建設業界や物流業界、サービス業…。今はどの業界も深刻な人手不足が課題となっています。
人事担当者にとって特に頭の痛い悩みが、「せっかく採用したのに続かない」ということではないでしょうか。
離職率の減少は、多くの人事担当者が掲げている目標でありますが、なかなか有効な解決策を見いだせていないところもあるようです。
今回ご紹介する講師の田中和義さんは、これまで40社近くの人材育成に関するコンサルティングを行ってきており、離職率低下に多くの実績を残しています。
人材育成担当者が大いに納得した田中さんの研修の内容とその魅力に迫ってみます!
労働組合・人材育成担当 関
管理職のための「自ら考え、動き出す」メンバー育成術
講師 : 田中和義 氏
開催時期 : :2023年10月
主催者 : T建築・不動産会社
講演時間 : 60分
聴講者人数: オンライン600名
講演タイプ: アーカイブ型
「人が育たない」という悩みから始まった人材育成研修
今回の主催者様は、全国に展開する建築・不動産会社の教育担当の方です。以前、営業研修を担当した関係で、今回は「営業の人材育成を担う管理職向けに人材育成研修を行いたい」という問合せをいただきました。
人材育成がテーマということで、すぐに田中和義さんが頭に浮かんできました。
田中さんは、リクルートで25年以上のマネジメント経験を持ち、独立してから40社近くの人材育成に関するコンサルティングを行っています。
2020年からは人事担当者や経営者向けの人材育成術に関するセミナーを行い、4年間で1400名以上の人が受講。セミナー参加者から「ぜひ自社で行ってほしい」と依頼を受けることも多いそうです。
田中さんを主催者様に提案すると、早い段階でご承諾をいただけました。今回の開催経緯をお聞きすると、「営業職を採用してもすぐに離職してしまう」「なかなか下が育たない」という課題があり、人材育成力の強化に至ったというお話でした。
実際、不動産業の離職率を政府の統計(厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」)をみてみると、2023年の「不動産業・物品賃貸業」の離職率は13.4%。産業別離職率の第4位となっています。一番離職率が高い「生活関連サービス業、娯楽業」の20.8%と比較すると、低いように感じられますが、注目すべきは入職率(12.2%)よりも離職率が高いということです。
昨年(2023年)、不動産業界には約13万人が入職しましたが、それを上回る14.1万人が離職しています。この調査結果は、不動産業界の定着率の低さを浮き彫りにしています。
主催担当者の方は、離職率を下げ、定着率をアップするためにも、管理職のマネジメントスキルの底上げが必要と考えられているようでした。
この課題を解決するためにも、田中さんは最適な人選であったと思います。
部下から信頼のおかれる傾聴力とは?
今回の研修の受講者は、人材育成を担う管理職、具体的には各部署の課長であり、部下を育成する立場にある方々です。全国にいる管理職の方は多忙であるため、今回はいつでも視聴できるようにアーカイブ配信にすることになりました。
このときのテーマは「部下のコーチング」でした。
コーチングという言葉は知っていても、具体的にどんな効果があって、どんなことをするのだろう?と思う方も多いと思います。
田中さんは、まずは「リーダーシップとは何であるか」ということについて詳説されました。田中さんいわく、リーダーシップとは「他人に影響を及ぼして、望ましい行動をさせること」。つまり、部下だけでなく時には上司や家族を巻き込んで行動させることにあります。
この”巻き込み行動”を起こすには、両者の間で信頼関係がなくてはなりません。信頼関係の構築には、「質問」「傾聴」「観察」のコミュニケーションスキルが必要と言います。
このコミュニケーションスキルの手段としてコーチング手法が適しているとして、コーチングの効果やコーチングとティーチングの違い、コーチングのアプローチ法について具体的に教えてくださいました。
コーチングは、やり方を教えるだけのティーチングと異なり、相手が自ら答えを発見できるように導いていきます。
例えば、「これはどうしたらよいですか?」という部下の問いかけに対し、「こうしたらよいよ」とやり方を教えるティーチングでは、問題は早く解決しますが、答えを待つようになる受動的な人材しか育成できません。
反対に、「どうしようと考えているの?」というように具体的に質問をし、部下からの答えを導き出し、必要に応じてアドバイスをすることで、部下が自分自身で考え動くようになります。
第1部では、自ら考えて動く「自立型人材」の育成には、コーチングが有効であることを提唱しました。
コーチングの代表的な手法「アクティブリスニング」
コーチングの考え方を説いたあとに、コーチングの手法をいくつか教えていただきました。
その一つにアクティブリスニングというものがあります。
これは、基本的にこちら側は聴く立場に回り、相手の意見に共感しつつ耳を傾けるというものです。これにも、相手にたくさん話をさせるスキルが必要です。アクティブリスニングには具体的に以下のような傾聴のしぐさが良いとされています。
- 視線を合わす
- うなずく
- 相槌を打つ
- うながし
- 話すスピード・音量を合わす
- 沈黙する など
「あなたのことを聴いていますよ」ということを相手に伝えるために、視線を合わしたり、相槌をつくことは何となく想像できますが、「沈黙する」ということはどういうことなのでしょうか?
