お母さんを支える言葉

木村泰子
きむらやすこ

教育・青少年育成

木村泰子
きむらやすこ

大阪市立大空小学校 初代校長
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提供する価値・伝えたい事

私は四五年間小学校教員として働き、最後の九年間を、大阪市立大空小学校の初代校長として過ごしました。
特別支援学級の対象になりえる障害のある子どもたちも、「いつも一緒が当たり前」、それが大空小学校でした。そのため、「ここなら、うちの子も通えるかもしれない」と、全国からいろんな困り感を抱えた子どもたちが転校してきました。
そこで圧倒的な存在感を発揮していたのは、こうした困り感を持つ子どもたちのお母さんです。

「もう、失敗は許されない」
「この子をなんとか育てなくちゃ」
「私がしっかりしなくては」
家族からの協力を得られず、隣近所や周囲に頼れる人もおらず、孤独の中で一人必死に子育てしているお母さんをたくさん見てきました。

これは、大空小学校に転校してきた、複雑な事情を抱えたご家庭だけの話でしょうか。おそらく、日本全国、ごく普通のご家庭においても、似たような状況があるのではないでしょうか。
日本ではいまだに「子育ては女がするもの」という大昔の価値観があらゆるところに残っている気がします。たとえ家庭の外で忙しく働いていても、子どものことになると、お母さんが背負いがちになります。

そんなお母さんを、一人でも多く支えたい。
人や環境を変えるのは、はてしなく時間がかかるし、なかなか難しいものです。いくら手を尽くしたところで、変えられないこともあるでしょう。
でも、お母さん自身が考え方や子どもとの向き合い方を変えることはできます。少しやり方を変えるだけで、しんどさが軽くなることはたくさんあります。
算数の問題で「×」をもらったら、もう一度見直して、解き直すでしょう?それで「○」をもらえたら、結果オーライです。
失敗したり、うまくいかないことがあったら、いつでもいくらでも、やり直しすればいいんです。そうやって母親業をこなしていけばいいと思うのです。

一つ、お母さんたちにお願いがあります。
「がんばる」という言葉だけは、お母さんの中から全部捨ててください。
がんばると必ずどこかに無理が生じますし、がんばった分の見返りも求めたくなるものだから。がんばるのは自分の勝手なのに、がんばった分だけ子どもが自分のほうを向いてくれなかったら、「こんなにがんばってるのに、もう!」と子どものせいにしてしまうでしょう。
がんばらなければ、「こういうこともあるよね。ま、なんとかなるわ」って笑って息を吐けるようになります。そのほうが、楽だと思いませんか?

お母さんが元気なら、子どもも元気です。
困り感を抱えている子どもがいるということは、同じように困り感を抱えているお母さんがいるということです。
お母さんを支える言葉は、人を支える言葉です。お母さんが自分で自分を支えられるようになったら、きっと自然に、子どもを支える言葉を言える人になっているはずです。
そういうお母さんが一人でも増えたら、そこからお互いを支え合える言葉が飛び交う社会へと、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。


※著書『お母さんを支える言葉』(清流出版)より。

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