デジタル技術の革新により、世界中の企業がDXの推進を迫られています。数年前からその重要性が叫ばれてはいるものの、日本ではDXが進んでいるとはいえないのが実情です。そこでデジタル人材の育成・開発のきっかけに、リスキリング研修を導入してみてはいかがでしょうか。

この記事では、リスキリングの必要性と、職種別のおすすめスキルについて解説します。

企業に今リスキリング研修が求められている理由

「リスキリング」とは、新たな業務に生かせる知識・スキルを個人が習得すること、又は企業が社員に習得させることを指します。なぜ今、企業にリスキリング研修が求められているのでしょうか。その理由を、世界と国内の情勢に着目して3点解説します。

世界的な技術進化とビジネスモデルの変化

ITの進化により業務のオートメーション化が進むと、人間の雇用が失われるのではないかと世界中で危惧されています。日本も例外ではありません。

同時に生活へはテクノロジーが浸透し、世の中の産業構造自体にすでに大きな変化が生じました。例えば書店は、街からはその姿をどんどん減らしつつあります。顧客が店頭で目当ての本を探さなくても、インターネットから即時購入できるようになったためです。

そうした社会変化に適応するため、企業に求められているのが人材のリスキリングです。

DX推進に対するデジタル人材不足

DXとは「デジタルフォーメーション」の略で、データやデジタル技術を活用し事業やビジネスプロセス全般を変革していくこと全般を指します。

国内に視点を移すと、このDX推進に必要不可欠なデジタル人材不足が深刻化しています。少子高齢化による労働人口の減少や、IT需要の拡大などが急激に進む一方で、日本経済全体で対応が遅れていることも否めません。

政府による強力な支援

2022年10月、岸田文雄総理は、リスキリングの支援制度を総合施策に盛り込むと表明しました。特に個人の支援には「5年で1兆円を投じる」としています。

その内容は、個人向けの「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」、企業向けの「共同講座創造支援事業費補助金」、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」です。

今後はこのような制度を利用して知識やスキルを習得した人材が、企業にとって貴重な人材となり、いずれ社内DX推進の鍵を握ることになります。

リスキリング研修を実施するメリット

ではリスキリング研修を実施するのにはどんなメリットがあるのでしょうか。この章では、企業が研修を実施するべき4つの理由について解説します。

①社員のスキル・生産性が向上する

研修で新しい技術や知識を習得すると、業務の効率化や業務品質の向上が期待できます。

例えば社員がデジタルツールを使いこなせるようになって、日々の煩雑な事務作業などを自動化・合理化すれば、企画や商談といった中核業務に充てる時間を増やせます。

また社員が自身の成長を実感すると、仕事に対するモチベーションも向上します。スキルを駆使して「より少ない時間で、より大きな成果を上げる」というビジネスサイクルが構築できれば、組織全体の生産性の向上にもつながるでしょう。

② 社員エンゲージメントが上昇し、採用コストが削減できる

社員が会社から新しいスキルの習得を支援されていることを実感すると、「今後も活躍を期待されているのだな」と、組織に対するエンゲージメントが高まります。エンゲージメントが上昇すれば、離職率の低下にもつながります

また外部人材を採用するにはそれなりのコストがかかるうえ、獲得競争は年々激しくなっているのが実情です。既存の社員がスキルアップできれば、わざわざ外部から採用する必要がなくなります。したがって、リスキリングは採用コスト削減にも寄与することにもなります。

③多様な新規アイデアや改善案が上がりやすくなる

新たな知識やスキルをこれまでの業務の内容ややり方に当てはめると、これまでは思いもつかなかったようなアイデアが生まれやすくなります。

さらに社員の持つ知識量が多様化すると、それらが結びつく機会も増え、新規事業や業務改善の提案が活発になるかもしれません。チーム全体での問題解決力の向上も期待できるでしょう。

④企業文化を守りながら新たなノウハウが蓄積できる

外部からスキル習得者を採用した場合、これまでの企業文化と異なるやり方が導入される可能性も高いです。その際、既存の社員がそれに反発や拒否感を示すことも考えられます。

これに対し社内人材のリスキリングであれば、従来の企業文化や価値観を尊重しながら、スキルや知識のアップグレードが可能です。

職種・階層別・おすすめの目標スキル

続いては職種や階層に分けて、身に付けるべきスキルについて5つ説明します。

営業職向け:デジタルマーケティング、ITリテラシー

営業職向けには「デジタルマーケティング」や「ITリテラシー」のスキルがおすすめです。

デジタル化が進み、オンラインショッピングが一般化するなど、消費者の購買方法も変化しました。かつての営業方法だけでは成果が得にくく、営業プロセスそのものも変革にも迫られています。

現代の営業職には、web広告運用やSEO(検索エンジン最適化)などのデジタルマーケティングスキルが役立ちます。スキルを駆使して戦略的な営業計画の立案と、顧客とのよりよい関係構築を目指せます。

また、それと同時に、インターネットの仕組みなどの基礎知識や、顧客情報の正しい扱い方を学ぶITリテラシーも欠かせません。

技術職向け:生成AI・IoT、サイバーセキュリティ

技術職であれば、最先端の知識や技術が不可欠です。例えば生成AIのエンジニアは、近年の人材市場での急速な需要増加に対して、圧倒的に不足しています。また車や家電製品などのモノとインターネットをつなぐIoTも同様です。

さらにそれらを安全かつ効果的に導入するためには、サイバーセキュリティ人材の育成も企業にとって急務でしょう。新技術を安定的に取り入れるためには、情報管理のリスクに対し正しい判断と対処ができる体制を整えておかなければなりません。

