企業のコンプライアンス意識を向上させることは、法的リスクを避ける上で非常に重要です。
それだけでなく、企業の信用を高め、社会的責任を果たすことにもつながります。特にSNSの普及により、一人の従業員の言動が瞬時に広まる現代では、コンプライアンスの重要性が一層増しています。
この記事では、コンプライアンスの構成要素とその重要性について詳しく解説します。
コンプライアンスの構成要素とその重要性
コンプライアンスは、法令・社内規範・社会倫理・企業倫理の4つの要素から成り立ちます。SNSの普及により、企業の不正行為が告発されやすい現代において、企業の信頼性を保つため、これらすべての要素を守ることが求められます。
法令
法的なトラブルを避けるためには、法令遵守が欠かせません。当然のことですが、企業活動を行う上では、現行の法律や規制に従う必要があります。
これには、罰金や訴訟といった金銭的な損失を防ぐだけでなく、社会的信用を失わないようにする目的もあります。例えば、労働法や環境法に違反すると、多額の罰金を科されるだけでなく、取引先や消費者からの信頼も失う可能性もあります。
法令を遵守することで、法的リスクを回避し、健全な経営を維持できます。そのためには、最新の情報をアップデートし続けることが大切です。事業に関わる細かい法令や規則に詳しい専門家のサポートを受けるのも良いでしょう。
社内規範
社内規範は、企業が持続的に運営を行うための内部ルールや基準のことで、就業規則や社内ルールなどが該当します。社内規範を守ることで、従業員が一貫した行動を取ることができ、企業全体の統一感が生まれます。
違反行為が発生すると企業の評判が傷つき、業績にも悪影響を及ぼしかねません。不正行為が明るみに出た場合、社会的な信用を失い、顧客や取引先からの信頼も損なわれます。
社内規範をしっかりと守ることで、会社内の秩序を保てます。ただし、社内で制定するルールですから、従業員に周知させることが大切です。明確なガイドラインを設け、従業員に「自分の行動が企業の規律に沿っているか」を確認しやすくしましょう。
社会倫理
社会倫理は、法令には明記されていないものの、企業が社会的責任を果たすために重要なものです。ハラスメントやジェンダー平等といった問題は、法的な規制がない場合でも、企業の評判や信頼性に大きな影響を与えます。
例えば、職場でのハラスメントが発覚すれば、企業のイメージは大きく損なわれます。一方で、ダイバーシティを掲げている企業は、多様性を重視することから、ブランドイメージの向上も期待できます。
企業倫理
企業倫理は、企業が従うべき道徳的な倫理を指します。企業理念やCSR(企業の社会的責任)などがその一例です。ビジネスの成長を突き詰めるだけではなく、社会的責任を果たすことで、外部から「誠実で好感がもてる企業」と評価されます。
例えば、環境保護や地域社会への貢献を積極的に行う企業は、社会から多くの支持を得ている傾向にあります。また、遵守すべき企業倫理を社内全体に示すことで、従業員のモラルが向上し、職場の雰囲気も良くなるでしょう。
企業が成長を遂げる上では、社会から健全なイメージを持ってもらうことも必要です。一見すると売上や業績とは関係ないと思えるような倫理的な活動も、長期的な視点で見たときに企業の競争力を高めることにつながります。
コンプライアンス意識を向上させるための取り組み3つ
コンプライアンスに対する意識を向上させるためには、以下の3つの取り組みが大切です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
①社内規範・ルールを定めて周知させる
コンプライアンス意識を向上させるためには、まずマニュアルや労務管理ルールを作成することが何よりも大切です。起こりうるリスクを洗い出して、必要であれば職種ごとにルールを定めることも検討しましょう。
例えば、情報管理のルールを細かく設定し、機密情報の取り扱いについて明文化することで、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。労務管理ルールについても、労働基準法に基づき、残業の管理や業務時間の適正化を図ることが重要です。
ただし、ルールを定めただけでは不十分で、全従業員に周知・徹底させなければ意味がありません。社内規程やマニュアルを文書化し、従業員一人ひとりに理解してもらう必要があります。また、一度決めたルールを放置するのではなく、現行の法令や社会情勢に対応できているかどうか、定期的な見直しも怠らないようにしましょう。
②社内のコンプライアンス体制を強化する
コンプライアンス意識を向上させるためには、専門スタッフを配置することが効果的です。専門スタッフは、企業の事業内容や各部門の状況を把握し、問題が発生した際に迅速かつ的確に対応する役割を担います。問題が起こらないに越したことはありませんが、早期発見と迅速な解決ができるよう、損害の拡大を防ぐ策をあらかじめ講じておきましょう。
