コロナ禍以降、リモート勤務が定着した方も多くいます。働き方が従来と一変した現在の環境は、新人社員にとっては特にモチベーションが上がりにくいものだと言わざるを得ないでしょう。自分のモチベーションを維持し、さらに向上させることは、容易ではありません。
そんなときに役立つのが「セルフモチベーション」です。その名の通り、自分自身でモチベーションを上げることを意味します。変化の多い情勢において、この「セルフモチベーション」は仕事の大きな原動力となります。
今回は、元ラグビー選手でありパフォーマンスコンサルタントの今泉 清氏より、逆境にあってもモチベーションを維持し続けられるセルフモチベーションのコントロール術について解説していただきます。
【監修・取材先】
今泉 清氏
パフォーマンスコンサルタント
ラグビー元 日本代表
セルフモチベーションの原動力
モチベーションを高めるには、まず、ビジネスシーンにおける自身の目標(ゴール)を定め、成長課題を明確にすることが必要です。
例えば、企業なら競争力の維持や収益アップが目標となります。その業界において自社はどの位置にあるか。また、製品やサービスの価値はどれほどのものか。サービスやビジネスモデルが変化する中で、自社はどのような対応をすべきか。これらを見定めることで、現在の成長課題が見えてきます。
個人であれば、売り上げやシェア率の目標値、会社でのポジション、資格取得、やりたいプロジェクトの実現など、目標はさまざまです。しかし、ここで重要なのは「ビジネスはニーズに支えられている」ということです。ニーズがなければ、ビジネスは生まれません。まずは、世の中のニーズを見極め、ビジネスにおける具体的な目標やビジョンを定めます。その上で、今の自分に足りないものは何か、何をすべきなのかをリストに書き出してみます。
目標を決め、自分のありたい姿を想像した先に見えるのが目指すべき「初心」です。これがモチベーションの原動力になるのです。この「初心」を忘れないためにも、目標や成長課題を紙に書き出しておくことは重要です。書き出した紙を提示する場所は、常に目に留まりやすい手帳や机の上などがよいでしょう。
GROWモデルで目標を実行する
今泉氏は、目標を実行する過程において、コーチングの基本理論である「GROWモデル」の導入を推奨しています。
「GROWモデル」とは、
- G:GOAL=目標の明確化:望む結果・ありたい姿を具体的にイメージする
- R:REALITY/RESOURCE=現状の把握/資源の発見・再認識
- O:OPTION=選択肢の創造
- W:WILL=意志・覚悟(期限を決定)
を表し、目標設定から実行までのプロセスを明確化できる手段です。これを用いて、ありたい姿や現状を把握し、選択肢や期限などを具体的に書き出していきましょう。自ずと、目的や目標・手段が見えてくるはずです。
「GROWモデル」を作成するポイント
G:GOAL=目標の明確化:望む結果・ありたい姿を具体的にイメージする
- いつまでに、どのような結果を手にしたいか?
- どのような状態になるとゴールを達成したと評価できるか?
- ゴールは「どこで、誰と」達成しているか?
- ゴールを達成すると、何が得られるか?どうなるか?
R:REALITY/RESOURCE=現状の把握/資源の発見・再認識
- 現状、何が起きているか?
- 今、何が問題だと感じているか?
- 上記に対して、自分は今どのように状況を考えているか?
- 今、ゴールに対して何%のところまで到達していると考えているか?
- この状況をこのまま放置すると、どうなるか?
- 取り組んでいるプロセスの中で、一番充実しているのはどの部分で、一番充実していないのはどの部分なのか?
R:RESOURCE=資源の発見・再認識:ゴールを達成するために使えるものがあるか? 人・モノ・金・情報・時間を見直す
- 誰かそのテーマに詳しい人の協力を得られないか?
- 他の部署・部門から、どのような支援・サポートがあったらよいか
- 過去の経験から使えそうな情報・ヒントはないか?
O:OPTION=選択肢の創造:選択肢を探す、自己選択する
- 現状とゴールのギャプを埋めるために何が必要か
- ゴールを達成するために何が課題になるか?
- どのような行動が必要か?
- 新しい方法・手段が他にないか?
- どのようなリソースを持っているか?/さらにどのようなリソースが必要か?
- いつ、何処で、誰の、どのような協力が必要になるか?
・W:WILL=意志・覚悟(期限を決定):行動計画(アクション・プラン)を作成する。実行に対して責任を持つ覚悟を決める。評価基準が決まる。
- ゴールを達成する行動計画(アクション・プラン)を立てる
- 最初に取り組む選択肢(項目)は何から始めるか?
- いつまでに達成できるか?期限はいつまでなのか?
- ゴールが達成されたら、どんな気持ちになるか?