事務職向け:語学、DXツール、ITスキル

事務職で人気のスキルは語学です。英語をはじめとする語学のスキルを上げると、国際市場での競争力向上につながります。

またDXツールを使いこなせるようになれば、報告書、契約書、指示書、稟議書や請求書の作成などの工数が圧縮できます。従業員の勤怠管理や営業動向、顧客情報の共有なども効率化できるでしょう。

ここでいうITスキルとは、PCをスムーズに操作する能力を指すものではありません。より高度な資格の取得や、職種を超えるチャレンジも推奨されています。

管理職向け:プロジェクト管理、データサイエンス、コーチング

プロジェクト管理は、計画策定やリソース配分、プロジェクトの効率的な運営全般について学びます。IT以外のプロジェクト遂行にも応用できるスキルです。

またデータサイエンスでは、データの解析・分析によって、直接表出していない顧客や社員の行動や意識を導き出す術を学べます。数値に基づいたより確度の高い意思決定をできるようになるでしょう。

さらにコーチングのスキルは、チームメンバーの成長を促進し、モチベーションを高めるのに一役買うでしょう。

これらが組織全体の生産性と成果を向上させるために管理職が習得すべきスキルです。

経営層向け:マーケティング、データ分析を含むDX全般

政府は企業経営者のリスキリングを重視しており、「2029年までに約5000人の能力向上に取り組む」という目標を設定しました。

例えば経営層がマーケティングを学べば、人の消費行動様式を理論の面からも把握できるでしょう。従来の顧客だけでなく潜在顧客へもアプローチできるようになります。

また、データ分析を含むDX全般の基礎知識は押さえておく必要があります。デジタルでどのようなことが出来るかを正しく知るのは、的確な経営判断を下すためにも有効です。

企業では経営者が率先して学ぶ姿が、現場社員のリスキリングの機運も高めるでしょう。

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リスキリング研修のカリキュラム作成における5つのステップ

この章では、リスキリング研修のカリキュラム作成を5つのステップで詳しく説明します。

①事業戦略上の人材・スキルニーズにもとづく目標設定

研修はあくまでも手段であり、目的ではありません。研修実施自体が目的になると「組織には不要な流行りのスキルを獲得して、現場では実践の場がない」という事態になりがちです。

そこで大切なのが、最初に企業の事業戦略において「どんな人材が必要か」を明確にすることです。そのうえで、求める人材の育成にはどんなスキルが必要なのかを洗い出し、スキルの優先度を決定します。

②さまざまな学習方法の検討

研修であれば、対面なのかオンラインなのかを検討してください。また自社で運営するのか、外部の人材教育機関などが実施する研修に参加させるのかなど、ほかにもいくつかのポイントがあります。

さらにeラーニングやオンライン講座などを組み合わせてもよいでしょう。習得に時間を要するスキルなら、例えば「eラーニングで予習×研修のワークショップで実践」といった方法で、受講者の知識の定着を図ります。

さまざまな方法を組み合わせることで、学習効果が高められます。

③研修対象者の選定

ステップ①で導いたスキルを組織として獲得するために、どの部署のどの階層の人材に受講させるか、選定を行います。DXは全社単位での取組みです。最初はすべての部門や職種を対象にしましょう。

序盤は大人数ではなく少人数から始めて、次第に人数を増やしていく方法が、組織全体のスキル底上げに有効です。

④研修の内容設計

選定した社員が研修後にどのような状態になっているか、業務で学んだことをどのように生かすのかを明確にし、それをゴールとしてカリキュラムを設計します。

定めたゴールを達成できるよう、座学と実習の時間の配分などを決め、優先度の高いテーマや技能を盛り込んでいきます。精査を重ねて予算に応じたプログラムに落とし込んでいきましょう。

⑤実践と振り返り機会の積極導入

研修だけで終わりにするのではなく、事後にはテストやレポート課題を出して、受講者の理解度や成長度合いをリサーチしましょう。面談などで本人とともに成長を振り返ることも効果的です。

さらに異動やプロジェクトへの配属などで、スキルを発揮する場をを積極的に取り入れることも大切です。

リスキリング研修を成功させるためのポイント

最後に、リスキリング研修を成功させるための2つのポイントを紹介します。

point1.継続的な学習文化づくり

リスキリングは1度の研修で完成するものではありません。社内に学習文化が根付くまで支援策を続けることが大切です。リスキリングの必要性は継続的に社員に説明していきましょう。

さらに特定のカリキュラム受講者や資格取得者を対象にした昇給・昇格・インセンティブ制度や、業務時間内に学習時間を設けるなどといった環境整備も忘れてはいけません。

全社を挙げての取組みが成功の鍵となるでしょう。

point2.国や自治体による助成金の活用

2つ目は、国や自治体による助成金の活用です。

先に述べたように、国は国内の企業DXを推進するために多くの予算を当てており、自治体単位でも独自の支援策を設ける例が増加しています。

例えば東京都には、中小企業などがDX関連の職業訓練を実施すると受けられる「DXリスキリング助成金」という制度があります。

所在地の自治体で利用できる制度がないかチェックし、DX推進が予算不足から尻すぼみにならないように計画しましょう。

デジタル技術が目まぐるしく変化する現在、企業DXに向けた社員のリスキリングは急務です。国や自治体の制度も利用しながら、リスキリング研修を成功させましょう。当社ではDXに特化した研修講師も多数在籍しています。お気軽にお問い合わせください。

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