リモートワークを導入する企業が増え、セミナーもオンライン形式に変わるなど、ビジネススタイルが大きく変わったコロナ禍。会議や研修、商談においてもオンラインを導入することが常態化しています。
そんな中、オンライン会議やオンライン研修において、実際に対面で行っていた以前との違いや、オンラインならではの制限といった問題も出てきており、戸惑う方も少なくありません。
そんなときに役立つのがファシリテーションスキルです。ファシリテーションとは、参加者に発言を促したり、話を整理してまとめたりして、会議やミーティングが円滑に進むよう中立的な立場でサポートすることで、会議を活性化させるのに重要な役割を担っています。
オンライン会議を生産性の高いものにするために必要なこのファシリテーションスキルについて、プレゼンテーションコンサルタント・組織開発コンサルタントの新名史典氏に解説していただきます。
【監修・取材先】
新名史典氏
プレゼンテーションコンサルタント
組織開発コンサルタント
オンライン会議とリアル会議の大きな違い
テレワークの導入により、多くの社内会議もオンライン化しました。メンバーや議題は対面でのリアル会議と変わらないのに、なぜかうまく進行できない、一体感がないといった“やりにくさ”を感じて悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
やりにくさの理由として相手との距離感を挙げる方もいますが、リアルの対面会議と比べると、実はオンライン会議の方が、フラットな接し方になりやすいという一面があります。リアル会議では、人数が多くなるほど人と人との間で物理的距離が開き、心理的距離感も強くなります。しかし、オンラインでは画面に皆が一様に表示されるため、心理的距離は縮まったように感じるはずなのです。それなのに、オンラインの方が心理的距離を感じると考える方が多いのも確かです。なぜでしょうか?
それは、やり方に問題があるのです。
オンラインは目の前に人がいないから自分の感情が相手に伝わりにくい、相手の感情が理解しにくいと考える方もいるかもしれません。しかし、同じように画面を通じて見ている映画やドラマでは、登場人物に感情移入できますよね。つまり、オンラインかリアルかが問題なのではなく、感情表現がしっかりできているかどうかなのです。感情表現の方法を身に付ければ、オンラインであっても相手に気持ちが伝わりやすくなります。ファシリテーションには、この感情表現も大切な要素の一つです。
また、参加者との心の距離を縮めるために、相手の名前を呼び、一対一で対話する時間を設けるのも有効な手段の一つです。例えば会議の冒頭で、一人ひとりの名前を呼びながら「●●さん、聞こえていますか?」「●●さん、調子はどうですか?」と声をかけてみてください。15~20秒くらいの短時間で構いませんので、全員と話す機会を持つようにします。そういった気遣いで参加者の表情は和らぎ、会議の雰囲気もガラリと変わります。
このようにファシリテーションスキルを活用することで、オンライン会議であっても、リアル会議以上に心理的距離を縮めることは可能です。
オンライン会議のよくあるお悩み
オンライン会議ではリアル会議より、そのあり方や進め方に関する悩みが生まれやすい傾向にあります。ここでは、オンライン会議のよくあるお悩みについて、具体的にどんなものがあるのかをご紹介します。
参加者からの発言がない
オンラインでは、PCのモニターやタブレットの画面に参加者の顔が並びます。参加人数が多いと全員の顔が表示されない、資料を画面共有すると参加者の顔が見えないなど、参加者全員の様子が分からない状況になることも少なくありません。
参加者に発言を求めても、なかなか発言が出てこない、といった経験をお持ちの方も多いでしょう。しかし、原因は環境だけでなく、問いかけの仕方にも問題があるのかもしれません。
新名氏は、講演会で、受講者から「意見を求めても発言がない」という悩みを相談されるそうです。その時に新名氏は、「相手を名指しして質問していますか?」と聞いているとのこと。
リアル会議では誰への問いかけなのかが、司会者やファシリテーターの視線で分かります。けれども、オンラインでは視線の先を判断するのが難しくなります。ですから、参加者に意見を求めるときには必ず「●●さん、△△についてどう思いますか?」と、名前を呼んだ上で問いかけて、誰への質問なのか分かるようにしましょう。参加者は、名指しされれば必ず答えてくれます。
また、名指しでの問いかけを繰り返していくことで、「自分も意見を求められる」という、良い意味での緊張感を参加者に与えられ、自分も発言しなければいけないという空気感が生まれます。
話し手に対する反応が見えない
オンライン会議では、進行役が一方的に話すだけになりがちです。限られた時間でシナリオ通りに進行していかなくてはならないことに、プレッシャーを感じることもあるでしょう。しかし、参加者が話す内容に反応する時間がなければ、参加者たちにとってつまらない時間になってしまいます。
また、反応しないのは、「意見を出しても聞き入れてもらえないだろう」と参加者が思っているからとも考えられます。これまで、参加者が意見を出したとしてもすぐに否定したり、ないがしろにする姿勢でいたのであれば、発言しようという参加者の意欲はそがれ、反応はますます鈍くなっていきます。
