企業を成長させるには、人材育成が不可欠です。適切な人材育成は企業の業績だけでなく、社員個人の働くモチベーションにもつながります。
しかし、人材育成計画は何をもって成功とするのか、具体的に何を優先し、どう行動すればよいのか迷っている企業もあるのではないでしょうか。
そこで本記事では、人材育成において大切なことや、育成計画の立て方などについて詳しく解説します。

企業にとって人材育成が今なぜ重要か

近年、企業における人材育成の重要性がより高まっています。それはなぜなのでしょうか。その理由について以下で詳しく解説します。

人材育成とは

企業による人材育成とは、企業の成長に貢献できる社員を育てることを指します。

人材育成により、優秀な人材の離職防止が期待できます。また指導する側にとっても、人を育てる経験は自身の成長につながるでしょう。社員同士が協力して高め合う風土が醸成されやすくなるのもメリットです。

人材育成が重要視される背景

労働人口減少により人材不足を嘆く企業が増えています。いわゆる「人海戦術」が難しくなり、企業にとっては「限られた人材をいかに育成できるか」が鍵となっています。

加えて、グローバル化やIT化に対応できる人材ニーズの急騰に対し、日本ではそれを満たす人材が圧倒的に不足しています。

また近年は、人材を資本と捉え、社員一人ひとりの価値を引き出し、企業価値の向上につなげる「人的資本経営」が注目されています。人材育成は、人的資本経営の重要な要素の1つに位置づけられています。

人材育成と人材開発の違い

人材育成は、会社が一般的に中長期的な取組みで、階層などグループごとに目標設定し、業務上必要な水準のスキルを身につけてもらうことが目的です。

対して人材開発の狙いは、社員が個人単位で目標設定し、スキルを伸ばしてパフォーマンスの最大化につなげることです。必要期間やアプローチはまちまちです。

人材育成の成功に不可欠な8つのポイント

企業で人材育成を成功させるため、心がけておきたい8つのポイントがあります。以下でそれぞれ解説していきます。

1.自社の目的の明確化

まずは、人材育成によりどのような成果を得たいのか明確にしておくことが大切です。

どの企業でも共通する目的は、「社員のスキル向上を図りたい」という点でしょう。社員のスキルが上がれば、結果として利益の最大化や経営目標の達成にもつながります。

また、社員に後輩や部下の育成を担当させることで、既存社員の成長やモチベーション向上につながることもあり、これを目的とする場合もあります。人材育成の目的として、他にも、次世代リーダー育成や、時代への適応力強化、社員エンゲージメントのアップなどがあります。

2.経営戦略に基づいた育成計画の策定

経営戦略と人材育成計画は、矛盾のないようきちんと紐づけておくことが重要です。

経営戦略とは、企業の存続や発展のための長期的な行動計画のことです。育成計画を立てる前に、先に企業理念やパーパス(存在意義)に添った経営戦略を立て、それを実現するのに理想的な人物像を具体化する必要があります。この手法をバックキャスト方式といいます。

あるいは現場で高い成果を上げている社員の行動特性を調査し、反映するのも一案です。

3.育成計画の定期的な評価・改善

人材育成計画は、立てっぱなしや形骸化の結果とならないよう、定期的に見直します。計画が時代や実態に即していないと、対象の社員自身も「なぜ今この業務が必要なのか」が理解できず、意欲低下につながるためです。

研修などのトレーニング後は、対象者へのスキルテストや行動変化の調査によって定量的な効果測定を行い、同時に受講者アンケートなどから定性的な評価も集めましょう

対象者の上司からのフィードバックや360度評価なども参考に、育成計画とその施策の実効性を多角的に分析し、PDCAサイクルを回しましょう。

4.社員個人の個性やレベルの尊重

社員ごとの個性やレベルに合った育成計画を立てれば、本人に「早く成長しなければ」という過剰なストレスをかけません。まずは個々の現状のスキルレベルや強み・弱みを正確に把握しましょう。

そのうえで、本人が努力すればクリアできる水準の目標を、スモールステップで設定するのがポイントです。段階的に達成感を得ることで、自信につながり自主性が育まれます。

5.階層別のアプローチ

一般的には、階層別に人材育成計画を立てます。

新入社員や若手社員・中堅社員・管理職では当然、業務において求められる役割やスキルが異なります。ほかにも身につけるべき知識やマインドセットなどを、対象の階層ごとに明確にしておくことが重要です。

6.役立つ理論やフレームワークの活用

人材育成に理論やフレームワークを活用すると、目標施策が設定しやすくなります。

人材育成に関するノウハウが社内にあまりなかったとしても、フレームワークを活用すれば、状況を分析しつつゴールを意識しながら人材育成を進められます。

7.社内スキルの洗い出し

人材育成計画の策定ステップには、社員一人ひとりのスキルレベルの可視化を盛り込みましょう。求めるスキルの現在の習得レベルを数値化し、強みや弱みなども記録・管理します。

組織内のスキルレベルをひと目で判断できるのがスキルマップです。たとえば営業部なら、各部員の「顧客対応能力」「ストレス耐性能力」「課題分析能力」などを一覧表の形にします。これでチームに不足気味のスキルが一目瞭然となります。