以上のポイントを見据え、ご自身のGROWモデルを作成してみてください。目標を実現させるための具体的な方法を明らかにすることは、モチベーションの向上につながります。
肯定的な言葉を使ったメンタルの改善
目標を定めて行動していく過程で、多くの困難や問題に遭遇しますが、そうなると、どうしてもモチベーションは下降気味になってしまいます。そんなときには、今泉氏を含めアスリートが実践してきているメンタル術「PSCSL」をぜひ実践してみてください。
「PSCSL⇒P=SC=SI」とは、P=Performance(パフォーマンス)、SC=Self-Confidence(自信)、SI=Self-Image(自己イメージ)を合わせた造語で、「ありたい姿」を自己イメージすることで自信が湧き、パフォーマンスが向上することを意味します。モチベーションを持続させるには、「ありたい姿」を忘れないこと。そして、心の中で常に「自分はできるんだ」というポジティブな声かけをしてあげることです。物事がうまくいかず心が萎えたときほど、自ら書き記した目標や「やること」リストを見て初心を思い出すことも、モチベーションの修正に効果を発揮します。
そのようにして頑張る姿は周囲の人々の心を動かし、何らかの評価が得られることでしょう。
「●●さん、頑張っているね」
「●●がうまくできるようなったね」
できたという事実を周囲に認められることで、自身の「達成感」が増幅され、「自分はできるんだ」という自己信頼(=自信)へとつながります。また、この時に感じた達成感や成功体験は、その後のモチベーションを維持する力に大きく影響します。
達成感や成功体験の繰り返しが自信をつけ、逆境をもポジティブに捉えられる体質へと変えていくのです。
・これまでの達成感や成功体験を思い出す
成功体験がなくても「自信」はつけられる
成功体験がないと自信を持てないという方もいらっしゃいますが、成功体験がなくても、「ありたい姿」を自己イメージし、それに近づけようとする段階で「自信」はついてきます。
もし「ありたい姿」が想像できない場合には、成功している人(ロールモデル)の真似をしてみてもよいでしょう。真似しているうちに、それが自分の「オリジナル」に変わることがあります。
今泉氏もよく現役の頃は、強い外国人選手の動きをビデオで何度も再生して、その選手の目線で試合での動きをシミュレーションしていたそうです。それを続けているうちに、試合中に不思議と同じような場面に遭遇することがあるのです。そうすると、当初イメージしていた通りに体が動いて、成功した瞬間がありました。
それは、1990年12月8日に開催された早稲田対明治の関東大学対抗戦でのことでした。今泉氏早稲田チームは最後残り30秒前まで12対24で負けていたのですが、残りの30秒で今泉氏にボールが回ってきました。その瞬間周りがスローモーションとなり、走っていくべき道が光って見えたそうです。それは今泉氏が何度もビデオでシミュレーションしていたイメージと同じものでした。そのまま80m独走し、左中間のインゴール。同点に持ち込むことができ、いまだにその時の感覚が思い起こされるとのこと。最初は外国人選手の動作を真似していましたが、それがうまくいった瞬間、自分のものにすることができました。真似から自分のものへと昇華することができたのです。
逆にロールモデルがいない場合でも、どんどんチャレンジすることで、「ありたい姿」が出てくることもあります。
車メーカー・ホンダの社訓にチャレンジ精神があります。「チャレンジ」というと新しことに挑戦するというイメージがありますが、ホンダでの「チャレンジ精神」とは「できるまでやり続けること」。いつか「なりたい自分」「ありたい姿」が見つけられると思って、一生懸命やり続ける。そうすると、いつの間にか「できる自分」が身に付き、自然と自信もついてきます。
挑戦する過程で失敗への不安が出てきます。失敗は「敗れて失う」と書きますが、実は失敗から得るものも多いのです。「次失敗したらどうしよう」「どうせまた失敗する」という思考パターンに陥りやすい人ほど、次のステップで紹介するマインドセットが重要になってきます。
成長するために必要なマインドセット
マインドセットとは、経験や思い込みなどによる思考パターンのことで、「習慣」や「癖」という言葉でも訳されます。
例えばゴルフでフェアウェイにボールがあり、それを打ち込もうとする時に、ホールインワンする自分を想像してるのに、どこかで池ポチャしてしまう自分の姿が頭をよぎる。口で「そんなことない、自分にはできる」と自分に言い聞かせてみても、一瞬でも失敗した自分をイメージした瞬間に、脳はその失敗した通りの行動をとってしまうのです。
いわゆる「負け癖」というものです。練習ではうまくいっているのに、試合本番になるとどうしても負けてしまう人は、このマインドセットがうまくできていないためです。練習では、何度もその練習場所での成功体験があり、「できる自分」のイメージができています。ところが、試合になると、成功体験のある練習場所とは異なる場所で行われるため、その場所で「できる自分」をイメージできないといったことが起きます。人は「できる自分」がイメージできないと不安になり「できない自分」が脳裏に浮かんでしまいます。そうすると、脳は「できない自分」を再現しようとするため、何度も失敗を繰り返してしまいます。
それでは、勝てるマインドセットにするためにはどうすればよいでしょうか?
