本人に代わって退職の意思を会社に伝える退職代行。ここ数年で一気に知名度を上げたこのサービスの火付け役が、『退職代行モームリ』(以下『モームリ』)です。

なぜ『モームリ』はこれほど支持されるのか。急成長の裏にある戦略と『モームリ』の社会的意義について、生みの親である株式会社アルバトロス社長の谷本慎二(たにもと しんじ)さんに前後編に亘って迫っていきます。

情報発信で起こしたブーム。経験から生まれた『モームリ』の構想

▲谷本さんが運営する『退職代行モームリ』。退職成功率100%を継続しており、退職に失敗した場合は全額返金補償も行っている。(引用:退職代行モームリ公式サイトより)

――近年は退職代行への需要が高まっていますね。中でも谷本さんが運営されている『モームリ』は業界No.1と大人気ですが、どのような特徴があるのでしょうか?

谷本 退職代行自体は2017年頃から始まったサービスで、当社は2022年から参入しました。参入当時の退職代行に対する世間のイメージは、“何をやっているのかがよく分からない胡散臭いサービス”という、あまり良い印象のものではありませんでした。

そんな負のイメージを払拭するため当社が参入する際に重視したのが透明性です。退職代行は実際どのようなことを行うサービスなのか、顔出しをした上でSNSやYouTubeで発信し、健全性をアピールしていったのです。この活動により世に退職代行が広まっていったのだと思います。

――『モームリ』の登場で退職代行人気に火が付いたのですね。谷本さんは脱サラされて、半年ほどアフィリエイターをされていらっしゃいましたよね。そこからなぜ退職代行業をはじめようと思われたのですか?

谷本 前職はサービス業だったので、労働環境や上下関係の厳しさを感じていました。私はありがたいことに評価もしていただきながら10年弱勤めることができましたが、辞めてしまう人間もたくさん見てきたのです。

私はすぐに辞められましたが、辞める意思を伝えても退職時期を3ヶ月、半年と延ばされてしまう人もいます。そういった様を見て「退職は大変なもの」という印象は持っていました。

しかし、退職代行をやろうと思って前職を退職したわけではありません。はじめて退職代行の存在を知ったのは退職後でした。元同僚から、前の職場で退職代行が使われたという話を聞いたのです。しかしその時は「そんなサービスがあるんだ。おもしろいな」くらいの感覚しかありませんでした。

――では、何か次の展望があったわけではなく、突然退職されたのですか?

谷本 はい。当時は肉体的にも精神的にもかなり疲弊していたので、このまま続けるのは厳しいと感じてすぐに退職をしました。

――まさに「モームリ」だったのですね。

谷本 そうですね(笑)。アフィリエイトをはじめたのも、それを生業にしようという考えだったわけではなく、単にブログやアフィリエイトへの興味からです。前職では働き通しの日々を送っていたので、今まで興味があっても取り組めていなかったことにチャレンジしてみたいという、一種の自己啓発のようなものでした。

その中で、何か次の仕事としてやれることがないかと考えていた時に、『退職代行モームリ』というワードが浮かんだのです。当時の退職代行の“需要はあるけれど認知されていない”という状況に「そんな業界で事業をやったらおもしろいんじゃないか」と考え、『退職代行モームリ』をスタートさせました。

情報は武器になる。退職代行から得られるデータとは

▲株式会社アルバトロスが公開した『モームリ』のデータの一部。(引用:株式会社アルバトロスのプレスリリースより)

――株式会社アルバトロスでは様々な方法で退職代行業から得た情報の発信を続けていらっしゃいますが、なぜそこまで情報を公開されていらっしゃるのでしょうか?

谷本 情報社会の現代では退職の方法がネット上にいくらでも公開されていますから、情報を囲っておくことに意味はありません。しかも、事業内容を隠していたことで認知されていなかった退職代行が、隠さず全てを公開したことで認知されたという当社の成功例が既にあるのです。

であれば、情報を公開し、詳しく説明できることを売りとして打ち出していった方がいいと考えました。そのため情報を小出しにせず、出せるものは全部出していくというスタンスで発信しています。

――それまで隠されていたものを公表していくのですから、反発されることはありませんでしたか?

谷本 ありますね。経営者の方の中にはまだ退職代行に対し「退職を売りにしている」「退職を斡旋している」といったネガティブなイメージを持っている方々もいらっしゃいます。しかし、退職代行は元々暗いイメージのサービスだったものです。もう恐れるものはないと思い、広告も多く打ち出して強気の姿勢で攻めていきました。

――では、その退職代行から得られた知見を少しお聞かせください。退職代行を利用されるのは、どういった方が多いのでしょうか?

谷本 年齢層は20~30代が全体の8割弱を占めていますが、50代以上の利用者の方も相当数いらっしゃいますし、最高齢の利用者は74歳の方です。男女比としては、男性が若干多くなっています。利用者数は人口比率に比例しているため、地域差は特にないようです。

業種としてはサービス業や製造業、医療関係や建築関係が多い傾向にあります。サービス業、製造業は単純に母数の大きさが一番の要因ですが、医療関係や建築関係は労働環境の過酷さが要因となっているようです。

――業種や人口比率など母数の影響があるとはいえ、何か傾向はあるのでしょうか?

