ビジネスの現場でハラスメントが問題視されるようになり、一般の社員にもその概念は浸透していると思われます。しかし、依然としてハラスメントが蔓延する職場は多く、企業はその対策に頭を悩ませています。

そもそも、なぜハラスメントが起きるのかを経営者や人事担当者が理解していなければ、根本的な対策はとれないでしょう。ハラスメントの対応では、被害者へのケアが重視される一方で、ハラスメントをする側の心理的な問題は見落とされがちです。

今回はハラスメント行為者が抱える問題に注目し、実際に彼らのカウンセリングを行ってきた衣川竜也氏に、具体的な防止策についてお聞きしました。

Your Image【監修・取材先】
衣川竜也氏

公認心理師

 

ハラスメント防止策をもたない企業が抱えるリスク

組織の中でハラスメントが起きたとき、企業はどのようなリスクに晒されるでしょうか。

まず1つは、従業員のパフォーマンスの低下です。「またハラスメントを受けるかもしれない」という不安が仕事への後ろ向きな姿勢へとつながり、生産性の低下につながります。

さらに、ハラスメントによるストレスが強まると、従業員はうつ病などメンタル不全を発症し、離職してしまうケースもあります。また、ハラスメントの被害者が、企業としての責任を問われる訴訟リスクもあるのです。もしも訴訟がニュースとして取り上げられれば、企業のイメージ悪化は避けられません。

これだけ深刻なリスクを孕んでいるにも関わらず、なぜいまだに多くの企業でハラスメントの問題が起きているのでしょうか。それは、経営者をはじめとする上層部の意識の根底に、ハラスメントを正当化する考えが潜んでいるからです。

「このくらいは指導の範囲内だ」「厳しい環境の中でこそ成長できる」「自分たちはもっと辛い経験をしてきた」という考えは、すべてハラスメントを正当化するための言い訳であり、こうした考えがハラスメントの温床となります。

ハラスメントとは、人に対する「嫌がらせ」や「いじめ」などの迷惑行為であり、属性や人格に関する言動によって相手に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つけることです。まずは経営者自身がハラスメントの定義を正しく理解する必要があります。

ハラスメントがなぜ防止できないか、管理職がハラスメントを繰り返す意外な理由

ハラスメントの行為者も、経営者と同様にハラスメントに対する認識が甘い傾向にあります。部下に対して優越的な立場にある管理職が「このくらいはハラスメントにあたらないだろう」と考えて自制しないために、ハラスメントは何度も繰り返されることになります。

そして管理職がハラスメントに陥りやすいもう一つの要因は、「相手に危害を加えることで思い通りに動かす」というやり方が、一時的に成果を出しやすいということです。「大声で怒鳴ったら部下が大人しく従った」という成功体験を得てしまうと、管理職はこの行為を「正しいやり方」と認識し、ハラスメントを正当化してしまいます。

ハラスメントに頼る指導は、管理職にとって非常に楽な方法です。しかし、その背後には管理職の指導力不足という問題点が潜んでいます。適切なコミュニケーションによって部下を納得させ、導いていくことができなければ、管理職として本来求められる能力を持っているとはいえません。

経営者は防止策に取り組むにあたって、管理職がハラスメントという方法に頼り、短期的な成果ばかりを追い求めているという組織の実態を認識する必要があります。

ハラスメントが起きない環境づくりを!行為者のタイプ別の防止策

まずハラスメントが起きる背景には2つのパターンがあることを知っておきましょう。行為者のタイプ別に適切な対応ができれば、さらなるハラスメントの防止が可能になります。

ここではそれぞれの対処法について解説していきます。

パターン1.動機は正しく、手段が間違っている場合

仕事の成果を出したい」など、動機は正しいはずなのに、ハラスメントという間違った手段に頼ってしまっているケースです。すでに述べたように、ハラスメントは一時的には成果を出しやすいため、焦りやプレッシャーを感じている管理職などはこの状態に陥りやすくなります。

このケースでは、まずハラスメントに至ってしまった行為者の気持ちに寄り添うようにすることが大切です。ハラスメントをしたくなる環境であったことに理解を示したうえで、ハラスメントにはリスクがあり、もっと良い方法があるという気づきを促します。

パターン2.怒りの感情の発散など、動機そのものが間違っている場合

成果を出すといった目的もなく、ただ自己満足のためにハラスメントを行う場合もあります。このケースでは、行為者が自身の問題を認めようとしない傾向が強く、解決は一層困難になります。

人間には欠乏欲求というものがあり、これを満たすためにハラスメントをしている人がいます。欠乏欲求は、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求などがありますが、心が健康であればこれらの欲求が十分に満たされていないからといってハラスメントを行うことはありません。

しかし、世の中には自分で自分の機嫌を取れない人がいます。このような人は欠乏欲求を適切な形で満たすことができない人達で、自分の欠乏欲求を満たすためハラスメントを行うのです。

「生理的欲求が満たされていない人は生活習慣に問題がある」、「安全の欲求が満たされていない人は不安感が強い」、「社会的欲求が満たされていない人は孤独感を抱えている」、「承認欲求が満たされていない人は自己愛に歪みがある」といった傾向があり、これらの程度が強いほど社会不適応を起こしやすく、その一つの形がハラスメントとして現れる人がいるのです。

このタイプのハラスメント行為者は、自分の行為を正当化する「認知の歪み」も強いので、改善するためには根気よくカウンセリングを受けることが望ましいと言えます。

しかし、自分の問題点を認めない傾向があり、自らカウンセリングに行くことは少ないため、社内にこのタイプの人がいる場合は業務命令として、改善のためにカウンセリングを受けるよう求める必要があります。

防止策を実践して、誰もハラスメントで苦しまない職場に

ハラスメントの背景にはストレスやプレッシャー、あるいは欲求が満たされていないなどの行為者自身が抱える問題があります。ハラスメントを防止するためには、こうした行為者側の問題へのアプローチが必要です。

今回お話を伺った衣川氏は、ハラスメントの行為者と被害者それぞれに対して豊富なカウンセリング経験をお持ちです。

衣川氏はカウンセラーとして、行為者が抱えるさまざまな問題に適切に対処し、行動の改善を促してきました。さらに被害者側のケアにも積極的に取り組み、うつ病や適応障害からの復職を支援してきた実績もあります。衣川氏の講演では、理論だけではない、現場でのカウンセリング経験から得た実践的な対応策を学ぶことができます。

ハラスメント防止やメンタルヘルス対策にご関心のある企業の方は、ぜひ次回の研修テーマとしてご検討ください!

衣川竜也 きぬがわたつなり

心理カウンセラー メンタルトレーナー 株式会社AXIA 代表取締役

心の病(精神病、神経症、依存症、恐怖症、解離性障害)、性的な問題行動(痴漢、盗撮)の改善、人間関係(親子、夫婦、職場など)の他、不登校や引きこもりに関する相談、経営者やアスリートのコーチングなど幅広く活躍中。自治体・企業・学校・病院・施設など、講演実績多数、各方面から信頼を得ている。

講師ジャンル
ビジネス教養 メンタルヘルス
ソフトスキル 意識改革 モチベーション
コミュニケーション

プランタイトル

「現役カウンセラーだから話せる
企業のメンタルヘルス対策、ハラスメント対策

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