日本では少子高齢化により労働力不足がさらに加速すると予測され(※参照1)
、企業の人材確保が大きな課題となっています。
こうした中、外国人労働者の数は増加していて人口減少が進む日本において必要不可欠な存在となりつつあります。一方で、外国人材の採用においては、言語や異文化理解など越えなければならない壁もあります。
今回は、外国人材に関する研修やコンサルティングなどを手掛ける千葉祐大さんに、外国人材の活用のメリットや適切で効果的なマネジメント法などについて伺いました。
【監修・取材先】
千葉祐大氏
一般社団法人キャリアマネジメント研究所 代表理事
参照1:総務省|令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少
なぜ外国人材の雇用が不可欠な時代なのか?採用のメリットとは?
少子高齢化によって日本の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年をピークに減少、2050年には2021年から約30%減少すると推計され、労働力のさらなる不足が懸念されています(※参照2)
。一方で、人手不足解消に大きな力となる外国人労働者の数は200万人を超え(2023年10月末時点)届出が義務化された2007年以降、過去最多となっています(※参照3)
。
では、外国人材を採用するメリットはどんなことでしょうか。
「技能実習生」や「特定技能外国人」を受け入れるメリットは、やる気がある若い人材を得られるということです。現場人材の雇用を考える企業は比較的、規模が小さく高齢化も進んでいるため、そこに若い人材が入ることで、職場が活性化されるメリットがあります。
また、専門的な技術や知識がある「高度人材」を受け入れるメリットは新しいイノベーションを生み出すことができるということです。異なる価値観を持つ人が混在する環境の中でイノベーションが生まれると言われています。違った発想の人たちが加わることでアイデアが生まれ、新しい商品やビジネスモデルを作り出し、企業の成長に繋がっていくのです。
※参照2:総務省|令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少
※参照3:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
初めて外国人材を受け入れるときに注意すべき3つのポイント
①既存の社員への説明と受け入れ体制の整備
外国人材を受け入れる企業内で、受け入れに対する抵抗感が強く、ネガティブな感情を持つ人がいることも少なくありません。このような冷え切った空気感の中に外国人材が入っても上手くいくはずがありません。
そこで、事前に社内の然るべき立場の人が「どう外国人材と協働していくか、外国人の雇用が会社にとっていかに大切か」を説明することが重要なポイントです。既存の社員が納得したうえで外国人材を受け入れる環境を作ることが大切なのです。
また、外国人材の受け入れにおいて「孤立させない」仕組みづくりも欠かせません。日本人社員が外国人に対して壁を作ったり、任せない仕事を作るなどの「お客様扱い」をしたりすることは孤立を招く要因となります。
有効な孤立対策として、同じ国の人を複数採用する、指導係の担当者をつけるなどが挙げられます。さらに外国人は懇親会など仕事以外のコミュニケーションを好む傾向があるため、そういう場を会社が設けることも有効です。
また、高度人材の人にはキャリアパスを明確に示すことも大切です。欧米や中国の人などは特に強く求める傾向があります。「どのようにステップアップできるか、年収はどれくらいか」を数年単位で可視化します。キャリアパスの提示は、結果的に既存の日本人社員の満足度向上にも繋がるのではないでしょうか。
②日本人の特性を理解した上で、明確でストレートなコミュニケーションを
コミュニケーション方法には、暗黙の了解や行間を読むような「ハイコンテクスト」と、言葉による表現を重要視する「ローコンテクスト」があります。島国である日本は、ほぼ単一民族で、言語も一つなど同質性が高く、世界で最もハイコンテクストな文化に位置付けられています。
代表的なものが、言葉に含みや裏の意味を持たせる「曖昧表現」です。ストレートに言わない曖昧表現は外国人にとって理解の障壁となります。
例えば「この部屋寒くない?」と言われたら、日本人であれば「エアコンをつけてほしい」という意味も伝わりますが、外国人にはその意図が伝わりません。