2015年のラグビーワールドカップで、日本のラグビー代表チームは、過去2回の優勝国である南アフリカのチームと対戦するのですが、奇跡的に勝利しました。これまで20年間のワールドカップでわずか1勝しか上げられなかった日本チームがなぜ勝つことができたのか。実は、マインドセットがうまくできたことも勝因の一つなのです。
試合前、当時のヘッドコーチであったエディー・ジョーンズは、日本代表チームを試合会場となるイギリスのブライトンに連れていき、そこで試合をシミュレーションした練習に取り組ませました。選手一人ひとりが「勝っている」自分を繰り返しイメージして、そのイメージを持ち帰って、日本でも練習をしました。よく監督やアスリートたちが「試合のように練習をし、練習のように試合をする」ということを言っていますが、試合と同じように練習しないと、試合では役に立たないわけです。本番で「勝っている」自分がイメージできたおかげで、それまで負け癖のあった日本チームが初めて勝利を収めることができました。
つまり、マインドセットには、本番でのポジティブなイメージ作りが重要なのです。
トレーニング=「できる自分」にスキルをすり合わせていくこと
人は本番で一度失敗をすると、「また失敗するのではないか」という不安に感じ、同じ失敗を繰り返してしまいます。自己肯定感が満たされないために、どんどんと負のスパイラルに陥ってしまう。そこから切り抜けるには、まず本番で「できる自分」をイメージし、後は学習や練習によってその「できる自分」に自分のスキルをすり合わせていく。それを「トレーニング」といいます。
トレーニングの語源は「Train(列車)」から来ています。列車は終点(ゴール)に向かって走っていくように、トレーニングにおいても到達点を見据えて設定する必要があります。
前述のエディー・ジョーンズは、練習前に前回の試合の敗因を分析し、「それには何が足りなかったから、それを補うためにこのトレーニングを行う」と選手たちに必ずフィードバックしてからトレーニングを行っていました。今泉氏が高校の時は、監督が指示した練習をわけもなくただひたすらこなしているだけだったそうです。しかし、練習の目的がわからなかったため、「できる自分」が想像できませんでした。
エディー・ジョーンズのやり方で練習をすると、まず自分たちの弱点がわかり、練習の目的を意識しながら取り組むことができます。そうすることで、「できる自分」をイメージできるようになります。
次の試合で、前回と同じような状況になっても、練習によって本番でのイメージができているので、そのイメージを本番で再現します。そうすることで、「できなかった自分」から「できる自分」へとイメージを書き換えることができるのです。
➁その原因を補うために何をすべきかを考え(セルフフィードバック)、ゴール(「なりたい自分」)を決める
③「できる自分」を想像し、イメージトレーニングをする
④「なりたい自分」に向かって繰り返し本番と同じ状況で練習をする
⇩
「できない自分」から「できる自分」へ
マインドセットは、ビジネスにおいても十分に通用します。
例えば、営業前にしっかりと営業研修を受けたにも関わらず、営業先でお客様から想定してなかった質問を浴びせられ、うまく商品のPRができなかったとします。
その際にやるべきマインドセットでは、まず、失敗の要因をピックアップします。自分で反省点を考えても良いですし、同行した上司や同僚の意見を聞いてみてもよいでしょう。
想定していなかった質問に対応できなかったのであれば、それは単純に勉強不足であり、それについてとにかく書籍やインターネットで情報を集めます。そして、お客様を想像しながら、どんな質問が出るのかリストアップし、その回答をノートに書いてみます。
次に実際に同僚にお客様役になってもらい、ロールプレイをして質問のやり取りをしてみます。そこで重要なのは、「できる自分」を前回と同じ状況でイメージすること。前回と同じシチュエーションで、そこでお客様からの質問にはきはきと答える自分をイメージします。
マインドセットでは、「できる自分」のイメージトレーニングと、「できる自分」に近づくための実務トレーニングが重要です。
このようなマインドセットを繰り返すことで、自分の強みと弱みが見えてきます。日本では弱みを矯正する方に傾向しがちですが、海外のスポーツ界では強みを伸ばすことが重視されています。自分の強みを知れば弱みも補うことができ、人と企業を成長させます。マインドセットは成長サイクルに欠かせない理論といえます。
セルフモチベーションを身に付けよう
セルフモチベーションのスキルを身に付けると、経験の乏しい新入社員でも、在宅勤務でも、うまくモチベーションを保ちながら仕事に取り組めるようになります。
今泉氏の講演では、ここまででお話した内容に加え、セルフモチベーションをビジネスシーンに活かす方法や具体的な実践方法をさらに掘り下げて解説していきます。ラグビー経験を通じて得た知見のほか、脳科学や歴史上の名言・格言などを交え、分かりやすさを意識した講演を行っています。より詳しくお知りになりたい方はシステムブレーンまでお問合せください。
今泉 清 いまいずみきよし
パフォーマンスコンサルタント ラグビー元 日本代表
スポーツ関係者・指導者
ラグビー日本代表として数々の輝かしいキャリアを持ち、2001年 現役を引退。早稲田大学やサントリーフーズのコーチとして後進の指導に注力。また、2005年に早稲田大学大学院公共経営研究科に進学し、公共経営修士を取得。ラグビーを通じて取得した「組織論」は企業組織にも生かせると定評がある。
プランタイトル
~ONE TEAM、ONE HEART~
ラグビーに学ぶ個人の成長とチーム・組織の活性化
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