どの職場にもヒューマンエラーは付きものです。「今度こそ気をつけようと思っても、いつもミスをしてしまう」「何度注意してもスタッフのケアレスミスが無くならない」と悩んでいるビジネスパーソンも多いでしょう。
仕事でのヒューマンエラーを減らすには、まずエラーを起こす脳の仕組みから理解する必要があります。今回は、作業療法士の立場から脳科学を学び、脳の仕組みを利用した独自の行動メソッド『脳チング』を考案した恒松伴典氏に、効果的なヒューマンエラー防止策を解説していただきます。
【監修・取材先】
恒松伴典氏
conditioning studio VIVALUCK! 代表
作業療法士
【防止策を考える前に】ヒューマンエラーと脳の関係
まずは、どれだけ気をつけていても職場でヒューマンエラーが起きるのはなぜかを考えてみましょう。
実は、ヒューマンエラーはごく自然な脳の現象の一つです。人間の認知機能である記憶・思考・実行機能などのキャパシティの問題であり、「ミスをしないよう気をつけよう」という表面的な意識だけでは解決しません。ましてやヒューマンエラーの問題を個々のスタッフの努力や精神論で片付けようとすれば、いつまでもミスに悩まされる状況が続くでしょう。
つまり「一定の条件が揃えば、ヒューマンエラーは誰にでも起こり得るもの」ということを前提として、職場のシステムや風土を整えることが大切なのです。
防止策も効果なし?職場で起きるヒューマンエラー事例
それでは次に、職場で起きるヒューマンエラーの一般的な事例と、その背後で脳にはどのようなことが起きているのかを見ていきましょう。
うっかりミス(記憶のエラー)
脳の認知機能の問題として起きるヒューマンエラーの一つが、記憶のエラーです。「取引先への連絡を忘れていた」「作業に必要な物を用意するのを忘れていた」などの、いわゆる“うっかり”ミスがこれに該当します。
こうした“うっかり”ミスは、「気が緩んでいるから、ちゃんと覚えられないんだ」と思われがちです。しかし、実際のところ脳が一度に記憶できる事柄は3つ程度しかありません。体調がよく集中できているときは脳の容量が大きくもっと多くのことを覚えられるかもしれませんが、反対に睡眠不足や体調不良、悩み事などで脳の容量が減っているケースもあります。その場合は1つの事柄でさえちゃんと記憶できない可能性があるのです。
つまり記憶のエラーは本人の気合や努力とは無関係で、“覚える”という作業に対して、どのくらい脳の容量を使えるのかに起因していると言えます。
ぼんやりミス(注意のエラー)
脳の認知機能の問題として起きるもう一つのヒューマンエラーが、注意のエラーです。「リストの間違いを見落としていた」「電話の相手が話した内容を聞き漏らしていた」などの、いわゆる“ぼんやり”ミスがこのエラーに該当します。
注意のエラーも、基本の原理は記憶のエラーと同じです。人間の脳が意識を集中できる対象は一度に3つまで。それ以上の事柄に意識を向けようとしても、3つのことを考えた時点ですでに脳の容量は一杯になってしまっているのです。
さらに、例えば「メールをチェックする」と「取引先と電話で話をする」を同時進行している場合、表面的には2つの事柄なので問題なく集中できるように思えますが、実際にはそれぞれの作業をしながら頭の中では様々な思考が広がっています。メールを見ながら返信する内容を考えたり、取引先と話しながら対応の仕方を考えたりしていると、あっという間に脳のキャパシティを超えてしまい、ヒューマンエラーが発生しやすい状況に陥ってしまうのです。
ヒューマンエラー対策は脳から!仕事の成果をあげる3つの防止策
このようにヒューマンエラーは脳の仕組みから考えれば当たり前の現象であり、それらを防止するためには個々人が「気をつける」以上の組織的な対策が必要です。
ここでは「ミスをするスタッフ本人」「管理職・経営陣」「直属の上司やリーダー全般」の3つの立場それぞれでとるべき対策を解説します。
スタッフ
まずスタッフ自身に必要なのは「ヒューマンエラーの原因が脳の仕組みにある」という事実を理解することです。ミスをするたびに「自分がダメな人間だから」とネガティブな感情に囚われていては、目の前の仕事に集中できずに、さらなるミスを誘発してしまいます。ヒューマンエラーが脳の容量の問題だと理解できれば、容量を超える部分に関しては「忘れないようメモをとる」「見落とさないよう指差し確認をする」といった工夫で対処できるでしょう。