組織の規模が大きい場合は、一人の担当者だけではなく、「コンプライアンス専任部署」の設置を検討する必要があります。自社の人員で賄うことが難しい場合は、社外の有識者を招き入れた「コンプライアンス委員会」を設置すると良いでしょう。
内部通報制度の整備も欠かせません。違反やその疑いがある事象を見聞きした従業員が、気軽に相談できる窓口を設けるだけでなく、通報者のプライバシー保護と企業内での立場を保証することが大切です。
③コンプライアンス研修を行う
コンプライアンス意識を高めるためには、定期的にコンプライアンス研修を実施することが望ましいです。コンプライアンスは「業務に直接関係ない」と軽視されることも珍しくなく、形式的な通達では効果が限定的になってしまいます。研修を通して、従業員に社内規程やルールを理解させ、日常業務に反映してもらうことが大切です。
研修内容としては、法令遵守の基本・具体的な事例紹介・問題発生時の対応方法などが挙げられます。特に、新しく法律が制定された場合や社内体制の改編が行われた際には、最新の情報を反映した研修の実施が重要です。
研修を実施することで、従業員のコンプライアンス意識が高まり、不正行為の抑止につながります。また、具体的な事例を通じて学ぶことで、「何が良くて何が悪いのか」「違反したらどうなるのか」が明確になり、日々の業務で活かしやすくなります。
以下の記事では、コンプライアンス研修の必要性や成功のコツを詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
近年、コンプライアンス研修への関心が高まっています。社員の知識…
コンプライアンス意識を定着させる取り組み2つ
コンプライアンスは、組織全員で遵守しなければなりません。そのためには、知識を詰め込むだけでは不十分で、コンプライアンス意識を定着させる必要があります。
①組織全員に危機感を持たせる
1つのコンプライアンス違反が発生すると、その影響は企業全体に及び、信頼性や業績に大きなダメージを与える可能性があります。100人中99人が守れていても、誰か1人の違反が命取りになることもあるのです。従業員一人ひとりが自らを「当事者」と捉え、コンプライアンスの重要性を実感することが大切です。
そのためには、定期的な研修や内部監査の実施、問題発生時の迅速な対応などが重要となります。従業員が常にコンプライアンスを意識し、その健全な状態が「組織風土」として定着することが理想です。
また、経営者や管理職が率先してコンプライアンスの重要性を訴え、全員が危機感を共有することで、組織全体のコンプライアンス意識を高められます。
②知識だけでなく「意識改革」を目指す
コンプライアンス違反には、ルールを知らなかった「過失」と、ルールを知っていても破る「違反」があります。過失を防ぐためには、適宜ルールを追加・改定し、社内教育で知識を更新・強化することが必要です。
しかし、違反を防ぐためには、単に知識を強化するだけでは不十分。一人ひとりが納得感を得られる研修を通じて、意識を変えることが求められます。
企業内でのコンプライアンス意識を高めるには、「ルールを守ることで自分にメリットがある」「違反すると重大な結果を招く」という認識を従業員に浸透させることが重要です。意識を向上させることで、従業員全員がコンプライアンスを順守する意識を持ち、企業全体の価値を向上させられます。
コンプライアンス違反が起こる原因
コンプライアンス違反が起きてしまう原因は、主に3つあるとされています。ここでは、それぞれの原因について詳しくみていきましょう。
組織全体における意識が低い
組織全体でコンプライアンス意識が低い場合、違反が起こりやすくなります。経営者や管理職がコンプライアンスを軽視していると、その姿勢は従業員にも伝わり、組織全体の意識が低下しがちです。従業員のモラルも低下し、不正行為が横行する可能性があります。
また、働き方や認識のアップデートがなされていないことも問題です。特に一定以上の年齢の管理職は、過去の常識が現在のコンプライアンス違反となるケースもあります。例えば「若い時はタイムカードを切ってから残業するのが当たり前だった」という話は、現在では通用しません。
法令や社会倫理は時代とともに変化するため、対応できていないと、知らず知らずのうちにコンプライアンスに反する言動をとってしまう可能性があります。結果として、企業の評判が傷つき、業績にも悪影響を及ぼすことになるのです。
社内規定や行動指針が曖昧
社内規定や行動指針が曖昧だと、従業員が「何をして良いのか」「何をしてはいけないのか」を判断しにくくなり、トラブルの原因となります。明確な基準がないと、従業員は自己判断で行動することになり、不正行為やコンプライアンス違反が発生しやすくなるのです。
