
2025年、日本は戦後80年を迎えます。戦争を経験した世代が減っていく中で、平和の記憶をどう次世代に伝えていくかが、ますます重要な課題となっています。そして世界に目を向けると、未だに戦争が絶えません。今を生きる私たちが考え続けなければならない問題でもあるのです。
今回は、10歳のときに祖国カンボジアでの内戦に巻き込まれ、大切な家族や自由を奪われた平和の語り部・久郷ポンナレットさんに、戦争の記憶や、平和の尊さなどについて伺いました。
【監修・取材先】
久郷ポンナレット氏
平和の語り部
大切な家族を失った戦争の記憶 今でも続く心の傷
母国・カンボジアでの内戦が始まったのは久郷さんが10歳の時でした。戦争は、家族、自由、そして平穏な日常を奪いました。
連行された父親、そして母親と4人兄妹、大切な家族を失い、いつどこで家族が命を落としたのかも、いまだに分かりません。10人だった家族は4人に。「時間が経てば、心の傷は癒えるというものではない」今でも家族を失った悲しみは永遠に消え去ることはありません。
久郷さんは強制移住、365日強制労働を強いられ、「泣いてはいけない、悲しんではいけない、辛くても不平不満を口にしてはいけない」という抑圧された環境の中、喜怒哀楽をどこにもぶつけることもできず、必死で生き抜いてきました。
皆さんは想像できますか?
大切な家族と突然離れ離れになり、十分に食べることができない生活を。そして、自分の欲望を押し殺し、思いや感情すらも口にすることができない環境を。戦争は、尊い命や人の尊厳を一瞬にして奪うのです。
現在も世界に目を向けてみると、ウクライナとロシアによる戦争や中東など、世界では争いが絶えません。数多くの戦争の犠牲者がいて、今も苦しんでいる人々がいるのです。
世界にいる命がけで生きる子どもたちの存在
世界には 生きるために命をかける子どもたちがいます。
カンボジアの内戦が落ち着いた後、久郷さんは奇跡的に2人の兄と再会を果たします。しかし食べるものもなく、どう生きていくか悩む日々だったと言います。
「入隊すれば配給がもらえる」と言った兄を、久郷さんは「また家族がバラバラになってしまう」と兄の入隊を必死の思いで引き留めました。
戦時中には、散弾銃の銃口が自身の身長を超えるような少年の姿もありました。まさに命をかけた選択をせざるを得ない状況に子どもたちが追い込まれていたのでした。
また、久郷さんが日本に来るまでの道のりも過酷なものでした。地雷が埋められた土地を通らざるを得なかったのです。
対人地雷が埋まっている場所を通ると、周辺には多くの亡くなった人たちの姿があり、そして、後にニュースなどで、薪拾いに出かけた子どもたちが、地雷を踏んで手足を失う光景も見聞きしました。「そこを通れば安全だ」という保障がなく、まさに命がけでした。
世界には今もなお、命がけで生きる子どもたちがいます。戦争で命を落とした一人一人には未来があり、それぞれに家族があり、今後歩んでいきたい未来や願いがあるのです。
日本で生まれた子どもと戦争が続く国で誕生した子ども、同じ命であるにも関わらず、運命は大きく異なります。戦時下では、親も十分に食べられないため、ミルクを十分に得ることができず、餓死してしまう現状が実際にあるのです。
人間誰もが生まれて幸せになる権利があります。だからこそ、私たちは現実から目を背けず、命の重みや平和の意味を問い続けなければならないのです
人権問題とどう向き合うか 〜私たちが持つべき意識とは〜
戦火を逃れ、日本にたどり着いた久郷さんは、そこでも新たな壁にぶつかることになります。
言葉や文化も異なる土地での孤独や偏見でした。「国外に出られただけでも、あなたは幸せだよ」「難民といえば、あなたしか思い浮かばなかった」「難民だから日本に来られた、難民の特権だね」という心無い言葉をかけられたこともありました。また、東南アジア系の外見から「水商売をしているの?」と言われたことも少なくありませんでした。見えない差別に直面することになったのです。
誰もが「幸せになりたい」という願いを持っています。この当たり前の思いを認め合い、自分も相手も大切な存在であることを認識し、互いを尊重する気持ちが大切なのではないでしょうか。
私たち一人一人には、国籍だけでなく、年齢、性別など様々なアイデンティティがあります。差別や偏見のフィルターをかけて相手を見るのではなく、同じ地球で生きる仲間として、相手を受け入れる心を持つことも平和への第一歩です。
戦争体験者の声を受け継ぎ、次世代に繋げたい平和な世界
平和は決して当たり前のものではありません。だからこそ次の世代を担う子どもたちに「命や平和の大切さ」を伝え続けることが求められています。
誰もが一つの命しか持っていません。「平和があっての命、命があっての平和」平和と命はセットでなければなりません。
生きているからこそ、泣いたり笑ったり、感情を持ちながら生活できるのです。そして、喜怒哀楽を表現する相手がいるからこそ、私たちは人間らしく生きることができるのです。
家族を失う辛さや戦争の恐ろしさを体験した久郷さんの講演では、実際に体験した戦争、その時感じた思いをありのままにお話いただいています。
戦争体験者の声を聞く機会が限られる今、戦争や人権問題を体験された久郷さんの生の声を聞けるのは貴重な機会です。命の重み、平和の尊さを私たちが改めて考える時間となることでしょう。
平和への意識を持つ人が増えていくことで、大河の一滴のように小さなムーブメントを起こしていけるのではないでしょうか。私たちが自由に未来を描ける日本、世界であり続けるために。久郷さんのお話を聞いて、平和について考える時間を持ってみてはいかがでしょうか?
久郷ポンナレット くごうぽんなれっと
平和の語り部
「罪を憎んで人を憎まず」を実践し、両親ときょうだいの命を奪った相手に対して「憎まない、恨まない、仕返ししない。起きたことを現実として受け入れ前向きに生きること」がモットー。差別・偏見のない社会、平和な世の中に生まれたことを感謝し「生きる力」「生きる希望」を伝える活動を行う。
プランタイトル
世界には「生きるために命をかける子どもたちがいる!」
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