例えば、相手が話しているときに、自分の考えを出すために話を止めることがあります。そのときは、じっと待って、沈黙を保ち、相手が言葉を発するのを待つ必要があるようです。
また、具体的な相槌の打ち方も教えていただきました。相手の言ったことを繰り返す「オウム返し」の他に、相手の言ったことを端的に述べる「要約」等、さまざまなスキルがあります。それぞれのスキルについて、日常で起こるシーンを想定して実践的に教えていただけたので、とても理解しやすかったと思います。
主催者様が研修後にとったアンケートによると、「初めて知ったことも多く、大変勉強になった」という意見やさらに「もっと実践的な内容まで踏み込んでやってほしい」という意見もあり、とても反響が高かったとのことです。
管理職の部下育成への苦手意識を払拭「アンガーマネジメント研修」
第1回管理職研修も好評のうちに終わり、それから数か月後に、今度は次期リーダーとなる課長クラスの選抜メンバーを対象に、アンガーマネージメント研修を実施したいとのご依頼がありました。
主催様からのご希望もあり、詳しい研修内容を決める前に、一度講師と弊社を交えて、三社打ち合わせを行いました。
主催担当者の方は、開口一番「離職率の高さを何とかしたい」とお話されました。今回の聴講者は、個人でも高い成績をあげてきたプレイングマネージャーです。営業は得意としていても、人材育成に苦手意識を持つ方々も多いようです。実際、部下との意思疎通がうまくはかれず、それが離職の理由になっているケースもあるようでした。
そこで、アンガーマネージメント研修には、社員のエンゲージメントを高めるためのコミュニケーションスキル習得に向けたプログラムを入れることになりました。
また、田中さんは、建設業界の内情も熟知していることから、離職率が高い原因は「採用者と人事育成者が異なるからではないか」と推測されました。
事実、主催者様の会社では多くの場合、採用を支店長が行い、人材育成を各部署の課長が行っています。
田中さんは、採用者と育成者、両者間の考え方の隔たりが、この離職率の高さを招いていると分析し、この隔たりを埋めるために、研修等で共通の考え方にすり合わせした方がよいと提案されました。この打ち合わせの中でも、建設業界における人材育成の成功事例を具体的に提示しながら、お話していただいたおかげで、担当者様も田中さんの提案が腑に落ちたようでした。
アンガーマネージメント研修は、対面で1日かけて実施しました。前の研修のふりかえりを行った後に、アンガーマネージメント法やチームのコミュニケーション、人材流出を防止するための策等を学んでいきます。
こちらについても、現場の問題にそった内容で、とても好評だったと伺っています。
採用者への研修コンテンツを開発
アンガーマネージメント研修も無事に終わったあとも、田中さんがおっしゃっていた「採用者と育成者、両者間の考え方の隔たりを埋めるために、研修等ですり合わせの場が必要」という言葉が頭から離れませんでした。
今回は育成者の研修で、部下のエンゲージメントを高めるスキルを提供できましたが、現状、採用者にその考え方が行き渡っていません。主催者様が抱える「高い離職率」問題の根本的な解決を図るためにも、採用者に向けて研修コンテンツを提供してみた方がよいのではないかと考えました。
そこで、田中さんに、前回の人材育成研修を踏襲した採用者向けのコンテンツ作成をお願いしました。離職防止と採用についての面接官トレーニングをプラン化し、主催担当者様に提案しました。
すると、こちらは一旦社内の確認をとらないといけないということで、私の方でプレゼン資料を作成してお渡ししました。
結果的に、効果を出すため参加メンバーを絞り、3回開催で行うことになりました。こちらは近日中に開催予定です。本研修の様子については、また別の機会にお伝えできればと思います。
自社の課題に直結するほど研修満足度は高い
私は人材育成担当となって数年たちますが、毎回感じることが、自社の課題に直結している研修ほど、主催者様だけでなく受講者の満足度が高いということです。
今回は、主催者様、講師と弊社の三者打ち合わせができたことで、直接、主催者様の会社が抱える問題を伺え、その上で適切な研修内容を提案できました。主催者様からの満足度も高く、継続のご依頼をいただいております。
私たちの仕事は、単に講師を提案するだけではありません。主催者様の問題解決につながるように講師を選出し、研修コンテンツを開発することも、私たちの重要な仕事です。
これからも、主催者様の課題を見極め、研修提案という形で問題解決のお手伝いをできればと存じます。
田中和義 たなかかずよし
一般社団法人日本能率協会JMAマネジメントスクール専任講師 人材採用・育成エグゼクティブコンサルタント 株式会社エス・シー・ラボ代表取締役
リクルートでの圧倒的な営業経験と、25年以上のマネジメント経験の中で培われたノウハウを基に講演・セミナーを行う。参加者からは「実践的でわかりやすい」「すぐに使えるスキルを学べる」と高評価。アンガーマネジメント、オンライン営業のコツ、ハラスメント防止など、時代に即した多様なテーマを持つ。
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