SDGsが叫ばれるようになった昨今、環境・エネルギー問題に対する取り組みを行う企業が世界的に増えています。
しかしその一方で、「どう取り組めばいいのか分からない」「取り組むメリットを感じられない」という企業も少なくありません。
環境・エネルギー問題の現状について、環境・エネルギー分野でコンサルティング事業を行うRAUL株式会社代表の江田 健二(えだ けんじ)さんに伺いました。
環境のためだけ? エネルギー問題の現状と取り組むメリット
――まずはエネルギー問題の現状についてお聞かせください。現在どのような問題が起きているのでしょうか?
江田 世界的に見るとやはり一番の問題は地球温暖化ですが、日本ではエネルギー価格の高騰も大きな問題となっています。これはウクライナ侵攻によってロシアからの資源の輸入を禁止したことで起こっているのですが、日本だけでなく欧米でも禁止されていることから海外との資源の奪い合いが起きています。化石燃料を輸入に頼っている日本では特に影響が大きい問題です。
――エネルギー価格の高騰はまだまだ続くのでしょうか?
江田 基本的には、エネルギー価格が下がる理由はあまりないと思っています。世界的に見れば人口増によりエネルギーを多く使いたい国が増えていますし、ウクライナ紛争もまだ終わりが見えない上に、産油国のある中東でも様々な紛争が起こっています。
不足する石油燃料の輸入分を自国での再生可能エネルギー発電で賄えればいいのですが、これも難しい状況です。実は日本は国の面積あたりの太陽光発電の割合で世界トップとなっているほど、再生可能エネルギー開発に積極的に取り組んでいます。
ただ、国土の小さい日本では大きな土地が必要となる太陽光発電や水力発電施設を増やすにも限りがあり、海底が深いためヨーロッパのような洋上風力発電にも向いていません。地理的問題から、日本で再生可能エネルギーの発電量を増やすことは難しいのです。
そういった状況を鑑みると、諸外国と資源の取り合いとなる可能性の方が高く、エネルギー価格が一気に安くなることはないのではないかと考えています。
――地球温暖化やエネルギー価格高騰の問題に対し、現在はどのような取り組みが主流となっているのでしょうか?
江田 企業レベルでは脱炭素に向けた取り組みが大きいと思います。これは温暖化につながる温室効果ガスの発生を抑制することを目的とした取り組みです。日本でも多くの企業が脱炭素に取り組んでいます。
――製造業のように大きなエネルギーを必要とする企業と、オフィスしかないような企業とでは脱炭素に向けた取り組みも異なりそうですね。
江田 そうですね。製造業などでは製造や輸送のプロセスで二酸化炭素を排出しやすいので、製造や輸送にかかるエネルギーを水素やEVなどのCO2フリーのエネルギーに変える取り組みがされています。
一方オフィスだけの企業では節電をしたり備品をエコ製品に変えたり、契約する電力を再生可能エネルギーに変えたりといった取り組みが多くなっています。オフィスのみの企業では元々排出量が少ないため効果が見えづらいかもしれませんが、小さく見える取り組みでも多くの企業が実践していけば大きな効果になります。
また、多くの企業が取り組むことで需要が増え、エコ製品の価格が下がったり、電力会社が再生可能エネルギー開発に取り組んだりといった変化が見られることもあります。効果が見えづらくとも、企業が取り組むこと自体が重要なムーブメントになっているのです。
――環境のためといっても、コストの問題などから積極的に取り組みづらいと考える企業もあるのではないでしょうか。環境のため以外に、企業にとってエネルギー問題に取り組むメリットはありますか?
江田 昨今は金融機関がSDGsやエネルギー問題への取り組みを高く評価する傾向にあるため、取り組んでいる企業は低金利で融資を受けられる場合があります。取り組みのために初期投資が必要だとしても、大きな設備投資を必要とする製造業などにとっては導入コストより低金利によるメリットの方が大きくなると思います。
オフィス系の企業でも省エネに取り組めば光熱費削減になりますし、SDGsやエネルギー問題に取り組むと社内外からの評価が高まるというメリットもあります。私への講演依頼も、従業員や関連会社向けのPRを目的としているパターンが少なくありません。SDGsやエネルギー問題への取り組みは、時流を意識できる会社であることを示す良いテーマになっていると思います。
時代は“発電”から“蓄電”へ。今、注目のエネルギービジネス
――取り組みを行うだけでなくエネルギービジネスに参入するという方法もあると思いますが、現在注目のエネルギービジネスはありますか?