また「言葉を途中で止める」ことも日本人独特のコミュニケーションです。例えば「御社と仕事したいのは山々ですが」と言われたら断られていると理解できますが、外国人はストレートに言わなければ分かりません。行き違いが生じないためにも、ストレートで明確に伝えることは重要なポイントです。
③同じ言葉でも定義が異なることを認識した上での質問や指示を
例えば「できます」「大丈夫」といった言葉は国によって定義が異なります。日本のように同質性が高いと嘘はバレるという前提で、できなければ「できない」と正直に言う人が多いのではないでしょうか。
一方で、中国やアメリカなど多民族で人口が多く、競争社会の国では「できない」と言った瞬間に競争に負けてしまうため、とりあえず「できる」と返事をした後に、どうすればできるかを考える人が多いのです。
こうした言葉の定義の違いを埋めるための対策は、具体的に質問をするということです。例えば面接時に「Excelはできますか?」と質問をすると、一度でも操作したことある人は「できる」と答えます。そこで「VLOOKUP関数は使えますか?」というように具体的に聞くのです。
もう一つは質問の仕方を変えるということです。例えば、「大丈夫?」と聞くと、たいていの場合「大丈夫」と言われます。「いま何%くらい大丈夫ですか?」と聞くと、少しでも問題があれば80%や70%と返答がきます。100%にするために何が必要かを聞くことで、状況を正確に把握できます。
外国人材雇用の成功のカギは「違いを踏まえたカスタマイズ」
外国人を雇用する際に、これまでの社内でのやり方を全て変える必要はありません。約8割はこれまで通りで良いですが、2割は日本人との違いをふまえてカスタマイズする必要があります。
ただ、その2割も大きく変更する必要はなく、日本人であれば一度言えば良いことを複数回繰り返して伝える、分かりやすい言葉遣いにするなど、やり方を少し変えるのです。
日本の外国人雇用で最も伸びしろがあると言われているのがインドネシア人です。インドネシアでは約9割がイスラム教徒なので、採用するとイスラム教徒である可能性が高いです。
イスラム教徒は、豚肉とアルコールが禁止されています。また、5分から10分のお祈りを1日に5回行い、うち2、3回は就業時間と重なります。お祈りの時間を踏まえて1日のスケジュールやシフトを決めるなど一定の配慮が求められます。そして、お祈り中に前を横切られることや話しかけられることを嫌うため、社内に安心してお祈りができる場所を作る必要もあります。
ここで注意したいのが、イスラム教徒は全員が同じルールで行っているわけではないということです。人によってやり方やルールが違います。決まった時間にお祈りするという人もいれば、時間にこだわらない人もいます。帰宅してから5回分まとめて行う人もいるのです。一人ひとりのニーズが異なるため、しっかりとヒアリングして対応することが重要です。
組織に合った外国人材の受け入れ方は三者三様
技能実習生に人気の国は、欧米やオーストラリアで、アジアでは圧倒的に韓国になってきています。日本よりも給与が高いことが理由の一つですが、主観的な印象も大きな要素になります。
日本の安全性の高さはインバウンドを含めて非常に高い評価を得ています。そこに日本で働いた人たちによる良い口コミが広がることで次の実習生の受け入れに繋がっていきます。逆に悪い情報はより拡散されます。実際に日本でのハラスメント映像がベトナムに広がり、ベトナムの人たちの反日感情を高めた事例もあります。日本離れが起きないためにも、受け入れ側のマインドや体制の整備は非常に重要です。
異なる価値観を持つ外国人を受け入れることは日本人の変容や日本社会の成長にも繋がります。まずは異なる価値観を持つ人を理解し共存していく意識を持つことから始まります。
外国人雇用は業種や企業の規模、社内の課題などによってやり方は様々です。全ての業種や企業で成功する共通の対策やコンテンツは無いのです。千葉氏の研修では各企業や組織に合わせた対策をカスタマイズしていきます。ぜひ研修の実施をご検討ください。
千葉祐大 ちばゆうだい
一般社団法人キャリアマネジメント研究所 代表理事
「日本で働く外国人材のマネジメント」をテーマとした講義をこれまで数多く行っている。企業や教育機関の現場で培った豊富な経験をベースに、異文化マネジメントの実践方法について解説する。初心者むけのわかりやすい講義に定評がある。
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