企業の成長や活性化につながる策として「社員への自己啓発支援」が注目されています。自発的にさまざまなスキルや知識を自主的に身につけてもらうことで、生産性アップや組織の競争力強化が期待できます。
しかし具体的には「どのような方法で支援をすればよいかわからない」という企業もあるでしょう。本記事では施策の種類や効果などについて解説します。
自己啓発とは何か
まずは自己啓発の意味や支援の実態、そして今後の見込みについて説明します。
人材マネジメント用語における自己啓発の意味
自己啓発とは、自身のスキル向上や精神的な成長を目指す取り組みのことです。
職場など他者から強制されて行うのではなく、自らの成長のために主体的に進めるものを指します。
具体的行動の例としては、読書や資格取得などがあります。
自己啓発支援の実態と今後の見込み
厚生労働省の令和5年(2023) 度「能力開発基本調査」によると「Off-JTまたは自己啓発支援への費用支出状況」において「自己啓発支援に費用を支出した企業」は全体の25.7%で、前年よりも約2%増加しました。
なお労働者一人あたりの支出額は平均3,000円です。過去3年間の実績値として、「正社員に対する自己啓発支援への支出が増加した」と回答した企業の割合は10.1%でした。
今後3年間について尋ねた設問では、「正社員に対する自己啓発支援の支出が増加する」と見込む企業の数値が15.3%に増加しています。調査時点で68.4%の企業には支援の実績がないものの、今後の見込みついて「実施しない」と回答したのは53.4%となりました。
自己啓発支援に取り組んでいる企業はまだ少ないものの、近年増加傾向にあり、すでに実績のある企業では、施策を継続ないし強化していく方針であることがうかがえます。
なぜ企業に社員の自己啓発支援が求められるのか
なぜ本人の自主性に任せるのではなく、企業が積極的に働きかけたほうが良いのでしょうか。主な理由について3点解説します。
理由1.離職率を低減させるため
自己啓発支援には、社員の離職率を低減させる効果が期待できます。
近年は新入社員が「成長の機会がない・実感がない」という理由で早期退職する「ホワイト退職」も話題になっています。
離職率を下げるには、社員に「この職場なら成長できる、キャリアが描ける」と感じさせることが重要です。成長意欲を奪わない業務割り振りや目標設定・評価のうえ、自己啓発支援を取り入れれば、さらにそれを後押しとなるでしょう。
理由2.企業の業績・生産性をアップさせるため
社員が自己啓発により知識やスキルの幅を広げたり高めたりした先には、業務効率や生産性のアップがあります。
たとえば事務職の社員が簿記やMOSの資格を取得し、前と比べて事務処理の正確性やスピードが上がったなら、チーム全体の工数も減り、業務フローが改善しやすくなる可能性もあります。
ほかにも、自らの興味によって新たな技術を学んで対応できる社員が増えると、企業にとって貴重な戦力となるでしょう。
理由3.自主的に学ぶ文化を醸成するため
社員が自主的に学ぶ文化を醸成できるのもメリットの1つです。
同僚や同期が積極的に学んでいる姿勢から、「自分も何か習得したい」という刺激を受けることがあります。また勉強会など、学びを目的にした社内コミュニティの奨励・支援も、学習文化作りにつながります。
スキルアップや学びの成果を業務へ生かす楽しさを実感すれば、それが習慣となります。このサイクルをさらに組織全体に根づかせるのが理想です。
企業は具体的に何をするか 自己啓発支援の方法6選
ここからは、自己啓発支援の方法として用いられる6つの主な施策を紹介します。自社の規模や環境を鑑みて、最適な方法を選びましょう。
1.書籍・教材・セミナー受講料の補助
比較的低コストで取り入れられる自己啓発支援策が、書籍や教材、セミナー受講料の補助です。
社員自身が選んだ市販の書籍や教材を選び、その代金を企業が負担する仕組みです。書籍なら領収書精算などで対応可能です。最近は隙間時間で学べる電子書籍も人気です。
2.資格取得支援
資格を取得したい人を支援するだけでなく、資格を保有している人を対象にインセンティブを与えるのも効果的です。具体的には以下のような方法があります。
- 受検費用の一部または全額を負担
- 資格取得時に報奨金を支給
- 資格保有者に毎月資格手当を追加
3.企業内学習コミュニティの設立
企業内に社員が学べるコミュニティを設立することで、自己啓発を促せます。
例えば、定期的な勉強会の開催や企業内大学の設置などが挙げられます。企業内大学とは、社員自身が必要と判断した講座を選んで受講できる、名前どおり大学のようなシステムです。東芝や資生堂、ソフトバンクなどの企業でも導入されています。
4.自分で分野を選べる選択型研修の提供
社員が受講する研修の分野を選べる「選択型研修」も選択肢に入るでしょう。
企業が詳細なプログラムを組んで実施する一般的な研修に対し、選択型研修は社員が自身に必要だと感じたものや興味のある内容を自ら選んで受けられるのが特徴です。
ただ、選択型研修を取り入れるとしても、どのようなテーマを用意しておけば良いかわからないという企業もあるでしょう。
システムブレーンでは、1万5,000人以上の登録講師の中から、企業の目標達成のために最適な講師を提案します。打ち合わせから運営まできめ細やかにサポート。講師や研修内容選びに迷ったらぜひお問合せください。
5.eラーニングの活用
時間や場所にとらわれずに学べるeラーニングは自己啓発とも相性が良く、リモートワークにも親和性があります。社員自身での学習管理も可能で、知識やスキルが定着するまでインプットを習慣化できる点がメリットです。
eラーニング上で社員が好みの講座が学べる環境を作り、周知徹底しましょう。
6.副業の解禁・推奨
副業は単に収入の柱を増やすだけでなく、社員が自己啓発につなげる機会でもあります。企業側にとっては、転職による人材流出を抑止するほか、対象社員の生産性向上などのメリットを享受できる可能性があります。
