私たち公的団体・学校チームでは、落語家講師をお迎えして講演を行うことがあります。
落語家講演の場合、一般的な講演と異なり、会場には高座台が用意され、そこに講師が着座して話すというスタイルが一般的です。寄席の雰囲気に近い形で行われますが、オンライン講演となると、この雰囲気をなかなか出すのが難しいものです。
今回は、当日私たちが行った寄席の雰囲気を出すための工夫と当日の様子をレポートいたします

自治体・医療福祉・公的団体・学校・PTA・教育委員会チーム

■目次
講演テーマ: 女らしく男らしくでなく、自分らしく(講演&落語)
講師   : 露の眞 氏
主催者  : A市交流センター 様
開催日時 : 2021年12月下旬
講演時間 : 1時間
聴講者人数: 約900人
講演タイプ: B.講師から会場聴講者へ生配信タイプ
配信ツール: Zoomミーティング

中学生・保護者が聴講する教育セミナー

当日の様子をお話しする前に、ここで本案件の概要についてご説明いたします。
本案件は、M市の交流センター様主催の地域の中学生向け人権啓発セミナーで、弊社が定期的にお手伝いさせていただいている案件です。
主催者様は当初からオンラインご希望で、講師は子どもたちの興味を惹きつけ、新しい学びがあるような方がよいということで、落語家の露の眞さんをご紹介させていただきました。

露の眞さんは、女性落語家第1号の露の都に入門し、そのユニセックスな風貌を活かして、男性物の着物を来て古典落語を演じていらっしゃる噺家さんです。「性別は個性」と話す露の眞さんは、男女共同参画社会をテーマとした講演を得意とし、落語を交えながら「性別ではなく個性が重視される社会」の必要性を説いています。
今回は中学生向けということもあり、ご自分の学生時代の話を入れたり、落語がわからない中学生に落語の聴き方を教え、わかりやすい落語を披露するなど、中学生が興味を持つようにアレンジした内容となっていました。

配信形態としては、保護者と生徒は各教室で視聴し、講師は弊社の大阪スタジオで配信する「B.講師から会場聴講者へ生配信タイプ」となります。
今回は聴講者のビデオも音声もオフである一方向型であったのですが、配信ツールにはweb会議ツールであるZoomミーティングを使用しました。

落語の雰囲気を伝えるのに重要な高座

▲リハーサル風景。実際に落語の冒頭を再現していただいた

落語の寄席では、ご周知の通り、演者は高座に座り、お客さんも座って観覧します。高座は赤い毛氈が敷かれ、その上に紫の座布団を置くというのが一般的です。リアル開催の場合、会場にはステージの上に高座が置かれ、その後ろに金屏風、横に題目の書かれた紙を貼ったりすることもあります。このような小道具があるだけで、随分と寄席の雰囲気に近づけることができます。

一番準備で難しいのがが高座の高さ設定

高座を設定する時に一番重要なのが、高さです。高座の高さは、後ろのお客さんも見えるように、最前列のお客さんの目の高さより少し高めに設定します。お客さんが床に直接着座している場合と椅子に座っている場合で高さは異なりますが、目安としては、最前列のお客さんの目線が高座の頂点部分にくるイメージです。高座の高さは、お客さんが椅子に座る場合だと客席の床面から(ステージの高さも含む)大体120~150cm程度、直接床に着座する場合は大体80~100cmです。

それでは、オンライン講演の場合だと高台の高さはどうなるのでしょうか?
テレビで放映される落語番組を想像していただきたいのですが、画面の下に高座が少し映る程度で、時には講師が手を大きく上げて演じることもあるため、画面の上には講師が手を挙げた時に全体が映るようなくらいの余白が残されているように画角が調整されていると思います。

また、落語家の講演の場合、最初に立って講演をしてから、次に座って落語を行う場合もあります。リアル講演ならば、講師が高座を上ったり、下りたりするだけなので、特別な用意は必要ありません。しかし、オンラインの場合だと、講師の立ち位置が変わることで、運営側はカメラの位置や画角、マイクの位置を再調整しなければならないことになります。今回は時間が限られていることもあり、最初から最後まで講師は座った形で講演と落語を行うことになりました。

弊社スタジオに高座はありませんので、机の上に赤い毛氈を敷き、その上に座布団を載せました。講師の露の眞さんがいらっしゃる前に、弊社のスタッフと、カメラの高さと画角を調整しました。聴講者は教室で50インチのテレビモニターから視聴するということを聞いていましたので、画面を見ながら、講師の頭から上に50cm程度の余白が残り、かつ演台が5cm程度画面下に映るような配置にしつつも、後ろに座っている子どもたちが講師の顔の表情を見て取れるようにギリギリまで講師に近づくように調整しました。