8.評価制度・環境改善

人材育成計画の策定だけでなく評価制度や環境改善についても目を配る必要があります。社員本人が納得できる評価制度がないと、日々のモチベーションにつながりません。

納得度の高い評価制度の例として、評価基準が明確なものや、直属の上司以外にも複数人が評価に参加する制度などが挙げられます。

また資格取得補助や研修などの施策を用意し、社員全員が自発的に学習に取り組める環境をつくるのも、人材育成にかかわる重要なポイントです。

階層別の人材育成アプローチ

ここからは、階層別におすすめの人材育成アプローチ方法を紹介します。重視するスキルや育成手法にはどんなものがあるのでしょうか。

新入社員・若手社員

新入社員や若手社員は、まずは最低限のビジネスマナーや業務知識の習得が優先です。一方で育成の計画や体制が不十分だと、早期離職を招いてしまうなどの課題があります。

研修やOJT、1on1面談などを通じて、こまめな声かけで相互信頼を構築し、本人の気づきや主体性を引き出すのがポイントです。

中堅社員

中堅社員は、業務への責任感が増すのと同時に、次世代リーダーとしての活躍も期待されるポジションです。しかし多くの企業で、業務が多忙で体系的に育成されていない傾向が見られます。

中堅社員育成には、多様なキャリアを積める異動や配置転換がよく用いられます。社内外での研修機会を提供するのも良いでしょう。

管理職

管理職には、マネジメント力や意思決定力などが必要です。とはいえ現場業務が最優先で、管理業務の経験や基礎スキルが不足している人もいるのが実情です。

管理職向けの研修プログラムを用意したり、管理職よりも上の社員によるサポート体制を強化したりする手法が効果的です。

人材育成に使える理論・フレームワーク

ここからは、先にも触れた、人材育成に有用な5種類の理論およびフレームワークについて紹介します。

HPI(Human Performance Improvement)

「HPI」は、組織の現状の課題を洗い出し、目標達成のために効果的な人事施策を講じるフレームワークです。具体的な流れは以下のとおりです。

  1. ゴールの設定(理想的な人材像の特定)
  2. 課題の原因分析
  3. 解決につながる育成計画の立案
  4. 育成計画の実行
  5. 評価および改善

一例として、現在の経営目標を軸に据え、営業職や企画職など職種ごとのゴールを設定してみましょう。

期待する効果を得るには、上記の流れに沿ってPDCAを回し、継続的に施策を改善していかなければなりません。

カッツモデル・カッツ理論

「カッツモデル・カッツ理論」は、ビジネスパーソンに必要な3つのスキルと、社員の3つの階層を示したうえで、それぞれの階層に必要なスキルの割合を提唱している理論です。
階層ごとの育成アプローチを策定するのに役立つでしょう。

必要スキル
  • テクニカルスキル(業務遂行能力・専門能力)
  • ヒューマンスキル(対人関係能力・人間理解能力)
  • コンセプチュアルスキル(概念化能力)
社員の階層
  • ロワーマネジメント(リーダーなど下級管理職)
  • ミドルマネジメント(課長や部長など中間管理職)
  • トップマネジメント(社長や役員など経営職層)

ギャップ分析

理想と現実とのギャップを認識し、目標達成のために不足しているものを抽出する手法が「ギャップ分析」です。

たとえば営業職の社員の場合、「成約実績を伸ばしたいものの、コミュニケーション能力に不安がある」という分析結果の場合、上司との1on1でメンタリングを行いつつ、顧客対応の機会を積極的に与える、などの対策を講じます。

その結果コミュニケーション能力が高まれば、理想と現実のギャップは縮まり、次の新たな目標達成のサイクルにつなげられます。

コルブの経験学習モデル

「コルブの経験学習モデル」は、経験から学習までの4つのプロセスをサイクル化したモデルです。以下の流れで進めます。

  1. 経験(業務で体験する)
  2. 省察(体験を振り返って考察する)
  3. 概念化(次に生かすために概念化する)
  4. 試行(実際に試す)

業務日誌の様式やフィードバックにこのプロセスを組み込むと、社員の学習を促進できます。

70-20-10モデル

人材育成における黄金ルールとして「70-20-10の法則」というものがあります。

リーダーに必要とされる素質の割合を表したもので、7割は「経験」、2割は「他者からの学び」、1割が「研修や読書」とされています。

人材育成計画の立て方

以上を踏まえて、ここからは効果的な人材育成計画策定の4ステップについて解説しましょう。

①自社の現状・現場の課題把握

まずは、自社の現状と解決すべき課題について知る必要があります。管理職や経営層へのヒアリングなどを通じて正しく理解しましょう。

社員一人ひとりのスキルレベルなどをしっかり把握するには、現場へのスキル申告アンケートなどが有効です。

②スキルや特性ベースの目標明確化

次はスキルマップを作成して目標を決めます。年次・役職に応じて到達すべきレベルに対し、各メンバーの現状はどうなっているのかを確認しましょう。

チーム全体で底上げすべきスキルや社員ごとに必要な行動を特定し、目標を設定します。

③育成方法の選定

ベストな育成方法は、社員の階層やスキルレベルによって異なります。

複数の社員に同時に働きかけたい場合は研修(Off-JT)を、実務の経験が効果的ならOJTがおすすめです。

そのほかeラーニングや自己啓発支援など、さまざまな手法から検討します。

④育成計画の策定・実行

最後のフェーズとして、育成計画をより具体化させます。研修を開催するのであれば、スケジュールや運営方法を決め、講師を選定する必要があります。

計画の進捗を管理する仕組みも構築したうえで、あらかじめ経営層にも内容を共有しておきましょう。社会的状況や社内の環境変化などにより、適宜見直しを行うことも大切です。

【合わせて読みたい】

人材育成を成功させる8つのステップ。目的、実施方法、スキルマップも詳説

人材育成において大切なことは、企業の目標を明確化したうえで、メンバーごとに合わせたアプローチで育成計画を立案・実行することです。多くの企業で導入されている理論やフレームワークも活用し、組織の目標達成に有効な育成計画を策定しましょう。


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