参加者の発言がどのようなものであっても、いったんは肯定的に受け止める姿勢がファシリテーターには必要です。意見が出たら、まずは必ず肯定することが肝要なのです。これを続けていくと、参加者たちに「否定されない」という安心感が生まれ、発言しやすい環境になれば、積極的に参加しやすくなります。
変な間ができる
変な間ができてしまう——これも、オンライン会議でよくある光景です。
例えば、参加者の発言が終わったかどうか分からず、進行していいのか、次の発言者に移していいのか判断に迷ったとします。その場合は、発言し終わったら「以上です」と付け加えるというルールをあらかじめ設けておくことをおすすめします。
また、参加者が現状把握できていないことから、変な間が生まれてしまうこともあります。会議は大きく分けると次の3つの目的で行われます。
- 議題を広げる➡参加者から意見を募る
- 「絞る」➡集めた意見を精査して絞る
- 伝える➡今回の議題の目的を伝える
参加者が会議の目的や流れを十分に理解していない状態で会議を進めてしまうと、進行役と参加者の間に認識のズレが起こります。そうなれば、参加者には「発言しようと思ったら次に進んでしまった」「意見を出したのに適当にあしらわれた」などの不満が生まれ、進行役には「今回の会議は議題を広げるためのものではなかったのに…」といった思いが残るなど、両者の間に溝ができてしまうかもしれません。
このような状態に陥らないようにするためにも、どのような目的の会議なのかを、事前あるいは会議の冒頭で参加者に明示しておきましょう。進行役と参加者の認識のズレが解消されれば、変な間もなくなります。
会議におけるファシリテーション術とは
これまでお話ししてきたことは、全てファシリテーションスキルです。
もともとファシリテーションとは、集団において参加者が発言しやすい場を作り、出された意見をまとめて、最終的に皆が合意できるような形で結論に導くこと。そのスキルは会議の活性化に必要なものです。意見交換が活発に行われるようにするために、ファシリテーターは、参加者が心理的安全性を感じられるような雰囲気を作らなければなりません。ファシリテーターは、会議の進行役だけをする司会者とは異なり、「発言しやすい場作り」をすることも重要な役割となります。
「発言しやすい場作り」には、前述の通り「参加者の意見を否定しない」と同時に、発言者を追い詰めないようにすることも大事です。「知っていますか?」「分かりますか?」のように、知識や理解を問うような聞き方をすると、相手がそれについて知らない・理解していない場合、劣等感を抱き、意見が出しにくくなってしまうかもしれません。ですから、「どう思いますか?」「~ついてどう考えますか?」のように、相手に意見を聞くという姿勢で質問するようにしましょう。知識や理解の質問では、「知っている/いない」「理解している/いない」の回答によって優劣がつくことになりますが、「個人の見解」であれば、優劣はつきません。
- 相手の意見を否定しない
- 知識・理解を問うのではなく、意見を聞く
この2点に注意して問いかければ、参加者はファシリテーターに対して安心感を抱くようになり、議論の活性化にもつながります。
ファシリテーションスキルを身に付けるために
ファシリテーションスキルを身に付けるには自身の心がけが大切ですが、スキルを高めるには、自分の話す姿をチェックすることが最も効果的です。
オンライン会議であればweb会議ツールに備わっている録画機能を活用して、録画映像を見ながらチェックしてみましょう。気づくことがたくさんあるはずです。
- 参加者一人ひとりの名前を呼んでいたか?
- 発言を肯定的に受け止めていたか?
- 参加者の意見に対してリアクションしていたか
- 発言を真摯に聴いている姿勢を見せていたか
上記のように具体的なチェックポイントを設けて、クリアできているかどうかを確認しましょう。
例えば、進行することに必死になるあまり、参加者の発言を肯定的に受け入れられていなかった、相手の話を聴いていたつもりだったが、進行役に集中しすぎてリアクションがあまり取れていなかったなど、改めてチェックしてみると、多くの反省点に気づかされることでしょう。それらを書き留めて、どうすれば改善できるかを考えてみてください。
新名氏の講演では、より具体的なファシリテーションスキルの解説をしています。オンライン会議での「あるある」を例に挙げながら、原因や対策についても詳しくお話しします。ご興味のある方は、ぜひシステムブレーンまでお問合せください。
新名史典 しんみょうふみのり
プレゼンテーションコンサルタント 組織開発コンサルタント
コンサルタント
「わかりやすい説明術」を伝授するプレゼンテーションコンサルタント。ビジネスコミュニケーションとプレゼンテーションが専門。社内外への報告や商談、会議運営を含めプレゼンテーションスキルに悩む方々必聴。また、日本HACCPトレーニングセンター幹事として、衛生教育のテーマにも意欲的に取り組む。
プランタイトル
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