規定が曖昧だと、問題が起きた場合に適切な対応が取れず、悪い方向へ物事が進んでしまうリスクがあります。また、上司や同僚の言動を見て「あの人が許されるなら自分も許されるだろう」と違反が伝染することもあるかもしれません。
これらを防ぐためにも、社内規定や行動指針を明確に定め、従業員に周知徹底することが重要です。
管理体制が整っていない
コンプライアンス違反を起こさないためには、管理体制を整備し、従業員が安心して働ける環境を提供することが重要です。
管理体制が整っていない企業では、不正が行われやすい職場環境が生まれやすくなります。例えば、内部監査や報告制度が不十分だと、不正行為が見過ごされる可能性が高まるでしょう。
また、コンプライアンス違反を是正する仕組みがないと、問題が発覚しても適切な対応が取れず、重大なトラブルに発展するリスクがあります。明確な行動指針や社内規範が定められていない場合、従業員は自己判断で行動することになり、不正や違反が発生しやすくなるのです。
コンプライアンス違反となる身近な事例
ここからは、うっかり発生し得るコンプライアンス違反の事例を紹介します。コンプライアンス意識の向上を図る際には、ぜひ参考にしてください。
PCに差したUSBメモリを離席中に紛失
最近では、テレワークの普及により自宅やカフェなどで業務を行う機会が増え、PCや資料を持ち歩くことも多くなっています。このため、情報漏洩のリスクが高まっているのです。
例えば、USBメモリに機密情報が保存されている場合、紛失すると情報が第三者に渡る危険性があります。特に、暗号化されていない情報は不正にアクセスされる可能性が高く、重大なトラブルに発展することも。離席する際には必ずUSBメモリを抜く、情報を暗号化するなどの対策を徹底することが必要です。
知人や家族との会話で情報漏洩
知人や家族との会話で情報漏洩が発生することも、コンプライアンス違反の一例です。例えば、家族や友人に仕事の話をする際、機密情報をうっかり漏らしてしまうケースが考えられます。例えば、社外秘のデータや発表前の情報をつい喋ってしまうなど、親しい人との会話では気が緩むこともあるかもしれません。
これは故意でない場合でも、重大な情報漏洩につながる可能性があります。たとえ信頼できる相手だとしても、業務上の機密情報を話すことは避けるべきです。
最近では在宅ワークも主流になりつつあることから、情報漏洩のリスクも高まっています。「家族のいる部屋でオンライン会議をする」「機密資料をマンションのゴミ捨て場に置いてしまう」といったケースが考えられます。
家庭内でも情報管理を徹底し、従業員に機密情報を守る意識を持たせることが重要です。従業員に対して、普段の会話にも注意を払い、情報漏洩を防ぐための対策を講じるよう周知徹底をしなければなりません。
上司からのハラスメント
上司からのハラスメントは、コンプライアンス違反の一例であり、訴訟に発展するケースも少なくありません。例えば、上司が部下に対して過度なプレッシャーをかけたり、長時間労働を強要したりすることが挙げられます。被害者は精神的・肉体的に追い詰められ、最悪の場合、退職に追い込まれることもあるでしょう。
また、「過小な要求」もパワハラに該当します。従業員の経験や能力に見合わない低レベルの仕事を与える行為や、仕事を与えずに退職を促す行為には、注意が必要です。
こうしたハラスメント行為は、職場の風土や規律を乱し、従業員のモチベーションを低下させる原因となります。企業は、ハラスメント防止のための研修や相談窓口の設置など、適切な対策を講じる必要があります。
SNSへの不適切な投稿
SNSでの不適切な投稿は、企業にとって大きなリスクとなります。過去には、飲食店やコンビニのアルバイト店員が店内での悪ふざけ行為を動画に撮り、SNSに投稿する事例がありました。
このようなケースでは、消費者から批判が殺到し、企業の評判が大きく損なわれることがあります。場合によっては、飲食店が閉店に追い込まれることもあるほどです。
近年では、SNSの普及により、こうした不適切な投稿が瞬く間に拡散されるリスクが高まっています。そのため、SNS利用に関するガイドラインを設け、正社員だけでなく、パートやアルバイトに対しても適切な教育を行うことが重要です。
企業が健全な経営を維持していくためには、コンプライアンス意識の向上が不可欠です。SNSの普及により、不正や不祥事が瞬時に拡散される現代では、自社に関わる全員がコンプライアンスの重要性を理解し、意識を高めることが求められます。コンプライアンス研修の受講やチェック体制の整備を通じて、違反を未然に防ぎ、企業の信頼性を向上させましょう。
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