企業の存続には生産性の向上が非常に大切です。
しかし「生産性を向上させるために具体的には何をしたらよいのか分からない」という企業の担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では生産性向上のメリットや企業の成功事例、今すぐできることなどについて解説します。
生産性向上とは何か、業務効率化とは何が違うのか
生産性向上とは何か、業務効率化とは具体的にどのように違うのかと思われるかもしれません。生産性向上の定義や、業務効率化との違いについて説明します。
生産性向上の定義
「生産性向上」とは、企業が効率的に利益を上げることです。企業の継続的な運営には、少ないコスト(人件費・設備・時間)で、できるだけ多くの利益(生産量、付加価値)を生み出すことが大切です。
生産性は以下の計算式で求められます。
生産性=産出量÷投入量
一方「業務効率化」は業務プロセスを向上させることです。業務を見直して無駄をなくし、コスト削減や利益アップを目指します。
業務効率化はコスト削減や利益向上につながるため、業務効率化は生産性向上の中に含まれる施策の1つといえます。
生産性向上の指標
生産性向上の指標には3種類あります。ここではそれぞれの違いや求め方をみてみましょう。
1.物的労働生産性
「物的労働生産性」は生産物の量のように計測できるものを成果物として、労働生産性を測定する考え方です。「1人あたり、または時間あたりで、どれくらい効率的に生産物を生み出しているか」を確認できるため、製造業でよく用いられます。
計算方法は以下のとおりです。
- 1人あたりの物的労働生産性=生産量÷労働者数
- 1時間あたりの物的労働生産性=生産量÷(労働者数x労働時間)
分子である生産量をできるだけ増やしつつ、分母の労働者数や労働時間を減らすのがポイントです。
2.付加価値労働生産性
「付加価値労働生産性」は付加価値額を成果物として測定する考え方です。
付加価値額の計算式
- 売上-原材料費や外注加工費などの費用
- 営業利益+人件費+減価償却費
付加価値を生み出すために、従業員がどれくらい効率的に活動したかが分かります。
計算方法は以下のとおりです。
- 1人あたりの付加価値労働生産性=付加価値額÷労働者数
- 1時間あたりの付加価値労働生産性=付加価値額÷(労働者数x労働時間)
付加価値労働生産性が高ければ高いほど、効率化が進んでいる企業といえるでしょう。
3.全要素生産性(TFP)
「全要素生産性(TFP)」は「Total Factor Productive」の頭文字を取ったものです。
全要素生産性は労働、資本、原材料など全ての生産要素で計測する方法で、伸び率で表されます。経営戦略やブランド戦略など、質的な成長要因を評価します。
計算方法は以下のとおりです。
全要素生産性(TFP)=生産量÷生産要素(労働+資本+原材料など)
生産性向上のメリット
生産性向上のおもなメリット3点をそれぞれ説明します。
メリット1.無駄な工数・コストの削減による人材不足解消
無駄な工数やコストを削減すると、人材不足の解消につながります。
少子高齢化などにより労働力の不足が問題になっています。特に2020年のコロナ禍以降、人材不足の企業が顕著になりました。
そのため新たな人材に頼らず、既存社員だけでいかに生産性を向上させられるかが非常に重要です。
従業員1人あたりの生産量が増加すれば、それだけ人件費抑制、コスト削減につながります。社内の人材不足感は解消するでしょう。
メリット2.働きやすい環境の整備
生産性が向上すれば、社員にとっても職場が働きやすい環境へと変化します。
まずは従来よりも業務にかかる時間が短縮されるため、残業が減ります。その分プライベートに充てられるようになり、社員のワークライフバランスが改善するでしょう。
またデジタル化が進めば、リモートワークで対応できる業務の幅も広がります。その結果、例えば出社は週3日でよいなど、柔軟な働き方が実現できるようになります。
働きやすさが向上すれば社員満足度も上がり、離職率の低下や、優秀な人材の採用につながります。生産性アップの面でもさらなる好循環が生まれるでしょう。
メリット3.国際競争力の向上
生産性が上がると、国内のみならず国際市場での競争力の向上にもつながります。
例えば、職場で属人化している仕事を洗い出し、「データ化」「マニュアル化」できないか検討してみましょう。業務内で社員一人ひとりが個別に判断している内容や基準を社内でデータベース化し、ノウハウはマニュアル化することで、技術は個人から切り離せます。
ルーティーン作業にかけている時間を削減し、その分、企画や分析などの知的労働に充てれば、付加価値の高い製品やサービスが提供可能です。事業拡大や新たな市場への進出の足がかりとなり、国際競争力の向上につながるでしょう。
生産性向上に取り組んで人材定着に成功した企業の事例
生産性の向上が実現できるのは大企業や有名企業だけではありません。生産性の向上に取り組み、人材の定着に成功した企業の事例4つをそれぞれ紹介します。
小糸製作所(東京・製造業)
東京都の「小糸製作所」は1915年に創業。自動車の照明器や航空機の部品を製造、販売しています。
照明器具の設計に使う輝度計は、操作が複雑で、マニュアルや集合研修での教育が難しいという課題がありました。そこで研修にVRコンテンツ(ゴーグル装着などにより360度の視界で体感できる映像)を導入。作業の手戻りを90%削減、年間の研修時間を180時間短縮という結果が報告されました。
VRコンテンツを用いた教材には、いつでも研修内容が確認でき、何度も復習できるというメリットがあります。作業の順番などが視覚的に分かるため、紙のマニュアルよりもはるかに分かりやすいと社内で好評だったとのことです。
陣屋(神奈川・旅館業)
神奈川県の「陣屋」は創業約100年の旅館です。4代目社長の宮﨑富夫氏が引き継いだ時点で売上の減少が10年間続いており、早急な業務改善が必要でした。