江田 太陽光発電など、電気を作る方のビジネスはかなり普及も進みレッドオーシャン化していますが、電気を貯める方のビジネスである蓄電池やEV関連はこれから非常にチャンスがあるビジネスだと思っています。
蓄電関連の事業には国も積極的に補助金を出していますし、太陽光発電所がたくさん建設されたように、蓄電所がこれから全国に何千箇所と建てられていくことが予想されます。海外ではすでに蓄電所の建設や管理・運用を行うビジネスが生まれていますが、日本でもそのようなビジネスが生まれていくのではないでしょうか。
EVは一般での普及はまだ難しいかもしれませんが、行政や企業で使用する車をEVに切り替えていこうとする流れが来ていますので、今後ビジネスとしても広がりが期待されます。
――江田さんご自身もRAUL株式会社代表取締役として環境やエネルギーにまつわる事業を展開されていますね。
江田 はい。弊社では環境・エネルギーを事業分野とし、大きく分けて2つの事業を行なっています。まずは電力会社やガス会社などのエネルギー供給側となる企業様向けの事業です。デジタルを活用した新たなサービスの展開や蓄電池を利用した新規事業などのお手伝いをさせていただいています。
2つめはエネルギーを利用する企業様向けの事業です。例えばビルの再生エネルギー化やIoTなどのデジタル技術を使った省エネ化などのお手伝いなど、エネルギーにまつわる様々なコンサルティング事業を展開しています。
――RAUL株式会社では「環境・エネルギー」×「デジタル」をテーマにされていらっしゃいますが、エネルギーとデジタルを組み合わせることでどのようなことを実現できるのでしょうか?
江田 環境・エネルギーとデジタルを組み合わせる最もベーシックな方法は建物のデジタル化です。今はデジタル化をすれば利用者の電力データを秒単位で取得できるので、そのデータを元にAIなどを利用して自動で省エネに対応できるようになってきています。
例えば太陽光発電と蓄電池を連携させて買電量を削減する、室内温度のデータと室内にいる人数のデータから最適な電力消費となる空調温度を割り出して管理するなど、これまでは人の手で調整を行わなければならなかった省エネが、デジタル化すれば自動で最適な状態で管理できるようになるのです。
弊社ではそういったデジタル化の推進を、様々な企業と連携して取り組んでいます。現在は導入コストの関係上、導入先の多くは工場などの大規模施設です。しかし今後は導入コストも下がっていき、様々な施設で蓄電池やデジタルを利用して電力を効率的に蓄電・消費していく流れが広がっていく時代になっていくと考えています。
多くの人が環境・エネルギー問題に取り組む社会に向けて
――講演会ではどのようなお話をされていらっしゃいますか?
江田 ニーズとしては気候変動や脱炭素、エネルギー価格高騰への対応策の話題を求められることが多いです。企業や行政の管理職や経営者の方を対象にお話しさせていただくことが多く、環境やエネルギー問題に取り組むメリットや、企業での取り組み事例などをご紹介させていただいています。
SDGsや環境・エネルギー問題は難しく考えられがちなので、「どこから手をつけていいか分からない」「取り組む必要はあるのか」と思ってしまう企業も多いと思います。私の講演会ではご依頼いただいた企業の規模や業種に合わせた参考事例をご紹介していますので、「あの企業がやっているなら自分たちにもできそう」というヒントを持ち帰っていただけると思います。
――最後に、江田さんの夢をお聞かせください。
江田 私は20年以上エネルギー・環境業界でお仕事をさせていただいていますが、この業界は難しい分野だと考える方が多くいらっしゃるように思います。そのため、エネルギーや環境問題を自分事として考えるきっかけとなるよう、エネルギーや環境について少しでも分かりやすくお伝えするための事業やセミナー、書籍発行などの活動を行ってきました。
今後もそうした活動を長く続け、多くの方々がエネルギーや環境の知識を持ち、使用するエネルギーを自由に選べたり環境問題に積極的に取り組んだりできるような社会になるよう、少しでも貢献していきたいと思っています。
――貴重なお話をありがとうございました!
江田健二 えだけんじ
RAUL株式会社 代表取締役
一般社団法人エネルギー情報センター 理事
一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会 理事
慶應義塾大学卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)を経て独立。「環境・エネルギーに関する情報を客観的にわかりやすくつたえること」「デジタルテクノロジーと環境・エネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること」を目的に執筆や講演活動などを行っている。
講師ジャンル
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エネルギー価格高騰時代のコスト削減、ビジネスチャンス
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