近年、自己肯定感という言葉に注目が集まっています。特に子どもたちにとって、「そのままの自分を周囲が受け入れてくれる」という安心感は、成長して社会で活躍していくための心の土台となります。

しかし現実には、自己肯定感の低さによって、生きづらさを感じている子どもは少なくありません。子どもは自分の言葉でその生きづらさを表現することが難しいため、親や周囲の大人たちも、子どもたちをどのように助ければよいか分からず思い悩むケースが多いでしょう。

今回は、自己肯定感の低い子どもがどのような苦しさを感じているのか、さらに子どもの自己肯定感を育むために必要な取り組みについて、一般社団法人Yukuri-te代表で小児科医である湯浅氏にお聞きしました。

Your Image【監修・取材先】
湯浅正太

一般社団法人Yukuri-te 代表理事
イーズファミリークリニック本八幡 院長

 

子どもの自己肯定感低下のサイン

子どもの自己肯定感低下のサインは、問題行動を起こしたり、集団生活に適応できなかったりといった形で表れます。

その典型的な例が、登園拒否や不登校の問題です。朝になると腹痛などを訴えて、幼稚園や学校に行くことができない子どもたちが大勢います。これは、子どもは自分の気持ちを上手く言語化できないために、不安や怒りを解消できずに自律神経が乱れて起こる症状です。

朝起き上がることができない起立性調節障害や、腹痛や下痢を繰り返す過敏性腸症候群も、この自律神経の不調を要因とするケースが少なくありません。

子どもは体の症状として親に訴えるため、親も医療に助けを求めようとするケースが多いのですが、投薬などの医療的介入はあくまでも事後的手段です。大切なのは家庭や学校で、子どもたちの不安を解消し、自己肯定感を育む予防的な対策であるといえます。

しかし現実には、子どもと接する立場の大人たちの間に、自己肯定感低下の要因など心のメカニズムについての知識が普及しておらず、その結果として子どもたちが苦しんでいるという実態があります。

子どもは何に苦しんでいるのか?自己肯定感が下がる要因

それでは子どもたちの自己肯定感を下げる要因としては、具体的にどのようなものが挙げられるのでしょうか。

自己肯定感低下の大きな要因は、「不安を解消できない状態」であることです。そして不安は身近な人から伝わる場合が多く、この現象を心理学の用語では「情動伝染」と呼びます。子どもにとって最も身近な存在は、言うまでもなく自分自身の親です。

例えば、最近注目されるようになった「教育虐待」の問題を例に挙げましょう。現代では「受験」をゴールとした教育のシステムが組み立てられています。そのため、当然ながら親の意識も、我が子が受験で良い結果を出せるかどうかに向くことになります。

我が子の成績が悪ければ、将来の就職やキャリア形成で不利になるのではないかと、無闇に不安を抱きます。そして不安に駆られた親の言動によって、確実に子どもにも不安が伝染してしまうのです。

子どもたちが不安を解消できない状態が続くと、体調不良や学業の不振といった形で自己肯定感低下のサインが表れます。親はそんな我が子を見て「このままでは勉強で周りに遅れをとってしまう」とまた不安に駆られて、過密な勉強スケジュールを組むなど行き過ぎた行動に走り、さらに子どもの不安を煽るという悪循環に陥ります。

教育虐待の深刻なところは、親だけでなく学校教師や塾の講師も「受験」というゴールに向いているために、家庭内で悪循環に陥っている親子を救ってくれる存在がいないことです。

実際には、無事に受験をくぐり抜けて社会的には成功をしている人の中にも、学童期に受けた心の傷を癒やすことができず、自己肯定感の低さにずっと苦しんでいる人もいるものです。本当に幸せに生きるためには、まずは自分の心のメカニズムを知り、問題に対処できるよう自己肯定感の土台を育むことが大切なのです。

しかし、偏った価値観をもった大人から間違った情報を与えられることで、子どもたちは不安を乗り越えることができずに苦しみ続けています。

子どもの自己肯定感を育むために必要な3つの関わり

子どもたちの不安を解消するには、周囲の大人が平静を保ち、そのうえで子どもたちとこまめにコミュニケーションをとったり、触れ合ったりといった関わりを持つのが効果的です。家庭では親が、学校では教師がキーパーソンとなります

ここではそれぞれの立場でできる、子どもとの関わり方のポイントを解説します。

①親の関わり

子どもの自己肯定感を育むために、もっと子どもと関わらないといけないと言われると、プレッシャーを感じる人も多いでしょう。現代は共働きも当たり前となり、「子どもとの時間を確保したくてもできない」というジレンマを抱える家庭は少なくありません。

