社員のモチベーションアップや企業の生産性向上につながる「キャリア開発」。知識としてなんとなくは知っているものの、その目的や具体的な手法はわからないという人もいるのではないでしょうか。

この記事では、キャリア開発支援の6つの手法を解説するとともに、キャリア開発の効果やメリット、成果などについても紹介します。

キャリア開発とは

ここではキャリア開発の定義と、よく似た「キャリアプラン」「キャリアデザイン」との違いについて解説します。

キャリア開発の定義

キャリア開発とは、「企業が社員一人ひとりのキャリアプランを実現するために社員の成長を促す、中長期的な取り組み」を指します。

キャリア開発を成功させるには、企業と社員とが二人三脚で進めていくことが必要不可欠です。

キャリア開発を効果的に行えれば、社員は企業からの期待を感じて仕事に対するモチベーションが上がり、結果として会社全体のパフォーマンス向上にもつながります。

具体的な取り組みには、面談や研修、評価制度整備などがあります。後ほど詳しく解説します。

キャリアプラン、キャリアデザインとの違い

キャリア開発と混合されがちな言葉に「キャリアプラン」「キャリアデザイン」があります。
言葉は似ているものの、それぞれ違う意味を持っています。その違いを以下の表にまとめました。

キャリアプラン 仕事や働き方についての具体的な行動計画で、理想の将来像を実現するために作成する
キャリアデザイン プライベートも含め、将来自分がどうなりたいかを考え、キャリアを設計する

キャリアプランとキャリアデザインは社員本人が主体であり、キャリア開発は企業が実施するという点が大きく異なるポイントです。

なぜ今、キャリア開発が必要なのか

ではそもそも、なぜキャリア開発が必要なのでしょうか。主な3つの理由を、以下で詳しく解説していきます。

変化する企業・個人の関係性への対応

日本では高度経済成長期に終身雇用が根付き、企業内で異動させたり、さまざまな仕事を経験させたりすることで社員のキャリアアップを図っていました。

しかしバブル経済崩壊後の1990年代頃からは、企業の業績悪化に伴い、終身雇用の維持が難しくなり、成果主義といえる制度を導入する企業も増えています。

また、少子高齢化による労働人口の減少や働き方の多様化などもあり、従来の企業と社員の関係性とは全く異なる状況になってきています。

近年では、「量(多数の社員)」よりも「質(社員一人ひとりのスキル)」が重視されることから、キャリア開発の必要性が高まっているのです。

企業と社員とのギャップを埋めるにはキャリア開発が有効

企業の生産性を向上させるためには、社員の「キャリア自律」を促すのが効果的とされています。キャリア自律とは、社員が自身のキャリア開発に向けて主体的に行動することです。

2023年にHR総研が行った「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート」によると、およそ6割の企業がキャリア自律の推進に取り組んでいると回答しました。

しかし同時に、実際にキャリア自律に前向きな社員は、企業規模を問わず少数派であるという結果も明らかになりました。

キャリア自律に関する企業と社員のギャップを埋めるには、企業側が積極的に社員の成長を促すキャリア開発の施策が有効です。

新入社員・若手社員からの社内キャリア構築支援のニーズ

2024年に東京商工会議所が新入社員研修の受講者を対象に行った調査結果も紹介しましょう。

「就職先の会社でいつまで働きたいか」という質問に対し、この時点ですでに約4割もの新入社員が、将来的な退職を視野に入れていることがわかりました。

近年は人材不足などの影響により就職・転職が売り手市場になっており、従来よりも転職のハードルが低くなっています。

新入社員や若手社員のキャリア成長の見通しを立てるために企業がサポートすれば、優秀な人材の流出を防ぎ、組織全体の生産性向上につながるかもしれません。そのためには、キャリア開発を積極的に行うのが効果的です。

キャリア開発プログラムに盛り込むべき6つの手法

しかし「キャリア開発が重要」と聞いても、具体的に何をすればよいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。

