『退職代行モームリ』を運営し、そこから得た様々なデータを公開されている株式会社アルバトロスの谷本慎二(たにもと しんじ)さん。前編では『モームリ』成功の背景にある情報公開戦略についてお話しいただきましたが、後編では退職代行を通じて谷本さんが目指す未来についてお伺いします。

退職代行は多くの企業や労働者にとってどのような価値をもたらしてくれるサービスなのか。より良い日本社会を願う谷本さんが目指す未来のお話をご覧ください。

時代に取り残される企業を救う新事業『MOMURI+(モームリプラス)』

▲株式会社アルバトロスの新サービス『MOMURI+』。(引用:株式会社アルバトロス公式サイトより)

――近年は人材不足が叫ばれていますが、退職代行業という立場から見て、日本企業はどのような課題を抱えていると思いますか?

谷本 働き方や労働環境は昔よりも格段に良くなっています。そのため、人材に困っていない企業も、実はたくさんあるのです。では人材不足に困っている企業の原因は何かといえば、「時代についていけていない」ということなのだと思います。

今の時代の若者たちは自由な社風を望む傾向にありますが、そんな風潮の中で一昔前の社内体制から変わらないままでいれば、やはり選ばれないのです。もし入社したとしても、今はもっといい企業があることはSNSで簡単に調べられてしまうため、他社に移られてしまいます。

そのように時代の変化に取り残されてうまくいっていない企業のお手伝いをしたいと思って始めたのが、2025年1月からの新事業『MOMURI+』です。

――『MOMURI+』について詳しく教えてください。

谷本 『MOMURI+』の主な事業は2つあります。1つめは退職代行のデータを開示する情報開示サービス事業、2つめは退職代行データをもとに企業に向けてコンサルや講演会を行う離職率低下コンサル事業です。実は2024年から講演会のご依頼をいただくことが増えており、講演会やコンサルティングへの需要の高さを感じたのが、この事業を始めたきっかけです。

退職代行を通して見ていると、悪循環が起こっている企業様が多いと感じます。若い世代がいない会社だからこそ若者を採用したいと思うものですが、年配社員が若者に喜ばれそうなことを考えても、当の若者には刺さらないのです。

逆に若い世代がよく入社してくる企業は、若い社員が同世代のニーズを考えて対策をしているため若者をよく採用できています。この悪循環と好循環の差が、若者が入社する企業としない企業の決定的な差だと思います。

高離職率の会社は判別できる。独自ノウハウで企業も労働者も救う

▲CAP/谷本さんの講演会の様子。講演会はオンラインでも行われており、気軽に参加しやすくなっている

――『MOMURI+』では若い世代が入社するためのノウハウを教えていただけるのでしょうか?

谷本 もちろん俗にいうZ世代の考え方などもお伝えできますが、若い世代だけに限らず幅広い情報をお伝えできます。例えば転職が難しいと言われている50代以降でも退職せざるを得ない場合があり、そういった退職理由のデータも当社は保持しているのです。

逆に求職者である新卒生に対してもノウハウを提供しています。大学で企業選びのポイントを伝える講演会を行うこともありますが、大変ご好評いただいています。

――学生に対してはどのようなお話しをされていらっしゃいますか?

谷本 当社は様々な企業の退職される理由や退職代行として電話対応した際の反応を熟知していますので、働きにくい会社の特徴など、企業の選び方をお伝えしています。働きにくい会社に入社することを防ぐことが、長期的に見れば日本全体の離職率低下につながると考えています。

――働きにくい会社は、採用情報などを見れば分かるということでしょうか?

谷本 ホームページが分かりやすいですね。例えば退職理由として社長からのパワハラが挙げられる会社は、ホームページに社長の写真が多く載っていることが多くあります。また、ノルマの多さやサービス残業の多さが挙げられる企業のホームページには、「世の中を良くする」のような、いわゆる“意識高い系”と言われる文言が載っていることが多いです。

そのように、ホームページなどに記載されている内容と起こりがちな問題はリンクしているのです。しかし逆を返せばそれはそのまま企業側の改善ポイントでもあるため、我々は学生と企業のどちらにも有益なアドバイスができると思っています。学生と企業の両面にアプローチして日本全体の労働環境を改善していくことが、我々の最終的なねらいです。

――学生向けの講演会の他に、どのような講演会をされていらっしゃいますか?