もう一つ、スタッフ側の対策として重要なのが、日々の健康管理です。睡眠不足や疲労、体調不良は、注意力や集中力といった脳の働きを妨げます。また悩みごとやストレスも脳の容量の大部分を占めてしまうため、メンタルを正常に保つことも大切です。
管理職・経営陣
管理職がスタッフのヒューマンエラーを防止するためにすべきことは、ミスをしにくい環境作りです。
たとえば職場の作業マニュアルが、ぎっしりと長文で書かれてはいないでしょうか?人間が一度に頭にインプットできる文字は1行16文字程度で、それを超える文字を読んで意味を理解するのには多大な集中力が必要になります。
そのため長文で書かれたマニュアルの場合、目を通しても実際には内容が抜け落ちている可能性があります。これは脳の機能の問題なので、マニュアルをしっかり読み込むように個人に期待するのではなく、覚えてほしいことは16文字以内に収めるように、作成する側が工夫しなくてはなりません。
また職場をいつも同じ状態に保つ、“いつもどおり”の徹底も効果的です。例えば、物の置き場所が決まっていてキチンと整頓された職場は、ミスが起きにくいという特徴があります。これは周囲の環境が“いつもどおり”である場合、働く人は目の前の作業に集中しやすくなるためです。反対にゴチャゴチャと散らかった職場では、物を探すことに気をとられて作業に集中しにくくなります。
ヒューマンエラーを防ぐためには、スタッフが脳の容量を余計なことに使わなくてすむ環境作りに取り組むことが大切です。
上司・リーダー
スタッフと直接やり取りをする立場の上司・リーダーは、特に“心理的安全性”を意識しましょう。心理的安全性とは、自分の存在・意見・行動が相手に受け入れられ、尊重されていると安心できる状態のことです。
なぜヒューマンエラー対策で心理的安全性が重要かというと、スタッフが「こんな仕事ぶりを見られて上司に怒られたらどうしよう」といつも恐れていたり緊張していたりすると、そのことに脳の容量の大部分を割くことになるからです。結果的にスタッフは目の前の作業に集中できず、ヒューマンエラーが誘発されることになります。
さらにハラスメントは、ヒューマンエラー対策でも特に重要であるスタッフの心身の健康にも悪影響を及ぼします。上司から受けたハラスメントのイメージは、仕事を終えて家に帰ってからもスタッフの脳の中でどんどん膨らんでいきます。そのためにスタッフは多大なストレスを抱え、十分な睡眠や休息がとれずに健康状態が悪化してしまう可能性があるのです。
また、心理的安全性が低い職場は離職率も高い傾向にあります。スタッフが1人退職するとそのフォローというイレギュラーな業務が発生して、他のスタッフは余計に脳の容量を使うことになります。そうして退職したスタッフの周囲でもヒューマンエラーが続発するという悪循環に陥ってしまうのです。
ヒューマンエラー防止のために、脳の仕組みを知ろう!
職場のヒューマンエラー対策は、人間の脳の容量の限界を知ったうえで、その範囲内で業務を遂行できる仕組みをつくることがポイントです。そのためには現場で働くスタッフから、マネジメントをする立場の管理職まで「脳の仕組みを知れば、ヒューマンエラーを論理的に防ぐことができる」という認識をもつことが大切でしょう。
今回お話を聞かせていただいた恒松氏の研修では、人間の脳の容量がいかに小さく、どれほど簡単にエラーを引き起こすのかということを、ちょっとしたアクティビティを通して実体験として学ぶことができます。脳科学という専門的な内容を、誰にでも分かりやすく楽しく解説してもらえる人気の研修プランです。
さらに、長年医療・介護の現場に向き合ってきた恒松様ならではの、離職率低下の効果的な方法についても学べます。ヒューマンエラー防止から離職率の低下まで、自社の課題解決に直結する研修プランをお探しのご担当者の方は、ぜひ次回の社内研修としてご検討ください!
恒松伴典 つねまつとものり
conditioning studio VIVALUCK! 代表 作業療法士
医療・介護業界20年。脳科学ベースの人材育成法により離職率を大幅に改善。その後、脳の仕組み×コーチング・ティーチングの手法『脳チング』を考案。離職防止、ストレスマネジメント、アンガーマネジメント、人材育成の研修が好評。脳の仕組みを解説し、ワークライフバランス回復・維持を支援している。
医療・福祉関係者
プランタイトル
ヒューマンエラーを防ぐ!ミスを起こす脳の仕組み
今日から出来る改善方法
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