キャリア開発プログラムにおすすめの6つの手法をそれぞれ詳しく解説していきます。

(1)上司との1on1など、定期的な面談

1on1など上司との定期的な面談の機会を設け、社員の悩みやキャリアプランを引き出します。

注意したいのは、面接のような答えを求める問いかけをしないこと。無理矢理答えを引き出そうとすると、社員の自発的なキャリア自律につながりません。また上司から早急に解決策を与えないのも重要です。

あくまでもキャリアについての方向性を模索しながら、ともに将来的な目標を決めるというスタンスで取り組むのがおすすめです。

(2)社内キャリアパスの提示

企業側から社内でのキャリアパスを社員に提示することで、社員自身の意欲向上につながる可能性があります。

キャリアパスとは、目指す役職や地位を実現するための工程を指す言葉です。実現するためはどのような経験を積み、知識やスキルを身につけていくか、というポイントも含みます。

特に新入社員や若手社員の場合、直接接点のない部門や社員のイメージがつきにくいもの。所属する部署内だけなどの狭い範囲内では、キャリアの選択肢も限られてしまいます。

そこで企業側がさまざまなキャリアパスを示し、社員が本当にやりたいことやなりたい姿を見つける手助けをします。

(3)キャリアデザイン研修の導入

キャリアデザイン研修の導入は、キャリア開発のきっかけに有効です。

社員のモチベーションを上げるには、社員の興味を引き、刺激となる内容を取り入れるため、専門講師に研修依頼するのもよいでしょう。また20代から60代まで、社員の年代別にキャリアデザイン研修を用意するのも効果的です。

当社でも経験豊富な講師によるキャリア開発研修プランを提供しており、企業の課題解決ごとに最適なものを提案可能です。

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20代から60代まで、可能性を諦めない社員と組織を作るキャリア研修

(4)異動・配置転換、的確な評価制度の整備

人事異動や配置転換、的確な評価制度の整備も、キャリア開発につながる施策の1つです。

人事異動や配置転換を戦略的に行うことで社員の視野が広がり、幅広い知識やスキルの習得にもつながります

なお人事異動や配置転換は、企業側の判断によるものだけでなく、社員自身の希望に沿って実施されるものもあります。以下のような制度の導入を検討してもよいでしょう。

自己申告制度 キャリアプランや異動の希望を企業に自ら申告する
社内FA制度 自身の経験や強みをアピールして異動を可能にする

(5)副業・兼業の容認や推奨

また社員の副業や兼業の容認・推奨は、キャリア開発につながると期待されています。

社員は副業や兼業の経験を通じて、本業では得られない経験を積み、そこから新たな知識やスキルを身につけられます

企業が社内人材の多様なキャリア形成を推進するためにも、社員の副業や兼業は有効です。

(6)資格取得や自己啓発の支援

社員の資格取得や自己啓発の支援も、企業の活性化を実現します。具体的な支援手段としては、以下のようなものが挙げられます。

費用的支援 ・書籍購入費
・通信教育受講費
・通学費
時間的支援 ・勤務時間内の講習会
・セミナーへの参加許可
・試験日の有給休暇扱い
教材・情報提供 ・本や雑誌の貸し出し
・業務に関わる資格情報の提供
活動場所提供 ・自己啓発活動のための会議室などの利用許可

階層・対象者別 キャリア開発の効果

ここからは、キャリア開発を実施することにより得られる効果を、階層および対象者別に解説していきます。

【新卒社員・若手社員】定着率向上

企業が安定した経営を続けていくためには、新卒や若手社員の定着率向上が不可欠です。

しかし、せっかく入った会社を早期離職してしまう若手も少なくありません。要因には、労働環境や条件、給与、人間関係といった大きな要因ももちろんあります。それらに次いで挙げられているのが、以下のような理由です。

  • 今後のキャリアが描けない
  • 成長できる見通しが持てない
  • やりたい仕事ができない

これらに関しては、キャリア開発の実施により解決できる見込みが高いでしょう。

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【中堅社員】次世代リーダー養成

入社して3年以上が経過し、会社や職務に慣れてきた中堅社員に対しては、次世代リーダー養成としてもキャリア開発が効果的です。

中堅社員は将来的にリーダーになる可能性が高い人材であるため、メンバーを先導できるような行動特性や能力を身につけさせておきたいところです。しかし実際は仕事のマンネリ化や業務量の増加により、目標を見失いがちな世代でもあります。