落語家講演にはマイクの位置も重要

▲講師用のモニターでは自分と来場者の顔が見えるようになっている

また、落語では、マイクの位置も重要です。寄席ではマイクを使わない場合も多く、会場いっぱいに響く大声で演じる場合もあります。ですので、マイクは間近ではなく、70cmくらい話した場所に置きました。
講師が中継先の様子を見えるように、カメラに入らないような場所に講師用モニターを置き、マイクの下には残り時間がわかるようにタブレットを設置。以上のようなセッティングで、事前にスタッフ同士で音声テストも行ってみました。

1時間半前に講師到着、30分前のリハーサルもスムーズに

講演開始前の1時間半前に講師の露の眞さんが到着されました。すぐに衣装に着替えられ、まずは講師と弊社だけでスタジオリハーサルを行いました。二者リハーサルでは、カメラの画角や音声をチェックするために、Zoomを立ち上げて、カメラの前で少し話していただきました。露の眞さんにも録画された動画を見ながら、立ち位置を確認していただきました。
開始前30分前に中継先をつなぎ、今度は主催者様が入っての三者リハーサルを行いました。
三者リハーサルでは顔合わせをしてから、音声と映像がクリアに届けられているか接続テストを行います。
事前に中継先もZoomを使って接続テストを行っていたようで、三者リハーサルもスムーズに進みました。リハーサルの最後で落語を少し演じていただき、音声チェックを行いました。中継先で音声もきれいに聴こえているということで、こちらも問題なく終了しました。

中学生の視点に合わせた講演内容

▲Zoomによって中継された講演風景

講演では、中学生の子どもたちの視点に合わせて、露の眞さんの学生時代の話から始まりました。「男の子らしさ」「女の子らしさ」が重視されるような保守的な地域で育った子ども時代、落語家になった経緯、男性社会と言われる落語界の様子、また男性用の着物をきて髪を短くして演じている理由についてお話しいただきました。子どもたちにもわかるように、平易な言葉を使い、生きる上で一番大切なのは「男らしさ」「女らしさ」ではなく「自分らしさ」であるとお話しされました。

露の眞さんは、さすが噺家さんとあって、人を惹きつけるのがお上手です。
中学生に人気のあるアイドルや芸能人の話を入れてみたり、小芝居で昔の話を再現してみたり、まじめな話をしていてもオチをつけて笑いに持って行ったりと、あっという間に楽しい時間が過ぎていきました。

後半からは、落語を披露されました。落語は、コントや漫才と違い、一人で何役もこなし、扇子と手ぬぐいという2つの小道具を使ってその話の状況を表現しながら、最後にオチをつけて笑いに誘導します。このオチは、聞き手の想像力に委ねられていることから、経験の浅い子どもにはそのオチ自体が理解できないことも考えられます。
そのため、露の眞さんは、まず子どもたちの落語の特徴と聴き方のイロハについて解説しました。落語では声の強弱で、場所のスペースを表すそうです。例えば、狭い家を現わす場合は大きな声で、広い家を表す場合は小さな声を出して、登場人物の距離間を表すこともあります。
その後、扇子を箸に見立ててそばをすする仕草をするなど小道具の使い方を教え、また初歩的な落語を披露してオチを考えてみるといったワーク的なことも行いました。

落語の基礎が理解できたところで、古典的な落語を披露。運営側もまるで観覧者のような気分になったほど、落語の世界に引き込まれていきました。

途中大声が途切れる音声トラブルも

講演は全体的に問題なく進んでいきましたが、途中、露の眞さんが大きな声を出した時に音声が切れ切れになってしまうことがありました。
リハーサル時にマイクやインターネット速度に問題がなかったので、後日原因をチーム内で考えてみました。
恐らく、Zoomの雑音除去機能のせいで、露の眞さんの高く大きい声が雑音として除去されたのだろうという結論に至りました。普段の講演で、講師は声は一定の音量のため、このようなトラブルは初めてでした。リハーサルでも音声チェックはしましたが、本番はリハーサル以上の音量が出ていました。

今後の注意点として、

①リハーサルでは講師に本番と同じ声の大きさで話していただく
➁周囲の雑音が入らないようなスタジオの場合、Zoomの雑音除去機能はオフにしておく

ということが挙げられます。途中音声トラブルはありましたが、講演後、幸いにも参加者の方々から「講演内容が良かった」という評価をいただけたようで、少し安心しました。と同時に、次回からこの点について気を引き締めて注意していこうと痛切に思いました。

本番と同じようなリハーサルの必要性

私たちチームも月に何十回とオンライン講演の運営を行ってきましたが、落語講演というのはやはり他とは異なる環境であるためか、通常では考えられないトラブルも起きる可能性があります。
どんなに準備をしていても、今回のように通常では便利な機能がトラブルの原因となる場合もあるため、リハーサルでは本番と同じような感覚で行わなければならないということを痛感しました。

弊社では、このようなオンライン講演時のトラブルはすぐさま社内で共有し、レポートとして記録を残しています。今回のようなトラブルや失敗の記録は次回のオンライン講演への成功につながるものだと考えています。このような経験を糧に、これからもお客様の講演が素晴らしいものになるよう陰ながらサポートしていけたらと存じます。

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