谷本 責任感がある職業や資格を取得しなければならない職業は退職代行利用率が低い印象があります。例えば医療業界の利用者は多いものの、医師の利用は数件程度しかありません。航空業界の利用者も少数です。

また、超一流と呼ばれる大企業では、従業員数が多いにも関わらず利用者数は少ない傾向にあります。それだけの大企業では福利厚生がかなり充実しているため、労務環境に不満を抱いて退職する方が少ないからだと考えられます。

――では、大企業より中小企業の方が退職代行利用率は高くなるのでしょうか?

谷本 利用者が少ないのは大企業の中でも平均年収1,000万円を超えるような企業であって、それ以外の大企業と中小企業とでは利用者数に差はありません。大企業といっても中心部の総務人事がしっかりしているだけで、支店や部署などの現場レベルでは過酷な労働環境であることも少なくないからです。

「いざとなればモームリがある」退職代行は利用者の心のお守り

▲イメージ画像

――どのような退職理由が多いのでしょうか?

谷本 やはりハラスメントと、有給が使えなかったりサービス残業があったりといった労務環境が全体の7〜8割を占めています。ハラスメントを受けている方が上司に退職したいと相談することは難しいため、そういった理由で退職代行を利用されるケースが多いのだと思います。

――退職時には本当の退職理由を隠す方も多いと思いますが、退職代行に対しては本当の理由をお話しされるものなのですか?

谷本 第三者に対しては言いやすいということもありますし、逆にハラスメントを理由に退職代行を利用したことを企業にお伝えしたことで、企業側が調査に乗り出してくれることもあります。

ただ、ハラスメントに遭われた方はその経験がトラウマになっています。そのため企業が調査をしたり部署変更などの対策を申し出たりした場合でも、退職を選ばれる方がほとんどです。

――相談からどのくらいのスピード感で退職に至るものなのでしょうか?

谷本 ご依頼者によります。連絡から20分後には退職が確定している場合もありますし、悩んで公式LINEに毎日相談される方もいらっしゃいます。

相談までは至らず公式LINEに登録だけして、「辞めたい思いはあるけれど、まだ頑張ってみよう。いざとなれば『モームリ』があるし」と、『モームリ』をお守り代わりにされている方も非常に多いです。そのように退職を悩む方も非常に多いため、当社では無料相談を設けています。

――利用者の方からはどのような声が聞かれますか?

谷本 温かいお声が圧倒的に多いです。退職直後にお礼を言っていただけるだけでなく、数ヶ月後に「今楽しく働けています」というご報告や、お礼のお手紙やプレゼントをいただくことまであり、退職代行は人に感謝される仕事なのだと実感しています。

――逆に退職代行を利用される企業側の反応はいかがでしょうか?

谷本 これは企業の風潮がよく見えるところだと思います。基本的には総務人事の方に連絡するため、8〜9割は淡々と事務的に処理されます。中には退職理由すら聞かれない企業様もいらっしゃるくらいです。一方で、我々に対し激昂される企業様も1割ほどいらっしゃいます。

依頼者と企業、どちらが事実を言っているのかを判断することは我々にはできません。依頼者は会社が悪いと思って退職したがっている。一方、企業側は急に辞める依頼者が悪いと思っている。相反する意見のどちらかに偏ってしまっては話が進まなくなるため、互いの気持ちに理解を示しながら、とにかく冷静に、淡々と、中立の立場としてお話をするよう心がけています

中には社内規定を理由に退職を拒否されることもありますが、法律上、無期雇用の場合は退職の意思を伝えて2週間で退職が確定することが定められています。そのため社内規定より法律の方が優先されるということをお話ししてご納得いただいています。(後編に続)

こちらもご覧ください!
【講師特別インタビュー】 谷本慎二さん 後編
退職代行データで日本を変える『モームリ』社長が目指す未来とは

後編では退職代行を通じて谷本さんが目指す未来についてお伺いします。退職代行は多くの企業や労働者にとってどのような価値をもたらしてくれるサービスなのか。より良い日本社会を願う谷本さんが目指す未来のお話をご覧ください。

谷本慎二 たにもとしんじ

株式会社アルバトロス代表取締役 退職代行モームリ代表

大卒後、サービス業入社5年でAMに抜擢。10年勤務を経て、独立。【退職代行事業“モームリ”】運営開始3年で業界最大手に。国内外メディア出演・取材・掲載多数。膨大な退職データの解析に基づく、企業経営者・従業員向けの「離職率低下・離職防止」「Z世代の理解」「企業の選び方」に関する講演も必聴。

講師ジャンル
実務知識 人材・組織マネジメント 経理・総務・労務

プランタイトル

「退職防止策・離職率低下について」(企業向け)

講師プロフィールへ移動

講師が「講師候補」に登録されました
講師が「講師候補」から削除されました


あわせて読みたい


【講師特別インタビュー】谷本慎二さん 後編
退職代行データで日本を変える 『モームリ』社長が目指す未来とは

『退職代行モームリ』を運営し、そこから得た様々なデータを公開さ…

【講師特別インタビュー】谷本慎二さん 前編
退職代行ブームの火付け役 『モームリ』成功の秘密を紐解く

本人に代わって退職の意思を会社に伝える退職代行。ここ数年で一気…

【講師特別インタビュー】大住 力さん
会社や仕事をもっと好きになる! ディズニーに学ぶ幸せな組織作り

ディズニーキャスト※の優れた対応は有名ですが、キャストが優秀と…


 他の記事をみる