まずは「高付加価値を持つ宿にする」という目標を掲げ、顧客情報や原価率、人件費の把握からスタートしました。
その後、予約・顧客情報のほか、従業員勤怠管理、売上分析や会計処理に至るまで、業務に必要なほぼすべての機能を搭載した、独自の基幹システムを開発。社内SNSも活用して情報の見える化を推進した結果、売上50%アップを達成しました。
また人材不足が深刻な旅館業において、休館日の設定や有給休暇の完全取得により、離職率を10分の1まで減らしています。ITで劇的に経営を改善した好例です。
隂山建設(福島・建設業)
福島県の「隂山建設」は1954年に創業し、地域の建築や土木工事を長年担ってきた企業です。
業界ではいち早くDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組んでおり、建設情報を可視化するアプリを開発。また、DX専門の部署を立ち上げ、新たなデジタルプロジェクトの推進を担わせるなど、建築現場以外でも人材が活躍できる組織づくりを進めました。これにより、退職した従業員の復職も実現しています。
また自社でドローン飛行を行うことを目標に、社内で操縦技術などを学べる体制を作りました。アプリからドローンによる空撮画像や工事の状況が確認できるようになった結果、生産性、受注力、従業員満足度、顧客満足度がすべて向上しました。
アプリの導入により、1人あたりの月間の残業時間を約50時間削減したということです。
トレンディ茨城(茨城・運送業)
茨城県の「トレンディ茨城」は1978年設立、ヤクルト製品などの配送事業を主に行っている企業です。
長時間労働や有給休暇の取得率の低さを改善するため、2018年から働き方改革に取り組みました。
ドライバー任せだった配送ルートを、全ドライバー参加の会議によって標準化しました。安全と効率の観点に絞り、2チームに分けて討議を進めたといいます。また同時に、動画による業務マニュアルを作成。これにより新人教育にかける時間やコストを削減しました。
働き方改革以降、若手ドライバーの離職率が大幅に減少し、平均勤続年数が伸びたという成果を公表しています。
製造業の企業が生産性向上のために今すぐできること
ここからは、特に製造業の企業が生産性向上のために今すぐできることを6つ紹介しましょう。
①無駄な業務の洗い出し
生産性向上には、業務を棚卸ししたうえで、業務量や業務フローを確認し、正しく把握することが大切です。非効率な進め方や、慣習的に行っている業務などが見つかるかもしれません。また同じような業務を別のチームでも行うなど、重複している可能性もあります。
業務を洗い出す際は、その業務の担当者のみにヒアリングするのではなく、同じチームで現場に携わる従業員にも確認しましょう。担当者が気づいていない無駄な業務や工程が見つかるかもしれません。
②業務の標準化・マニュアル化
先に紹介した成功事例にもあったように、業務の標準化やマニュアル化を進めましょう。
業務の属人化を防ぎ、品質を均一にする効果があります。特に定型業務はマニュアル化に向いています。
マニュアルを作成する際は、使用者のレベルに合わせるのが重要です。新入社員や派遣社員など、業務を知らない人でも理解できるように、分かりやすい言葉で作成するとよいでしょう。画像などを入れると分かりやすいです。
また作成して終わりではなく、業務内で使用する場を必ず用意しましょう。さらに経営者が率先してマニュアル化を推進し、作成・活用担当者をバックアップするなど、全社的な取り組みにすると成功率が上がります。
③適正な人材配置、アウトソーシング活用
適正な人材配置や、アウトソーシングの活用も効果的です。
従業員はそれぞれ適性や能力、経験が異なります。<span style=”color: #ff0000;”>一人ひとりの強みや希望、受入部署の現状などを考慮して配属先を決めるとよいでしょう。
把握の効率化のため、スキルマップを作成して社員が持つスキルを表にしたり、スキル管理システムを導入する方法もあります。
また、事務などの定型業務をアウトソーシングすれば、従業員はコア業務(売上や利益を生み出す業務)に専念できます。アウトソーシングが可能な業務は以下のとおりです。
- 一般事務
- コールセンター
- 受付
④最新技術の導入、デジタル化推進
AIなどの最新技術の導入や、ツール化を初めとしたデジタル化推進は、生産性の向上に不可欠です。例えば以下のような成果につながります。
- 紙の契約書、給与明細や決裁書→電子契約やペーパーレス化による「紙代や保管場所の削減」
- オフラインの会議、訪問営業→オンライン化による「交通費や移動時間の費用削減」
- 手作業での計算処理・資料作成→RPA
※1
やAI、DXツールへの移行による「業務削減」
※1RPA:「Robotic Process Automation」の略。定型業務を自動化するロボットのこと
⑤情報共有の効率化
社内情報の共有を効率化するのも重要です。
従業員のスケジュールやタスク、マニュアルなどの業務ノウハウ、定型文書のテンプレート、顧客情報などはすべて、インターネット上に集約して管理できます。
現在は専用ツールが多くの企業からリリースされています。自社の課題を解決できる製品の導入を検討するとよいでしょう。
⑥従業員のスキルアップ支援
従業員がスキルアップすれば業務の質が上がるため、生産性の向上に役立ちます。
スキルアップ支援策には、例えば、評価基準の明確化や目標管理制度の導入などがあります。従業員の強みと、今後習得が必要なスキルを明確にして、研修受講や資格取得を支援しましょう。
企業の生産性が向上すれば経営が安定化し、市場での競争力強化や独自化につながります。
生産性向上のために自社の従業員にどのような研修やスキルアップ支援が必要なのか、判断のためのサポートが必要な場合は、弊社にお任せください。目的に合った講師を派遣します。ぜひお気軽にご相談ください。
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