内 容
ビジネスの観点から日本企業の進路を考える場合、次の2点は極めて重要と思う。
■まずは「もはや国内だけでは飯が食えない」という現状認識である。
現在、バイオ、ナノテク、液晶、デジタルなど一部の新興分野を除き、日本の産業分野のほとんどは国内需要がほぼ飽和状態となっている。ピ-ク期に比べ、2002年時点で紙・パルプ、プラスチックとエチレンは1割減、自動車と粗鋼は3割減、新設住宅と酒類は4割減、工作機械は7割減と、市場規模の縮小傾向が益々鮮明になっている。
さらに2006年から日本の総人口は減少傾向に入り、少子高齢化はいっそう加速する。総人口の減少によって、国内需要のさらなる縮小が避けられない。日本企業は生き残るために、新興分野の創出と海外市場の開拓が不可欠である。
しかし海外市場といえば、アメリカ市場もEU市場もほとんどの分野では日本と同じように飽和状態にある。頼るのはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれるエマ−ジング市場であるが、そのうち日本にとって現実的に巨大市場といえるのは中国だけである。2004年、日本の中国(香港を含む)向け輸出(11兆8277億円)はブラジル、インド、ロシア3カ国合計(9247億円)の12.8倍となり、中国市場の持つ意味がいかに大きいかがわかる。日本企業が長期的な視野に立つ対中戦略の構築を急ぐ必要性は自明の理である。
■2つ目は中国ダイナミズムの視点である。中国をめぐる人流(ヒトの流れ)、物流(モノの流れ)、金流(カネの流れ)の構造はダイナミックな変化が起きている。
まずは人流の変化である。中国はこれまで外国観光者受け入れ国として知られてきたが、今はアジア最大の観光客輸出国ともなった。2004年中国の出国者数は前年比41%増の2885万人にのぼり、日本の1683万人より1200万人も多い。言うまでもなく、より多くの中国人観光客を誘致することは、日本企業のレジャ−関連ビジネスのチャンスになるのみならず、地域経済の活性化にも繋がる。
次は物流の変化である。現在、中国は「世界の工場」にとどまらず、巨大な市場にもなっている。中国の輸出入の急増によって、世界の物流構造は激しく変化している。2004年世界主要港のコンテナ取扱量は1位香港、2位シンガポール、3位上海、4位深?、5位釜山、6位高雄の順で、ベスト6はいずれも中国関連業務が中心である。日本を基点とする物流構造も大きく変化し、これまで米国を中心とする構造はいま中国中心へ変わっている。財務省の貿易統計によれば、04年日本を基点とする物流(貿易)全体に占めるシェアは、中国(香港を含む)はトップで20.1%、2位の米国(18.6%)を大きく上回っている。
最後は金流の変化である。これまで中国をめぐる資本の流れは基本的に一方通行で、中国は海外から膨大な資本を取り込むことで高度成長を牽引してきた。しかし最近では中国から海外に向かう資本逆流が起きている。例えば、2002年に日本の中堅印刷メ-カ-の秋山印刷機械、2004年に歴史がある工作機械メ-カ-の池貝は相次いで上海電気に買収された。昨年末に米IBMのパソコン事業も中国のPCメ-カ-最大手の聯想集団に買収された。最近、中国の国有石油大手、中国海洋石油(CNOOC)は185億ドルで米石油大手ユノカルを買収する提案を発表し、アメリカでも大きな話題となっている。高度成長の持続と企業実力の増強によって、中国企業の海外進出は大きな流れとなり、内外資本の真の双方向交流の時代が訪れてくる。
このように、一方的なヒト・モノ・カネの流れがいずれも双方向になってきた。こうしたダイナミックな変化が起きる時には、必ずビジネスチャンスが生まれる。日本企業はこの時代の変化を敏感に捉え、「日中双方向ビジネス」の創出に注力すべきである。
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