副業を解禁する場合は、就業規則の見直しや整備を行うことが重要です。
企業による自己啓発支援の3つのアプローチ
企業が提供できる自己啓発支援には、大きく分けて3つの方法があります。それぞれ解説します。
金銭面での支援
金銭的な支援により、社員の負担が少なくなります。本人の挑戦への障壁を下げるとともに、企業からの期待感も伝えられるでしょう。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 書籍購入代の援助
- セミナー受講料の援助
- 資格取得にかかる費用の援助
時間面での支援
通常業務が忙しく、自己啓発に励みたいと思ってもなかなか時間が確保できない社員には、時間面での支援が効果的です。
時間面での支援には、勤務時間内での外部セミナーへの参加を認めたり、資格試験を受ける日を有給休暇扱いにしたりする施策などが挙げられます。
場所・機会の面での支援
場所や機会の提供も、社員にとって有益な施策です。社内の空き部屋や、社外のレンタルスペースなどを学習場所として提供することを検討してみましょう。
また勉強会などの立ち上げや活動奨励により、同じ目的意識を持った社員同士で集まれる機会を提供すれば、学習の促進にも効果的です。
自己啓発を支援する4つのメリット
ここで改めて、社員の自己啓発を支援するメリットを解説しましょう。主に4点あります。
①社員のモチベーション向上
企業の自己啓発支援により、社員のモチベーションもアップします。なぜなら、新たなスキルを使って業務を効率的に進められるようになるからです。安定して高いパフォーマンスを発揮できるようになれば、社内外からの評価が上がる可能性もあるでしょう。
これが成功体験となれば、社員は新たなスキルの学習・獲得を習慣化するサイクルを構築できます。
また自分自身の人材価値を正しく評価することが、組織内での自己効力感強化にもつながります。離職率低下にも大きな影響を及ぼします。
②問題解決力アップ
自己啓発により新たな知識やスキルを身につけると、それまでは気づかなかった視点で、課題点やその解決策に到達できるようになります。多角的な思考が可能になれば、問題解決力が高められるでしょう。
また問題解決力やロジカルシンキング(論理的思考力)などのスキルは、一般向けの研修プログラムも豊富です。若手から管理職向けまで、多様なレベルが存在します。選択型研修やeラーニングの講座の1つとして取り入れるとよいでしょう。
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③自律型社員の育成
これからの企業には、指示待ちでなく自発的に行動できる「自律型社員」の育成が不可欠です。
OJTと研修は企業側が主体となる施策であるのに対し、自己啓発は社員自身で進めるものです。自己啓発支援は自律型社員育成の手段として有効です。
また、対応業務の幅や知見が広がるため、目先のスキル獲得だけでなく、本人の中長期的なキャリア開発にもつながるでしょう。
④組織全体のスキルマップ強化
自己啓発支援により、組織全体のスキルマップを強化できます。
近年は人材を資本として捉え成長させることで企業価値の向上につなげる「人的資本経営」が注目されており、スキルマップはその重要な要素の1つとなります。
スキルマップとは、社員一人ひとりや組織全体が持つスキルを、ひと目で把握できるようにまとめた人材管理データのことです。
さまざまなスキルを持った社員が在籍することが、企業の評価や競争力につながります。社内のスキルマップを強化するためにも、自己啓発支援が有効です。
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自己啓発支援で人材育成の効果を上げるポイント
自己啓発支援により人材育成の効果を上げるには、3つのポイントがあります。以下でそれぞれのポイントについて解説します。
キャリアパスの提示を組み合わせる
自己啓発支援と並行して、社員ごとにキャリアパスの提示をしたり、キャリアデザイン研修を実施したりすると、人材育成効果が期待できます。
キャリアパスとは、将来の目標を達成するために必要な計画のことです。本人がそれまでの経験や所属部署の延長線上のみで考えると、視野が狭くなりがちです。そこで企業側で個人の適性や能力を考慮したキャリアパスを提示すると、将来の選択肢が増えるのです。
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組織全体で積極的に関与する
支援には組織全体が積極的に関わることが大切です。
ただ「自己啓発に取り組んでください」とだけ言われても、具体的に何をすればよいのかわからない社員も多いことでしょう。そのため最初はルールや時間を提示する、研修参加を促すなどで働きかけてみましょう。
また日本ではとくに、社会人になった後に学ばない人が多い傾向があります。学びたい人の意欲を、周囲が削がない風土作りも重要です。
公的な助成金制度を活用する
自己啓発支援を行う場合、公的な助成金制度を活用できます。
以下のような制度を利用すれば企業の負担が減り、より支援しやすくなるでしょう。
厚生労働省「キャリア形成促進助成金」 | 自己啓発支援や職業訓練を計画に沿って実施した場合、費用や賃金の一部を助成 |
東京都「事業内スキルアップ助成金」 | 都内の中小企業等が短時間の研修を実施した際に、費用の一部を助成 |
自己啓発の意義やメリット、社員への効果的なアプローチ方法などを解説しました。
企業が自己啓発を支援することで、社員は自律的なマインドを身につけやすくなり、モチベーションや問題解決力が向上します。金銭面や機会面など、組織全体で何が提供できるか検討し、できるところから積極的に支援に着手しましょう。
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