そのためキャリア開発の一環として、リーダーシップやコーチング、問題解決力、コミュニケーションスキルなどの研修を提供するのがおすすめです。

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【女性・高齢・外国人社員】多様な人材の活躍

近年、日本では生産年齢人口が減少し続けていることから、企業には女性や高齢者、外国人といった多様な人材の活躍に向けた取り組みが急務です。

定期的なキャリア相談やスキルアップ研修の機会を設けるほか、働きやすい環境や制度を整備し、外国人社員には日本語習得や生活支援を、シニア社員には期待と役割の伝達を重視するとよいでしょう。

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キャリア開発のメリット

この項では、キャリア開発のメリットについて「企業視点」と「社員視点」の2つの視点から詳しく解説します。

企業視点:社員の生産性・エンゲージメント向上、労働力確保

企業視点でのキャリア開発のメリットには、以下のようなものが挙げられます。

  • 社員の生産性向上
  • 企業の活性化
  • 優秀な人材の定着

社員個人の生産性が底上げされると組織全体の生産性もアップするため、企業の活性化が期待できます。

またそうした企業へでは社員の帰属意識・エンゲージメントが高まり、優秀な人材が定着しやすくなるのも大きなメリットです。

社員視点:キャリアパス明確化、長期的モチベーション向上

社員視点でのキャリア開発のメリットには、以下のようなものが挙げられます。

  • キャリアパスの明確化
  • 長期的モチベーション向上

キャリア開発を実施することにより、社員自身のキャリアパスが明確になります。将来的な目標をしっかりと見定められるため、努力の方向性も定まりやすくなるでしょう。

特に若手の転職志向が一般化している昨今、同じ会社に勤め続けてキャリアを築いていくという、長期的な意欲を引き出すのに役立ちます。社員には「会社に成長を期待されている」「自分の将来に投資してくれている」という安心感が芽生えるでしょう。

キャリア開発の実際の成果

自社でキャリア開発を推進していきたいという期待の一方で、キャリア開発で本当に成果が出るのか疑問を感じる人もいるでしょう。

人事向けポータルサイト・日本の人事部の『日本の人事部 人事白書 2021』結果によると、「キャリア開発に取り組んでいる」と回答した企業は、およそ3割強となりました。企業規模が大きくなればなるほど、実施率が高くなっているのが特徴です。

そして「キャリア開発研修の実施により期待した成果を上げられたか」という問いに対し、6割を超える企業が「成果を上げられた」と回答しました。

具体的な成果としては、員のモチベーション向上(76.5%)や組織の活性化(30.9%) が上位に入っています。

この結果から、キャリア開発研修が社員個人や組織の刺激につながっていることがうかがえます。

キャリア開発施策に活用できる助成金

最後に、企業がキャリア開発を実施する際に活用できる、助成金制度を紹介しましょう。

人材開発支援助成金(正規雇用者のスキルアップ支援)

人材開発支援助成金」は、社員が職務に係わるスキルを習得するための研修・訓練などを受けた場合に、かかった経費の一部を助成する制度です。

企業の正規雇用者が対象となります。人材育成支援コースや人への投資促進コースなど、申請したいコースにより支給要件や助成額が異なります。

キャリアアップ助成金(非正規雇用者の正規社員化支援)

キャリアアップ助成金」は、契約社員やパート社員などの非正規雇用者のキャリアアップを促し、正社員を目指すための取り組みをサポートする助成金制度です。

大きく「正社員化支援」と「処遇改善支援」に分けられ、コースごとに条件や助成額が異なります。

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従業員の研修に使える助成金の種類と申請方法について

キャリア開発は、変化する企業・個人の関係性への対応や、企業と社員とのギャップを埋めるために有効な方法です。
社員のモチベーション向上やキャリアパスの明確化、企業の活性化につながるのも利点です。

まずは社員一人ひとりに寄り添い、理想のキャリアプランを引き出すことから始めてみてください。

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