実務知識 | 危機管理・コンプライアンス・CSR |
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