谷本 まずは離職率低下や採用に関する講演会です。当社では保有する膨大なデータから、退職されやすい会社の特徴も、退職されにくい企業の特徴も熟知しています。

このデータに基づくノウハウと情報発信により、当社では昨年度求人への応募が1,000名を超えました。社員の約9割が20代で、男女比も7:3で女性の方が多くなっています。これはこのノウハウの有効性を示す成功事例と言えるでしょう。

当社には退職代行から得たデータに加え若い社員が多い状況から、Z世代の考え方や企業に求めていることに関する情報も揃っているため、Z世代の理解に関する講演も人気です。また、数々の企業と電話で交渉してきた経験とノウハウから、コールセンターや電話業務でお悩みの企業へ向けた講演会も行っています。

退職代行と情報公開で日本を楽しく働ける労働環境に導く

▲社員の方々と谷本さん。株式会社アルバトロスは創業3年目で社員50名まで成長している。(引用:株式会社アルバトロス公式サイトより)

――離職率の高さやZ世代の理解に悩む企業の方々に特に伝えたいことは何ですか?

谷本 やはり一番は“時代に沿った運営をしてほしい”ということです。「今の若い奴は…」と若い世代を批判する声もよく聞かれますが、“今の若い奴”ではなく、“今の時代”が変化しているのです。それを理解せず若い世代に矛先を向けても状況は絶対に好転しないため、それだけは意識していただきたいと思っています。

講演会に参加される方の中には、40代以上の管理職の方が非常に多くいらっしゃいます。「変えていかないといけない」と考えて講演後に話しかけてくださる方も多くいる一方で、今の時代の流れを甘えと捉えてしまう方々も多くいらっしゃいます。

私自身も以前はそういった方々同様に、「退職代行なんていらない」と考えていた人間です。しかし「このままではダメだ」と気づいたからこそ、今、若い世代の声を代弁しているのです。

退職代行をしてきて私は、「反発をしていても意味がない」と感じてきました。たとえ退職を希望する労働者側が明らかに悪い場合であっても、労働者の非を責めるだけでは会社は変わりませんし、そのような人材を再び採用してしまえばまた同じようなことが起こってしまいます。そのため、ある程度受け入れるということも重要だと考えています。

――これからの時代を生き抜いていくためには柔軟性が大切なのですね。

谷本 最近日本を代表する大手企業の役職者の方々とお話しさせていただく機会も増えたのですが、そういった大手企業のトップの方々は、アグレッシブに戦略を打って成長し続けている企業というだけあって非常に柔軟です。私が言わんとすることを先んじて理解されていらっしゃることも多く、さすが日本を代表する企業だと感じます。

柔軟性が大切と言うと「若い世代の言い分を全て受け入れるなんてできない」と言われることもありますが、柔軟性を持つというのは全てを受け入れるということではありません。問題なのは、最初から受け入れまいと反発してしまうことなのです。

まずは受け入れる姿勢を持って意見を聞き、理解を示す。意見を聞いた上で、「これは絶対違うな」と思えば止めればいいのです。それはどんな企業でもできることだと思います。

――最後に、谷本さんの夢をお聞かせください。

谷本 私の目標は、日本の労働環境を正していくことです。私は前職の過酷な労働環境で苦しんだことで、「仕事は大変だ」「仕事に行きたくない」という思いをしてきました。そのような思いを抱く方が一人でも多くいなくなり、仕事を楽しいと思ってもらいたい。そのために退職代行の認知を高め、どんどん退職させています。

退職代行で退職する人が増えることによって、企業が「このままではダメだ」と考え労働環境がどんどん整備されていく。そんな未来になればいいと思っています。

そうなれば当社の事業である退職代行への需要は減りますが、『MOMURI+』として離職率低下や労働環境の整備、若い世代への理解などの情報をお伝えしていければいいと思っています。

そういった情報をお伝えすることで企業の労働環境がどんどん良くなり、労働者が安心して仕事ができる。そんな未来を目指しています。

――貴重なお話をありがとうございました!

こちらもご覧ください!
【講師特別インタビュー】 谷本慎二さん 前編
職代行ブームの火付け役 『モームリ』成功の秘密を紐解く

なぜ『モームリ』はこれほど支持されるのか。急成長の裏にある戦略と『モームリ』の社会的意義について、生みの親である株式会社アルバトロス社長の谷本慎二(たにもと しんじ)さんに前後編に亘って迫っていきます。

谷本慎二 たにもとしんじ

株式会社アルバトロス代表取締役 退職代行モームリ代表

大卒後、サービス業入社5年でAMに抜擢。10年勤務を経て、独立。【退職代行事業“モームリ”】運営開始3年で業界最大手に。国内外メディア出演・取材・掲載多数。膨大な退職データの解析に基づく、企業経営者・従業員向けの「離職率低下・離職防止」「Z世代の理解」「企業の選び方」に関する講演も必聴。

講師ジャンル
実務知識 人材・組織マネジメント 経理・総務・労務

プランタイトル

「退職防止策・離職率低下について」(企業向け)

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