実は全く時間がかからず、しかも子どもを安心させるのに非常に効果のある方法があります。それが、目を見て挨拶するという習慣です。

子どもは親から笑顔を向けられて声をかけられるだけで、「自分は誰かとつながっている」という安心感を得ることができます。この「つながり」の感覚こそが、自己肯定感を育むのです。

「つながり」を意識するには、物理的に身体が触れ合うことも効果的です。子どもを抱きしめるのはもちろん、ハイタッチなどで手に触れるだけでも、子どもは「つながっている」という実感が得られます。

②教師の関わり

子どもは一日のうち長い時間を学校で過ごすため、教師の関わり方も子どもに大きな影響を与えます。

教師が子どもとの関わりで意識すべきことも、基本的には親と変わりません。子どもたちに接するときには、まず笑顔を向けてあげることが大切です。笑顔は伝染するため、教壇に立つ教師が笑顔でいると、子どもたちの間でも笑顔が増えて、クラス全体が落ち着くようになります。言語化できない不安から生まれる問題行動も減るでしょう。

もう一つ、指導する立場の教師として意識したいのが、子どもに挨拶の正しい意味を教えることです。これまでは挨拶は礼儀として必要なもの、いわば義務として子どもたちに教えるのが一般的でした。

しかし、挨拶は人との「つながり」を感じるための手段であり、自分自身の心を守るために実践することです。教師がそのように子どもたちに教えることで、クラスの中で互いの心地よい挨拶によって自己肯定感が育まれるようになり、彼らが成長して社会に出てから活躍するための心の土台作りができます。

③周囲のすべての人の関わり

ここまで、実際に子どもと接する親や教師の関わりが重要であると説明してきました。しかし、それは子どもの自己肯定感を育めるかどうかが、すべて親と教師だけの責任であるという意味では決してありません。

笑顔での挨拶は、地域社会全体で習慣化して初めて最大限の効果が得られるものです。もしも親や教師と接する人たちが彼らに不安やストレスを伝えてしまえば、親や教師は心の平静を保つことが難しくなり、当然それは子どもたちに悪い影響を及ぼします。

笑顔での挨拶など、安心感を伝えて不安を解消し自己肯定感を育むための取り組みは、ワクチンに例えられます。集団で接種するからこそ効果が出るものですが、周囲の人たちが「自分には関係ない」とワクチン接種を控えてしまうと、感染流行が抑えられずに誰かが病気で苦しむことになります。不安を解消できないメカニズムも同様で、最もリスクにさらされるのは、複雑な不安やストレスを言語化する術を持たない子どもたちでしょう。

周囲の大人はこのことをよく認識し、子どもと接するときはもちろん、大人同士で関わるときにも笑顔で、相手に安心感を与える対応を意識する必要があるでしょう。

大人から伝わる安心感が、子どもの自己肯定感を育む

今回は、子どもの自己肯定感低下の要因と、不安解消のために周囲の大人が取り組むべきことについて解説しました。

子どもの自己肯定感の問題をはじめとして、現在はまだまだ人の心のメカニズムについての正しい知識が一般に浸透していない状況です。子どもに何か問題があれば、当事者である親や教師の責任を問う風潮がありますが、そもそもその当事者に社会が正しい情報を伝えて、不安を払拭するような働きかけをしていたのか、その環境にも目を向けるべきでしょう。

今回お話をお聞きした湯浅氏は、小児科医/小児神経科医として子どもたちと向き合う中で、その悩みの背景にある家庭、さらには学校教育や地域社会の問題点に気づき、講演活動をはじめとして、より良い社会実現のための取り組みを続けています。

講演では湯浅氏自身が子ども時代に自己肯定感低下に苦しんだ経験もふまえ、そこから立ち直って社会で活躍するまでのプロセスも紹介されています。湯浅氏の講演では、自己肯定感の向上がいかに子どもの能力を伸ばすことにつながるかを学ぶことができます。子育て世代や保育・教育関係者向けの講演プランをお探しのご担当者様は、ぜひ次回講演としてご検討ください!

湯浅正太 ゆあさしょうた

一般社団法人Yukuri-te 代表理事 イーズファミリークリニック本八幡 院長

小児科医として子どもの心のケアも含めた支援を行うと共に、「親子の心のきずなを深め、豊かな子どもの心を育める社会」を実現すべく(一社)Yukuri-teを設立。障がい(発達障がい・知的障がい・身体障がい等)、子どもの人権、いじめ・不登校問題にも深く心を寄せ、作家・講演・各種メディアなど多方面に活動。

プランタイトル

子どもに関わるなら、心の平静を保ちたい!

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